2025-5-12

島津製作所ブース
島津製作所の創業者である島津源蔵氏が,京都木屋町二条南で教育用理化器械製造を開始したのは1875年(明治8年)のことである。その後,同社は日本初の医療用X線装置や,世界初の遠隔操作式X線テレビジョン装置を開発するなど,医療分野はもとより分析・計測機器や産業機器,航空関連機器など幅広い分野で新技術を創出し続けてきた。今年3月には創業から150周年を迎え,今回のITEMでは,150周年を大々的に打ち出したブースを出展した。ブース壁面には,「150 YEARS ANNIVERSARY」と大きく記載されたほか,カラフルな気球のイラストが描かれた。これは,当時,欧米で盛んに研究されていた軽気球を,外国人の手を借りずに京都で作成し,理化教育に対する府民の関心をいっそう高めるとともに,東京奠都(てんと:新たに都を定めること)によって沈み込んでいた京都の町を活気づけたいという京都府からの依頼によって,同社が軽気球を製作し,1877年に民間初の有人での飛場に成功したという出来事に由来する。同社は,このエピソードを150周年記念アニメーションとしてYouTubeで公開しているほか,ブース正面のモニタでも上映した。また,ブース正面には,150周年記念企画の一つとして,同社のデザイン部門が京都の伝統工芸作家とコラボレーションした回診用X線撮影装置のコンセプトモデルが展示され,来場者の関心を集めた。
製品展示においては, “Evolution, Innovation, Transformation ―solving challenges together―”が今回もスローガンとして掲げられ,少子高齢化という現状における医療現場の課題に対し,同社の発想や技術でいかに解決していくかを追究した製品群が紹介された。回診用X線撮影装置は,ITEM開催直前の4月9日(水)に発売された「MobileDaRt Evolution MX9 Version」を展示。セカンドモニタや3Dカメラ(オプション)などが効率的かつ安定した撮影を支援する。一般撮影システムは「RADspeed Pro SR5 Version」が展示され,新たにAIを活用したトモシンセシスアプリケーションが搭載されたことが紹介された。血管撮影システムのコーナーでは,昨年10月に発表された「Trinias series with SCORE Opera」向け音声認識機能「SMART Voice」をメインで展示し,カテーテル治療の効率化や医療従事者の負担軽減に寄与することをアピール。X線TVシステムは「SONIALVISION G4 LX edition」が展示され,より安全な手技をサポートする新技術などがアピールされた。
これらのほか,ブース内にはシニアヘルスケア(骨の健康・認知症診断への取り組み)や,がん診断・治療支援などのコーナーが設けられ,TOF-PET装置「BresTome」など,それぞれの領域の診療に寄与する製品や技術がモニタなどで紹介されていた。

