2012-4-1
血管撮影室にて,清水科長(左から2人目)と
放射線部スタッフ
国家公務員共済組合連合会(KKR)が運営するKKR札幌医療センター斗南病院 は,赤れんがで有名な旧北海道庁舎にほど近い札幌市の中心地に位置する。1961年に設立された同院は,都市型の急性期病院として高度で専門的な医療を提供してきた。 同院では,2011年1月にフィリップスエレクトロニクスジャパンの血管撮影装置「Allura Xper FD20」を導入。2011年4月には北海道大学からIVRのスペシャリストである清水匡科長が赴任し,診療科と連携した低侵襲治療の本格的な展開を図っている。FD20のインターベンション支援ツールであるXperCTやXperGuide,フィリップスの血管撮影室用の大画面高精細モニタ「FlexVision XL」などを活用したIVR治療について清水科長に取材した。
■全国初の血管腫・血管奇形センターを設置し難治性疾患に対応
斗南病院は,“都市型の急性期高度先進医療を担う総合病院”として,病床数243,16診療科で診療を展開する。また,リウマチ・膠原病センター,消化器病センター,呼吸器病センターなど,疾患に特化したセンターを設けて,高度で専門的な医療を提供する体制をとっている。
清水科長は,北海道大学大学院保健科学研究院から2011年4月に同院に赴任し,画像診断のほか,インターベンショナルラジオロジー(IVR)のスペシャリストとして,診療科と連携して画像ガイド下の低侵襲治療を実施している。放射線診断科は,清水科長を中心に診療放射線技師9名,看護師4名で,CT,MRI,一般撮影装置による診断と,FD20をはじめ,超音波,CT,MRIなどを使ったIVRを行っている。
同院では,全国でも数少ない血管腫・血管奇形センターを設置し,形成外科を中心に放射線診断科が協力して,難治性の疾患である血管腫・血管奇形に対する治療を行っている。血管腫・血管奇形は,いまだ確固たる治療法がなく経過観察されることが多いが,同院ではIVRによる塞栓術と,形成外科による経皮的治療を組み合わせるなど,病態によって最適な方法を選択する。
また同院では,放射線診断科を中心に,MRガイド下凍結治療に2011年7月から取り組んでいる。これまで,小径腎がん(4cm以下)12例,子宮筋腫1例の凍結治療を行ったほか,肝がん,難治性がん性疼痛についても倫理委員会の承認が得られており,自由診療で治療が可能だ。清水科長は,「4月からはMRに加えて,FD20によるX線ガイド下の凍結治療も開始する予定です」と言う。
■高度で先進的な治療に対応する装置としてFD20を導入
同院では,フィリップスの血管撮影装置「Allura Xper FD20」(以下,FD20)を2011年1月に導入した。清水科長は,FD20の導入の経緯について,次のように語る。
「以前から,非常勤でIVRを行っていたのですが,当時は解像度の低い,古い血管撮影装置しかありませんでした。特に血管腫・血管奇形の塞栓術では繊細な手技が要求されますし,頭部や顔面を担当していた脳神経IVR医からも新しい装置導入の要望があり,赴任するにあたって高画質で安全な治療が行える血管撮影装置の導入をお願いしました」
FD20の導入には,清水科長のこだわりがあったという。「フィリップスの血管撮影装置は,IVRを行う上での画質と使い勝手の良さで高く評価されていて,北大でも導入を検討したのですが実現しませんでした。今回は,念願かなって導入することができました」
FD20を利用するのは,放射線診断科のほかに,循環器内科が冠動脈や動脈閉塞の治療,消化器内科が肝がんのTACEを中心に手技を行っている。「いまのところは放射線診断科のマンパワーの関係から,IVRは基本的に各診療科の対応に任せており,各診療科で対応できない場合や技術的に対応が難しい症例などを放射線診断科でサポートするというスタンスです」と清水科長は説明する。
■XperGuideや FlexVisionなど,繊細な手技を支援する機能を搭載
同院に導入されたFD20は,天井走行型のCアームと30cm×38cmフラットパネルディテクタ(FPD)を備え,インターベンション支援ツールとしてCTライクイメージングが可能なXperCTや,穿刺支援機能であるXperGuideなどを搭載し,より安全で正確なIVRをサポートする。
