Centricity Universal Viewer × 京都大学医学部附属病院
膨大な医用画像の一元管理と高機能ビューワの導入により最先端の診療・研究・教育環境を構築─2Dと3D画像ビューワの統合による読影の効率化と1PBに及ぶ医用画像の無駄のないデータマネジメントを実現
2016-9-1
読影用端末として33台導入された
Centricity Universal Viewer
京都大学医学部附属病院では,2016年5月にPACSを更新。GEヘルスケア・ジャパンの「Centricity Universal Viewer」の最新バージョンの運用を開始した。Centricity Universal Viewerでは,2Dと3D画像を1つのビューワ上で表示でき,読影効率が大幅に向上。3D画像を活用した質の高い診断が行われ,研究・教育上のメリットも生まれている。また,医用画像の保管に関しては,PACS以外の他システムへの画像配信が可能なVendor Neutral Archive(VNA)の基盤を構築。汎用性・拡張性の高いシステム環境により,過去20年以上にわたり蓄積されてきた1PB(ペタバイト)に及ぶデータの一元管理を実現した。同院におけるCentricity Universal Viewer導入のねらいと運用開始後の評価について,放射線診断科と医療情報企画部を取材した。
最高レベルのモダリティとITインフラを整備
京都大学医学部附属病院は1899(明治32)年,京都帝国大学医科大学附属医院の名称で開院した。以来,120年近い歴史の中で,大学病院として最先端の高度医療を手がけ,iPS細胞研究に代表されるように研究機関としても国内外から高い評価を得ており,また,多くの優れた人材を輩出してきた。
同院で画像診断・インターベンションを担ってきた放射線診断科の特色と運営方針について,富樫かおり教授は次のように説明する。
「病院である以上,放射線診断科にとって最も重要なのは診療です。一方で,大学院医学研究科放射線医学講座としては,研究が使命でもあります。また,教育機関として学生を育て,次世代の若い放射線科医を養成することにも力を注いできました」
現在,放射線診断科には,放射線科医,大学院生がそれぞれ30名ほど在籍している。豊富な人材を擁するだけに,国内の大学病院の中でも有数の画像診断件数を誇っており,2014年度の実績ではCT検査が1日平均158件,年間4万220件,MRI検査が1日平均56件,年間1万3538件に上る。遠方からの紹介患者の検査も多く, 被検者に負担をかけないためにも検査当日の読影を基本としており,画像診断管理加算2の算定も行っている。
放射線診断科では,数多くの検査に対応するため,モダリティのラインナップも充実している。CTは5台稼働しており,そのうちの2台がarea detector CT。MRIは3T装置が4台,1.5T装置が1台の計5台体制となっている。加えて,核医学装置では,PET/CTを2台,SPECTを3台設置。さらに,一般撮影装置などのモダリティを多数導入しており,日々膨大な画像データが発生している。
これらのデータを日常の診療業務だけでなく,研究・教育にも有効に活用していくためには,PACSを中心とした医用画像のデータマネジメントが大事なポイントとなる。同院では,1980年代からPACSを導入し,その後,数回の更新を経て,2005年にはGEヘルスケア・ジャパンの「Centricity PACS」へと更新。2011年の更新を経て,2016年にはシステムの整備,拡充を図り,最新の「Centricity Universal Viewer」を導入した。
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Thin slice画像など20年以上のデータをPACSに保管
京都大学医学部附属病院は,PACSだけでなく,早くからIT化に取り組んできた。70年には中央情報処理部(現・医療情報企画部)が設置され,77年には医事会計システムが稼働。90年には医療情報システム「KING1(Kyoto university hospital INformation Galaxy version 1)」の運用を開始した。その後,バージョンアップを行いながら,2005年にはserver-based computing(SBC)と呼ばれる仮想化技術を一部導入したKING4を構築。2011年には全端末の仮想化を行った。
