FileMakerによるユーザーメード医療ITシステムの取り組み

ITvision No.54

医療機能管理室スーパーバイザー大澤芳春 氏 総務課課長 吉川 潤 氏

Case57 新札幌ひばりが丘病院 中小病院での医療DXの方向性を見据え,人事・総務の業務システムをローコードのFileMakerで内製開発

左から吉川氏と大澤氏

左から吉川氏と大澤氏

社会医療法人貞仁会新札幌ひばりが丘病院(髙橋大賀理事長)は,緩和ケアなど入院医療から訪問診療,介護サービスまで地域に根ざした医療サービスを提供している。同院では,有資格者の資格免許証の管理や休職,退職など人事情報の管理,IDの発行やロッカー・駐車場の割り振り,その他の総務業務を支援する「人事システム」をローコード開発プラットフォームClaris FileMakerで開発・運用している。2025年度から本格稼働する「電子カルテ情報共有サービス」への対応など,今後,病院情報のクラウド化が必須となる動向を見据え,院内でのIT活用やDX対応への職員の意識変革や環境熟成も考慮して開発を進めた経緯を,医療機能管理室スーパーバイザーの大澤 芳春氏と総務課課長の吉川 潤氏にインタビューした。

緩和ケア,訪問診療から看多機まで幅広いサービスを提供

同院は,緩和ケア(35床),地域包括ケア(60床),医療療養(48床)の3つの病棟での入院医療のほか,訪問診療,訪問看護,訪問リハビリといった在宅支援を行い,また2024年には看護小規模多機能型居宅介護施設(看多機)の「新札幌ひばりが丘」を開設するなど,医療から介護まで地域のニーズに応えたサービスを提供している。診療科は内科,整形外科のほか漢方外来や循環器内科など専門的な医療を提供する体制も整えている。吉川氏は,「この地域ではいち早く緩和ケア病棟を開設した病院でもあります。慢性期や回復期だけでなく,専門医療から訪問診療や介護まで,地域住民の医療や介護・福祉のニーズに幅広く応える診療を提供しているのが当院の特徴です」と述べる。

病院の人事管理,総務業務をFileMakerでシステム化

同院では,2025年2月,FileMakerで開発した「人事システム」の運用を開始した。大澤氏は開発の理由について,「病院は有資格者を含めて多職種が在籍し,民間企業に比べて職員の流動性が高いのが特徴です。しかし病院の人事管理を扱うシステムは少なく,当院でも市販の給与計算システムから職員のデータを抽出して表計算ソフトや紙を使って手作業で管理するといった,DX実現にはほど遠い状況でした」と説明する。同院には,関連施設を合わせて医師10名,看護師100名など非常勤職員を含めて約250名が在籍する。入退職のほか,産休や育休など休職者も多く,職員の在籍状況をはじめとした最新データを把握するのが困難になっていた。大澤氏は,「給与計算システムでは,所属が2階層までしか扱えず資格や職員区分といった付帯情報が管理できない,給与計算は支給日時点のデータのため当月1日に在籍していたかどうかはわからないなど,人事や総務の情報管理には不十分でした。また,給与情報を扱っているため特定の職員しかシステムを利用できず,データの参照に制限があることが課題でした」と述べる。さらに,行政やその他の指導や監査の際には,医療従事者の有資格の証明や在職の確認のため,履歴書や資格免許証やその他の提出が求められることがある。大澤氏は,「資格免許証やその他のコピーは,紙でファイル管理されていたものの,最新の状態になっているか,求められた時に漏れなく提出できるかは確実性に欠けていました」と説明する。
人事システムの開発にFileMakerを採用した理由について大澤氏は,「これまで私自身がFileMakerで開発した経験があること,資格免許証やその他の書類を画像(PDF)として取り込んでもシステムが重くならないこと,現場の運用に合わせた細かい設定変更も可能だと判断したことからFileMakerを採用しました。また,いずれは業務に携わるスタッフが柔軟に対応できるように,ローコード開発が可能な点も考慮しました」と説明する。

■Claris FileMakerプラットフォームで構築した「人事システム」

人事管理システムメニュー画面

人事管理システムメニュー画面

 

人事管理システム職員検索画面

人事管理システム職員検索画面

 

総務名簿管理システムメニュー画面

総務名簿管理システムメニュー画面

 