軽気球の製作と有人での飛場を成功させたエピソードを紹介

京都の伝統工芸の作家とコラボレーションした回診用X線撮影装置のコンセプトモデル。左側のサイドカバーには京友禅があしらわれている。

コンセプトモデルのケーブルカバーには西陣織,コリメータパネルには七宝焼き,ハンドルには彫金細工,右側のサイドカバーには京和紙,車輪には螺鈿細工が施されている。

シニアヘルスケアのコーナーではTOF-PET装置「BresTome」の
コンセプトモデルを紹介
●X線(回診用X線撮影装置):セカンドモニタや3Dカメラを搭載し,効率的かつ安定した撮影に寄与する「MobileDaRt Evolution MX9 Version」を発表
●X線(一般撮影システム):「RADspeed Pro SR5 Version」に,新たにAIを活用したトモシンセシスアプリケーションを搭載
●血管撮影システム:新開発の音声認識機能「SMART Voice」が検査業務の効率化と手技の安全性向上に貢献
●X線TVシステム:天板を移動することなく画角内の視野移動と関心領域の拡大表示が可能なFPD画角内視野移動機能「Smart FOV」
●X線(回診用X線撮影装置):セカンドモニタや3Dカメラを搭載し,効率的かつ安定した撮影に寄与する「MobileDaRt Evolution MX9 Version」を発表
回診用X線撮影装置は,操作者の習熟度に依存せず,診断に寄与する良好な画像を効率的かつ安定して取得できることをコンセプトに開発された新製品として,MobileDaRt Evolution MX9 Versionが展示された。このコンセプトは,昨年販売を開始した一般撮影装置「RADspeed Pro SR5 Version」と同様の発想で展開しており,少子高齢化による患者数の増加や医療人材の不足などのさまざまな医療課題の解決をめざしている。MobileDaRt Evolution MX9 VersionではX線照射部が改良され,従来のメインモニタに加えてセカンドモニタが搭載されたほか,3Dカメラや,レーザーナビゲーション(いずれもオプション)が搭載された。セカンドモニタでは撮影条件の確認・設定や患者情報の確認などが可能なため,アームを伸ばし,撮影ポジションにセットアップした後でも,操作者は本体側に戻ることなくベッドサイドで撮影条件の変更や患者情報の再確認を行うことができる。また,撮影に当たっては,従来,X線照射部とFPDが適切に対向しているかの確認は,操作者が目視で行う必要があった。これに対し,MobileDaRt Evolution MX9 Versionでは,3Dカメラとレーザーナビゲーションを用いた撮影支援機能「VISION SUPPORT」により,相対角度や距離(SID)が自動で計測され,これらの情報をリアルタイムにセカンドモニタ上で確認することができる。これにより,ポジショニング不良による再撮影を防ぎ,ワークフローの改善や撮影精度の向上,被ばく低減などに貢献する。
MobileDaRt Evolution MX9 Versionは,搭載するFPDのタイプ別にcタイプ(キヤノンメディカルシステムズ社のCXDIシリーズ),kタイプ(コニカミノルタ社のAeroDRシリーズ),sタイプ(富士フイルム社のCALNEOシリーズ)の3つがあり,それぞれ対応する機能やオプションなどが異なる。cタイプでは,同社の従来の技術である,X線画像から体内遺残物の確認を支援するAI技術「Smart DSI(Detection Support with Image Processing)」に加えて,新たにチューブやカテーテルを確認するAI技術「Smart Tube」が追加された(いずれもオプション)。

回診用X線撮影装置の新製品
「MobileDaRt Evolution MX9 Version(kタイプ)」

X線照射部にセカンドモニタを搭載(cタイプ)

レーザーナビゲーションによって,X線管が適切な角度範囲に達すると
レーザーマーカーが点灯
●X線(一般撮影システム):「RADspeed Pro SR5 Version」に,新たにAIを活用したトモシンセシスアプリケーションを搭載
RADspeed Pro SR5 Versionは,コンソールの操作性や視認性,X線管懸垂器のハンドルの改良,パワーアシスト機能(オプション)などによるユーザビリティの向上や,リモコン操作によるオートポジショニング機能(オプション),X線照射部に備え付けられた光学カメラを用いた撮影支援機能「VISION SUPPORT」(オプション)などによって,検査業務の効率化と診療放射線技師および被検者の負担軽減に寄与する装置となっている。VISION SUPPORTでは,光学カメラの映像は検査室と操作室の双方から確認できるほか,「ライブ映像表示」では,X線懸垂器を患者に向けるだけで,受像器領域,照射野領域,AEC採光野がモニタにオーバーレイ表示されるため,正確なポジショニングが可能となる。ポジショニングがずれた場合は,「体動検出・メッセージ表示」機能によって撮影前に体動のあった領域表示やアラートが通知され,再撮影の低減と,再撮影に伴う被ばく低減に寄与する。再撮影となった場合でも,「前回ポジション表示」機能によって,モニタ上で現在の画像と直前に行った撮影時の画像を切り替えて表示しポジションを確認できるため,再現性の高いポジショニングが可能となる。
また,RADspeed Pro SR5 Versionでは,新たにAIを活用したトモシンセシスアプリケーション「T-Smart PRO」が搭載された。T-Smart PROでは,金属アーチファクトを抑制するパラメータが自動で設定されるため高画質が得られるほか,AI技術を搭載したことで被写体の高さや体厚を推定し,撮影の目的に応じた画像再構成の範囲をAIが自動で判定。ワークフローの効率化に貢献する。T-Smart PROは従来,同社のX線TVシステムのみに搭載されていたが,RADspeed Pro SR5 Versionでも採用されたことで再構成に要する時間が短縮され,ワークフローのさらなる効率化に寄与する。

