NVIDIA GTC 2022からAIの未来が見えてきた!
最新GPU「H100」やAI搭載医療機器開発のための「Clara Holoscan MGX」を発表
ヘルスケアの未来を築く深層学習とGPUコンピューティングの最前線
2022-5-2
人工知能(AI)をテーマにしたカンファレンスとしては世界有数の規模を誇るGTC2022が,3月21日(月)〜24日(木)の4日間,バーチャルで開催された。AIの研究開発に重要なGPUの大手NVIDIAが主催するこのカンファレンスにおいて,創業者のジェンスン・フアンCEOは,基調講演の中で新しいアーキテクチャ「NVIDIA Hopper」を採用した最新GPU「NVIDIA H100」や,AI搭載医療機器を開発するためのプラットフォーム「Clara Holoscan MGX」などを発表。また,期間中は900以上のセッションが設けられ,AIの研究開発の最前線を目の当たりにする機会となった。
20万人以上が登録,900以上のセッションをラインアップ
GTCは,NVIDIAのGPUでAIの研究開発を行う開発者・研究者向けに開催されるカンファレンスである。2009年に米国カリフォルニア州サンノゼで始まったGTCは,年を追うごとに規模を拡大。日本でもGTC Japanが開催されるなど,世界中のAI開発者・研究者にとっての一大イベントとなっている。2020年以降は,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによりバーチャル開催が続いているが,毎回20万人以上が登録している。また,GTCで取り上げるテーマは,産業,行政,教育など幅広い分野をカバーしており,当然この中には医療などのヘルスケアも含まれる。
今回は期間中, 900以上のセッションが設けられた。AI開発者・研究者などの上級者向けのプログラムだけでなく,学生などもGPUコンピューティングやディープラーニング,ロボティクスの最前線を学ぶ機会となっている。また,日本からの参加者も多いことから一部のセッションは日本語で提供されている。参加登録は無料で,登録さえすればこれらのセッションをすべて無料で視聴することができる。
フアンCEOの基調講演で新型GPUを発表
日本時間3月22日0時からは,恒例のフアンCEOによる基調講演が行われた。NVIDIAの最先端のAI技術を紹介する「I am AI」の映像に続けて始まった基調講演の冒頭,フアンCEOは,「医師はヒトのDNAを数時間で解読できるようになった」と述べ,創薬をはじめ多くの産業においてNVIDIAのGPUがAI革命を起こしていると強調した。さらに,フアンCEOは,NVIDIAのAI技術を説明。NVIDIAはAIを民主化し,あらゆる業界・企業がAIで変革できるとアピールした。
フアンCEOは,このようなAIの開発のためにデータ量の増大化が進んでいることにも言及した。そして,コンピューティングの高度化,高速化へのニーズに応える新たなGPUとして,「NVIDIA H100」を発表した。最新のGPUアーキテクチャ「NVIDIA Hopper」をベースにしたNVIDIA H100は,800億のトランジスタを搭載。ネットワークを6倍高速化する「Transformer Engine」や第2世代の「Secure Multi-Instance GPU」,第4世代「NVLink Switch」などを採用した。従来の「NVIDIA A100」の後継機種に位置づけられ,AI開発のための学習性能は9倍,大規模言語モデルの推論は30倍と,圧倒的なスピードとパワーを実現している。
また,フアンCEOは,ヘルスケア分野でも注目されているデジタルツインを構築するための「Omniverse」の最新情報も発表した。Omniverseは3Dで構築された仮想世界でロボットなどのビジュアライゼーションやシミュレーションを可能にする。基調講演では,バーチャルコラボレーションのための「Omniverse Cloud」を紹介し,医療にも応用できそうなサービスのデモンストレーションを行った。
医療機器開発のための「NVIDIA Clara Holoscan MGX」
フアンCEOは,ヘルスケア分野のソリューションもアピールした。NVIDIAでは,ヘルスケア分野のプラットフォームとして,2018年に発表した「NVIDIA Clara」を提供している。基調講演の中でフアンCEOは,ライトシード顕微鏡によるがん細胞が分裂する映像を紹介。従来,ライトシード顕微鏡の3TBのデータを処理するのに1日を要していたが,医療機器開発のためのプラットフォーム「NVIDIA Clara Holoscan」によって,リアルタイムでの観察が可能となったとアピールした。
さらに,GTC 2022では,NVIDIA Claraの新たなプラットフォームとして,NVIDIA Clara Holoscanをベースにした「NVIDIA Clara Holoscan MGX」が発表された。NVIDIA Clara Holoscan MGXは,医療機器開発のためのハードウエアとソフトウエアが提供される。医療機器のIEC 60601,医療機器ソフトウエアのIEC 62304といった国際規格に対応。リアルタイムで処理を行うAIを医療機器に組み込むことができる。臨床試験から製品として上市するまでの開発をカバーする。また,医療機器開発のためのハードウエア・ソフトウエアともに10年間のサポートが提供される。
