2025-5-9

シーメンスヘルスケアブース
シーメンスヘルスケアは,今年もPurposeである“We pioneer breakthroughs in healthcare. For everyone. Everywhere. Sustainably.(ヘルスケアを,その先へ。すべての人々へ。)”をブースに大きく掲げ,医療や環境の課題解決ならびに経営改善などに貢献するという同社の姿勢を強く打ち出した。今回の展示でこのPurposeを最も体現した装置の一つは,1.5TヘリウムフリーMRI「MAGNETOM Flow」であると言えるだろう。MRIの超電導磁石の冷却に用いられる液体ヘリウムは輸入頼みであり,国内供給が不足しているほか,価格も年々高騰している。このような課題の解決策として,MAGNETOM Flowでは,液体ヘリウム使用量をわずか0.7Lにまで削減し,かつ,このわずかな液体ヘリウムをあえて使用することで冷却効率を上げ,消費電力を大幅に抑制した。ほかにもさまざまな技術や工夫によって,環境課題はもとより,いくつもの医療課題の解決や経費削減に貢献している。医療課題の解決という点では,統合型医療情報プラットフォーム「Syngo Carbon」も,ワークフロー改善や業務効率化,人材不足,働き方改革に大きく寄与することがアピールされた。あらゆる医療情報データを一元的に管理し,容易にアクセスできるほか,人工知能(AI)を活用して画像解析処理やレポート作成などの自動化が図られ,診療科全体の幅広い業務がより効率化されることが期待される。今回のITEMで紹介された製品では,MAGNETOM Flowや,フォトンカウンティングCT「NAEOTOM Alpha」,循環器向けハイエンド超音波診断装置「ACUSON Origin」および汎用機の「ACUSON Sequoia」などでも,AIによってさまざまな自動化が図られていた。
また,同社の特徴的な製品として,前回のITEMで発表されたマンモグラフィ「MAMMOMAT B.brilliant」が紹介された。 振り角50°という業界最大(同社調べ)の広角トモシンセシスを,わずか5秒で高速に撮影し,かつ同社の独自技術によって高画質な画像が得られるとあって,多くの来場者の関心を集めた。
なお,ITEM2025の開催に先立ち,3月26日(水)には,同社の本社オフィス(東京都品川区)において,ラウンドテーブル「次世代医療の到来:放射線医学における最新トレンドと,シーメンスヘルスケアの技術的強み〜AI活用の取り組み,世界初のフォトンカウンティングCT最新動向,PET-CTの展望〜」が開催された。この中で,同社代表取締役社長の櫻井悟郎氏は,常に先進的な製品開発に取り組み,アンメットニーズに応えていくというシーメンスの姿勢を強調した。続いて,各製品の担当者から製品開発の最新動向などが紹介されたが,その中で,フォトンカウンティングCTについては,2040年までにシーメンスが販売するCTをすべてフォトンカウンティングCTに移行するというミッションが紹介された。また,その実現のため,2026年にはドイツに新たな検出器の製造工場が建設されるとし,これによりフォトンカウンティングCTを加速的に普及させていくという展望が示された。

