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「地域包括ケアのための未来型テクノロジー研究会(FTIC)」が発足し,「第1回研究会兼創立記念シンポジウム」を開催

2018-11-29

会場風景

会場風景

地域包括ケアを推進するための未来型テクノロジーの研究者および関係者らの学術交流を通じて,わが国の学術・医療・福祉の発展に寄与することをめざし,2018年11月27日(火),「地域包括ケアのための未来型テクノロジー研究会〔Future Technologies for Integrated Care Research Network(FTIC)〕」が発足した。理事長には成城学校理事長の関口令安氏,副理事長には東京医科大学教授の増山 茂氏と日本福祉大学教授の田島誠一氏が就任。また,同日には,TKP東京駅日本橋カンファレンスセンター(東京都中央区)において,「第1回研究会兼創立記念シンポジウム」が開催され,医療・介護・福祉の研究者および施設関係者,企業,行政の担当者ら,約130名が参加した。

増山 茂 氏(FTIC副理事長/東京医科大学)

増山 茂 氏
(FTIC副理事長/東京医科大学)

田島誠一 氏(FTIC副理事長/日本福祉大学)

田島誠一 氏
(FTIC副理事長/日本福祉大学)

 

 

地域医療・介護現場でのロボットおよびICTの活用については,経済産業省(経産省)と厚生労働省(厚労省)が2012年に策定した「ロボット技術の介護利用における重点分野(2016年改定)」において,移乗介助,移動支援,排泄支援,見守り・コミュニケーション,入浴支援の5分野・8項目が挙げられていたが,2017年の改定で新たに1分野(介護業務支援)・5項目が追加され,6分野・13項目へと拡張した。また,厚労省による2018年度の介護報酬改定では介護ロボットが加算要件に追加されるなど,社会実装が進められている。

研究面でも,高齢者に対するコミュニケーションロボットをはじめとするICT/AIテクノロジーの導入に関して,有用性を示す報告が多数見られるようになっており,地域医療・介護分野への未来型テクノロジーの導入は大きな潮流と言える。

一方,情報処理系・ロボット系の研究領域と老年医学系・地域医療介護・精神医学系の研究領域との交流や,地域医療・介護現場スタッフと開発側との交流は必ずしも十分とは言えず,ヒト・場所・技術のミスマッチは大きな課題の一つである。

こうした状況の中,FTICは,「高齢者の生活の質の向上」に寄与する新しいツールや,「地域医療介護の最前線を支える関係者」の負担軽減に寄与する未来志向の仕組みを望む実践家や研究者と,自らの研究や事業を現実社会で役立つものにしたいと考えるICT/ロボット研究者・起業家らの学術的交流の場を確保するための,産・学・官・民の協同によるresearch networkとして設立された。第1回研究会兼創立記念シンポジウムでも,これら幅広い領域の専門家が,それぞれの取り組みについて講演した。

本会は,FTIC理事/東京聖新会理事の尾林和子氏と,東京聖新会向台地域包括支援センター副センター長/地域連携室室長の近藤崇之氏が司会を務め,2部構成で行われた。「第一部 創立記念シンポジウム」は,尾林氏の開会宣言で幕を開け,座長の増山氏のもと,4演題が設けられた。
厚労省老健局高齢者支援課介護ロボット開発・普及推進室室長補佐の立花敦子氏は,「介護ロボットの開発と普及のための取り組み」と題して講演した。介護分野における課題として深刻な介護人材不足を挙げ,その解決策の一つと期待される介護ロボットの使用場面や効果などについて概説。ロボット開発の加速や普及,および活用を促進するための,厚労省によるさまざまな事業を紹介した。
産業技術総合研究所ロボットイノベーション研究センターディペンダブルシステム研究チーム長の中坊嘉宏氏は,「介護領域で必要とされるロボットに求められるもの」と題して講演した。経産省と日本医療研究開発機構(AMED)からの委託で行われ,2017年度に終了した「ロボット介護機器開発・導入促進事業」と,2018年度行われている後継事業「ロボット介護機器開発・標準化事業」の内容や成果などについて報告。ロボット介護機器開発を支援する情報源として,「介護ロボットポータルサイト」(http://robotcare.jp/ )や「ロボット介護機器開発ガイドブック」(無償配布)を紹介。また,ロボットの利点と限界を被介護者,介護者,施設経営者,開発者といった関係者すべてが理解し,実際に導入した場合に介護がどう変化するかという具体的なイメージを共有することの重要性などについて述べた。
獨協医科大学基本医学情報教育部教授/情報基盤センター長の坂田信裕氏は,「コミュニケーションロボットの存在がもたらすもの」と題して講演した。コミュニケーションロボットは「人と人をつなぐ存在」であると定義した上で,それを実感するきっかけとなった鹿児島県肝付町における「暮らしのロボット共創プロジェクト」を紹介。ロボットだからこそ高齢者にもたらすことができる「心理的安全性」について考察した。また,近年,ロボットの存在感を生かした活用に関する研究が重視されていることや,高齢者支援におけるロボット活用のキーパーソンである中間ユーザー(介護スタッフや家族)の人材育成の重要性などについて見解を述べた。
田島氏は,「新研究会発足の意義」と題して講演。福祉機器の開発者と実際の利用者のニーズとのミスマッチについて具体例を挙げて述べ,その解消をめざすのが本研究会発足の意義であると述べた。その上で,福祉・介護から見たロボット・コミュニケーションテクノロジーに求めるものとして,ケアの質の向上と労働環境の改善を挙げ,より短時間・より快適なプロセスでサービスを提供するといった意味での「効率化」を実現するために力を尽くしていきたいと述べた。
講演に続き,座長の増山氏の司会のもと,演者の中坊氏,坂田氏,田島氏と会場参加者によるパネルディスカッションが行われ,東京都福祉保健局高齢社会対策部計画課長の坂田早苗氏が,同会への期待を述べた。