同院のIT化の企画立案から整備,運用までを担う医療情報企画部長の黒田知宏教授は,「私たちがめざしているのは,大学病院としての業務をスムーズに行うためのシステムです。そのために新しい技術を積極的に試し,時間をかけて検証を行ってから導入してきました」とシステムのコンセプトを説明する。さらに,同部副部長の岡本和也講師は,「円滑な業務遂行を支援することに加え,診療データを安全に管理することも重要です。そこで,当院では,院内ネットワークをインターネットから隔離しつつ,SBCにより端末から院内ネットワークにもインターネットにもシームレスにアクセスできる環境を構築しています」と続ける。
このように,同院では医療情報企画部が中心となり,データを守りつつユーザーの利便性を失わないシステムを開発してきた。放射線部門のシステムも長年にわたり,このコンセプトの下に構築,運用されている。同院におけるPACSの歴史は長く,米国でDICOM規格が策定された93年より以前の85年にPACS開発のプロジェクトが始動し,87年から試験運用を開始。88年から本格運用を開始した。その後,2005年にはCentricity PACSを導入。さらに,2011年,2016年に更新して3世代,10年以上にわたりCentricity PACSを運用し,GEヘルスケア・ジャパンとの信頼関係を築いてきた。
同院は20年以上PACSを運用してきたが,その特色について,放射線診断科の山本 憲助教は,「大学病院としての役割を果たすために医用画像を蓄積し続けており,システム更新のたびに,その膨大なデータを移行してきました」と述べている。通常,医療機関では,サーバの容量を考慮して,PACSにはthick slice画像だけを保管することが多いが,同院では診療だけでなく,研究や教育用途で後利用することも考慮し,thin slice画像を保管することとしている。実際に診療科からは過去の検査画像での3D画像の作成依頼があることもあり,データを長期間保管し続けることの意義は大きい。一方で,CTの多列化やMRIの高磁場化による1検査あたりの画像枚数は,多い場合で6000スライス,平均で1500スライスになるなど,日常診療の中で発生するデータ量が近年ますます増大している。このような状況の中,同院では,90年代の非DICOM画像から現在のthin slice画像まで放射線部門の検査で発生するデータをCentricity PACSで保管し続けている。そのデータ量は世界でもあまり例のない1PB(ペタバイト。1TBの1024倍)にも及んでいる。
そこで,2016年の更新では,過去20年以上のすべての画像データを高速アクセスが可能なキャシュストレージに保管し,同容量のデータをアーカイブストレージにバックアップ用として保管・運用をすることとした。同科の八上全弘特定助教は,「当院では,画像データの有効活用のために画像処理ワークステーションなど医用画像を扱う各種のシステムを導入していますが,過去からの膨大なデータをそれぞれのサーバで管理するのは,データ量や転送速度などを考慮しても非効率です。今回の更新では,医用画像を一元管理して,各システムがそのデータをスピーディに利用できるようなシステムにしたいと考えました」とコンセプトを説明する。
このような考えの下,同院では,ビューワに膨大なデータをスピーディ,かつ効率的に読影できるCentricity Universal Viewerを採用。放射線部門から発生する医用画像をPACSで統合管理すると同時に,他システムからもそのデータを利用可能とするVendor Neutral Archive(VNA)基盤を構築した。
また,このPACSにはストレージを管理するための新機能の“ILM(Image Lifecycle Management)”が搭載された。ILMは,PACSのストレージに保存されている過去検査画像の自動圧縮・削除ルールをユーザー自身が設定することができる機能である。ストレージの使用量や参照頻度などを考慮して,データサイズを設定して縮小したり,削除したりできるために,無駄のない効率的なデータマネジメントが可能となる。近年,モダリティの高度化に伴うデータ量の増大は医療機関にとって大きな問題となっている。同院にとっても,データの管理は重要なテーマとなっており,ILMを用いることで,長期間にわたり蓄積してきたデータを病院の資産として,効率的に管理・運用していくことにした。
2Dと3D画像のビューワの統合により読影を効率化
