2015-5-28
肺がんは全てのがんで罹患率,死亡率が最も高いがんであるが,がんの成長が速く,転移しやすい小細胞肺がん(注1)はそのうちの約15%を占める。特に,体の他の部分までがんが広がっている段階の進展型小細胞肺がんは,極めて悪性度が高く,いまだに有効な治療法が確立されていない。このため,進展型小細胞肺がんに有効な治療法の開発が求められている。
東京大学医学部附属病院の百瀬敏光准教授,藤原健太郎特任助教,同大学先端科学技術研究センターの浜窪隆雄教授,児玉龍彦特任教授らの研究グループは,放射性同位元素で標識した「がん細胞にのみ結合する抗体」を開発し,本抗体を,小細胞肺がんを移植したマウスに投与したところ,がん細胞を殺傷し,腫瘤を著明に縮小させる効果があることが明らかにした。
本抗体は,小細胞肺がんの細胞で高く発現している膜タンパク質ROBO1(注2)を認識する抗体(抗ROBO1 抗体)を治療用の放射性同位元素であるイットリウム-90(90Y)で標識することにより作製した(90Y 標識抗ROBO1 抗体)。同抗体を投与して,がんに集積させることにより,小細胞肺がんを移植したマウスの体内から放射線治療をする「放射免疫療法(注3)」。
本研究成果は,将来的には進展型小細胞肺がんの根治または余命の改善に貢献することが期待される。
本研究は,総合科学技術会議により制度設計された最先端研究開発支援プログラムにより,日本学術振興会を通して助成されたものである。
●発表者
百瀬敏光 (東京大学医学部附属病院 放射線科/東京大学大学院 医学系研究科核医学分野 准教授)
藤原健太郎(東京大学医学部附属病院 放射線科 特任助教/東京大学大学院 医学系研究科核医学分野 博士課程学生(当時))
浜窪隆雄 (東京大学先端科学技術研究センター 計量生物医学 教授)
児玉龍彦 (東京大学先端科学技術研究センター システム生物医学 特任教授)
●発表雑誌:
雑誌名:PLOS ONE
論文タイトル:90Y-labeled anti-ROBO1 monoclonal antibody exhibits antitumor activity against small cell lung cancer xenografts.
著者:Kentaro Fujiwara, Keitaro Koyama, Kosuke Suga, Masako Ikemura, Yasutaka Saito, Akihiro Hino, Hiroko Iwanari, Osamu Kusano-Arai, Kenichi Mitsui, Hiroyuki Kasahara, Masashi Fukayama, Tatsuhiko Kodama, Takao Hamakubo, Toshimitsu Momose*
アブストラクトURL: http://dx.plos.org/10.1371/journal.pone.0125468
(注1) 小細胞肺がん
小細胞肺がんは成長が速く,転移しやすい,悪性度の高いがん。進行度は限局型と進展型の2つに分けられ,がんが胸部内に留まっている段階を限局型,体の他の部分まで拡がっている段階を進展型と呼ぶ。化学治療と放射線治療が有効であり,限局型小細胞肺がんではこの両方が適用できるため,根治を得られる可能性がある。一方,進展型小細胞肺がんは放射線を照射できる範囲を越えてがんが転移してしまっているため,放射線治療が適用できない。このため,現時点では,化学治療のみが行われており,根治が困難な肺がんとして知られている。
(注2) ROBO1
ショウジョウバエの軸索誘導に関連する遺伝子として同定された膜タンパク質。がんの転移や浸潤,血管新生に関与していることが報告されている。
(注3) 放射免疫療法
生体が持つ免疫機能の一つ,抗体を使った抗体治療という治療法がある。分子標的治療,ミサイル療法とも呼ばれ,がん細胞にのみ結合する抗体を使えばがん細胞を集中的に攻撃できるため,従来の抗がん剤と比べて健康な細胞への副作用が抑えられるという利点がある。この抗体に放射性同位元素を標識し,放射線による治療効果を得ようというのが,放射免疫療法。現在,臨床現場では一部の血液腫瘍に対する放射免疫療法薬が認可されている。
●問い合わせ先
<研究内容に関する問い合わせ先>
東京大学医学部附属病院 放射線科
准教授 百瀬敏光(ももせ としみつ)
TEL 03-3815-5411(代表)内線:30553
E-mail:tmomo-tky@umin.ac.jp
<取材に関する問い合わせ先>
東京大学医学部附属病院 パブリック・リレーションセンター
担当:小岩井,渡部
TEL 03-5800 -9188(直通)
E-mail:pr@adm.h.u-tokyo.ac.jp