清水科長は,FD20の選定理由のひとつとして,透視はもちろん,XperCTによるCTライク画像の取得から穿刺のためのガイド機能まで,IVRを行うためのあらゆる機能を搭載していることを挙げる。IVRでは,症例や手技にあわせてX線透視,CT,超音波など画像の特性を考えてモダリティを選択し手技を行うが,清水科長は以前から,通常はX線TV室で行う胆道ドレナージを血管撮影室で行っていたほか,大学病院では,より高度で繊細な手技が要求される場合に備えてIVR-CTを使って,肝がんのTACEやCTガイド下生検,ラジオ波焼灼術(RFA)などに対応するなど,すべてを1つの部屋で行うスタイルをとっていた。その理由を次のように説明する。
「手技やデバイスによって場所を変えることなく,1つの部屋でIVRを行うことが理想です。血管撮影装置では,オーバーチューブのX線TVよりも術者の水晶体や甲状腺への被ばく線量が少なく,Cアームの回転により,透視,撮影方向の変更が容易で体位変更も少なく,確実な手技が行えます。また,出血などの合併症の発生時には,ただちに血管造影,塞栓術が可能です。さらに高度な手技に対応するために,血管撮影室にCT装置を設置したIVR-CTを導入して,1つの部屋であらゆる手技を行っていました」
FD20では,XperCTによって,その場でCTライク画像の撮影が行える。清水科長は,従来IVR-CTで行っていたTAEや薬液の分布マッピング,feeding arteryの確認など,多くの部分はXperCTで十分可能だと言う。
「当院でも導入の際にIVR-CTと比較検討しましたが,フィリップスのXperCTは,CTライク画像の画質が向上しており,高い密度分解能が要求される早期の肝がんや異型腺腫の血行動態の鑑別などを除いて,ほとんどはXperCTで可能だと判断しました。むしろ,XperCTの方が応用範囲が広く,早期の肝がんのIVRのためだけに大きな投資をする必要はありません。非血管系のIVRを行う場合も,FD20であればXperGuideを使うことで,通常のCTガイド下の穿刺よりも穿刺方向などの自由度の高い手技を行うことができます」
■2k×2kイメージングチェーンと大画面モニタによる高画質
FD20では,2048×2048(2k×2k)マトリックスの高解像度で画像の収集,表示,保存が可能で,FlexVisionの高解像度表示と大画面モニタによって,細い血管に至るまで高い描出能を実現している。清水科長はFD20の画質について,次のように評価する。
「FD20では,2048マトリックスのデータがそのまま大画面に反映されます。手技の際にはいろいろな角度から画面を見ますので,最初はワンモニタで大画面のFlexVisionに,常に見たい情報が表示されるメリットに期待していました。実際に使ってみると,この組み合わせには,それ以上の利点があることがわかりました。ミリサイズの極細血管の治療の際には,より精細な情報を得るために拡大撮影を行います。それにはズームしてもう一度撮影することが必要で,造影剤の量も被ばく線量も増えてしまいます。FD20では,最初に撮影した画像を画面上でズームすれば,従来の拡大撮影と同様の情報が得られます。これは,FPDの持つ高い解像度を生かした2kの画像と,高精細の大画面モニタの組み合わせでなければ実現できないメリットで,手技の時間短縮と被ばく線量などの低減につながります」
また,FD20では広いダイナミックレンジによって,皮膚直下の血管まで描出でき,皮膚直下の血管奇形などで末梢までの撮影が簡単に行えることを清水科長は評価する。さらに,「大型のFPDで視野が広く,1回の撮影で血行動態を把握できます。これは,治療時間の短縮や造影剤の減量につながりますし,術者にとってもストレスなく治療を行うことができます」とメリットを説明する。
■XperGuideの3Dガイド下に,安全で確実なIVRを実施
FD20に搭載されているXperGuideは,XperCTの画像をもとに穿刺経路のプランニングを行い,穿刺時に画面上に表示されたガイドと透視画像を重ね合わせて表示し,目的部位までの経路をリアルタイムで追跡できる穿刺支援機能である。これによって,安全で確実な穿刺を可能にした。
XperGuideでは,最初にXperCTを撮影し,ボリュームデータを収集する。CTのデータ上で,目的となる腫瘍などの位置と,皮膚の刺入位置を決定すると,XperGuideでは2点間の経路と距離,角度などを計算して表示する。透視画像に切り替えて,2点の線上にあわせて穿刺針を置くと,Cアームが刺入部位に対して90°の位置まで自動的に移動し,モニタ上にターゲットまでのガイドラインが表示される。穿刺中は透視画像によってリアルタイムの観察が可能で,モニタを見ながらガイドラインに沿って針を進めていけば,目的の部位まで容易に穿刺が可能になる。
