セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

第84回日本医学放射線学会総会が2025年4月10日(木)〜13日(日)の4日間,パシフィコ横浜(神奈川県横浜市)で開催された。13日に行われたキヤノンメディカルシステムズ(株)共催のランチョンセミナー28では,北海道大学大学院医学研究院画像診断学教室の工藤與亮氏が座長を務め,東北大学大学院医学系研究科放射線診断学の青木英和氏と横浜市立大学大学院医学研究科放射線診断学教室の加藤真吾氏が,「Abiertoが画像診断の新たな世界を開く〜読影支援ソリューションとワークステーションの初期使用経験〜」をテーマに講演した。

2025年8月号

第84回日本医学放射線学会総会ランチョンセミナー28 Abiertoが画像診断の新たな世界を開く ~読影支援ソリューションとワークステーションの初期使用経験~

講演1:経時差分を用いたフォローアップCTでの骨転移評価

青木 英和(東北大学大学院医学系研究科放射線診断学)

キヤノンメディカルシステムズの「Abierto Reading Support Solution(Abierto RSS)」は,ディープラーニング技術を用いて開発されたアプリケーションなどを搭載した読影支援ソリューションである。CTやMRIなどの画像データを画像解析サーバ「Automation Platform」に送信すると,その後は人の手を介することなく適切なアプリケーションが自動で起動し,解析が行われる。解析結果は専用ビューワである「Findings Workflow」で参照することができる。Abierto RSSにはさまざまなアプリケーションが搭載されているが,本講演では骨経時差分処理「Temporal Subtraction For Bone(TSB)」の使用経験を中心に報告する。

TSBの概要と当院での運用

TSBでは,今回画像と過去画像を差分して比較を行うが,その際,体幹部や四肢,肩甲骨などの骨を個別に識別して,線形および非線形の位置合わせ処理を行う。この時,骨の内外を考慮した差分処理が行われ,ノイズやアーチファクトが除去される。また,骨ランドマーク情報を活用して椎体と肋骨の位置を特定し,画像上に骨番号を表示できる。結果参照画面には,過去画像,今回画像,差分画像,Fusion画像,3D画像が表示され,Fusion画像と3D画像には,CT値が上昇した部分(硬化性変化)は青色,低下した部分(溶骨性変化)は赤色でカラーマッピングされる。最終的には骨の性状変化を強調して表示し,変化した部分がわかりやすくなっている。
当院では,2023年にTSBの本格運用を開始し,これまでに二度バージョンアップを行っている。以前はFindings Workflowを立ち上げないと解析結果を参照できなかったが,現在はWidget上で手軽に参照できるほか,今回画像と過去画像の装置ベンダーが異なっていても解析が可能となった※1。また,他社製の読影レポーティングシステムやPACSなどとも連携してスムーズな結果参照が可能となっている。さらに,追加の機能として,以前は造影CTにおいて骨以外の心血管や腎臓などでもCT値の高い領域がカラーマッピングされていたが,現在はそれらが除去されて骨のみが表示されるため,骨の変化がよりわかりやすくなった。

TSBを用いた症例提示

症例1は,80歳代,男性,前立腺がん加療中の症例である。7か月前の画像と比較し,今回画像では胸骨の転移が治療によって硬化していることが明瞭であり,TSBの差分画像やFusion画像,3D画像でもわかりやすく描出されている(図1)。

図1 症例1:80歳代,男性,前立腺がん加療中,骨転移

図1 症例1:80歳代,男性,前立腺がん加療中,骨転移

 

症例2は,80歳代,女性,食道がんおよび早期胃がん術後の症例である。骨条件のアキシャル画像を参照後,サジタル画像にて椎体の変化を確認したところ,胸椎12番に淡い硬化性変化を認めたが,4か月前には描出されておらず,新しい所見であった。TSBの差分画像やFusion画像,3D画像でも,淡い硬化性変化が鋭敏に描出された(図2)。さらに,3D画像では,アキシャル画像およびサジタル画像で指摘できなかった肋骨の淡い硬化性変化が青く描出されており(図2),外傷等による骨折を疑う所見であった。

図2 症例2:80歳代,女性,食道がんおよび早期胃がん術後,骨折疑い

図2 症例2:80歳代,女性,食道がんおよび早期胃がん術後,骨折疑い

 

