Canon CZT-based PCD-CTの画質特徴と臨床的ポテンシャル 
粟井 和夫(広島大学大学院医系科学研究科放射線診断学研究室)

2024-11-25


粟井 和夫(広島大学大学院医系科学研究科放射線診断学研究室)

広島大学は,2023年11月にキヤノンメディカルシステムズのフォトンカウンティング検出器搭載型X線CT (photon counting detector CT:PCD-CT)の早期実用化に向けた共同研究契約を締結し,2024年4月から臨床研究を開始した。本講演では,PCD-CTの概略や,従来CT(energy integrated detector CT:EID-CT)と比較したPCD-CTの画質特性と被ばく,spectral imagingについて,初期使用経験を踏まえて報告する。

■PCD-CTの概略

従来CTの検出器(EID)では,入射X線をシンチレータで可視光に変換してからフォトダイオードで電気信号に変換するのに対し,PCDでは検出器にX線が入射すると電子-正孔対が発生し,そこに電圧をかけて電子の電荷雲をpixel electrodeの方に強制的に掃引することで電気信号が発生する。EID-CTでは0.35s程度の時間分解能でデータを収集するが,PCD-CTでは毎秒数億回程度のきわめて短い時間でデータ収集を行うため,1つ1つのフォトンのエネルギーを計測することが可能となる。これにより,PCD-CTでは入射X線を複数のエネルギー帯(ビン)に分離して収集することができる。
当院に設置されたPCD-CTの検出器素材には,X線検出効率に優れたテルル化亜鉛カドミウム(CdZnTe:CZT)が採用されている。CZTはテルル化カドミウム(CdTe)に亜鉛を加えることで結晶化の品質が改善され,半導体内のポラリゼーションの低減と印加電圧の増加が可能となり,電子の電荷雲をpixel electrodeに掃引することがより容易となる。さらに,CZTは熱雑音が生じにくく,温度変化に対して頑健性がある。一方で,CZTはコンプトン散乱が少ないがk-escapeやcross talkが多いため,それらを補正する処理も行われている。これらの特徴により,CZT検出器では,被ばく低減やspectral解析の精度向上が期待される。

■PCD-CTの画質特性と被ばく

1.空間分解能
EID-CTでは,XY平面の空間分解能は一般的に0.25〜0.625mm程度である。一方,PCD-CTでは,検出器のピクセルサイズがEID-CTの約1/9とかなり小さいため,EID-CTよりも空間分解能の改善が期待できる。実際に,EID-CT(512マトリクス,スライス厚0.5mm)とPCD-CTの高分解能モード(SHRモード,1024マトリクス,スライス厚0.2mm)のtask-based MTFを比較したところ,PCD-CTの方が空間周波数の低い領域から高い領域まで全体的にMTFが高かった。
図1は膝関節の画像であるが,PCD-CTの通常の画像(NRモード,512マトリクス,スライス厚1.2mm:a)と比較して,SHRモード(b)では骨梁構造がきわめて明瞭に描出されており,空間分解能が高いことが確認できる。図2は肺の冠状断像の一部を拡大しているが,SHRモード(b)では微細な胸膜下の血管まで明瞭に描出されている。

図1 膝関節におけるPCD-CTのNRモードとSHRモードの空間分解能の比較

図1 膝関節におけるPCD-CTのNRモードとSHRモードの空間分解能の比較

 

図2 肺におけるPCD-CTのNRモードとSHRモードの空間分解能の比較

図2 肺におけるPCD-CTのNRモードとSHRモードの空間分解能の比較

 

