技術解説(フィリップス・ジャパン)
2025年3月号
Cardiac Imaging 2025
Precision Medicineを支える2層検出器スペクトラルCTの最新動向
樋口 江[(株)フィリップス・ジャパン プレシジョン ダイアグノシス事業部CT/AMI クリニカルサイエンティスト]
本邦では,高齢化に伴う心不全の新規発症数が2030年には35万人を超えると予測され,「心不全パンデミック」のキーワードを耳にする頻度もここ1年で増加した。このことは,循環器領域を取り巻く画像診断装置の検査統計からも読み取ることができ,2018年には診断目的の侵襲的なカテーテル件数を冠動脈CT件数が上回り,上昇傾向はその後も継続している。加えて,CT検査の非侵襲性,高速性,汎用性の観点からも,術前シミュレーションや術後フォローアップ,また,冠動脈のみならず大血管や弁など,一度の検査でカバーする領域も多岐にわたっており,CT検査は形態画像と同時に「機能画像」的な役割も求められる時代となってきた。
本稿では,フィリップス社製2層検出器スペクトラルCT(Dual-layer CT:DLCT)である「IQon Spectral CT」および「Spectral CT 7500」の特長とワークフローを解説し,昨今の最新動向についても紹介を行いたい。
■スペクトラルCTの機械的特長と運用ワークフロー
スペクトラルCTである両機種は,(本稿執筆時点2025年1月)世界で675を超える施設へ出荷され,「全例において後ろ向きでのスペクトラル解析が可能」という特長を生かし,2400万件超の検査が施行され,得られた知見は医学・科学雑誌へ750編以上の論文として掲載され,年を追うごとに広がりを見せている(図1)。
スペクトラルCTでは,仮想単色X線画像,ヨード密度強調画像や実効原子番号画像に代表される画像を,独立したシリーズとして,DICOM形式での画像再構成や転送先としてプロトコールに紐づけ管理,運用を行える。加えて,フィリップス社製スキャナではSpectral Based Image(SBI)データも同時に生成可能な点がユニークである。SBIには光電効果やコンプトン散乱といった物理的な基礎データが集約されており,同データ1つあれば,複数種類のスペクトラル画像をリアルタイムに演算,表示が可能となる。 SBIは,2倍程度のデータ量ですべてのスペクトラル画像を包括的に保持可能で,再構成に要する時間も1〜2分ほどと高速である。SBIは,フィリップス社製ワークステーションで直接画像処理を実施するだけでなく,PACS連携やプラグイン連携を行うことで,読影医や院内の診療科医師に対してスペクトラル画像のメリットを届けることも容易である(図2)。
Spectral CT 7500では,「NanoPanel Prism」の第2世代に当たる検出器の搭載で,優れた高速撮影性(秒間400mm超のスキャン速度)とスペクトラルデータの定量性を両立し,診断能の向上,先進的でシンプルな操作体験,医療コストの削減といった新たな付加価値を提供可能とする。撮影範囲700mm程度の体幹部検査(図3)においても2秒未満で検査を完了し,同時に種々のスペクトラル解析が可能であり,図4に提示する心電図同期スキャンにおいても,従来のCTよりも優れた局所診断が期待される。

図1 スペクトラルCTの導入施設数,検査実績,出版された科学論文の総数

図2 スペクトラルCTのデータハンドリング:画像閲覧と画像解析のワークフロー

図3 Spectral CT 7500による大血管イメージング
100kVpを使用したスペクトラルスキャンにより心電図同期を行わず,同範囲で2秒未満の高速スキャンを実施し,ヨード造影剤量も60%低減されている。