NVIDIA Clara Holoscan MGXで開発されたAI搭載の医療機器が臨床現場で活用される日が,それほど遠くない未来に来るに違いない。
口腔がんの診断支援システムをテーマにした医療AIセッション
900以上用意されたセッションでは,ヘルスケア分野のAIをテーマにしたプログラムも用意された。日本語でのセッションとしては,日本時間3月23日10時から「口腔粘膜疾患(がん)を検出するための人工知能支援システムの開発と検証」が行われた。このセッションでは,大阪大学大学院歯学研究科口腔外科学教室助教の平岡慎一郎氏が講演した。平岡氏は,口腔がんの治療には早期発見が重要であるにもかかわらず,非専門医では視診での診断が難しく,発見時には切除不能となっているケースが多いと指摘。この問題を解決するために,AIを用いた口腔粘膜疾患診断支援システムの開発に取り組んだと述べた。また,平岡氏は,2020年からNVIDIAと共同研究を開始したとして,システム開発におけるデータセット作成,モデル作成・学習,テストによる性能確認のスキームを説明。システムの精度について,悪性腫瘍では感度95%,特異度98.7%,口内炎では感度95%,特異度96.2%にという結果が得られていると報告した。さらに,臨床医との比較では,93.3%と高い正答率が得られ,診断時間も短時間であったことなどを解説した。一方で,平岡氏は,開発のボトルネックとして,学習データ作成の負担が大きいことを挙げた。次いで,エヌビディア合同会社ディープラーニングソリューションアーキテクトの阮 佩穎(Colleen Ruan)氏が発表した。阮氏は,本研究において,口腔疾患の検出のために,教師あり,半教師あり,自己教師ありの学習方法を用いたと説明。半教師ありと自己教師ありが,教師ありの学習よりも高精度に病変を検出できたとして,アノテーションの作業の負担を軽減できる可能性があると報告した。
基調講演などをアーカイブ配信
GTC 2022は,盛況のうちに4日間の日程を終了した。NVIDIAでは,リアルタイムで参加できなかった人のために,アーカイブ配信を行う予定である。フアンCEOの基調講演は,すでに配信が開始されており,今後,本記事で紹介した平岡氏の口腔粘膜疾患診断支援システムについての講演も視聴可能となる。配信の開始時期については,ニュースレターなどで案内する。
COVID-19のパンデミックは医療に大きなインパクトを与えたが,一方でヘルスケア分野のAIの普及に勢いがついた。今後もプレシジョンメディシンの実現や医療の課題解決のために,AI活用に期待が高まっていくだろう。それだけに,今回のNVIDIA Clara Holoscan MGXの発表のように,AIの研究開発を加速させるNVIDIAの動向から目を離せない。
Column
日本における医療AI研究開発を支援するNVIDIA
I2WIワークアウトをサポートし,開発者・研究者の裾野を広げる
NVIDIAは,医療AIの研究開発の支援を行っている。学会や研究会などの学術活動にスポンサーとして参加するなど,開発者・研究者の裾野を広げることで,日本における医療AIの研究開発を活発化させ,社会実装を進めている。
2022年3月19日(土),NVIDIAがスポンサーになっている第8回I2WI「はじめてのRadiomics〜低悪性度脳腫瘍MRI画像の例〜」がオンラインで開催された。2018年から医用画像解析・処理を実践的に学ぶ機会として開催されているI2WIは,毎回医師や診療放射線技師,学生などが参加している。今回は「Radiomics概論」「はじめてのRadiomics」「おもしろ論文紹介〜MICCAI2021から〜」の3部構成で,Radiomicsの基礎知識から予測モデル作成まで,講義とハンズオン形式でプログラムが組まれた。
まず,九州大学大学院医学研究院保健学部門医用量子線科学分野の有村秀孝氏が「Radiomics概論」をテーマに講義した。有村氏は,Radiomicsの定義やデータ処理の流れを説明した上で,腫瘍の悪性度や浸潤・転移の予測などが可能になると述べた。続いて,聖マリアンナ医科大学先端生体画像情報研究講座の原口貴史氏が「Radiomics臨床応用への期待と課題〜画像診断医の視点から〜」と題して講義し,少ない異常画像から良悪性鑑別・予後予測を行うAIの実現などの期待を示した。さらに,小倉記念病院放射線技師部の佐保辰典氏は,「治療や診断へのパイプライン作り 放射線技師の視点から」をテーマに,Radiomicsのための画像データ収集,前処理,特徴量を得るためのポイントなどを解説した。
この後,学校法人原田学園経営企画室人工知能教育・研究開発チームの平原大助氏が,自身も使用している「NVIDIA GDX」シリーズやNVIDIAのGPUを使用しているGoogle社の「Google Colaboratory」,「NVIDIA Jetson」シリーズなどのAI研究のための環境を紹介した。
そのほか,第2部「はじめてのRadiomics」では,教師あり学習による分類や,教師なし学習でのクラスタリングを,参加者がハンズオンで体験した。
NVIDIAでは,今後もこうした活動の支援を通じて,より多くの医療関係者,開発者,研究者,学生にAIを学ぶ機会を提供していくことにしている。
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