腹部画像診断における高精細画像の臨床知見 
永山 泰教(熊本大学大学院生命科学研究部放射線診断学講座)

2024-11-25


永山 泰教(熊本大学大学院生命科学研究部放射線診断学講座)

CT画像においてノイズと解像度はトレードオフの関係にあり,検査内容や関心領域に応じて適切なバランスを取る必要がある。例えば,肝腫瘍の症例で解像度を優先した場合,肝実質とのコントラストが乏しい病変はノイズの増加により視認性が劣化し,診断能が損なわれてしまう。そのため,腹部CTでの実質臓器の評価においては,ノイズ低減が重視され,解像度はある程度犠牲にせざるを得なかった。
このようなトレードオフの問題を解消する新たな画像再構成法が,キヤノンメディカルシステムズの高精細CT「Aquilion Precision」の画像を教師として学習させたSuper Resolution Deep Learning Reconstruction(SR-DLR)の「Precise IQ Engine(PIQE)」である。本講演では,腹部画像診断におけるSR-DLRの初期使用経験と有用性を報告する。

■SR-DLRの腹部領域での活用

PIQEにおいては,腹部領域を対象とした「PIQE Body」が新たに製品リリースされた。PIQE Bodyはヘリカルスキャンに対応し,マトリクスサイズは512に加えて1024を選択することもできる。当大学では現在,共同研究の一環としてPIQE Bodyと同等のSR-DLRを適用の上評価しているため,本稿ではPIQE BodyをSR-DLRと呼称する。
図1は,肝腫瘍症例の0.5mmスライス厚の画像における画像再構成法による画質の違いを示している。FBP(図1 a)と比較し,ハイブリッドIRの「Adaptive Iterative Dose Reduction 3D(AIDR 3D)」(b)やmodel-based IRの「Forward projected model-based Iterative Reconstruction SoluTion(FIRST)」(c)では,画質や病変の視認性は改善しているものの,ノイズがやや目立つほか,AIDR 3Dは解像度が若干劣化した印象で,FIRSTはノイズのテクスチャが乱れている。DLRである「Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)」(図1 d)ではノイズが大幅に低減され,粒状性にも優れており,低コントラスト領域においても良好な視認性が保持されている。さらに,512マトリクスのSR-DLR 512(図1 e)は,AiCEよりもノイズ低減効果が高く,微細な構造物もより明瞭である。また,1024マトリクスのSR-DLR 1024(図1 f)では解像度がさらに向上することに加え,ノイズ特性や低コントラスト領域の視認性はAiCEと同等に保たれているように見える。

図1 画像再構成法による画質の違い(肝腫瘍,0.5mmスライス)

図1 画像再構成法による画質の違い(肝腫瘍,0.5mmスライス)

 

■SR-DLR 1024に関する初期検討

上記を踏まえ,最も良好な画質が期待できるSR-DLR 1024について,当院にて膵がんにおける初期検討を行った。膵がんは早期発見が予後改善にきわめて重要であるが,微小な膵がんは膵実質とのコントラストが乏しい傾向があり,検出が困難である。また,進行すると容易に膵外に浸潤するため,膵周囲の脈管や臓器との詳細な関係把握が必要である。したがって,膵がんの評価には良好なノイズ特性,低コントラスト検出能,解像度を兼ね備えた画質が求められる。このような画像診断上のニーズを満たすには,SR-DLRが有用ではないかと考えた。
対象は,病理にて膵がんと診断された31症例で,造影後の膵実質相と門脈相の解析を行った。平均CTDIvolは5.3mGyと,比較的低線量での検討である。画像再構成法はAIDR 3D,AiCE(共に512マトリクス),SR-DLR 1024を用い,0.5mmスライス厚で再構成を行った。
各画像の複数箇所にROIを設定し,脊柱起立筋におけるCT値のSDで画像ノイズを定量した。また,腫瘍−膵実質コントラスト / 画像ノイズによってCNRを算出した。その結果,SR-DLR 1024は膵実質相,門脈相共に統計学的有意差をもって最も画像ノイズが少なく,CNRが高かった。
次に,各画像の膵実質や膵臓周囲の動脈および門脈などの構造物の辺縁に垂直なラインを引き,それらのラインから描出されるプロファイルカーブの傾きの大きさを鮮鋭度として定量化した。その結果,SR-DLR 1024のカーブの傾きが最も大きく,鮮鋭度の高さが示された。
ノイズ特性を評価するためにnoise power spectrum(NPS)解析を行った。各画像の肝実質にROIを複数設定しNPSカーブを描出したところ,AIDR 3Dでは特に低周波ノイズ成分が増加し,視覚的にも粒状性の粗さが目立った。AiCEでは低周波ノイズ成分がかなり抑制されていたが,SR-DLR 1024では抑制効果がさらに大きく,優れた空間分解能とノイズ特性を兼ね備えることが示唆された。

