1.5T 超電導MRIシステム「ECHELON Smart ZeroHelium」 × 医療法人至誠会 保利病院
完全ヘリウムレスを実現した1.5T超電導MRI導入で安全で持続性の高い検査を提供し地域医療に貢献 AI技術を活用した高画質・高速撮像で,急性期脳梗塞から死亡時画像診断まで地域に根ざした幅広い診療に対応

2025-4-1

富士フイルムメディカル

MRI


医療法人至誠会 保利病院

熊本県山鹿市の医療法人至誠会保利病院(106床)は,鹿本医療圏において急性期から療養,介護まで地域完結型医療を提供している。同院では,2024年9月に0.4Tのオープン型MRIからリプレイスして,富士フイルムメディカルの完全ゼロヘリウムを実現した1.5T 超電導MRIシステム「ECHELON Smart ZeroHelium」を導入した。完全ゼロヘリウムへの期待や初期臨床経験について,保利哲也理事長,放射線科の神西富行技師長,中川太樹主任にインタビューした。

救急から療養まで地域を支えるケアミックス型病院

熊本県の北部に位置し,福岡県と境を接する山鹿市は,人口4万8000人,豊後街道や八千代座(明治時代の芝居小屋)など,昔からの町並みが残る歴史ある地域である。同院は,2007年に現在地に移転,病床数は106床で内科,外科,整形外科,脳神経外科,リハビリテーション科など11科を標榜する。病床としては一般(急性期)32床,回復期28床,慢性期46床で,介護医療院8床となっている。診療の特徴について保利理事長は,「外傷や脳梗塞など超急性期の救急対応から,回復期,慢性期,そして介護医療院まで,幅広い疾患に対応できる体制を整えており,ケアミックス型の病院としてほかの医療機関と連携しながら地域完結の医療を提供しています」と述べる。救急への対応では,敷地内にヘリポートを設けているほか,病院所有の救急車には消防無線に対応した無線機を搭載して迅速な救急対応を可能にしている。放射線科は,神西技師長以下診療放射線技師4名で,MRIのほか,CT,一般撮影,X線透視,骨密度測定,超音波などの検査を行っている。

保利哲也 理事長

保利哲也 理事長

神西富行 技師長

神西富行 技師長

中川太樹 主任

中川太樹 主任

 

ヘリウムレスの安全性と経済性を評価して選定

ECHELON Smart ZeroHelium(以下,ZeroHelium)は,液体ヘリウムを一切使用しない完全ゼロヘリウムの1.5T 超電導MRI装置である。長年使用してきたオープン型MRI(0.4T「APERTO Lucent」)のリプレイスでの導入だったが,導入のねらいを保利理事長は,「長く使用してきたオープン型MRIがリプレイスの時期を迎えて,更新を検討していたのですが,ちょうどヘリウムを使わないMRIの新製品のお話をいただき,超電導でもオープン型と設備やコストを大きく変えずに導入でき,液体ヘリウムを使わないことの安全性と経済性を評価して導入を決めました」と述べる。
従来のMRI装置で,超電導状態を維持するため冷却に使用される液体ヘリウムは,近年,供給量が減り価格が高騰している。ZeroHeliumでは,マグネットから設計を見直し,液体ヘリウムを一切使わずに超電導状態を維持できる冷却が可能な機構を開発した。これによって,クエンチ配管(ヘリウムガスの排出路)などを必要とせず設置が可能で,ヘリウムの補充を必要としないヘリウムレスの運用が可能になった。保利理事長は,「MRI室はもともと広く設計していましたが,配管のための拡張工事なども必要なく設置ができました。また,万が一吸着などの事故が起こっても,復帰までの時間が短く,ヘリウムの補充も必要ないということで,病院にとってのメリットも大きいと判断しました」と述べる。
神西技師長は磁性体の吸着などの緊急事態が発生した場合の対応をポイントに挙げ,「高磁場のMRIで心配なのは吸着事故です。吸着自体も重大事故ですが,それによってMRIがシャットダウンし,長期間検査ができない状態になることが問題でした」と言う。従来の超電導MRIでは,吸着などの緊急事態によって,液体ヘリウムが気化してヘリウムガスが放出されるクエンチが発生した場合,復旧には液体ヘリウムの補充や励磁(磁場を上げること)のためにメーカーの専門スタッフの対応が必要になるなど,検査の再開までには時間がかかる。さらに,現在では液体ヘリウムの供給不足で入手に時間がかかり,ダウンタイムが長くなることも予想されている。神西技師長は,「ZeroHeliumでは,われわれで消磁,励磁の復旧作業が可能であり,たとえ重大事故が起きたとしても短時間で復旧できる安心感があります」と述べる。