司会:尾林和子 氏(FTIC理事/東京聖新会)

司会:尾林和子 氏
(FTIC理事/東京聖新会)

司会:近藤崇之 氏(東京聖新会)

司会:近藤崇之 氏
(東京聖新会)

 
     
中坊嘉宏 氏(産業技術総合研究所)

中坊嘉宏 氏
(産業技術総合研究所)

坂田信裕 氏(獨協医科大学)

坂田信裕 氏
(獨協医科大学)

 

 

シンポジウムに続いて,研究報告が行われた。座長は,東京新宿メディカルセンター院長補佐の溝尾 朗氏と日本社会事業大学教授の鶴岡浩樹氏が務め,5名の演者が講演した。
テクノエイド協会企画部参与の加藤智幸氏は,「介護ロボット実用化支援事業の実施状況」と題して,同協会の概要を紹介した上で,厚労省からの複数の委託事業の概要を紹介した(http://www.techno-aids.or.jp/ )。
千葉大学大学院看護学研究科教授の諏訪さゆり氏は,「在宅ケアロボットをどのように受け入れていくのか ―日本での調査から見えてきたこと」と題して講演。高齢者,家族介護者,在宅ケアスタッフを対象に2016年度に行われた,在宅介護ロボットの使用の意思や使用経験,開発および社会実装に関する倫理意識などを調査する「在宅介護ロボットの機能の明確化と実現可能性の検討に関する調査」の結果について紹介。在宅ケアロボットが受け入れられるための開発者・ユーザーの課題を考察した。
東京大学大学院新領域創成科学研究科人間環境学の二瓶美里氏は,「Relationship Technology:事例に見る 人を支援するロボットの可能性と課題」と題して講演した。高齢者に対するコミュニケーションロボットの長期介入実験の結果などを示し,ロボットが施設入居高齢者や介護労働者に及ぼす影響や,調査・研究を行う上での課題などを述べた。
アイルランド国立大学ダブリン校准教授の小舘尚文氏は,「欧州の高齢者医療・介護と制度・政策・文化〜いまなぜ医療社会科学が必要なのか」と題して講演。欧州における人口動態および社会風土の違いによる医療・介護・福祉政策の違いなどについて紹介し,さまざまな共通改題を乗り越える解決策の一つであるテクノロジーについて考察した。
最後に,尾林氏が,「介護現場に取り入れたテクノロジー機器の効果と課題」と題して講演。東京聖新会が取り組んだ,介護ロボットやICT/AIに関するさまざまなプロジェクトについて紹介し,各プロジェクトを通じて得られた効果などの調査結果を示した上で,こうした調査結果を公開することの重要性を強調した。

なお,本研究会は,2019年4月に第2回目の開催を予定しており,今後は年2回のペースで行っていく予定であることがアナウンスされた。

座長:溝尾 朗 氏(東京新宿メディカルセンター)

座長:溝尾 朗 氏
(東京新宿メディカルセンター)

座長:鶴岡浩樹 氏(日本社会事業大学)

座長:鶴岡浩樹 氏
(日本社会事業大学)

 
     
加藤智幸 氏(テクノエイド協会)

加藤智幸 氏
(テクノエイド協会)

諏訪さゆり 氏(千葉大学)

諏訪さゆり 氏
(千葉大学)

二瓶美里 氏(東京大学)

二瓶美里 氏
(東京大学)

     
小舘尚文 氏(アイルランド国立大学ダブリン校)

小舘尚文 氏
(アイルランド国立大学ダブリン校)

   

 

●問い合わせ先
地域包括ケアのための未来型テクノロジー研究会(FTIC)事務局
(一般社団法人ユニバーサルアクセシビリティ評価機構事務局内)
info@uaeo.or.jp

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