2022-1-5
一般演題,技術講演,特別講演などで
構成された第5回超高精細CT研究会
2021年12月18日(土),第5回超高精細CT研究会がWeb形式で開催された。この研究会は,キヤノンメディカルシステムズ(株)の超高精細CT「Aquilion Precision」の検査技術や臨床的有用性を共有し,今後の診療に生かす場として,2017年12月に第1回が開催された。2017年4月に発売されたAquilion Precisionは,その後導入台数も伸び,診療の場で多くのメリットを享受している施設が増えている。開会に当たって挨拶した代表幹事の石原敏裕氏(国立がん研究センター中央病院)は,新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえてWeb開催にしたと説明した上で,今回の研究会を通じて超高精細CTのさらなる発展を願うと述べた。なお,司会は,長澤宏文氏(国立がん研究センター中央病院)が務めた。プログラムは,一般演題,技術講演,特別講演が組まれた。また,アミン(株)と(株)根本杏林堂,キヤノンメディカルシステムズによる企業最新情報提供の時間が設けられた。
一般演題では,中屋良宏氏(東洋公衆衛生学院)と松本良太氏(藤田医科大学病院)が座長を務め,5名が発表した。最初に,早坂 駿氏(札幌医科大学附属病院)が,「超高精細CTのlarge focusにおける面内空間分解能の比較」をテーマに,超高精細CTのL0〜L3の焦点サイズにおける面内空間分解能について,円形エッジ法で算出,比較検討した結果を報告した。早坂氏は,焦点サイズが小さいほど面内空間分解能が高くなるが,大きな差は見られなかったと述べた。次いで,若月佑介氏(国立がん研究センター中央病院)が,「超高精細CTの低線量肺がん検診CTへの応用」をテーマに発表した。若月氏は,超高精細CTについて従来のMDCTと比べ病変の描出能が優れているとし,同等の画質を維持して撮影し被ばく低減を図ったファントム実験の結果を説明。1024×1024マトリックスで画像再構成を行うことによりパーシャルボリューム効果を減少させ,さらに軟部用のMBIRの適応でノイズ低減を図り,140kVpで撮影してストリークアーチファクトを抑えることで,MDCTと同等の画質を維持して74%の線量低減が可能だったと報告した。3番目の発表は「肺腺腫」をテーマに,当初登壇予定だった芳賀美祐氏に代わり村松 駿氏(いずれも大原綜合病院)が,同院における肺腺腫の撮影プロトコールについて解説した。村松氏は,縦隔病変の診断の多くは腫瘍性病変であり,CTによる画像診断が基本であると述べ,縦隔区分や縦隔部位,好発病変を解説。肺腺腫の特徴や病期分類などを説明した。その上で,肺腺腫の撮影プロトコールを取り上げ,症例画像を提示。術前の3D-CTAでは,肺腺腫に関与する動静脈の描出が重要だと述べた。次に,「超高精細CTの弱点を克服〜冠動脈CTの被ばくを減らせるか〜」と題して,鷲塚冬記氏(東邦大学医療センター大森病院)が発表した。鷲塚氏は,同院における超高精細CTによる冠動脈CTの撮影プロトコールを説明し,低管電圧撮影により被ばく低減を図った経験を報告。PCI後のステント内腔や石灰化評価で,30%程度の被ばく低減が可能であったと述べた。そして,ディープラーニング画像再構成技術により,さらなる被ばく低減,適応の拡大が図れると説明した。一般演題の最後は,谷内美香氏(札幌医科大学附属病院)が,「腎動静脈奇形に対するTAE術前計画に高精細CTが有用であった1例」をテーマに発表した。谷内氏は,右腎の動静脈奇形疑いにより経カテーテル的動脈塞栓術(TAE)目的で紹介された患者に対する超高精細CTの撮影プロトコールを解説。前医でのMDCTの画像と比較し,超高精細CTにより視認性が良くなり,また面内分解能が向上したことで,微細な血管を描出でき,TAEの術前計画に有用であったと報告した。
また,技術講演「超高精細CTの戦略的活用法」では,宮下宗治氏(耳鼻咽喉科麻生病院)と近藤雅敏氏(九州大学病院)が座長を務め,市中病院,特定機能病院,地域医療支援病院における超高精細CTの活用について3名が講演した。まず,村松氏が,「これで納得!胸部領域で高精細CTを使いたくなるワケ!」をテーマに登壇した。同院では3台のCTが稼働しているが,2021年1〜11月の胸部CTの93%をAquilion Precisionで撮影しており,そのうち64%が単純CTとなっている。村松氏は胸部CTの撮影プロトコールを紹介し,左右寝台移動距離を生かしガントリの中心で撮影することで空間分解能が向上し,ハーフ再構成の影響も低減できていると述べた。さらに,村松氏は,COPDの定量評価について,“AiCE lung”と“AiCE Body”との比較結果を示したほか,胸腔鏡下手術(VATS)支援のための肺動静脈分離造影における“AiCE Body Sharp”の有用性を解説した。続いて,「がんセンターにおけるUHRCTの撮像パラメータの考え方」と題して,瓜倉厚志氏(静岡県立静岡がんセンター)が講演した。瓜倉氏は,線量を最適化するために診断タスクから許容されるノイズレベル(画質)を考え,それを基に線量を決めるという考え方を説明した。そして,実質臓器と血管での画質設定について,頭頸部や胸部,肺動静脈における焦点サイズなどの撮影プロトコールを解説。症例画像を交え,対象臓器の位置を考慮した焦点の設定について詳述した。次に,富田博信氏(埼玉県済生会川口総合病院)が「超高精細CTにおける体幹部撮影プロトコル作成のエビデンスと臨床応用〜他機種比較物理データからの特性把握〜」をテーマに,超高精細CTの基礎特性や有用性を報告した。同院では,2019年にAquilion Precisionを導入し,すべての領域の撮影を行っている。富田氏は,AiCEの物理評価や撮影線量の検討結果などを説明し,体幹部領域の症例画像を供覧。その上で,同院では上腹部の撮影やCTアンギオグラフィにおいて超高精細CTが必須となっており,3D画像の作成も簡素化されて時間短縮を図れているとまとめた。
プログラムの最後に組まれた特別講演では,千葉 恒氏(長崎大学)が,「超高解像度CTによる骨微細構造の評価:HR-pQCTおよびAquilion Precisionを用いて」と題し,高解像度QCT(HR-pQCT)による骨粗鬆症や関節リウマチの評価,Aquilion Precisionによる骨微細構造解析などについて述べた。千葉氏は,骨密度測定装置を用いた骨粗鬆症のDXA検査を取り上げ,骨折リスクを検出できていないとの課題を指摘。末梢骨の構造を評価できるHR-pQCTの使用経験を紹介し,骨密度,海綿骨と皮質骨の微細構造を解析できると述べた。さらに,HR-pQCTによる関節リウマチの評価については,微細構造を定量的に評価できるが撮影部位が四肢の末梢骨に限られること,撮影速度が遅い,保険収載されていないといった課題を挙げた。これらの課題を踏まえ千葉氏は,Aquilion Precisionによる摘出骨を用いた基礎研究,骨微細構造のin vivo評価の検証試験,骨粗鬆症患者の骨微細構造劣化の横断研究,骨粗鬆症治療による骨微細構造変化の横断研究といった同大学の取り組みを紹介した。
2022年には発売から5周年を迎えるAquilion Precisionであるが,これからも進化を続ける超高精細CTから今後どのような知見が得られるのか,大いに期待される。
●問い合わせ先
超高精細CT研究会
http://u-hrctkennkyuukai.kenkyuukai.jp/