富士通フォーラム 2019 REPORT(2019年5月16日(木)〜17日(金)@東京国際フォーラム)
デジタル社会で変わるこれからの病院経営 患者も医療者も行動が変わる時代の経営者は何をすべきか
2019-7-1
富士通株式会社は,2019年5月16日(木),17日(金)の2日間,東京国際フォーラム(東京都千代田区)において,「富士通フォーラム 2019」を開催した。特別ご招待日の16日には,インダストリーセッションにおいて,「デジタル社会で変わるこれからの病院経営 患者も医療者も行動が変わる時代の経営者は何をすべきか」が設けられ,行政,病院経営,医療ICTのスペシャリスト3名による講演のほか,真野俊樹氏(中央大学大学院戦略経営研究科教授/多摩大学大学院特任教授)がモデレータを務め,パネルディスカッションが行われた。
講演1 社会環境の変革と医療政策の動向
迫井正深 氏(厚生労働省大臣官房審議官)
本講演では,医療を取り巻く現状・課題を整理した上で,それに対応する医療政策など,今後の方向性について私見を交えて述べる。
医療を取り巻く現状・課題
日本の医療を取り巻く現状・課題を,(1) 急激な社会環境の変化,(2) ケアニーズの変化,(3) 技術革新と制度持続可能性の調和という3つの要素に分けて整理する。(1) 急激な社会環境の変化としては,(ア) 明治時代以降飛躍的に増加した人口の減少,(イ) 少子高齢化の進展,(ウ) 地域差を伴う高齢化,(エ) 社会保障費の増加,が挙げられる。(2) ケアニーズの変化としては,(ア) 感染症から生活習慣病への疾病構造の変化,(イ) 65歳時の平均余命の延伸,(ウ) 住まい方の変化・認知症の増加,(エ) 疾病構造の変化に伴う医療需要の変化,がある。(3) 技術革新と制度持続可能性の調和については,(ア) 医薬品をはじめとした高額技術の台頭,(イ) ICT・ビッグデータへの期待,があり,これらによって医療機関経営が変わっていくと考えられる。そして,厚生労働省では,3つの要素に対応するために,今後は,(1) 地域包括ケアシステムの構築,(2) 地域医療構想の策定と実現,(3) 診療報酬・介護報酬の改定といった施策に取り組んでいく。
医療の課題を解決するための施策
社会保障制度改革国民会議の報告書(2013年)では,「治し,支える医療」への転換と「まちづくり」の視点に立った医療・介護提供体制に言及し,地域の自主性や主体性に基づいて,医療,介護,予防,住まい,生活支援を包括的に確保する地域包括ケアシステムの構築を進めることとしている。
また,今後の医療提供体制としては,急性期から亜急性期,回復期まで患者の状態に見合った病床でふさわしい医療を受けられるような体制を整備するとともに,診療所も含めたネットワークの構築が必要となる。これを踏まえた,地域医療構想では,医療機関の機能分化を明確にして,2025年に向けた医療提供体制を整備する。その実現に向けては,データを用いた分析を行い,PDCAサイクルを用いて進めることになる。近年,DPCやNDB(National Database)などのデータインフラが整備されたことで,医療データを利活用できるようになり,全国または地域レベルでの推計や予測を行い,医療資源の配置などの施策にも役立てられるようになった。例えば,熊本県では,DPCデータを用いた医療提供体制の評価が行われているほか,千葉県では疾病別のアクセスマップや人口カバー率などのデータを基に,地域医療構想の策定が進んでいる。
さらに,今後は,診療報酬・介護報酬改定による政策誘導が,地域包括ケアシステムの構築と地域医療構想の実現を支援していく。特に,診療報酬改定については,基本的な考え方として,病床区分をはじめ医療機関の体系ごとに円滑な医療機関経営ができるような,将来の見通しを明らかにするような対応となるよう努める。
2040年に向けた社会保障制度改革
今後は,2040年を見据えた社会保障制度改革が進められる。2040年までは,高齢者人口が増加する一方,生産年齢人口が減少する。つまり,医療と介護の需要が伸びる一方,それを担う人の数は減るという状況となり,これをいかに乗り切るかが重要である。そのためにも,2040年に焦点を当て,健康寿命の延伸と,生産性の向上を図る必要がある。
