Deep Learningで引き出す頭部領域における高精細CTの実力
五明 美穂(杏林大学医学部放射線医学教室)
2024-11-25
本講演では,高精細CTと新たな画像再構成技術であるDeep Learning Reconstruction(DLR)の概要を説明し,DLRを用いた高精細CTの頭部領域における臨床応用について紹介する。
■高精細CTとDLR
高精細CTは,検出器サイズおよび体軸方向の最小スライス厚が0.25mmとなり,従来CTと比べて面内および体軸方向共に分解能が飛躍的に向上した。再構成マトリクスも従来の512に加え1024,2048を選択でき,より高精細な画像を取得できるようになった。また,マトリクスサイズが大きいほどピクセルサイズは小さくなるため,パーシャルボリューム効果の影響を受けないピクセルが多くなり,CTAでは血管のCT値も上昇する。頭部領域の血管描出においてはDSAがゴールドスタンダードであるが,高精細CTでは高分解能撮影とマトリクスの増加により皮質枝などの細動脈もDSAと遜色のない描出が得られるようになった。
加えてDLRを適用することで,ノイズ除去効果や分解能がさらに向上する。ファントムを用いて各再構成アルゴリズムを比較した検討では,DLRが最も鮮明度が高く,ノイズレベルが低かった。高いノイズ低減効果は,ノイズの多い頭部CTAでの画質向上に特に寄与する。さらに,DLRは従来法よりもはるかに短い再構成時間(全脳で約2分)で処理することができ,ワークフローを大きく改善する。
■頭部領域における臨床応用
1.穿通枝動脈,小型動脈瘤
穿通枝動脈は脳の重要な箇所を灌流する細い動脈で,脳外科手術では原則的に絶対温存が求められる。図1は前交通動脈瘤の症例である。前大脳動脈から起始するHeubner動脈(図1 ↓)は直径約0.8mmほどの穿通枝動脈であるが,DLRを用いた高精細CT(a)では,3D-DSA(b)と同様に描出できていることがわかる。また,DSAの左内頸動脈造影では描出されていない右前大脳動脈の小型動脈瘤(図1 a↑)も,高精細CTでは1回の撮影で明瞭に描出可能である。
2.脳動脈解離
図2は右後下小脳動脈解離の症例で,拡散強調画像(a)にて右小脳深部に急性期梗塞が認められた。DSA(図2 b)では右後下小脳動脈の起始部に動脈瘤を認めた。高精細CT(図2 c)では,後下小脳動脈末梢まで明瞭に描出でき,動脈瘤に加え解離範囲(鋸歯状不整)の詳細評価が可能であった(→)。
3.もやもや病
もやもや病は,内頸動脈終末部の慢性進行性の狭窄により周囲に側副血行路(もやもや血管)が発達する疾患である。近年,もやもや病に特異的な異常血管構築として注目されている脳室周囲吻合は,髄質動脈が脈絡叢動脈と吻合するchoroid plexus typeと,髄質動脈が穿通枝動脈と吻合するperforator typeの2タイプに分類される。髄質動脈は通常,皮質側から脳室側へ流れるが,もやもや病では皮質動脈の血流が不良となるため,脈絡叢動脈や穿通枝から髄質動脈を介する,通常とは逆の血流によって皮質枝領域が灌流される。もやもや病の出血原因となる脳室周囲吻合は,特にchoroid plexus typeで出血リスクが高く,バイパス術では髄質動脈が到達する皮質部位をターゲットとすることで,予後改善効果があることが報告されている。
図3は脳室内出血の症例で,4D-CTAでは出血源を同定できなかったが,高精細CTの元画像(a)で左側脳室体部に突出する小さな動脈瘤が明瞭に描出された。また,VR画像(図3 b)では後大脳動脈から分枝する細い外側後脈絡叢動脈の末端に動脈瘤(←)が確認され,MIP画像(c)では動脈瘤から連続する複数の髄質動脈(↓)の描出が認められた。外側後脈絡叢動脈末梢の動脈瘤はまれであるが,もやもや病では脳室内出血の原因として重要である。高精細CTでは,外側後脈絡叢動脈やその末梢のperiventricular small aneurysm,および動脈瘤から連続する髄質動脈などの血管構造も明瞭に描出することができる。
4.脳腫瘍術前評価
DLRを用いた高精細CTは,ノイズ低減により動脈のセグメンテーションが容易となり,脳腫瘍などの術前支援画像で威力を発揮する。図4は蝶形骨縁髄膜腫の症例で,腫瘍(*)の栄養血管は右中大脳の分枝血管(↑)と外頸動脈から分岐する中硬膜動脈(→),深側頭動脈(←)である。高精細CT(図4 a)は,1回の撮影で3D-DSA(b)での右内頸動脈造影,右外頸動脈造影による腫瘍の栄養血管を3D-DSA同様に明瞭に描出でき,かつセグメンテーションにより視覚的に評価しやすい術前支援画像を提供することが可能となる。
5.術後評価
DLRを用いた高精細CTはバイパス術後やコイル塞栓術後,ステント治療後の評価にも有用である。DLRを用いることでステントのストラットや内腔のより正確な評価が可能となり,バイパス術後症例では血管のセグメンテーションによりバイパスを色分けし視覚的に評価しやすい画像を提供することができる。高精細CTでも再構成法によってステントの描出能は大きく異なる。高コントラスト強調のDLRは,脳血管用DLRよりもステントのストラットをより鮮明に描出できる。
図5は内頸動脈ステント内狭窄の症例で,cone beam CT(CBCT:a)ではアーチファクトにより内腔評価は困難であるが,DLR併用の高精細CT(b)では狭窄部内腔に石灰化(↑)があることがわかる。さらに,高コントラスト強調のDLR(図5 c)を用いることで,ステントストラットと内腔の境界や石灰化をより鮮鋭に描出できる。
■まとめ
高精細CTは空間分解能の飛躍的な向上により,皮質枝や細動脈,穿通枝動脈の良好な描出が可能である。さらに,全脳をわずか2分で再構成可能なDLRを用いることで,従来法よりもはるかに優れたノイズ除去と高画質な画像の取得が可能である。また,DLRによるノイズ低減により動脈のセグメンテーションが容易となったことで,さまざまな症例で視覚的に評価しやすいVR画像の提供が可能となった。DLRにより,高精細CTの実力をさらに引き出すことが期待される。
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*本記事中のAI技術については設計の段階で用いたものであり,本システムが自己学習することはありません。
一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion Precision TSX-304A
認証番号:228ACBZX00019000
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