Aquilion ONEによる撮影技術の革新と熟成
井田 義宏(藤田医科大学病院放射線部)
Session 2
2021-12-24
藤田医科大学では,1987年にヘリカルスキャン基礎実験で東芝メディカルシステムズ(現・キヤノンメディカルシステムズ)との共同開発がスタートし,以降,マルチスライスCT,Area Detector CT(ADCT),高分解能CTの開発と実用化を進めてきた。ADCTは,2006年に4D-CT prototypeを試験運用後,2007年10月に最初の「Aquilion ONE」が導入され,現在まで多くの機種を活用してきた。本講演では,Aquilion ONEの進歩について,撮影技術の変遷を中心に報告する。
■Aquilion ONEの進歩
Aquilion ONEの進歩を振り返ると,回転速度は0.35s/rから0.275s/rに,X線管の出力は70kWから90kWに,寝台の横移動(sliding couch)の幅も±25mmから±42mmへと向上した。画像再構成技術については,逐次近似応用再構成(Adaptive Iterative Dose Reduction:AIDR),逐次近似再構成(Forward projected model-based Iterative Reconstruction SoluTion:FIRST)から,ディープラーニング技術を応用した再構成(Advanced intelligent Clear-IQ Engine:AiCE)まで大きく進歩している。一方,ガントリサイズはコンパクトになり,最新機種では64列CTと同等のスペースで設置が可能になっている。
■ユーザーとメーカー協働による成果
Aquilion ONEはハードウエアだけでなく,搭載されるアプリケーションや撮影技術も進歩を続けてきた。この進歩には,ユーザーとメーカーの協働による成果があった。代表的な取り組みとして,“画論The Best Image”と全国キヤノンCTユーザー会のCTデスクの2つが挙げられる。画論は,ユーザーが“撮影・処理技術の工夫”などを発表する場であり,4D撮影を利用した嚥下CTや“エリアファインダー”などが実用化された。また,CTデスクは,全国9ブロックの地域ユーザー会の代表者が集まり,開発チームへのアドバイスを行っている。ここからは,ルックガイド(検査中の患者への息止め指示の信号伝達機能)の改善,variable Helical Pitch scanの改良,寝台カバーや小児固定具の製品化などの成果が得られている。
■Aquilion ONEに追加された技術
1.Lung Subtraction
Lung Subtractionには,基礎技術として非剛体位置合わせが用いられている。キヤノンメディカルシステムズの非剛体位置合わせは精度が高く,肺のみならず心臓の冠動脈まで,造影前後で高い精度でフィッティングしてサブトラクションできる。Lung Subtractionでは,Iodine Mapが作成できるが,Dual Eenergy CTで作成したIodine Mapよりも大きな信号差が得られ,感度が高く出ることが利点である。これによって,Dual Energyが使えない施設でも肺のIodine Mapの臨床活用が可能になる。
2.CE Boost
CE Boostは,非剛体位置合わせを応用してサブトラクション画像を造影画像に加算することで造影効果を向上させる技術である。CE Boost処理を1回だけでなく2回適用することで造影剤の感度をさらに上げることができる(図1)。
3.Single Energy Metal Artifact Reduction(SEMAR)
SEMARは,Single Energyデータに対し金属アーチファクトを低減する画像再構成技術で,Forward projection,Back projectionを複数回繰り返し行うことで,金属アーチファクト成分のみを効果的に除去する。CT Perfusionでは金属近傍の信号が欠けることで乱れたマッピングになることがあるが,SEMARをかけることで改善できる(図2)。当初,SEMARは再構成時間が長いことが課題だったが,高性能GPUの搭載やアルゴリズムの最適化などで,現在はヘリカルスキャンで約5.5倍,ボリュームスキャンで約2.3倍高速化されている。
■Aquilion ONEで改良された技術
1.variable Helical Pitch scan(vHP)
vHPは,1回の撮影中にピッチ(寝台移動速度)を切り替えて広い範囲を連続してデータ収集できるスキャン方法である。当初は,ピッチを1段階しか切り替えることができなかったが,ユーザーからの要望を反映して2段階切り替えが可能になった。これによって,通常スキャンの間にECG Gateスキャンを挿入したり,線量の変更も可能なことから,全身撮影の場合には,胸部,上腹部,下腹部をそれぞれのSD設定にし,各部位に対して適した線量での撮影が可能となった。
2.PUREViSION Optics
PUREViSION Opticsは,X線の発生機構から検出器を一体として最適化したX線光学技術である。PUREViSION Opticsでは,光出力を40%向上,電気ノイズを28%低減している。当院での同一画質での線量(CTDIvol)を旧機種と比較したところ,成人で28〜38%,小児では37〜59%低減されており,画質を担保したまま被ばく線量の低減が可能である。
3.Brain CT perfusion
Brain CT perfusionでは,従来アルゴリズムとしてASIST-Japan(Acute Stroke Imaging Standardization Group - Japan)に準拠したSVD法が搭載されていたが,新たにベイズ推定法が採用された。特異値解析を行うSVD法ではノイズの影響を受けるが,ベイズ推定法ではきれいな伝達関数によってノイズの影響を改善し,より適切な虚血評価が可能になった。SVD法とベイズ推定法のperfusion解析の比較では,MTTやTTPでベイズ推定法の方が真値に近い結果が得られている(図3)。
4.Spectral Imaging System
キヤノンメディカルシステムズの新しいDual Energy技術であるSpectral Imaging Systemは現在,phase1からphase2へと改良が加えられている。Spectral Imaging Systemでは,仮想単純X線画像,Virtual Non Contrast(VNC)画像,Iodine Map,Spectral HU Curveなどが取得できる。
Spectral Imaging Systemは,高低2種の管電圧を高速で切り替える“Rapid kV Switching”で2種類のエネルギーデータを収集するSpectral Scanと,切り替えで生じるデータ欠損部分をDeep Convolutional Neural Network(DCNN)で補間・復元するSpectral Reconstractionから構成される。図4は,Spectral Imaging Systemの画質をphase1とphase2で比較したものだが,ハードウエアを更新せずにディープラーニングの学習の高度化だけで,大きく改善されていることがわかる。これはディープラーニング技術の特徴でもあり,今後もさらなる改善の可能性が期待できる。
5.Global Illumination
Global Illuminationは,“フォトンマッピング”を用いた新しい三次元レンダリング技術を応用した3D表示法である。フォトンマッピングは,複数の光線を緻密に計算することで物体表面の細かな凹凸やざらつきなどを再現し,より写実的な描写を可能にする。従来のボリュームレンダリングとは異なる標本や模型のような表現が可能で,視覚的なインパクトも大きい。影の影響など独特な表現になっており,臨床応用や診断能については今後の検証が待たれるが,軟部組織の描出では腱断裂が明瞭に描出されており,有用性が高いと思われる(図5)。
■まとめ
Aquilion ONEの撮影技術を中心に,ADCTの“革新”と“熟成”について紹介した。キヤノンメディカルシステムズが切り開いたADCTのさらなる進化に期待する。
*AiCE は画像再構成処理の設計段階でAI 技術を用いており,本システム自体に自己学習機能は有しておりません。
*Spectral Imaging Systemは画像再構成処理の設計段階でAI技術を用いており,本システム自体に自己学習機能を有しておりません。
*記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion ONE TSX-306A
認証番号:301ADBZX00028000
一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion ONE TSX-305A
認証番号:227ADBZX00178000
一般的名称:汎用画像診断装置ワークステーション
販売名: 医用画像処理ワークステーション Vitrea
VWS-001SA
認証番号:224ACBZX00045000
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