一般撮影システム「RADspeed Pro SR5 Version」

X線照射部に光学カメラを搭載

X線管懸垂器操作部のモニタにもカメラ映像を表示可能

VISION SUPPORTでは,「ライブ映像表示」「体動検出・メッセージ表示」「前回ポジション表示」などの機能によって検査業務をサポート
●血管撮影システム:新開発の音声認識機能「SMART Voice」が検査業務の効率化と手技の安全性向上に貢献
血管撮影システムのコーナーでは,昨年10月にリリースした新機能として,「Trinias series with SCORE Opera」向けの音声認識機能SMART Voiceが紹介された。通常,血管撮影システムの操作は,タッチパネルや専用のコントロールレバー,フットスイッチなどの操作モジュールを用いて手や足で行う必要がある。その際,術者は患部や画像モニタからいったん目を離し,立ち位置によっては操作モジュールまで移動して自分で操作を行うか,両手がふさがっている場合はほかの医療従事者に操作してもらう必要があった。一方,SMART Voiceでは,モニタ懸垂器に取り付けた専用マイクに向かって製品名の「Trinias」,続いてコマンドを発声することで,「StentView(ステント強調処理)」などのアプリケーションの立ち上げや,透視保存,画像操作などに関する計13種類の操作が可能となる。これにより,検査業務の効率化が図れるほか,手技の安全性の向上が期待できる。なお,SMART Voiceは日本語と英語に対応している。
Trinias series with SCORE Operaは,「ALARA Design」「Lean Design」「Sustainable Design」をコンセプトに開発された。AI技術を活用した画像処理エンジン「SCORE Opera」を搭載したことで,低線量化を図りつつ,ノイズを抑制してデバイスの視認性に優れた高画質を得ることができる。また,操作性においては,タッチパネルモジュール「SMART Touch」の採用によって患者のポジションチェンジやCアームポジションの調整,アプリケーション選択などをワンアクションで行うことができ,ストレスのない操作とワークフローの効率化に貢献している。さらに,使用頻度に応じてソフトウエアのパッケージを選択し,定期契約できるほか,拡張性に優れたプラットフォームによって機能の拡張やアップグレードも容易に行うことができる。

血管撮影システム「Trinias series with SCORE Opera」

音声認識機能「SMART Voice」では計13種類の操作が音声で可能。専用マイクは,実際にはモニタ懸垂器に取り付けて使用する。

ワンアクションでの操作を実現する「SMART Touch」
●X線TVシステム:天板を移動することなく画角内の視野移動と関心領域の拡大表示が可能なFPD画角内視野移動機能「Smart FOV」
X線TVシステムのコーナーでは,「SONIALVISION G4 LX edition」に実装された新機能として,FPD画角内視野移動機能Smart FOV(オプション)が紹介された。消化管内視鏡検査や嚥下造影検査においては,患者の体内に内視鏡やデバイスが挿入されているため,視野移動のために天板を移動することにはリスクが伴う。そこで,Smart FOVを用いることで,天板を動かすことなく画角内の視野を上下左右に移動できるほか,関心領域内の画像を任意の視野サイズで全画面拡大表示することができる。これにより,患者の体内に内視鏡やデバイスが挿入された状態でも,より安全な検査が可能となる。操作は非常に簡単で,コンソールのタッチパネルに表示されたSmart FOVの表示をタッチして機能を立ち上げ,視野サイズを切り替えてから,コンソールの操作レバーで表示された画角内の視野を任意の位置に移動し,フットスイッチを踏むことで,拡大された透視画像が瞬時に表示される。
また,Smart FOVは,以前から定評のある透視画像処理技術「DeEP」と同時に使用することも可能である。DeEPは,ガイドワイヤなどの微細なデバイスを強調表示し視認性を向上する技術で,少ないX線照射量でもデバイスを鮮明に描出することができる。さらに,高画質デジタル画像処理技術「SCORE PRO Advance」によって,背景のノイズ成分をリアルタイムに低減しながら観察部位を効率良く強調表示することが可能である。これらの機能によって,SONIALVISION G4 LX editionでは,検査・手技におけるスムーズな進行をサポートするとともに,被ばくの低減と視認性に優れた画像を両立することが可能となる。
なお,X線TVシステムのコーナーでは,検査室ソリューションとして,大型の4K液晶モニタと天井懸垂器なども併せて紹介された。

X線TVシステム「SONIALVISION G4 LX edition」。検査室ソリューションとして,大型の4K液晶モニタと天井懸垂器も併せて展示

FPD画角内視野移動機能「Smart FOV」。天板を動かすことなく画角内の視野移動や関心領域内の画像の全画面拡大表示が可能
●お問い合わせ先
社名:株式会社島津製作所
住所:京都市中京区西ノ京桑原町1
URL:https://www.med.shimadzu.co.jp/