愛知県碧南市の碧南市民病院(320床)は、名古屋市から南に40km圏内の西三河南部西医療圏に属し、中核病院の一つとして救急医療など公的病院の役割を担っている。同院では、「温かな心のこもった医療」の基本理念を実現するべく、2017年4月にキヤノンメディカルシステムズ(旧・東芝メディカルシステムズ)の3T MRI「Vantage Galan 3T」を導入した。中規模病院での1.5Tと3Tの2台体制の運用の現状について、亀岡院長と放射線科スタッフに取材した。
碧南市民病院は、1988年の開設以来、基本理念の下、地域の中核病院として急性期から慢性期まで地域のニーズに対応した質の高い医療を提供してきた。同院では、30周年を迎える2018年に改めてミッションとビジョンを掲げた。ミッションは、“公立病院として、碧南市および二次医療圏の中で地域医療の中心的な存在となること”、ビジョンは、“働きやすい職場づくり”と“病院の価値を高めること”である。亀岡院長は病院の役割について、「この地域の公立病院として中心的な役割を担うことが求められています。そのためにも病院の価値を高めるというビジョンの下、診断・治療において高度な医療を提供することが目標の一つです。MRIなどの高度医療機器の整備もそういった視点で進めています」と述べる。
同院では、2017年4月に2台の1.5T装置のうち1台をリプレイスして、Vantage Galan 3T(以下、Galan 3T)を導入した。3T MRI選定のポイントを亀岡院長は、「3Tによる高度医療の提供は当然として、同時に当院の基本理念である“温かな心のこもった医療”を提供するためには、患者さんの不安を取り除くことが重要なポイントでした。MRIは狭くてうるさくて怖いというイメージが強くあり、それを払拭できる装置を選択しました」と説明する。
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Galan 3Tでは、ハードウエアと静音化シーケンスによる静音化機構の“Pianissimo Zen”や71cmの広い開口径などで、静かで安心して検査を受けられる環境を提供する。今回の更新では、検査室内に自然光のような環境を構築する照明設備であるSky Factory Japanの「ルミナススカイシーリング」も併せて導入された。亀岡院長はMRI検査室の構築のコンセプトについて、「MRI検査自体への不安感を軽減することが必要だと考えて、装置とそれを設置する検査室の環境をトータルで向上することをめざしました。待合室や入り口などを含めて改装し、検査室内は明るく開放的で静かな環境で検査が受けられる環境が構築できたと思います」と説明する。
静音化機構の効果についてMRIを担当する画像診断室の原田主任は、「現在は半分程度の患者さんは耳栓やカバーなしで検査を行っています。3T装置の検査時の騒音はかなりうるさい印象でしたので、Pianissimoの効果は大きいと実感しています」と述べる。
また、Galan 3Tの開口径の広さは、検査時の圧迫感が少ないこと、コイルの取り回しが容易でスムーズなセッティングができることがメリットとなっていると原田主任は次のように言う。
「高齢で円背の患者さんの頭部の撮像は、これまで足が上がってしまうなど無理な体勢での検査になっていました。Galan 3Tのヘッドコイルは、チルト機能によってコイルの角度を変えることができ、また、チルトしてもガントリに干渉することなく無理のない姿勢で検査が可能です。画質についてもSlim Gradient技術で通常の撮像と変わらない高画質が得られています」
今回、1.5Tの2台体制からの更新となったが、導入に当たって診療科を含めて3Tを導入するかどうかの検討に時間をかけたという。画像診断室の山本室長は、3Tの導入に至る経緯について、「最初から3Tありきだったわけではありません。やはり、1.5Tと3TのMRIでは画像も疾患の適応も異なりますので、その違いを診療科の先生方に理解していただくことが必要だと考え、導入前に熊田部長を中心に診療科の部長クラスに対して説明会を繰り返し開催しました。3Tのメリットやデメリットを十分理解してもらった上で、3Tを選定したというのが経緯です」と説明する。