クエンチ配管などがなくコンパクトに設置可能

クエンチ配管などがなくコンパクトに設置可能

 

AI技術による高画質化,高速撮像を臨床に還元

今回の更新では,オープン型からより高磁場の1.5Tへのアップグレードとなったが神西技師長は,「MRIの高性能化が進み,診断する医師の画質への要求レベルが上がってきました。当院では,オープン型でも0.4Tと磁場の強い機種を導入して依頼検査などにも対応してきましたが,より高いレベルの検査を提供するためにも超電導装置の導入を選択しました」と述べる。
ZeroHeliumでは, 画質を維持したまま撮像時間を短縮できる「IP-RAPID」,Deep Learning技術で高画質化を図る「Synergy DLR」などの画像再構成技術によって,高画質の検査を短時間で行うことができる。保利理事長は急性期脳梗塞症例など頭部の画像の評価について,「拡散強調画像での描出能は格段に向上しており,素早く判断できます。また,高速撮像によって静止が難しい救急の患者さんであっても体動の影響の少ないクリアな画像が得られるようになりました」と述べる。同院では,救急の脳卒中症例はCTで出血を判断し脳梗塞であれば血栓溶解療法(t-PA)を行うが,必要に応じてMRIも撮像している。保利理事長は,「血管内治療が必要であれば専門病院に転送しますが,発症部位が主血管か末梢血管かがわかっていれば,転送先でも治療が迅速に進められるので,短時間でMRIを撮像できるメリットは大きいですね」と評価する。

ECHELON Smart ZeroHeliumによる死亡時画像診断(Ai)画像

ECHELON Smart ZeroHeliumによる死亡時画像診断(Ai)画像

 

位置決めなどを自動化する「AutoExam」で検査業務を効率化

ZeroHeliumには,位置決めや撮像,解析や頭部血管のクリッピングなどを自動で行うことができるAutoExamが搭載されている。神西技師長は検査の自動化について,「オープンMRIでは,位置決めなどの調整にマニュアル対応が必要で,操作者によって画像の質に差が出ることがありました。ZeroHeliumでは,位置決めや撮像の処理などが自動化されており均質な検査が可能になっています」と評価する。MRIの検査枠については1枠30分で以前と変えていないが,神西技師長は,「ZeroHeliumの導入後撮像時間が従来の半分に短縮しており,今後検査枠の短縮と検査件数の増加を検討しています」と述べる。現在,MRIの検査件数は月150件。撮像部位は頭部5,脊椎3の割合で,ほかに肩関節,腹部(前立腺)となっている。ZeroHeliumでは,撮像時間の短縮で呼吸同期によるMRCPなど腹部の検査が増えていると神西技師長は言う。
同院では地域の開業医を中心とする依頼検査も積極的に行っており,現在は16施設からの依頼を受けている。ZeroHelium導入後の展開について神西技師長は,「最新機種の導入で画質やスピードが向上したので,今後,改めて地域の医療機関にも広報して依頼検査の増加にもつなげていきたいと考えています」と意気込みを述べる。検査依頼は,富士フイルムメディカルの「C@RNA Connect」を導入して地域の医療機関からの予約を受け付けている。中川主任は,「Web上でオンライン予約ができるので,電話対応などの必要がなくスムーズに対応することができます」と言う。富士フイルムグループのシナジーが生かされていると言えるだろう。

Ai(死亡時画像診断)MRIなどで地域に貢献

今後のZeroHeliumの活用への期待として,保利理事長は死亡時画像診断(オートプシー・イメージング:Ai)を挙げる。保利理事長は警察医としてこれまで1000件以上の検死を行い,2024年にはその長年の貢献から警察協力章を受章した。これまでCTでのAi撮影は400件以上を行っているが,保利理事長は,「心臓の異常はCTにて描出されずに死因が特定できないことがありますが,MRIを追加することで判断できるのではと期待して撮像方法を含めて検討を始めたところです」と述べる。中川主任は,「MRIのAiは限られた時間での撮像が必要であり,また,吸着などの不測の事態にもZeroHeliumならば迅速に対応できるのではと期待しています」と意気込みを語っている。
ZeroHeliumという選択が,地域の持続的な発展を支える病院の診療を支えていく。

(2025年2月14日取材)

 

医療法人至誠会 保利病院

熊本県山鹿市古閑984
TEL:0968-43-1212
URL:http://www.hori-hp.or.jp

 

 

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