シーメンスヘルスケア(株)代表取締役社長の
櫻井悟郎氏
●MRI:液体ヘリウム使用量がわずか0.7Lの1.5TヘリウムフリーMRI「MAGNETOM Flow」が登場
●CT:フォトンカウンティングCTのさらなる普及に向けSingle Sourceの「NAEOTOM Alpha Prime」(薬機法未承認)を紹介
●Digital & Automation:あらゆる医療情報データを一元的に管理し業務効率化に貢献する統合型医療情報プラットフォーム「Syngo Carbon」
●US:AIアシスト機能を搭載し心血管の撮像に特化した「ACUSON Origin」など3機種を展示
●マンモグラフィ:振り角50°の広角トモシンセシスを高速に撮影し,高画質を提供する「MAMMOMAT B.brilliant」
●MRI:液体ヘリウム使用量がわずか0.7Lの1.5TヘリウムフリーMRI「MAGNETOM Flow」が登場
MRIは,2024年11月に販売が開始されたMAGNETOM Flowが展示された。MAGNETOM Flowは,独自の冷却技術である「DryCool Technology」が1.5T装置として初めて採用されている。冷却装置は液体ヘリウムを完全に密閉したヘリウムフリー構造となっており,これまで超電導磁石の冷却に必要とされていた最大1500Lの液体ヘリウム使用量を,わずか0.7Lにまで削減した。装置の稼働に伴う液体ヘリウムの再補充が不要となったほか,万が一ガス化した場合もガスを外部に排出する必要がないため,クエンチパイプも不要となった。また,自動回復機能によって,消磁後の磁場の再立ち上げにおいても安全かつ迅速な復旧が可能となる。装置のサイズは高さ2m未満,最小設置面積24m2,重量3.7tと小型・軽量化されているため,MRI室の扉などを壊さずに搬入できることも特長で,クエンチパイプが不要なことも相まって設置性の高い装置となっている。さらに,超電導磁石の冷却のためにあえて液体ヘリウムを0.7L使用し,冷凍機を間欠運転するなどさまざまな省エネ機能を組み合わせることで,同社の従来の1.5T装置と比較し電力消費量を最大40%低減しており,経済性にも優れている。
MAGNETOM Flowではコイルも一新された。軽量かつフレキシブルなブランケット型コイルの「BioMatrix Contour coils」は3種類のサイズが用意されており,従来の呼吸同期や心臓のセンサーに加えて新開発の「BioMatrix Position Sensor」が搭載された。通常はコイルセッティング後にレーザーライトを表示して被検者の撮像位置を合わせる必要があるが,BioMatrix Position Sensorでは内蔵されたコイルの位置情報をGPSのような機能によって自動認識する。さらに,ボディモデルを学習したAIが撮像位置を自動で認識するため,1回のタッチ操作で撮像のポジショニングを完了することができ,ワークフローを大幅に改善することが可能となる。また,画像再構成においては,AIを用いた超解像画像再構成技術「Deep Resolve」に対応していることが紹介された。
このほか,MRIのコーナーでは,ソフトウエアがsyngo XB10にバージョンアップし,70cmボアの装置である1.5Tの「MAGNETOM Sola」「MAGNETOM Altea」「MAGNETOM Sola Fit」,3Tの「MAGNETOM Vida」「MAGNETOM Lumina」「MAGNETOM Vida Fit」の6製品に対応することがアナウンスされた。Deep Resolveは,従来の2D撮像に加えて3D撮像にも対応。3Dのパラレルイメージング技術CAIPIRINHAと,3Dダイナミック撮像法のVIBEや,SAR低減と空間分解能を向上する技術であるSPACEを併用した撮像にもDeep Resolveを適用することができる。MRIコーナーの壁面のモニタでは,Deep Resolve,CAIPIRINHAと3D VIBEや3D SPACEを組み合わせた実際の画像などが多数提示された。そのほかの技術として,T1コントラストを保ったまま血液信号を良好に抑制できる新技術DANTE(Delay Alternating with Nutation for Tailored Excitation)や,心臓MRIのパラメータ設定を自動化しオペーレータの習熟度に依存しない検査を可能とする「AutoMate Cardiac」も紹介された。
さらに,同社のサービスとして,ソフトウエアのバージョンアップに追加ライセンスなしで対応する「Digital Advantage」が紹介された。Digital Advantageは保守契約に組み込まれており,最新のソフトウエアおよび対応するPCハードウエアが継続的に提供されるプログラムとなっている。