図4 Spectral CT 7500による心筋イメージング
左冠動脈前下行枝の完全閉塞に一致する心筋支配領域(↓)の低灌流/灌流障害をヨード密度強調画像,実効原子番号画像で描出している。
■循環器領域におけるスペクトラル解析の最新臨床応用
Igiら1)は,CAD-RADSスコア3以上の52例を対象に,負荷心筋血流シンチグラフィやカテーテル検査を確定診断とした場合,従来CTでは17%が一致した診断であったが,スペクトラルCTでは51%であり,診断の信頼性を向上させる可能性を報告している。Gertzら2)は,急性肺塞栓症(acute pulmonary embolism:APE)と慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thrombo-embolic pulmonary hypertension:CTEPH)の鑑別を目的とし,APE 57例,CTEPH 52例,コントロール22例について,肺動脈や気管支動脈の直径などの形態学的パラメータに,ヨード定量に基づく肺灌流のパラメータを加えることで診断能が向上するとしている。
細胞外容積分画(extracellular volume:ECV)に関する解析についても,心筋症以外での有用性が検討されている。Mochizukiら3)は,急性心筋梗塞患者におけるバイアビリティ診断において,目的とする心筋を内膜側と外膜側に2分割し,それぞれにECV解析を行うことで,心筋の深さ方向のバイアビリティ評価の可能性を提示している。Nishigakeら4)は,心電図同期レトロスペクティブヘリカルスキャンで施行された心疾患を有する55例を対象に,心周期がECVに与える影響や再現性を詳細に検討し,拡張中期における中隔領域のECVは収縮末期に比べ有意に高く,右心室を含むほかの部位のECVは,心室基部の前壁と後壁を除き有意差はないことを明らかにした。加えて,右心系における収縮末期のECV解析の画質と再現性は拡張中期よりも優れており,特に治療反応およびモニタリング評価のために中隔のECV測定を繰り返す場合は同じ心周期で行うべきとし,右心系のECV測定は,高い再現性から収縮末期に取得することが望ましいとしている。
Rodriguez-Granilloら5)は,血行動態が安定している初回急性心筋梗塞15例を対象に,カテーテル検査を基準とした非造影電子密度強調画像の診断能を検討し,感度73%,特異度87%と報告している。
◎
本稿では,フィリップス社製2層検出器スペクトラルCTの特長と最新の動向について解説した。スペクトラルCT検査は市場において広がりを見せる一方で,令和6年度診療報酬改定においても64列によるCT検査で診療報酬が頭打ちしている現状や,新型コロナウイルス感染症に関連する支援金・給付金が終了したことも相まって,財政面から導入を躊躇する意見も少なくない。しかし,スペクトラルイメージングがもたらす造影剤の節約や低侵襲性の獲得,患者ケアの向上,施設の信頼向上,検査時間の短縮や診断精度の向上,スタッフ満足度への寄与など,「新たな付加価値」を病院経営のメリットとして全体最適化の観点からとらえていただくことで,よりいっそうの装置導入が検討されることを期待している。
販売名:IQon スペクトラル CT
医療機器認証番号:228ABBZX00033000
設置管理医療機器/特定保守管理医療機器/管理医療機器
販売名:スペクトラル CT 7500
医療機器認証番号:303AFBZX00042000
設置管理医療機器/特定保守管理医療機器/管理医療機器
●参考文献
1)Igi, M., Miller, J., Sayers, K., et al. : Computed Tomography Coronary Angiography on a Detector-Based Spectral Computed Tomography Platform : Evaluation of Patients With Coronary Artery Disease Reporting and Data System Score of 3 and Higher. J. Comput. Assist. Tomogr., 47(3): 390-395, 2023.
2)Gertz, R.J., Gerhardt, F., Pienn, M., et al. : Dual-layer dual-energy CT-derived pulmonary perfusion for the differentiation of acute pulmonary embolism and chronic thromboembolic pulmonary hypertension. Eur. Radiol., 34(5): 2944-2956, 2024.
3)Mochizuki, J., Matsumi, H., Hata, Y. : Assessment of Myocardial Viability in Chronic Myocardial Infarction Using the Dual-Energy Computed Tomography Myocardial Extracellular Volume Fractionation Technique : A Case Report. Radiol. Case Rep., 19(3): 1157-1161, 2024.
4)Nishigake, D., Yamasaki, Y., Hida, T., et al. :
Influence of cardiac cycle on myocardial extracellular volume fraction measurements with dual-layer computed tomography. Quant. Imaging Med. Surg., 14(7): 4714-4722, 2024.
5)Rodriguez-Granillo, G.A., Cirio, J., Vila, J.F., et al. : Noncontrast Myocardial Characterization in Acute Myocardial Infarction Using Electron Density Imaging. J. Thorac. Imaging, 39(3): 173-177, 2024.
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