資格免許証や退職・休職の情報を一元管理して業務を支援

人事システムは,「人事管理」「採用管理」「総務名簿管理」の3つから構成されている。人事管理システムを基幹として,2つのシステムが連携する形で運用されている。大澤氏は,「人事管理は給与計算システムの情報を基に職員の付帯情報を一元管理する基幹システムです。これに職員採用の一連の業務を管理する採用管理と,総務課の業務全般についてサポート・効率化する総務名簿管理を連携することで,採用,人事,総務までを一貫して管理するシステムとなっています」と説明する。

〈人事管理〉
人事管理システムは,給与計算システムと連携して,氏名,給与,保険,住所情報などを毎月取り込む。そのデータを基に,資格免許証の一覧確認,休職者,退職予定者,定年予定者の管理,残業分析,職種別給与分析などの機能を提供する。
資格免許証の一覧確認では,資格免許証のコピー(PDF)の表示のほか氏名変更や資格有効期限の確認が行える。資格免許証は,一人ひとり個別に表示することも可能だ。職員それぞれの職歴の情報も管理されており,ある時点での部門ごとの職員動向を検索して一覧として提示でき,監査の際の資料となる。「資格免許証だけでなく履歴書などの書類,職歴やその他を統合的に管理でき,人事管理業務から監査まで最新のデータで即座に対応できます」(大澤氏)。また,産休や育休やその他の休職者の復帰予定の管理や,退職者管理も行っている。同院は60歳定年だが,それ以降65歳までは嘱託,65歳以上はパートとして契約している。定年管理では60歳以降の本人の希望や予定,契約更新の状況を管理している。

〈採用管理〉
近年,人手不足が慢性化しており,病院にとって職員の採用は重要な業務だ。採用管理システムは,応募から面接,採用・不採用まで採用に関する一連の業務の情報を管理する。大澤氏は,「単に採用管理だけでなく,在職者の退職や休職と密接に関係してくるので,人事と総務名簿管理の職員の基本情報と連携して動いています」と説明する。

〈総務名簿管理〉
総務名簿管理システムでは,入職・退職・休職復帰・異動などの基本情報の確認のほか,内線番号の管理,勤怠や電子カルテ入力用のIDカード,ロッカーや駐車場の管理など,総務課の業務に必要な情報を扱う。それまでは表計算ソフトを使って手作業で管理していたロッカーの管理を,FileMakerで自動更新できるようにした。大澤氏は,「今までは人事情報が総務課の職員まですぐに共有されず,異動に伴う業務が適切に進められていませんでした。FileMakerの導入によってデータが適切に自動処理されることで情報の共有,効率化が進みました。また,管理者にとっても全体状況をリアルタイムで把握できることもメリットです」と言う。

医療情報のクラウド化などDXに対応できる環境づくり

人事システムの開発は2023年からスタート。ここまでの構築は大澤氏が担当した。大澤氏は,民間企業や医療機関の総務課などを経て,同院の事務部長を務め,現在は定年に伴い嘱託としてシステムに関するスーパーバイザーを務めている。大澤氏は,この人事システムの開発について,「今回,FileMakerでの内製開発に取り組んだのは,今後の医療DXへの対応も考えて,少しでも院内にシステムの活用や開発につながる土壌を構築しておく必要があると考えたためです」と説明する。
同院では,電子カルテシステムに(株)アイレックスの「MICS-EX」を導入し,医事システム(日医標準レセプトソフト:ORCA)と連動して運用している。現在,厚生労働省の推進する医療DXの一環として進められている標準型電子カルテは,クラウドの利用が推奨されている。大澤氏は,「当院でも電子カルテシステムのリプレースを控えていますが,院内にサーバを持たないクラウドネイティブ型ではサーバの管理やセキュリティ対応などを外部委任でき,われわれのような中小規模の医療機関にとってメリットは大きいです。一方で,クラウドでシステムが最小単位になれば,それぞれの病院で必要なデータや帳票を準備することも求められるでしょう。そのためにも,院内のIT化やDXへの取り組みを進めておくことが重要になると考えています」と説明する。

ローコード開発のシステムが院内の医療DXを推進

病院内のデジタル化への対応として,同院では院内PHSのリプレースにiPhoneの導入を進めており,ナースコールとの連携も検討している。FileMakerのシステムのこれからについて吉川氏は,「人事システムの稼働をきっかけにして,職員にもデジタルデータを共有して活用するという下地ができました。FileMakerでの内製開発についても勉強して,少しずつでも機能をアップさせていきたいですね」と語る。大澤氏は,「ベースとなる環境は構築できたので,ここから職員がITを業務に取り込む感覚を身につけてほしいと願っています」と内製開発への意気込みを述べた。
ローコード開発ツール導入による内製開発が,今後の中小病院における病院経営効率化の礎になることを期待したい。

 

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