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DigitalDiagnost with wireless FPD × 鳥取大学医学部附属病院ワイヤレスフラットパネルディテクタを搭載したデジタルX線撮影装置を臨床に活用─高画質デジタル画像処理と自動長尺撮影など豊富なアプリケーションを駆使した検査を実施

2011-11-1

ワイヤレスFPDを搭載したデジタルX線撮影装置DigitalDiagnost 平田吉春技師長(左)と松崎芳宏副技師長(右)

ワイヤレスFPDを搭載したデジタルX線撮影装置DigitalDiagnost
平田吉春技師長(左)と松崎芳宏副技師長(右)

鳥取大学医学部附属病院では,PACSの導入など画像情報システムのデジタル化に先進的に取り組んできた。放射線部では,2010年2月に,フィリップスエレクトロニクスジャパンのフラットパネルディテクタ(FPD)を搭載したDigitalDiagnostに,可搬型X線フラットパネルディテクタ「Wireless Portable Detector」を組み合わせたデジタルX線撮影装置を2台導入し,一般撮影検査に活用している。ワイヤレスFPDの特長を生かした撮影のメリットと,DigitalDiagnostの画像処理技術やアプリケーションを活用した運用について,放射線部の平田吉春技師長と松崎芳宏副技師長に取材した。

■PACS,フィルムレス化など,画像のデジタル化を積極的に推進

平田吉春 技師長

平田吉春 技師長

松崎芳宏 副技師長

松崎芳宏 副技師長

鳥取大学病院の放射線部では,CT 3台(16列,64列×2),MRI 3台(3.0T,1.5T×2),血管撮影装置,PET/CTなどの診断機器のほか,IMRTなど最新の放射線治療を行う放射線治療棟など,最新の診断,治療を提供する設備をそろえている。スタッフは,診療放射線技師35名,事務系職員6名のほか,放射線診療専門看護室にCTやIVRなどの放射線検査業務を専門に担当する看護師11名が所属し,検査,治療にあたっている。放射線部の平田吉春技師長は,これらの施設やスタッフの組織運営のポリシーを“サービス精神に徹すること”と言う。
「患者さんに対してだけではなく,医師や看護師など医療スタッフに対してもサービス精神を発揮して業務を行うことがチーム医療を進める原動力となります」
また,放射線部では,大学病院としてスタッフの研究活動にも力を入れている。スタッフには,新人の時から毎年必ず学会で研究発表を行うように奨励し,診療と研究の両立を指導しているという。
「研究は人材育成に役立つと考え,学会での研究発表は新人初年度は義務化しています。研究のためには,先行する研究を調べる必要があり,そのためには文献を読むことが求められ,必然的に知識が得られます。テーマが決まれば,目的,方法を決め,実験を行って結論を導き出し,そしてプレゼンテーションで人に伝えるといった過程は,成長のために必要な要素がすべて凝縮されています」
同院は,画像情報システム(PACS)の構築に先進的に取り組んできたことでも知られ,病院としての電子カルテシステム導入の取り組みと歩調を合わせて,放射線部内のデジタル化を進めている。平田技師長は,デジタル化への取り組みを次のように説明する。
「当院では,早くから電子カルテやPACS の導入に取り組んできました。放射線部のPACS は,1989年からスタディを開始し部内PACSを経て,その後院内に広げ2008年から現在のシステムを稼動し,歯科口腔外科の画像の一部を除いてフィルムレス運用を行っています。本院は地域の中核病院で,各施設との画像情報の共有にはデジタル画像を利用しているため,機器の選定や導入にあっては,デジタル機器としての性能や機能を求めることが必要です」