清水科長は,「患者さんの体動などによってライン通りに進められず,ずれることがあるので注意は必要ですが,XperGuideでは,深さ方向に対する安心感があることと,CTライクデータによって周辺臓器の状況が確認されていますので,セーフティマージンを取った安全な手技が可能です」と言う。
清水科長は,「胆管造影や膿瘍穿刺では,従来はX線TVを使っていましたが,チューブの挿入などでは透視画像を見ながら,頭の中で三次元の空間を構築して手技を行っていました。XperGuideであれば,CTライクのボリュームデータがその場で撮影可能ですし,その後のチューブの位置の確認やガイドワイヤーの挿入,腔の造影などは,普段から慣れた透視下で行えますので,安心,安全にストレスなく手技を行うことができます」とメリットを説明する。
同院では,肺のRFA治療,超音波で穿刺経路が取りにくいバイオプシー,各種のドレナージなどでXperGuideを利用している。清水科長は,「複雑な位置の骨盤内の膿瘍ドレナージであっても,CTガイドとX線TVを移動して使えば対応は可能です。しかし,XperGuideであれば,1つの部屋で,そして,最小限の被ばくで安全に行うことができますし,それだけ手技の時間を短縮できます。さらに,手技時間が短ければ,それだけ合併症のリスクも少なくなりますから,大きなメリットです」と強調する。
■56インチ8Mピクセルで拡大表示に対応するFlexVision
血管撮影室には,フィリップスの血管撮影室用の大型マルチモニタ「FlexVision XL」が採用されている。FlexVision XLは,56インチ8MピクセルのカラーLCDモニタであり,最大16チャンネルの信号入力が可能で,うち8チャンネルを同時に表示することができる。画像の拡大・縮小,入力信号の切り替えや表示レイアウトの変更などが,ベッドサイドのXperモジュールからも容易に行える。
清水科長は,「これまでのIVRのモニタでは,無理な体勢を取りながら画像を確認する必要があったり,XperCTを撮影するためにモニタを移動させることもあり,いつもモニタの正面から見るわけではありませんでした。しかし,FlexVisionでは,大画面内での画像の表示位置の移動も自由にできますし,表示の切り替えや画像の拡大,縮小も簡単で,無理なく手技が行えます」と説明する。
FD20への要望としては,「これはコーンビームCT全般に言えることですが,密度分解能がもう少しほしいですね。あとは,清潔用の覆布などでも障害物としてロックがかかってしまうので,XperCTのセットアップまでに少し時間がかかります。安全面への配慮もあると思いますが,手技中にはすぐにCTライクな情報が必要なケースもありますので,よりスムーズに撮影に移行できるといいですね」とのことだ。
■XperGuideとFD20を活用して,IVRの適応を拡大する
同院では,FD20での凍結治療については,2012年4月からのスタートをめざして準備中だ。XperGuideを使った凍結治療の適応と可能性について,清水科長は,「骨盤内腫瘍の疼痛緩和や骨転移の治療については,目的部位まで確実にガイドされるXperGuideの方が安全に手技が行えますので,MRIとの使い分けを考えています」と言う。
同院では,肺がんのRFA治療については,すでに倫理委員会の承認を得て,自由診療での治療をスタートしている。清水科長は,「XperGuideによる穿刺は,通常のCTガイドに比べると体軸に対する穿刺角度の自由度が格段に大きいので,例えば肺の多発腫瘍のRFAなどでは数個の腫瘍が同一直線上に配置されるように穿刺経路を設定することで,ニードル1本,穿刺1回で複数の腫瘍を治療することが可能です。肺がんのRFA治療は自由診療ですので,なるべく少ないニードルで行えれば経済的な負担も軽くなりますし,穿刺の回数が少なくなれば手技時間の短縮と,気胸などの合併症の危険性も減らすことができます」と言う。
清水科長は,FD20のこれからの運用について,「FD20が導入されたことで,各診療科からのIVRの依頼にはほぼ応えられる体制が整いました。治療の選択肢が増えたことで,患者さんの治療の幅が広がったり,治療成績の向上に少しでもつながることを期待しています。また,XperGuideをはじめとするIVR支援の機能については,診療科と情報を共有しながら,より安全で確実なIVRの施行のために,FD20の機能をもっと活用してもらえるように進めていきたいですね」と,期待を込めて語った。
(2012年2月14日取材)
KKR札幌医療センター斗南病院
住所:〒060-0001 札幌市中央区北1条西6丁目
TEL:011-231-2121
病床数:243床
診療科:16
院長:加藤紘之
http://www.tonan.gr.jp/