液体ヘリウム使用量がわずか0.7Lの
1.5TヘリウムフリーMRI「MAGNETOM Flow」

軽量かつフレキシブルなブランケット型の「BioMatrix Contour coils」

最新のソフトウエアバージョンであるsyngo XB10には6製品が対応

AIを用いた超解像画像再構成技術「Deep Resolve」が3Dに対応

Deep Resolveによって面内だけでなくスライス方向にも超解像を適用可能

Deep Resolveと3D SPACE,CAIPIRINHAを組み合わせて高速な3D撮像を実現

DANTEとSPACEの併用によりT1コントラストを保ちつつ血液信号を抑制

心臓MRIのスキャン設定を自動化しオペーレータの習熟度に依存しない検査を可能とする
「AutoMate Cardiac」

ソフトウエアのバージョンアップに追加ライセンスなしで対応する「Digital Advantage」
●CT:フォトンカウンティングCTのさらなる普及に向けSingle Sourceの「NAEOTOM Alpha Prime」(薬機法未承認)を紹介
CTのコーナーは今回,CT開発における同社のビジョンを前面に打ち出した展示が行われた。同社は他社に先駆けて,グローバルでは2021年に,日本では2022年にフォトンカウンティングCT「NAEOTOM Alpha」を臨床に投入した。すでに全世界で200施設以上,国内では17施設で稼働しており,フォトンカウンティングCTの市場を独走している。こうした状況の中,同社は昨年の第110回北米放射線学会(RSNA2024)において,「2040年までにシーメンスが販売するすべてのCTをフォトンカウンティングCTにする」というビジョンを掲げ,今回のITEMでもこのビジョンをブース内のパネルや壁面のモニタでアピールした。
NAEOTOM Alphaは,テルル化カドミウム(CdTe)半導体を用いたフォトンカウンティング検出器によって,従来CTに搭載されている固体シンチレーション検出器の限界を克服し,空間分解能の向上や被ばくの大幅な低減が可能となる。また,従来CTの検出器ではX線を光に変換する際にエネルギー情報が失われるが,フォトンカウンティング検出器ではX線フォトンのエネルギーレベルを計測できるため,すべての検査でレトロスペクティブにスペクトラルイメージングが可能なことも大きな特長である。さらに,NAEOTOM Alphaは,Dual Sourceの装置としたことで,66ms(ハーフ再構成)という高時間分解能を実現し,循環器や呼吸器など動きのある領域や小児の検査などで特に有用性を発揮するほか,AI技術の活用などによってワークフローの向上にも貢献する。
一方,今回実機が展示されたNAEOTOM Alpha Primeの最大の特長は,検出器幅6cmのSingle Sourceの装置となっていることである。これは,2040年に向けた同社のビジョンに基づいた製品の第1弾として開発されたものであり,目標達成に向けた同社の強い意志が感じられた。時間分解能は125ms,秒間345mmの撮影によって,がんや脳神経,整形領域など幅広い領域で高分解能が得られることに加え,Dual Sourceのハイエンドの装置よりも経済性に優れるため,フォトンカウンティングCTのさらなる普及につながることが期待される。

Single SourceのフォトンカウンティングCT
「NAEOTOM Alpha Prime」(薬機法未承認)

NAEOTOM Alphaシリーズのラインアップ

フォトンカウンティングCTの開発の歴史をパネルで紹介

2040年までにシーメンスが販売するすべてのCTをフォトンカウンティングCTにするというビジョンを掲示
●Digital & Automation:あらゆる医療情報データを一元的に管理し業務効率化に貢献する統合型医療情報プラットフォーム「Syngo Carbon」
Digital & Automationのコーナーでは,今年3月に販売が開始された統合型医療情報プラットフォームのSyngo Carbonが紹介された。患者の診療に当たっては,DICOMの画像データはもとより,非DICOMの臨床検査データや病理画像,動画,文書などが発生する。従来,これらのデータは,PACSをはじめ異なるシステムやアプリケーション上で管理していたが,次世代の医療情報プラットフォームであるSyngo CarbonはHISやRISと接続することが可能で,さまざまな解析・読影のシステムを包括しており,医用画像データはもとより,複数診療科にまたがるあらゆる医療情報データを患者単位で一元的に管理することが可能となる。CTやMRIなどの画像に加え,病理画像や他科の医師のレポートなども参照しながら読影できるほか,患者に紐付くさまざまなデータをAIが構造化することで,放射線科レポートの自動作成も可能である(英語対応のみ。日本語は順次対応予定)。
また,Syngo Carbonでは,50以上のAIアプリケーションを含む100種類のアプリケーションを使用でき,統一されたユーザーインターフェイス上で直感的な操作と高度な画像解析処理,読影支援が可能となっている。なかでも有用なものとして,今回のITEMではDual Energy解析がアピールされた。従来,Dual Energyの解析は,診療放射線技師がCTのコンソールや専用のワークステーションで行い,読影医はPACSに保存された画像を参照して読影を行っていた。一方,Syngo Carbonでは,Dual Energy,Multi Energyの解析を医師自身が読影環境の中で行うことができる。さらに,Syngo Carbonから同社の遠隔検査プロトコル支援システム「syngo Virtual Cockpit」を起動できるため,CTやMRIのコンソール画面を共有して遠隔から操作できるほか,Webカメラやチャット,音声通話などを用いて,熟練の診療放射線技師や医師が遠隔から検査をサポートすることも可能である。
このように,Syngo Carbonは,医師の働き方改革や医療従事者の不足,医療データの管理や処理・解析などにおける業務効率化などに貢献するとして,ブースでは多くの来場者の関心を集めた。

統合型医療情報プラットフォーム「Syngo Carbon」では,あらゆる医療情報データを一元管理可能

さまざまな情報をAIが構造化し,読影レポートを自動作成(英語対応のみ。日本語は順次対応予定)