山本室長は、今回の3Tの機種選定で決め手となったのはコストだったと言う。「高額な機器ですのでランニングコストを含めたコストが問題でした。Galan 3Tは、ランニングコスト面も1.5T装置と変わらない点が大きなポイントです」
放射線科の熊田部長はGalan 3Tの導入について、「画像診断部門としては、診療各科から依頼された検査に対してしっかりとした画像を提供することが第一で、Galan 3Tは日常検査に関しては問題なく行えています。MRIは検査に時間をかければきれいな画像が得られますが、臨床病院ではスループットも求められます。その意味でGalan 3Tはバランスの良い装置と言えるのではないでしょうか」と述べる。
Galan 3Tでは、Saturn TechnologyやPURERF Tx、PURERF RxなどでSNRを向上し、高画質を実現している。亀岡院長はGalan 3Tへの臨床面での期待について、「3T MRIでは、高精細画像による診断能の向上がポイントです。また、最新機種として新しい撮像法や解析ソフトウエアに期待しました。当院では、近隣の医療機関からの依頼検査を行っていますが、より高いレベルの画像を提供することで地域全体の医療レベルの向上も期待しています」と述べる。
MRIの検査件数は2台で月間約500件で、そのうちGalan 3Tが200件前後となっている。検査部位は、頭部と整形外科領域(脊椎、関節)で8割を占め、そのほか乳腺、前立腺、心臓、血管系の撮像を行っている。乳腺外科を専門とする亀岡院長は、乳がん診療におけるGalan 3Tのメリットについて、「3Tになり明らかに画質が向上し、乳がんの存在診断や術前の広がり診断には欠かせない情報を提供してくれます」と述べる。原田主任は、「Galan 3Tは脂肪抑制の効果も高く、高画質の撮像が可能で外科からのオーダも増えています」と述べる。また、Galan 3Tでは、定評のある“Flow-Spoiled FBI”や“Time-SLIP”などの非造影シーケンスが利用できる。原田主任は、「特に下肢血管では簡単に撮像でき、きれいなMRA画像が得られています。近年、ガドリニウム造影剤の脳沈着などが話題となっており、患者にやさしい検査として非造影撮像を進めていきたいですね」と述べる。そのほか、神経内科、脳神経外科のMRSやトラクトグラフィ、心臓MRIなども行っている。
3Tと1.5Tでは症例や部位での振り分けは行っていないが、オーダ時に機種の指定が可能になっており、診療科が必要であれば3Tでの検査をオーダできるようになっている。山本室長は、「3Tに検査が集中することが一番の懸念でしたが、診療科の理解もあってうまく分散しています。頭部領域の経過観察など3Tで継続的に行う必要がある検査に関しては、オーダコメントで対応しています」と説明する。
■Vantage Galan 3Tによる臨床画像
山本室長は、運用開始から1年のGalan 3Tの評価について、「実際に運用してみて当院のような中小規模の医療機関でも導入可能な装置だと実感しています。臨床においても3Tの高画質を生かした質の高い画像を提供できており、メリットは大きかったと思います」と述べる。原田主任は、「当初は1.5Tとの違いにとまどう部分はありましたが、キヤノンメディカルシステムズの担当者のバックアップもあってクリアできました」とサポート体制を評価する。山本室長は、「国産メーカーということでメンテナンスなどの保守管理やサービス体制への安心感は大きいですね」と述べる。
3Tと1.5Tでの2台体制の運用について熊田部長は、「今後は、従来1.5T装置2台で運用していた中小病院で、1台を3Tにする事例が増えてくると思いますが、クオリティとスピードのバランスを取りながら使い分けていくことが重要です」と述べる。山本室長は、「静音性など患者さんにやさしい装置であると実感していますが、さらに進化を続けて製品にフィードバックしてほしいですね」とキヤノンメディカルシステムズのMRIの進展に期待した。
(2018年5月11日取材)
碧南市民病院
愛知県碧南市平和町3-6
TEL 0566-48-5050