特に,医師の生産性向上は重要なテーマで,それにつながる医師の働き方改革を進めるには,配置や労働時間を見直す必要があり,医療提供体制にも大きな影響を与える。そのため,医師の働き方改革は,地域医療構想や実効性のある医師偏在対策と整合をとりつつ,三位一体で取り組まなければならない。
今後の医療のあり方
入院診療については,地域医療構想に基づき,将来の入院医療需要に応じた体制を整備し,医療機関の役割分担を確立する必要がある。そのためには,アウトカムやデータに基づいた医療機関の評価が必要となる。また,医療提供の考え方に,「生活の視点」を取り入れることも大事である。これまでの入院診療中心の考えではなく,居宅での生活を基本として,地域生活に根ざし,日常生活を支える医療を重視すべきである。さらには,社会とともに歩む医療という考え方も大切である。社会資源や需要動向を踏まえ,コストや効率性を考慮した「節約・エコモード」といった視点が求められるだろう。そして,単なるコスト重視ではなく,患者にもたらされる「価値を重視した医療の提供」も重要になるだろう。
講演2 AIやICT の進歩と病院経営
原 義人 氏(全国自治体病院協議会副会長/青梅市立総合病院病院事業管理者)
本講演では,青梅市立総合病院の病院事業管理者として病院経営に携わってきた経験を踏まえ,人工知能(AI)やICTの活用と病院経営について展望する。
当院における新病院の建設計画
青梅市立総合病院は,新病院の建設計画が進められており,2023年5月にプレオープン,2026 年にフルオープンをめざしている。基本計画として,(1) 救急,高度急性期,高度専門,災害医療の充実,(2) 地域の人々や職員に愛される安全でストレスフリーの病院,(3) 環境に配慮した病院,を掲げている。
この基本計画の実現に向けてICT関連の導入・整備も進めている。当院では現在,電子カルテシステムとして富士通のHOPE EGMAIN-GXを運用しているが,新病院では新システムに更新する。また,新病院内にはWi-Fiも導入する。一方,外部に対しては,現在運用している地域連携ネットワークのHumanBridgeを拡充し,診療所や介護施設も含めた地域医療介護ネットワークを構築する。さらに,ストレスフリーの病院として,外来では診察呼び出しシステムの導入も検討している。病棟については,看護業務においてスマートフォンを用いた情報共有の充実や記録業務の効率化を図ることとしている(HOPE PocketChart)。このほか,高度急性期,高度専門医療に対応するため,手術支援ロボットの導入やハイブリッド手術室を構築する。これ以外にも音声入力システムの採用を検討している。
病院へのAI・ICT導入の目的
当院の経営はわずかながら黒字であるものの非常に厳しい状況にある。また,現在,医療分野においても働き方改革が求められており,当院も取り組んでいかなければならない。これらの課題解決のためにも,AI・ICTの活用が有用であるが,費用対効果などを明確にすることが重要である。
AI・ICTを導入する目的としては,まず業務の省力化(負担軽減)・効率化が挙げられる。例えば問診ロボットを導入すれば,省力化を図れ,スタッフをほかの業務に配置できる。また,患者サービスの向上もAI・ICT導入の目的となる。専門医による遠隔画像診断が速やかに行われるようになれば,患者サービスの向上に結び付く。医療安全の向上も重要な目的である。顔認証による患者認証などが行われるようになれば,取り間違いなどの防止に役立つであろう。さらに,手術支援ロボットの手技が自動化されれば,確実性が向上して非常に有用である。
AI・ICTは,診断・治療の正確性の向上と標準化にも有用である。ビッグデータを用いたAIの診断支援技術によって,疾患の診断や治療の提案が,近い将来可能になると思われる。AIによる診断支援技術が進歩すれば,高精度な診断の標準化も行える。同様に,AIを用いたゲノム医療の技術が進歩すれば,個別化医療が可能になる。
一方,健康維持・増進や予防医療にも,AI・ICTは有用である。今後は,ビッグデータ解析やゲノム医療,ウエアラブルデバイスを用いた疾患の発症予測・予防,健康管理などが進んでいくと思われる。そして,これらのAI・ICTを導入することで病院経営改善も図れるであろう。
