Aquilion ONEが変えた撮影技術
山口 隆義(医療法人春林会 華岡青洲記念心臓血管クリニック)
Session 2
2017-12-25
心臓CTは64列CTで確立され,心臓領域の検査法として普及している。そして,Area Detector CT(ADCT)「Aquilion ONE」の登場により,心臓CTは大きく進化した。本講演では,ADCTが変えた心臓領域の撮影技術について紹介する。
心臓領域におけるADCTの特長
ボリュームカバレッジが80mm以下の心臓CTでは,心電図同期ヘリカルスキャンが一般的であるが,被ばく線量が高い状況にある。そこで,被ばく低減を目的にstep and shoot法やフラッシュスキャンなどのprospectiveな心電図同期撮影法も用いられるようになってきた。しかしながら,ボリュームカバレッジが160mmのADCTでは,1心拍中の1回転のスキャンで撮影が完了するため,大幅な被ばく線量の低減が可能となった。高心拍時にはprospectiveに2,3心拍を撮影することで,セグメント再構成法(multi cycle reconstruction)を用いた時間分解能の向上も図れる。当クリニックでは,不整脈や弁膜症などで1心周期のデータを必要とする時以外はすべて,prospectiveな撮影を行っている。
われわれは,ADCTによる心臓CTの被ばく線量について,64列CTとの比較を行った(図1)。ADCTでのContinuous Modeの1~3心拍,prospectiveの1〜3心拍のうち,prospectiveの1,2心拍はDRLs 2015で設定された90mGyを大きく下回った。実際の検査では,prospectiveの1,2心拍が全体の87.6%を占めていることから,ほとんどの症例で90mGyを下回っていることになり,ADCTは被ばく低減に大きく寄与していると言える。
さらに,ADCTによる撮影時間の短縮は,造影剤量の低減にもつながる。ADCTは1心拍で撮影が可能なので,少ない造影剤量でもピンポイントで撮影することができる。ただし,撮影タイミングを誤ると,良好な造影効果が得られないという問題もある。
TBT法による造影剤量の低減
そこで,われわれは,test bolus tracking(TBT)法を考案した。本法は,造影剤のテスト注入と本番注入を連続して行うもので,time enhancement curveの最初のピークを見つけて撮影タイミングとする。簡単であり,造影剤の減量も図れて,正確な造影タイミングを得ることが可能な造影法である。ADCT「Aquilion ONE/ViSION Edition」(ViSION)によるTBT法を用いた心臓CTで造影剤量190mgl/kg,注入時間7秒に設定し,64列CTでの造影剤量280mgl/kg,注入時間12秒の心臓CTと比較したところ,冠動脈の造影効果に差異はないという結果が得られた。また,ViSIONと64列CTで,同一条件で作成したVR画像では,冠動脈の末梢まで同等に描出され,さらにViSIONでは,静脈が染まる前のタイミングで撮影できていた。また,心拍数による画質への影響について,Excellent,Acceptable,Failure 1,Failure 2の4段階で評価を行ったところ,ViSIONでは939症例中724症例(77.1%)でExcellentとなり,64列CTの1610症例中896症例(55.7%)を大きく上回っており,高心拍症例でも動きの影響の少ない高画質が得られていた。
PUREViSION OpticsによるX線エネルギーの最適化
現在,当クリニックでは,「Aquilion ONE/GENESIS Edition」(GENESIS)が稼働している。GENESISには,新世代プラットフォームガントリのX線光学系技術“PUREViSION Optics”が搭載され,X線エネルギーの最適化が図られている。われわれは,GENESISの実効エネルギーの計測を行い,ViSIONとともに半導体線量計で測定したところ,GENESISの方が高いという結果が出た。さらに,同じ撮影条件で心臓CTを施行しCTDI値を比較すると,GENESISはViSIONの約2/3のCTDI値で撮影できていた。