2016年5月に更新されたPACSが稼働し始め,放射線診断科では,読影業務をはじめ,研究・教育などにCentricity Universal Viewerを用いている。読影室やCT・MRIなどモダリティのコンソールに,読影用のビューワとしてCentricity Universal Viewerを33台,学生用に10台を設置。ビューワのモニタは,読影用2メガピクセル高精細カラーモニタ2面とレポート入力・画像参照用カラーモニタ2面の計4面構成としている。一方,診療科は,電子カルテシステム端末約2500台でCentricity Universal Viewerが利用できる。
新規導入されたCentricity Universal Viewerは,読影効率とワークフローの向上をコンセプトとして開発されたビューワ。MIPやMPRなどの3D画像再構成機能をネイティブアプリケーションとして搭載している。さらに,画像処理ワークステーションの「Advantage Workstation」の高度な3D画像再構成や解析などのアプリケーションを“Advanced Application”として搭載。画面上にCT・MRIの2D画像とVR画像などの3D再構成された画像を並列表示し,同じ操作環境で利用できる。
通常の読影では,放射線科医がレポートシステム画面から検査を選択すると,Centricity Universal Viewerが起動し画像を表示する。放射線科医は,読影する検査の内容によって,2D画像を表示させたり,MPRやslab MIPなど3D画像を作成・表示させたりする。特にCT・MRIは,thin sliceのボリュームデータであるため,ほとんどの症例で3D画像を作成する。GEヘルスケア・ジャパンのPACSは,以前から独自の画像圧縮技術“Progressive Wavelet”と“ダイレクトメモリアクセス”によって,画像の表示速度には定評があった。それが今回,ビューワにCentricity Universal Viewerを採用したことで,画像表示速度だけでなく,従来は他社製の画像処理ワークステーションで行っていた3D画像再構成もCentricity Universal Viewer上でできるようになり,操作時間が短縮された。そのメリットを山本助教は次のように説明する。
「放射線科医がビューワに求める性能は,何よりもまず画像表示や処理などのスピードです。Centricity PACSは従来も表示速度が速く,満足していました。それに加えて,Centricity Universal Viewerを導入したことで2Dと3D画像のビューワが統合され,以前のようにビューワと画像処理ワークステーションを両方操作するといった煩雑な作業がなくなりました。slab MIPやMPR画像のページングもスピーディに行え,統一した操作により,読影が大幅に効率化しました」と述べている。
ビューワの統合は,診断内容にも影響を与えている。山本助教は,胸部の画像診断において,以前はあまり作成していなかったslab MIP画像を日常的に用いるようになった。それにより,結節性病変の検出率が向上したという。また,頭部MRAでの動脈瘤や腹部・骨盤部の仮性動脈瘤の評価,骨軟部における硬化性病変の検出もslab MIP画像により容易となった。加えて,slab厚などの条件設定も速やかに行えるため,読影に集中しやすい。さらに,より高度な画像処理・解析を行う場合には,Advanced Applicationを使用することで,詳細な診断が1台のビューワ上で可能になった。
Centricity Universal Viewerのこのような高機能,容易な操作性は,教育の観点からも効果を生んでいる。山本助教は,「指導では学生用端末を使用していますが,一度操作方法を教えると,皆すぐに覚えて自分で3D画像を作成できるようになります。自分自身でMPRやMIP処理を行うことは,学生にとっても新しい体験であり,臓器などの立体的な構造を理解するのに役立っています」と評価している。
このほか,同大学には,海外からの医師・研究者・医学生の訪問を多数受け入れており,その中には以前からのCentricity Universal ViewerやCentricity PACSのユーザーも多くいる。世界ナンバーワンのシェアを有するCentricity PACSの使い慣れたビューワで,最先端の日本の放射線医学を学べることも,大きなメリットである。
■Centricity Universal Viewerで作成したslab MIP画像
1PBに及ぶデータをVNAとILMで管理