■症例提示

症例1は,83歳,女性,膵頭部がん症例で,閉塞性黄疸のため胆管ステントが留置されている。低吸収を示す膵がん(図2)は,AIDR 3D(a)やAiCE(b)でも診断可能であるが,SR-DLR 1024(c)にて最も鮮明に描出されおり,また,腫瘍近傍を走行する膵管()や,膵臓周囲の脈管や胆囊壁など,あらゆる構造物が明瞭となっている。膵周囲の動脈のMIP画像(図3)でも,SR-DLR 1024(c)にて明らかに描出能が向上しており,3D解析を行えば高精細な手術支援ツールとしても役立つと思われる。
さらに,肝転移の視認性も良好であり,SR-DLR 1024を用いることで,正確度が高く,包括的な膵がんの画像診断が可能になると期待される。
SR-DLR 1024は,腎機能障害がある患者の低管電圧撮影にも有用である。症例2は,60歳,男性,肝硬変・肝血管腫の症例である。通常の肝ダイナミックプロトコール(120kV,造影剤110mL,AiCE適用)の画像(図4 a)に対し,SR-DLR 1024を適用した低管電圧撮影(80kV)の画像(b)では,造影剤量を約4割低減(69mL)しているにもかかわらずヨードのコントラストは向上しており,ノイズも低いレベルで保たれている。血管腫による淡い遅延性造影効果もより明瞭である(図4)。また,肝表部分に着目すると,肝硬変に伴う結節状の不整像がSR-DLR 1024にてより明瞭に描出され,肝線維化の重症度評価にも有用と考えられた。
SR-DLR 1024では,小児の微小な構造も鮮明に描出されるため,急性腹症や腫瘍性病変,先天性奇形などのさまざまな疾患において有用性があると考える。症例3は,先天性胆道閉鎖症にて生体肝移植後の女児である。9歳時に撮影されたCTDIvol:4.2mGy,AIDR 3D,5mmスライス厚の画像(図5 a)に対し,12歳時に撮影されたCTDIvol:2.6mGy,SR-DLR 1024,0.5mmスライス厚の画像(b)は,被ばく線量が約4割低減され,スライス厚は1/10であるにもかかわらず,低ノイズが維持され,面内および体軸方向の解像度向上を生かした詳細な評価が可能であった。

図2 症例1:膵頭部がん(83歳,女性) BMI 20.8kg/m2,CTDIvol 4.1mGy

図2 症例1:膵頭部がん(83歳,女性)
BMI 20.8kg/m2,CTDIvol 4.1mGy

 

図3 症例1:膵周囲の動脈のMIP画像

図3 症例1:膵周囲の動脈のMIP画像

 

図4 症例2:肝硬変・肝血管腫(60歳,男性)

図4 症例2:肝硬変・肝血管腫(60歳,男性)

 

図5 症例3:先天性胆道閉鎖症にて生体肝移植後の女児

図5 症例3:先天性胆道閉鎖症にて生体肝移植後の女児

 

■まとめ

SR-DLRを用いることで,ルーチンのCTでも高解像度画像を常時取得できることは,非常に大きなアドバンテージであると言える。さらに,優れたノイズ特性と低コントラスト検出能を併せ持つため,あらゆる腹部疾患で付加価値がもたらされるほか,被ばく低減や造影剤減量など,安全面でも寄与することが期待される。

*記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見が含まれます。
*本記事中のAI技術については設計の段階で用いたものであり,本システムが自己学習することはありません。

 

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