急性期脳梗塞に対するCT検査フローの変革〜Abierto Reading Support Solutionへの期待〜 
市川 翔太(倉敷中央病院 放射線技術部)
MRI

2021-6-25


市川 翔太(倉敷中央病院 放射線技術部)

静注血栓溶解(rt-PA)療法や血栓回収療法の適応拡大が進む急性期脳梗塞の治療は,治療開始までの時間短縮に加え,画像による組織評価を基にした治療選択が重要になっている。キヤノンメディカルシステムズの読影支援ソリューション「Abierto Reading Support Solution(Abierto RSS)」は,さまざまな解析アプリケーションを用いて画像情報を迅速,適切に処理して治療判断をサポートする。当院における急性期脳梗塞の画像診断フローとAbierto RSSの運用について報告する。

急性期脳梗塞に対する治療介入の現状

急性期脳梗塞に対する治療は,rt-PA療法が発症から4.5時間以内に施行され,近位主幹動脈閉塞症例に対しては,血栓回収療法が併用される。米国脳神経血管内治療学会(SNIS)では,来院から画像診断まで15分以内,rt-PA投与まで30分以内,穿刺まで60分以内,再灌流までは90分以内という厳しい時間目標を設定している。
rt-PA療法に関する2014年のmeta-analysisでは,発症から4.5時間を超えるとrt-PA療法の有効性に統計学的有意差が認められないと報告されている1)。rt-PAは4.5時間以内に投与すること,さらに治療開始が早いほど良好な転帰が期待されることから,できるだけ早く治療することが現在のコンセンサスとなっており,日本脳卒中学会の「静注血栓溶解療法適正治療指針 第三版」でも同様の内容が推奨グレードAとなっている。
また,血栓回収療法に関する2016年のmeta-analysisでは,前方循環系の主幹動脈閉塞による急性期脳梗塞に対し,発症から7.3時間以内に内科治療に加えて血管内治療を行うことで90日後のアウトカムが有意に改善すると報告された2)。そこで,血栓回収療法については発症から6時間以内の治療開始が推奨されている。さらに,近年のDAWN trialやDEFUSE 3といったランダム化試験で,発症から6時間を超えても,画像診断などに基づき適切な選択がされれば,血管内治療が有効であると報告された。これらのランダム化試験では,画像情報を基に虚血コア体積と灌流遅延領域(ペナンブラ)とのミスマッチ評価を行っており,画像による組織評価の重要性が高まっている。
日本においても,日本脳卒中学会,日本脳神経外科学会,日本脳神経血管内治療学会による「経皮経管的脳血栓回収用機器 適正使用指針 第4版」で,CT灌流画像または拡散強調画像における虚血コア体積と,神経症候あるいは灌流遅延領域とのミスマッチがあると判定された症例に対し,最終健常確認時刻から24時間以内に血管内治療を開始することが勧められると明記された。

Abierto RSS

画像診断の重要性が高まる脳梗塞診療に対して,画像情報を迅速かつ適切に処理し,一刻も早い治療方針策定に貢献することをコンセプトに開発されたのがAbierto RSSである。Abierto RSSは,検査や読影前のプロセスを効率化する“Automation Platform”により,CTから画像データを受信しアプリケーションを自動実行する。実行された結果はPACSに転送され,ユーザーは“Findings Navigator”で一元的にレビューできる。
このAutomation Platformに,脳卒中疑い患者に対して脳内の出血・虚血サインなどを評価するアプリケーションとして,以下の4つのアプリケーションが実装された。(1) 頭部単純CT画像に対して出血領域を抽出し強調表示をする“Hemorrhage analysis”,(2) 低吸収領域を抽出しearly CT signの確率が高い領域を強調表示する“Ischemia analysis”,(3) CT Perfusion(CTP)画像に対してベイズ推定アルゴリズムを用いたdeconvolutionによる解析を行う“Brain Perfusion”,(4) 頭部CTA画像に対してICAやM1などの主幹動脈の閉塞部位を検出しMPR,VR表示を行う“Brain Vessel Occlusion”である。