読影環境の中で医師自身がDual Energy・Multi Energyの解析が可能

syngo Virtual Cockpitを起動し,遠隔から検査のサポートも可能
●US:AIアシスト機能を搭載し心血管の撮像に特化した「ACUSON Origin」など3機種を展示
超音波のコーナーでは, 循環器向けハイエンド超音波診断装置のACUSON Origin,汎用機のフラッグシップ装置である「ACUSON Sequoia」,ケーブルレス超音波診断装置「ACUSON Freestyle」の3機種が展示された。
前回のITEMで発表されたACUSON Originは,AIの活用によって,心臓や循環器領域におけるさまざまな課題を解決する装置となっている。心機能評価に必要となるさまざまな計測を「AI Measure」によって自動化し,術者の反復動作を減らすことで検査時間の大幅な短縮が期待できる。また,「AI Assist」では,リアルタイムでの描出像の認識や,AIボタンを押すだけで検査対象・部位の切り替えなどが可能で,診断精度の向上と効率化が可能となる。さらに,今回のITEMでは,ACUSON Originで使用可能な心腔内エコーカテーテルの新製品「AcuNav Lumos 4D ICE」が紹介された。AcuNav Lumos 4D ICEは,昨年12月に発売され,現在,国内の数施設で評価が行われている。これまでに約100症例に使用されており,経食道プローブを代替しうる画質や診断精度が得られると評価されている。ブースでは,ACUSON OriginにてAcuNav Lumos 4D ICEでの画像を基にした4D画像が提示され,今後,経皮的左心耳閉鎖術などにおいて有用性が期待できることがアピールされた。AcuNav Lumos 4D ICEは局所麻酔下で検査でき,造影剤も不要なため,患者の負担軽減にも貢献する。
ACUSON Sequoiaは,主に腹部領域を対象としているが,ソフトウエアのバージョンが3.5になり,新たに循環器領域にも対応したことが紹介された。AI機能の搭載によって,トラックボールを操作することなく,画像をフリーズするだけでAIが部位を判断し,計測が自動で行われる。シーメンス本社が有する20億の画像データベースを基に,術者のワークフローの改善にAIを活用しているのが特長で,検査に要する時間が大幅に短縮されるため,働き方改革や,術者および患者の負担軽減に寄与する。また,検査スループットの向上や術者依存性の低減などにも寄与するため,経営面でのメリットも大きい。
ACUSON Freestyleは,ケーブルレスプローブの採用によって,超音波ガイド下インターベンションやPoint of Careなどにおいて患者にアクセスしやすい装置となっている。通信方式にUltra Wide Band(UWB)が採用されており,ケーブルレスでありながら有線の装置と同等の高画質が得られる。プローブは滅菌カバーで完全に覆えるほか,プローブのみで画面上のアイコンの選択などができるため,穿刺手技などの際に清潔を保ちやすいことも大きな特長である。また,本体部分はカートを使用することなく手術室の天吊りのディスプレイなどに設置できるほか,画像を天吊りのディスプレイに表示することも可能なため,清潔領域を維持しつつ,設置の自由度が高いことも高く評価されている。

循環器向けハイエンド超音波診断装置のACUSON Originと
心腔内エコーカテーテル「AcuNav Lumos 4D ICE」
(装置右側壁面に展示)

AcuNav Lumos 4D ICEの先端は手元操作で角度を変更可能

汎用機のフラッグシップ装置「ACUSON Sequoia」

AIが臓器の17の断面を自動認識するほか12の計測項目を自動計測

ケーブルレス超音波診断装置「ACUSON Freestyle」
●マンモグラフィ:振り角50°の広角トモシンセシスを高速に撮影し,高画質を提供する「MAMMOMAT B.brilliant」
MAMMOMAT B.brilliantは,業界最大(同社調べ)の振り角50°(±25°)の広角トモシンセシスを短時間で効率的に撮影できる装置として,昨年のITEMで発表され,今回の展示でも大きな関心を集めた。トモシンセシスの撮影に当たっては,通常,振り角が大きいほど撮影時間が延長する。これに対し,MAMMOMAT B.brilliantでは,同社CT装置に搭載されている独自技術と新開発の検出器によって,高画質を維持しながら,トモシンセシスの撮影時間を同社従来装置の1/5となる5秒にまで短縮した。
また,同社マンモグラフィの特徴である,患者の不安や痛みを軽減する機構などは,MAMMOMAT B.brilliantにも継承されている。検査時の痛みを軽減するためのソフト圧迫板や,乳房や手に圧迫板が触れると圧迫スピードを自動で緩めるSoft-Speed機構,乳房に合わせて最適な圧迫圧になったところで圧迫が自動で停止するOp-comp機構などは,MAMMOMAT B.brilliantでも採用。乳房を乗せる台が薄いのも特徴で,自立困難な被検者も車椅子に座ったまま検査することができる。さらに,従来はオプションであったムードライトが標準搭載されているため,患者の好みの色に変更し,リラックスした環境で検査を受けることができる。そのほか,装置に搭載されたディスプレイは診療放射線技師の目の高さにあるため,患者の名前や乳房の圧迫状況などを確認しやすいという利点がある。

トモシンセシスを標準搭載した「MAMMOMAT B.brilliant」

振り角50°の広角トモシンセシスを5秒で撮影可能
●お問い合わせ先
社名:シーメンスヘルスケア株式会社
住所:東京都品川区大崎1-11-1ゲートシティ大崎ウエストタワー
TEL:03-3493-7500
URL:https://www.siemens-healthineers.com/jp