10年後の急性期病院の医療とAI・ICT活用
10年後の急性期病院の医療を取り巻く状況として,医療機関の機能分化と平均在院日数の短縮化が進むと思われる。また,高額医療機器の適正配置も行われるだろう。
外来診療については,共通患者IDによる医療情報の共有化や連携が促進され,保険確認などが行われる。さらに,外来診療は,技術進歩によって,顔認証による本人確認や電子カルテシステムの音声入力,ウエアラブルデバイスによる患者モニタリングと疾患発症予測,遠隔画像診断,オンライン診療・服薬指導といったことが普及していくであろう。
一方,入院診療では,手術支援ロボットによる手技の全自動化やオンライン手術が期待される。また,病室の個室化が進み,患者専用ディスプレイによる診療情報の参照などが可能になると思われる。
このほか,診療全般については,放射線科などでAIによる診断支援や検査データの自動評価が進むだろう。また,ビッグデータ解析に基づいた診断・治療の提案,ゲノム医療・個別化医療,問診・説明ロボットが普及すると考える。
電子カルテシステムとAIの課題
医療機関のAI・ICT活用において,電子カルテシステムは重要な存在であり,情報の共有化・迅速化・デジタル化にきわめて有用である。しかし,導入・維持費用が高く,診療報酬上の評価がないという課題がある。また,入力に時間がかかることや,医療情報データベースとしては容易に活用できないという問題もある。このほか,異なるベンダー間でのデータ移行や情報連携が困難で,医療機器との接続も高額な費用が発生する場合もあり,今後の改善が期待される。
同様に,AI活用にも課題が残されている。例えば,初期投資が大きく収益の増大には直結しにくいことや,AIが示す判断の検証が難しく,利用法も明確ではないことが挙げられる。さらに,AIを用いた診断で不都合が生じた場合の責任の所在が明確ではなく,またAIの判断はエビデンスに基づいているが個々の患者にそのまま適用できるものではないといった問題もある。このほか,医療機器としての承認や管理方法も明確にはなっていない。
まとめ
これらの課題があるもののAIの発展は目覚ましく,医療への応用は必然である。今後は,AIを取り入れていくことで,患者に優しく,安全,確実な医療が提供できるようになる。そのためにも課題の早期解決に向けた努力が欠かせないだろう。
講演3 デジタル社会の到来で変わる医療
水島 洋 氏(ITヘルスケア学会代表理事/医療ブロックチェーン研究会会長/国立保健医療科学院研究情報支援研究センター長)
本講演では,「デジタル社会の到来で変わる医療」をテーマに医療におけるブロックチェーンの活用などについて述べる。
健康・医療情報のデータベースとその利活用
希少疾患,難病対策の研究においては,患者数が少ないため,データが不足している。そのため,医薬品の開発も遅れがちで,患者の支援体制が十分整っておらず,データベースの構築が求められていた。そこで,わが国では,難病患者データの精度向上と有効活用を目的に登録システムが構築された。
希少疾患,難病のデータベース以外にも,2011年から臨床データベースとして,NCD(National Clinical Database)の構築が進められている。今後は疾患に関するデータベースだけでなく,一生涯にわたる健診情報のデータベースの構築が求められるようになる。加えて,ウエアラブルデバイスの進歩によってライフログの管理が可能になり,PHR(Personal Health Record)として活用できるようになった。また,遺伝子検査のデータも個人で取得できるようになった。
このように,患者が健康・医療情報を制御できれば,日常の健康情報を蓄積して,罹患した際にそのデータをかかりつけ医が参照したり,他医に診療データとして提供や,遠隔診療においてデータを利用したりすることが可能となる。一方で,患者が研究利用を認めれば,がん登録や疾患登録を行えるほか,創薬にも役立てられるようになる。
医療分野で注目を浴びるブロックチェーン
患者情報の活用を実現する技術として,注目されているのが,「ブロックチェーン」である。ブロックチェーンは,分散型台帳技術を用いた,強固なセキュリティを実現するデータベースで,ビットコインなどの仮想通貨の技術として知られている。導入が先行する金融分野では,資産管理や個人認証,流通分野でのトレーサビリティにも用いられている。