2.コントラスト分解能
1)低エネルギー領域での反応性の違い1)
EID-CTでは,100keV以下のエネルギーのフォトンに対しては,フォトンのエネルギーと検出器のレスポンスはほぼ正比例する。そのため,軟部組織のコントラストを決定する30〜70keVでは検出器の応答性が相対的に低く,特にヨードのK-edgeである33.2keV付近は検出器の応答性は高くない。一方,PCD-CTでは,100keV以下のエネルギーのフォトンに対して検出器の応答性は一定かつ相対的に高く,軟部組織やヨードのコントラストは,PCD-CTの方がEID-CTよりも優れていると考えられる。
2)ノイズ特性
同等の撮影条件下におけるPCD-CTとEID-CTのノイズ特性を比較したところ,task-based MTFの曲線はほぼ一致しており,空間分解能は同等であった。一方,NPSはPCD-CTの方が大幅に低く,ノイズ特性に優れていた。つまり,同一撮影条件では,PCD-CTの方がノイズが少ないと言える。
3)エネルギービンごとの重み付け
Danielssonらは,水とヨード水溶液をPCD-CTで分離する検討において,PCD-CTのエネルギービンを2として,低エネルギーのX線から生じる信号に重み付け(x)を行い,コントラスト,SNR,CNRを算出したところ,低エネルギービン側のフォトンの重みxを0.76とすると,CNRは最大1.17となると報告している2)。すなわち,重み付けを工夫することで,ヨードのCNRが1.2倍程度に改善する可能性がある。

3.被ばく
PCD-CTにて線量低減が可能になる理由として,(1) PCDは直接変換方式であり,X線を直接電気信号に変換できる,(2) PCDは検出器素子間の隔壁がないため,幾何学的線量効率が良い,(3) application specific integrated circuit(ASIC)においてエネルギービンの最低閾値を適切に設定することで,電気的ノイズを選択的に除去可能,という3つが挙げられる。
図3はPCD-CTによる肺の画像であるが,線量を1/10に低減しても,遜色なく診断可能な画質が得られている(b)。
図4は,以前にAquilion Precisionで撮影した症例(a)と,今回PCD-CTで撮影した症例(b)の,腹部骨盤の画像である。いずれもBMI:30以上と肥満傾向があり,Aquilion Precisionでは子宮などでノイズがかなり目立つが,PCD-CTではノイズが非常に少なく,子宮や骨,膀胱などのコントラストも良好である。このように,PCD-CTは,相対的に線量が不足する患者に対しても威力を発揮すると思われる。
PCD-CTにおける被ばく低減については,これまでに他社装置での検討において,EID-CTと比べて冠動脈CTAでは20〜30%,肺動脈CTAでは20〜60%,大動脈CTAでは20%程度の線量低減が可能であると報告されている。当大学での検討では,腹部においても30%程度の線量低減が可能になると期待している。

図3 PCD-CTによる肺の低線量CT

図3 PCD-CTによる肺の低線量CT

 

図4 相対的に線量が不足する患者の腹部CTにおけるPCD-CTの画質

図4 相対的に線量が不足する患者の腹部CTにおけるPCD-CTの画質

 

■PCD-CTによるspectral imaging

dual energy CTでは,low kVとhigh kVのデータを用いてmaterial decompositionを行いspectral解析に用いるが,low kVとhigh kVのX線スペクトラムにはオーバーラップがある。一方,PCD-CTでは,検出器側でX線を複数のエネルギービンに分けて収集するため,
理論的にはオーバーラップすることはない。また,複数のエネルギービンを用いることで頑健性のある冗長なデータが得られるため,それを用いることでより正確なデータを取得できる可能性がある。実際には,被写体通過後のX線のスペクトラムは,cross talkやpulse pile upなどの要因によって誤差が生じるが,より精度の高いmaterial decompositionを行うための検討が行われている。
当院にて,ファントムを用いmaterial decompositionでのヨードの測定精度について初期検討を行ったところ,EID-CTではヨード濃度の低い領域でCT値が回帰直線からずれていくのに対し,PCD-CTではヨード濃度がかなり低い領域でも直線性が保たれていた。PCD-CTでは,material decompositionにおけるヨードの測定精度がdual energy CTよりもかなり高くなることが期待される。

■まとめ

現時点において,PCD-CTの最大空間分解能は,EID-CTの通常モードの2〜2.5倍,ヨードのコントラストは10〜20%増加,被ばく線量は20〜90%低減できる可能性がある。また,PCD-CTでは,dual energy CTよりも精度の高いmaterial decompositionが可能であり,spectral解析の定性および定量解析の正確さが向上することが期待される。

*記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見が含まれます。

●参考文献
1)Flohr, T., et al., Phys. Med., 79 : 126-136, 2020.
2)Danielsson, M., et al., Phys. Med. Biol., 66(3) : 03TR01, 2021.

 

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