また,ViSIONの120kVpとGENESISの100kVpの実効エネルギーがほぼ同じ値となって,GENESISの120kVpではより高くなる。そこで,実効エネルギーの高いGENESISの造影効果を調べるために,ファントム実験を行った。ヨード濃度が15mgl/mLのCT値は,GENESISの120kVpが256HU,ViSIONの120kVpは267HUで大きな差がなく,GENESISの100kVpは306HUまで上昇した。実際に,120kVpの心臓CTの臨床データを見ると,GENESISのCT値はViSIONよりもやや低かったものの,大きな違いは見られなかった。このことから,GENESISではPUREViSION Opticsにより,X線エネルギーの最適化が図られていると言える。
心臓CTによる石灰化やステント内腔の評価
心臓CTでは,石灰化やステントによって血管内腔の評価が困難であることが,大きな課題となっている。そこで期待されているのが,Full IRの逐次近似再構成技術“FIRST”である。評価用ファントム「CTP714」による検討では,“AIDR 3D”に比べてFIRSTの方が,細かいスリットまで明瞭に描出していた。しかし,最近使用されているステントのストラット厚は100μm以下が多く,FIRSTを用いても描出は困難であり,現状では冠動脈サブトラクションにより内腔を評価している。
当クリニックでは,TBT法を応用した冠動脈サブトラクションを行っており,平均息止め時間は約13秒となっている。症例1の石灰化症例における造影CTでは,石灰化部分の狭窄を評価するのは困難であるが(図2 a),サブトラクションを行うとLADとLCXの分岐部に強度狭窄が認められ(図2 b↑),CAGでも同様の結果が得られた(図2 c↑)。
症例2はステント留置症例である(図3)。3.5mm,3mm,2.5mmのステントが留置されており,さらに,2.5mmのステントには同じ径のステントが裏打ちされ,FIRSTを使用しても描出し切れていない(図3 a)。そこで,TBT法によるサブトラクションを行ったところ,2.5mmのステント内腔の2か所で狭窄が疑われた(図3 b↓↓)。CAGとOCTを施行し,2か所に2mm2以下の狭窄を認めた(図3 c,d)。このように,ステント内腔の微小な狭窄でも,冠動脈サブトラクションで検出することが可能となる。
冠動脈疾患の生理的・機能的評価
心臓CTでは近年,生理的・機能的評価を追加することがトピックとなっている。その主な例として,dynamic CT perfusionによる心筋の虚血評価が挙げられる。また,冠血流予備量比(FFR)を測定するFFR-CTも,最近注目を集めている。FFR-CTは,数値流体力学(CFD)解析が用いられており,東芝メディカルシステムズの“CT-FFR”(W.I.P.)やハートフロー社の“FFRCT”などのアプリケーションがある。精度の高い内腔の評価を行うためにはボリュームデータが重要であり,FFRCTでは,非連続性心筋動作および数mmの近位冠動脈イメージングの欠落などを不可としている。1スキャン80mm以下のCTでは,冠動脈の位置ズレが起こりうるが,ADCTではそれがないため,CFD解析に有用なデータが得られる。
さらに,遅延造影(delayed enhancement)CTで心筋バイアビリティを評価できることも話題となっている。当クリニックでは,遅延相から冠動脈相をサブトラクションすることで,遅延造影画像を得ている。従来の手法ではミスレジストレーションが発生していたが,われわれは非剛体処理で位置合わせをしてからサブトラクションするSMILIE(subtraction myocardial image for LIE)を開発したことで,精度の高い画像再構成が可能となった(図4)。本法は,RSNA 2015でも発表しており,MRIと同等の評価ができると考えている。
ワンストップCT検査を可能にしたADCT
ADCTにより,カルシウムスコアスキャンからサブトラクション冠動脈CTAまでを行い,そのデータからCFD解析によるFFR値を測定し,さらに,遅延相を撮影して心筋バイアビリティを評価するという,ワンストップ心臓CTが可能となった(図5)。しかも,われわれは,CTDI値54mGyという低被ばく線量でこれを施行している。撮影技術の工夫により被ばく線量の低減を図り,充実した心臓CTを施行していただきたい。
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