■ワイヤレスタイプのFPDが可能にするDigitalDiagnostの運用

同院では,2010年2月に,FPDを搭載したデジタルX線撮影装置「DigitalDiagnost」(フィリップス社製)2台を導入した。FPDを搭載した立位と臥位の撮影装置に,可搬型X線フラットパネルディテクタ「ワイヤレスポータブルディテクタ(WPD)」を組み合わせた構成のデジタルX線装置である。一般撮影部門では小児用撮影室を含めた5部屋がすべてデジタル化されており,検査件数は1日平均180件,多い時には250件以上になる。平田技師長は,一般撮影部門におけるDigitalDiagnostの導入の経緯を次のように述べる。
「当院では,一般撮影のデジタル化をCRからFPDまですべて経験してきましたが,基本的にフィルムの業務のフローをイメージングプレート(IP)に置き換えただけのCRに比べて,FPDは撮影後に画像がすぐに表示されるリアルタイム性によってワークフローが大きく改善しました。しかし,ディテクタが撮影台の中に組み込まれてしまうFPDでは,四肢撮影や車いすなどでの撮影ではCRの併用が必要で,FPDとCRの画質の違いから,以前から撮影系を統一したいという要求がありました。そこで,CRを置き換えるワイヤレスFPDが使用できるデジタル
X線撮影装置として,各社の装置を検討しました。その中で,X線発生器から検出器までを自社で開発製造する総合力と,デジタルX線の画像処理技術での実績と技術力を評価して,フィリップスのDigitalDiagnostを導入しました」
一般撮影検査を統括する松崎芳宏副技師長は,DigitalDiagnostの運用について,「通常の胸部・腹部撮影はもちろんですが,特にWPDの可搬型としての使い勝手の良さが発揮される四肢骨などの整形外科の検査や,低線量で高画質の撮影が必要な妊婦の骨盤計測などは,DigitalDiagnostを優先して使っています」と説明する。

 

●PCRからの実績と技術の蓄積が可能にする高画質画像

フィリップスは,海外では1986年からCRの販売を行っており,デジタル一般撮影領域における画像処理には長い実績と豊富な経験を持っている。特に,2002年から搭載したUNIQUE(UNified Image QUality Enhancement)と呼ばれるマルチ周波数処理が可能な画像処理によって,検査目的に合わせた画像処理を多くのパラメータを調整した出力が可能となっている。DigitalDiagnostの画質を平田技師長は次のように評価する。
「フィルムからCRに代わった当初は,フィルムに近い画像づくりをしていましたが,フィルムレスになりデジタル画像が標準になると,濃度やウィンドウレベルを調整できるデジタルならではの特性を生かした画質が求められるようになってきました。DigitalDiagnostの導入にあたっては,従来の画像との継続性などを考慮して,放射線診断医や診療科の医師にも意見を聞いて,画質についてのディスカッションを行い,診断しやすい画像をめざしました。フィリップスの協力もあって,胸部,腹部,骨系などすべての領域で,高いレベルの画像を提供できていると感じています」
フィリップスのFPDは,43cm×43cmで143μmの画素サイズを持ち,検出器にはCsl(ヨウ化セシウム)を用いた間接方式を採用している。FPDに使われているCslは量子検出効率(DQE)が高く,従来のフィルムやPCRに比べて線量を抑えた撮影が可能だ。同院では,CRでの撮影時の1/2程度の線量で撮影を行っている。平田技師長は,「一般撮影系をFPDに更新する時に重視したのが,線量の低減です。デジタルでは,線量をかければSNRが良い画像が得られますが,従来と同等の画質で線量を抑えることを優先に検討しました。患者さんの被ばくへの意識が高まっている状況では重要なことです」と,DigitalDiagnostのメリットを評価する。松崎副技師長は,FPDの感度が高いことで,通常の撮影はもとより,妊婦の骨盤計測の撮影で,線量を下げても診断が可能な画像が得られることをメリットに挙げている。

 

●ワイヤレスFPDのリアルタイム画像表示で検査効率が向上

DigitalDiagnostに組み合わされたWPDは,35cm×43cmの半切サイズで,厚さ15mm,画素サイズは144μmだが,シンチレータなどの構成は据置タイプと同様で高画質と高いDQEを実現する。撮影終了後約5秒で画像表示される。データは暗号化処理され,転送エラーが発生した場合には,ケーブル接続による転送ができるなど,バックアップ機能を搭載する。
松崎副技師長はWPDの運用について,「ワイヤレスでの撮影でも,画像転送の作業は必要はありません。撮影すると即座にコンソールに表示されるという感覚です。バッテリーは,パネル収納用のドッキングステーションが充電機能を備えており,連続撮影をしても電池切れを経験したことはありません」と説明する。
DigitalDiagnostでの撮影は,立位60%,臥位25%,WPD15%の割合だが,松崎副技師長はWPDの撮影でのメリットを次のように説明する。
「IPを使った撮影がWPDに代わることで,救急や術後の撮影の検査効率が大きく向上しました。CRでは,撮影後にパネルを読取装置にセットする必要があり,画像表示まで2分程度かかっていました。WPDでは撮影後5秒で画像が表示され,そのまま次の撮影が可能で,連続撮影や微妙なポジショニングの変更が必要な撮影も容易に行え,救急や整形外科の医師からの評価も高いです」