倉敷中央病院の急性期脳梗塞画像診断フロー

当院における急性虚血性脳卒中(AIS)の画像診断は,発症6時間以内で脳梗塞が強く疑われる(NIHSS 5点以上)場合にはCTP+CTAの撮影を行うCTファーストの運用を行っている。当院は,6台のMRIが稼働しており,比較的容易に撮像できる環境があるが,救命救急センターから移動に時間を要する位置関係にあることや,MRIファーストでは体内金属や撮像条件の確認などによるタイムロスが懸念されることから,CTファーストを基本としている。また,ワークフローの向上を図るため,コミュニケーションアプリの“Join”(アルム社製)を活用して医師や診療放射線技師などスタッフ間の情報共有を図っている。
救命救急センターのCTは「Aquilion PRIME」,3Dワークステーションは「Ziostation2」(ザイオソフト社製)を導入,操作室の大型液晶モニタでスタッフがバイタルデータや画像をリアルタイムに確認できる。
図1に,当院で造影CT後,血栓回収療法が施行された症例において,病院到着から再開通までの時間を集計した結果を示す。来院から画像診断まで(Door to Imaging:D2I)13分,rt-PA投与まで(Door to Needle:D2N)33分,穿刺まで(Door to Puncture:D2P)59分(いずれも中央値)と,SNIS推奨の目標時間とほぼ同水準で治療を行っている。
AIS患者に対するCT撮影プロトコールは,位置決め画像→頭部単純撮影→頭部CTP→血管内治療のアクセスルートの評価も兼ねた頭頸部CTAの撮影となる。これらの撮影に要する時間を,DICOMタグの収集時刻から算出した(図2)。撮影は10分以内で完了しているが,撮影後に診療放射線技師がCTPの解析やVR画像の作成などを行っており,この後処理に時間と人員を要している。後処理を終えて医師がすべての画像を閲覧できるまでには,撮影終了からさらに10〜20分の時間が必要になっていると思われる。

図1 病院到着から再開通までの時間

図1 病院到着から再開通までの時間

 

図2 CT検査に要する時間

図2 CT検査に要する時間

 

Abierto RSSを導入したCT検査フロー

この後処理の時間を短縮しCT検査のフローを向上するのに,Abierto RSSが大きな役割を担うと期待している。
CTPの解析時間は数分程度であるが,担当の医師からすると一刻も早くperfusion mapを確認し,塞栓部位を把握して治療に入りたいと気持ちが焦る。一方で,診療放射線技師もCT撮影後にすぐに後処理の作業に入れるわけではなく,患者の移乗や退室への対応,時にはほかの救急患者の検査に対応が必要な場合もある。このようなことは,環境の違いはあってもどこの施設でも経験されることで,待ち時間に対する医師のストレスは大きいと考えられる。
従来のフローでは,診療放射線技師はCT撮影後,必要な画像の選択,読み込み,解析,結果の保存,転送をすべて手作業で行っていた。Automation Platform上のアプリケーションによってワークフローそのものが向上するだけでなく,解析の再現性の向上,スタッフの負担軽減,あるいは解放にもつながり,大きなメリットになるのではと考えられる(図3)。
従来の後処理(CTP解析)とAbierto RSSでの画像解析,読影支援では65秒→30秒に短縮した。Abierto RSSでは,ワンクリックでCTPの各種マップが表示・閲覧でき,ボタン1つで血管の位置や,サマリーマップの虚血コアとペナンブラの体積なども確認できる。
当院でAbierto RSSが有効であると感じた症例を紹介する(図4)。70歳代,男性,左内頸動脈閉塞の症例で,CTP撮影中の体動が激しくルーチン処理では解析結果を得られなかった。一方で,Abierto RSSではMRIの最終梗塞巣を反映したようなサマリーマップ,CBVマップが出力され,検査が無駄になる事態を避けることができた。

図3 Abierto RSSによるCT検査フローの変化

図3 Abierto RSSによるCT検査フローの変化

 

図4 Abierto RSSが有効だった症例 (70歳代,男性,左内頸動脈閉塞)

図4 Abierto RSSが有効だった症例
(70歳代,男性,左内頸動脈閉塞)

 

まとめ

急性期脳梗塞のCT検査については,MRIの拡散強調画像のように非専門医であっても梗塞の有無や程度が,迅速かつ容易にわかるようになることが期待される。
Abierto RSSの活用で,画像診断までの時間短縮が可能であり,早期の治療適応判断への貢献が期待できる。また,時間短縮に加えて,解析の再現性向上やスタッフの負担軽減,解放は大規模病院にとって大きなメリットになると考えられる。

* 記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。

●参考文献
1)Emberson, J., et al., Lancet, 384(9958):1929-1935, 2014.
2)Saver, J. L., et al., JAMA, 316(12):1279-1289, 2016.

Abierto Reading Support Solution
一般的名称:汎用画像診断装置ワークステーション用プログラム
販売名:汎用画像診断ワークステーション用プログラム Abierto SCAI- 1 AP
認証番号:302 ABBZX 00004000

Aquilion PRIME
一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion PRIME TSX- 303 A
認証番号:225 ACBZX 00001000

 

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