最近では医療分野への応用も進んでいて日本国内でも徐々に関心が高まっており,メディアにも取り上げられる機会も増えてきた。われわれは,医療ブロックチェーン研究会を立ち上げて,複数のパイロット事業を行っている。
一方,福岡県の飯塚病院と東京海上日動火災保険などが取り組んだ,Planetway Corporationのブロックチェーン技術を用いた保険請求業務における医療情報連携では,承認プロセスの効率化を図れた。また,北海道のINDETAILは,調剤薬局においてブロックチェーンの実証実験を行い,医薬品のデッドストック問題を解決できる可能性を示した。さらに,東京都のArteryexは,個人の健康・医療情報を管理して,医療機関がその情報を利用できるプラットフォームを構築している。
このように,医療とブロックチェーンの親和性が高い理由としては,多数の医療関係者がかかわることが挙げられる。医療は,関係者ごとに扱う情報の権限が異なるため,改ざんなどができない仕組みが必要となるが,ブロックチェーンの特徴を用いることで,情報活用の透明性が確保されている。
国内外でブロックチェーンの活用は進んでおり,医薬品のサプライチェーンや米国食品医薬品局(FDA)における治験でのデータ認証,医療機器のデータ認証などが検討されている。また,患者からの健康・医療情報の提供や同意の管理,遺伝情報の管理,保険の支払い業務などへの応用も広がっている。
ブロックチェーンの課題としては,だれが運用管理を行うか,暗号化,法整備,個人認証方式,標準化,大容量データの保存法,死後のデータの権限,などが挙げられる。今後はこれらの課題を解決しながら普及を進めていくことになる。
エストニアにおける医療分野へのブロックチェーンの応用
医療分野におけるブロックチェーンについて,海外の先行事例を紹介する。
北欧のエストニアは,人口130万人の小国だが,旧ソビエト時代からICT化が進んでおり,国民のICTリテラシーも高い。行政も電子化が図られており,国民1人に1枚発行されるeIDカードが健康保険証や運転免許証などの機能を有している。
医療に関しては,ブロックチェーンで構築された電子カルテシステムが国全体の共通システムとして稼働している。このシステムは,どの医療機関からでも診療情報を閲覧できるほか,患者自身も診療情報を参照可能である。ブロックチェーンの特徴から改ざんのリスクはなく,患者自身が診療情報を管理して,アクセス権などの設定も行える。参照できるのは,電子カルテシステムの診療情報だけでなく,PACSの医用画像,処方などのデータもあり,研究利用も可能となっている。
健康・医療・介護情報の統合プラットフォーム構築へ
健康・医療情報を集約するプラットフォームは,多くのメリットを有する。医療分野での人工知能(AI)の研究開発には,高品質かつ大量のデータが必要となるが,そのためのビッグデータをICTやIoTを活用して自動的に収集する仕組みの構築が求められている。リアルワールドデータとして収集されるビッグデータの活用が,これからは重要になるだろう。
現在,厚生労働省では医療情報の各種データベースを構築しているほか,介護情報のデータベースの整備も進めている。これに加え,ブロックチェーン・IoTなどの技術を活用し健康情報や障がい情報をデータベース化して,医療情報,介護情報のデータベースと連携する統合プラットフォームの構築が期待される。この統合プラットフォームを活用することで,これからの医療を変革できると考える。
パネルディスカッション
デジタル社会で変わるこれからの病院経営
3名の講演に続いて行われたパネルディスカッションでは,真野俊樹氏がモデレータを務め,ビッグデータや人工知能(AI)の利活用について意見が交わされた。
モデレータ:真野俊樹 氏 中央大学大学院戦略経営研究科教授/多摩大学大学院特任教授
個人情報保護に配慮しつつデータを利活用する仕組みを
真野:デジタル社会と言われている中,医療分野でもAIやICTの利活用が進んでいます。まず迫井先生に行政の立場から現状をどのようにとらえているのか,今後の推進策も含めて,おうかがいします。