●デジタル自動長尺撮影などアプリケーションの活用

DigitalDiagnostでは,立位装置に専用の長尺撮影用衝立を組み合わせた“デジタル自動長尺撮影”のアプリケーションを搭載されている。長尺撮影は,脊椎側彎症の検査などで撮影されるが,従来は長尺に対応した特注のIPや透視撮影装置を使って数回に分けて撮影しており,撮影後の画像合成など手間と時間がかかっていた。DigitalDiagnostでは,専用衝立を使用して全脊椎の自動撮影が可能で,Auto Stitchingによって画像のつなぎ合わせ,画像間の濃度補正なども自動で行われる。松崎副技師長は,「当院でも長尺は透視装置を使って撮影していたのですが,多い時には1日10件以上の撮影があり,画像処理の作業などが負担になっていました。DigitalDiagnostでは,画像処理もほとんど自動で終了しますので,スムーズに検査が可能です」と高く評価する。

●自社開発・製造による一体型のメリット

フィリップスはX線発生装置からディテクタまでを自社ユニットで構成し製品化していることから,DigitalDiagnostでは,立位の撮影装置の動きにX線管支持装置が追従する“トラッキング機能”や,臥位で照射野の中心にFPDがワンボタンで移動する“ディテクタトラッキング機能”などを提供している。松崎副技師長は,「撮影装置を動かせば追従してくれますので,技師は患者さんのポジショニングに集中することができます。臥位の場合も,X線支持器を動かして照射野を決定すればFPDが移動するので,移動し忘れによる再撮影などのミスを避けることができます」と操作でのメリットを評価している。
その他,撮影条件をプリセットできる機能や,撮影メニューに合わせてプリセットされた照射野を設定できる機能を提供する

●X線高電圧装置が統合された操作環境Eleva Workspot

DigitalDiagnostのコンソールである「Eleva Workspot」は,X線発生器コントロールパネルを統合し,Windowsベースでタッチパネルを採用しており,画像の調整などをコンソール上で行えるようになっている。表示された画像に対して,濃度やガンマカーブの調整を直接タッチすることで変更ができる直感的な操作が可能だ。松崎副技師長は,「WPDの制御を含めて,すべてこのEleva Workspotで操作が可能です。画像処理系だけでなく,発生器の制御系が統合されているので,撮影条件の変更などすべての操作が1つのコンソールで行えて,狭いスペースを有効に使うことができます」と使い勝手の良さについて述べている。

Eleva Workspot

 

■ワイヤレスFPDの導入がデジタルX線撮影の可能性を拡げる

DigitalDiagnostの導入によって,従来使用していたCR撮影のほとんどをWPDに置き換えることができたが,一部の検査ではCRでの撮影が残っているという。松崎副技師長によれば,「整形外科領域での膝や肩関節の軸方向撮影では,パネルを患者さんが保持したり肩に挟んで撮影を行いますが,WPDは患者さんが持つにはパネルが少し重く,この撮影だけはまだCRを使っています。WPDには,さらなる軽量化を期待しています」とのことだ。
FPDのリアルタイム性と画質を,高い可搬性で検査に生かすことができるWPDだが,平田技師長は,「これからは一般撮影系の装置はすべてFPDに移行すると考えています。CRの画像読取処理などのタイムラグが及ぼす患者さんの待ち時間や検査のワークフローの手間を考えると,リアルタイム性に勝るFPDに置き換わっていくことは間違いありません。今後はWPDの特長を生かしながら実際の検査での運用を反映したさらなる発展を期待しています」と言う。松崎副技師長も,「検査を行う立場で考えても,撮影前に患者情報を転送してIPのバーコードを読み取り登録,撮影後に読取機へのセットというCRの手順を考えると,ワイヤレスを一度使うと戻れません。FPDのリアルタイム性を生かして,さらに撮影領域が広がるように,パネルやアプリケーションの開発に期待します」とWPDのこれからに期待する
DigitalDiagnostの高いデジタル画像処理技術と操作性と,WPDのコンビネーションによる一般撮影の新たな可能性が期待される。

(2011年8月23日取材)

鳥取大学医学部附属病院

鳥取大学医学部附属病院
住所:〒683-8504 鳥取県米子市西町36-1
TEL:0859-33-1111
病床数:697床
診療科:34科
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