Centricity Universal Viewerの導入だけでなくPACSの更新も多くのメリットをもたらしている。京都大学医学部附属病院では,従来,画像処理ワークステーションやカンファレンスシステムなど個々のシステムのサーバに医用画像を保管していたが,今回の更新で1PBに及ぶ医用画像データをPACSのストレージで一元管理するようにした。これにより,用途に応じて複数のシステムや画像処理ワークステーションでPACSのデータを利用できるようになった。八上特定助教は,「前システムでは,PACSのデータを『ディストリビュータ』と呼んでいたシステムを使い,他システムのサーバに転送してきました。今回の更新でその仕組みを廃せるようストレージをPACSに集約したことで,より安定した運用となりました。さらに,他システム・ビューワでも,PACS にあるデータを使用できるオープンな環境を実現したことで,Centricity Universal Viewerだけではなく目的やニーズに合ったビューワでも,柔軟に活用できる環境が整えられたことが良かったです」と話す。八上特定助教も,自身で開発した,ビューワを含む医用画像研究用toolkitである「YAKAMI DICOM Tools」から利用できるように情報開示を受け,ユーザー視点でのVNA基盤が実現したことを評価している。
さらに,医療情報システムを管理・運用する立場から,黒田教授は次のように評価している。
「当院には多くのユーザーがおり,それぞれが多様な用途で医用画像を必要としています。今回のVNAの導入により,ユーザーは自分の目的に合ったビューワやシステムを選択することができるようになりました。これは臨床的にも有用です。また,ストレージの統合は,コスト面でのメリットにもつながるとともに,システム管理の効率化も図れました」
岡本講師も同様に,「標準的な形式,規格を用いたストレージでデータを統合管理することで,ベンダーに縛られることなく,将来的なシステム拡張・更新にもスムーズに対応できます」と,その利点を説明する。
また,今回の更新でPACSに搭載されたILMについても,期待が寄せられている。山本助教は,「診療科も含め,何年も前の検査データから3D画像を作成したいという要望があり,それに対応するためにもすべての検査のthin slice画像を保管しておく必要があります。しかし,ストレージの増設は,コストがかかります。そこで,ILMを用いて,アクセス頻度など利用状況に応じて画像を圧縮していくことにより,効率的な管理ができると思います」と話す。この言葉を受けて八上特定助教も,「PACSのデータが膨大化していく中で,その管理が課題でしたが,ストレージの容量を意識することなく,診療や研究に取り組むことができます」と評価する。
一方,医療情報を管理する立場から,黒田教授は,「医用画像データは現在,年間50TBずつ保管量が増えていますが,ILMにより,データの圧縮サイズや圧縮するまでの期間などを医療機関が主体的に設定できるのは,今後PACSを運用していく上で非常に有用です」と述べる。診療・研究・教育の多様なニーズに応えるための膨大なデータの保管とストレージ使用量の抑制という相反するテーマの両立に向けて,同院ではILMの活用方法の議論を今後進めていく。
医用画像の有効活用などデータサイエンスの拠点をめざす
システム更新から3か月が過ぎた現在,リモートメンテナンスなどのGEヘルスケア・ジャパンの迅速なサポート体制により,大きなトラブルもなく安定して稼働している。今回のシステム更新により大学病院にとって診療・研究・教育のための大切な資産である医用画像を,高い信頼性の下,長期間にわたり蓄積していくことが可能になった。
黒田教授は,「医学・医療においては,今後データサイエンスが大きな役割を果たします。今後,京都大学医学部附属病院をデータサイエンスの拠点とするのが,私たちの将来ビジョンです。その実現に向けて,これからも医用画像などのデータのマネジメントを強化していきたいと考えています」と述べる。Centricity Universal Viewerの導入とVNA基盤の構築は,その将来を見据えた布石だと言えよう。
(2016年6月29日,7月8日取材)
*販売名称:セントリシティ・ユニバーサル・ビューワ
医療機器認証番号:225ABBZX00019000
*販売名称:アドバンテージワークステーション
医療機器認証番号:20600BZY00483000
本記事はGEヘルスケア・ジャパンの依頼に基づきインタビューを行い作成したものです。
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