症例3は,70歳代,男性,前立腺がん,びまん性骨転移の症例である。既存の骨病変がびまん性に広がっている場合,一見して前回画像からの変化を肉眼で指摘することは困難であるが,TSBでは右の腸骨のCT値の上昇が明瞭に描出されていた(図3)。さらに,仙骨などの淡いCT値の上昇も,Fusion画像や差分画像,3D画像で明瞭に描出されており(図3),このような病変では肉眼よりもTSBを用いた方が変化を明確に指摘できる。

図3 症例3:70歳代,男性,前立腺がん,びまん性骨転移

図3 症例3:70歳代,男性,前立腺がん,びまん性骨転移

 

症例4は,50歳代,男性,肺がん,多発骨転移の症例である。多発骨転移(図4)では,硬化が軽減している部分()と増強している部分()が混在している例を時に経験する。そのような場合も,TSBの3D画像(図4 右)で俯瞰的に参照することで,どの部位にどのような変化が起きているかを把握しやすくなる。

図4 症例4:50歳代,男性,肺がん,多発骨転移

図4 症例4:50歳代,男性,肺がん,多発骨転移

 

注意を要する部位・所見

TSBの使用に当たって,注意を要する部位や所見がいくつかある。まず,椎体辺縁や関節などの変性を来しやすい部位や手術部周囲は,短期間で変化を来すことがある。それに伴いCT値が上昇すれば,病的な変化でなくてもTSBが描出してしまうため,それを理解しておく必要がある。また,動きが大きい症例では骨の経時差分が正確に行われず,ミスレジストレーションが生じることがある。大動脈辺縁の石灰化や腸管内の造影剤,骨の周囲にある病変を骨と誤認してカラーマッピングされることもあるため,これらを病変と誤認しないよう注意を要する。

TSBの結果参照のポイント

TSBの結果を参照するに当たり,以前は青や赤で表示された箇所を1つ1つ順番に確認し,その後に最終的な読影および診断の確定を行っていたが,その方法だとTSBを使用しない場合よりもかえって時間がかかる。そこで,現在は,一次読影後にTSBの結果画像を参照し,自身が読影した結果と照らし合わせた上で診断の確定を行っている。これにより,読影の効率化を図りつつ病変の見落としを防止することができる。
症例5は,80歳代,男性,腹部大動脈瘤(AAA)のステントグラフト内挿術(EVAR)後の症例である。担がん患者ではなく,骨病変も疑われていない症例では,日常臨床において骨を詳細に確認することは難しいが,本症例では一次読影後にTSBを参照したところ,大腿骨転子部に骨折を認めた(図5)。わずか5秒の確認で見落としを防げるため,TSBを参照する価値は高いと考える。

図5 症例5:80歳代,男性,AAAのEVAR後,大腿骨骨折

図5 症例5:80歳代,男性,AAAのEVAR後,大腿骨骨折

 

まとめ

新規骨病変は肉眼でもTSBを使っても検出可能であるが,肉眼では見落としていた病変もTSBを併用することで拾い上げることができる。また,既存骨病変においては,びまん性の変化や多発病変など,肉眼での評価が難しい症例でも評価可能なため,TSBの有用性は高い。TSBのピットフォールを理解した上で,読影の最後にTSBの結果を参照するという運用方法が,効率的かつ確実な診断につながると考える。

※1 医師の承諾のもと,他ベンダー同士の解析を設定可能にする。

*記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
*システムによる検出結果のみで病変のスクリーニングや確定診断を行うことは目的としておりません。
*AIは設計段階で用いられており,自己学習機能はありません。

一般的名称:汎用画像診断装置ワークステーション用プログラム
販売名:汎用画像診断ワークステーション用プログラムAbierto SCAI-1AP
認証番号:302ABBZX00004000

 

青木 英和(東北大学大学院医学系研究科放射線診断学)

青木 英和(Aoki Hidekazu)
2006年 東北大学医学部卒業。2014年 同大学大学院医学系研究科修了。仙台医療センター,宮城県立こども病院,国立成育医療研究センターなどを経て,2023年〜東北大学大学院医学系研究科放射線診断学助教。

 

 

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