迫井:厚生労働省としても当然,AI・ICTの利活用を積極的に進めていくこととしています。医療の効率化を図るためには,AI・ICTの利活用が重要です。また,医療政策を考える上ではデータの分析が必要となります。さらに,民間企業が創薬などの研究開発を行うために,データを利活用することも必要になります。このように医療分野のデータは応用範囲が広いので,個人情報保護に十分配慮した上で,利活用できる仕組みを構築することが大事だと考えています。
真野:医療機関のICT化の状況はどのようにお考えですか。
迫井:日本における医療分野のICT化は,医事会計システムに始まり,その後電子カルテシステムが登場して多くの医療機関で稼働し,ICT化が図られています。これらのシステムは,民間企業が開発したもので,各企業が切磋琢磨したことによって技術が発展してきたと言えます。一方で,それによって標準化が遅れたとの指摘もあります。確かに,エストニアのように国全体で共通の電子カルテシステムを構築すべきとの意見もありますが,日本の医療情報システムの開発と導入は,民間企業の切磋琢磨によりなされてきたと思います。
ブロックチェーンなどの最新技術とどう向き合う
真野:水島先生の講演の中でエストニアの電子カルテシステムの話が出ましたが,実際に訪問してみて,どのような印象を持ちましたか。
水島:エストニア政府は,ブロックチェーンを用いたシステムに自信を持っています。実際に,外部からのハッキングが日常茶飯事に試みられていますが,まだ一度も不正アクセスはありません。エストニアは北大西洋条約機構(NATO)のサイバー防衛協力センターが設置されるなど,サイバー分野に力を入れています。このような背景から,国民も電子カルテシステムを非常に信頼しています。電子カルテシステムだけでなくPACSなど部門システムも共通のシステムで運用されていて,診療録や医用画像,病理画像,処方などの情報が,強固なセキュリティの下でどこからでも参照でき,高い利便性があります。また,重複処方がなく無駄なコストを抑えられるとともに,禁忌情報も自動的にチェックされるため,医療安全の観点からも優れたシステムになっています。
真野:エストニアは日本と比べ人口が非常に少ないなどの違いがありますが,参考になると思いました。一方で日本の医療機関のICT化に関して,原先生が顔認証について言及していましたが,その導入の可能性はいかがでしょうか。
原:顔認証の有用性は,多くの方が理解していると思います。導入することにより医療安全やセキュリティが向上するのは当然です。しかし,病院経営の観点から考えると,直接的な利益が見えてこないという課題があるのが現状です。
AI導入に向けて社会全体で議論を
真野:同様にAIも有用性が期待されていますが,コスト面での問題があると思います。医療現場へのAI導入については,どのようにお考えですか。
水島:医療分野のAIについては,よく医師の仕事が奪われるといった指摘がありますが,そのようなことは絶対にあり得ません。AIは医師不足を補い,限られた医療資源の有効活用にも寄与し,医療を効率化するために欠かせない技術です。また,AIが普及していくことで,医療安全の観点からも効果が期待されるほか,導入コストも下がっていくと予想されます。ただし,AIの開発には,高品質のデータが必要であり,データをどのように収集していくかが課題です。日本でも日本医療研究開発機構(AMED)などでデータ収集のプロジェクトが進んでおり,今後の成果に期待しています。
真野:このように開発が進んでいるAIですが,診療におけるAIの利活用について,原先生のご意見をお聞かせください。
原:具体的にAIが役立つ診療として,例えば放射線科の画像診断が挙げられます。当院における放射線科の読影業務では,検査件数の増加などによって十分なダブルチェック体制がとれないため,見落としのリスクがあります。AIを用いた診断支援技術を導入することによって見落としを防げれば,患者さんにとっても大きなメリットになります。そのためにも,どこまでAIに任せるのか,医療分野におけるAIの利活用について,社会全体で議論していく必要があると考えます。
真野:AIは,医療に大きなメリットをもたらす可能性を秘めていますが,一方でコスト面などの課題も残されています。これも含めて,利活用に向けた方策を考えていくことが,デジタル社会での病院経営においては重要になるでしょう。
(敬称略)