Aquilion ONEの更なる進化 〜臥位から立位へ〜 
陣崎 雅弘(慶應義塾大学医学部放射線科学教室)
Session 2

2021-12-24


陣崎 雅弘(慶應義塾大学医学部放射線科学教室)

慶應義塾大学では,キヤノンメディカルシステムズと立位CTの共同開発を行い,重力下の人体の可視化についての研究を進めている。本講演では,立位CT開発の経緯などを述べた上で,本研究の概要や成果を報告する。

■臥位CTの課題と立位CTの開発

CTは,1998年頃から多列化が進み,薄いスライスでの高速撮影が可能となったことで,人体の気道系,脈管系,消化器系,泌尿器系などの三次元画像が進化し普及していった。さらに,キヤノンメディカルシステムズの面検出器CTでは,16cm幅を1回転で撮影することで,三次元画像の経時的な撮影,すなわち四次元画像の取得が可能となった。同時に,低線量で撮影した画像の画質向上・ノイズ低減技術として逐次近似応用再構成が登場するなど,被ばく低減技術も進歩した。これらにより,被ばくの観点からも三次元画像を繰り返し取得できるようになり,四次元画像診断が可能となった。
一方,立位で症状が増悪あるいは顕在化する疾患や歩行機能などの評価は,臥位CTでは難しい。立位で撮影可能な一般撮影では横断像を取得できず,また,コーンビームCTや立位MRIではコントラストが不十分なほか,検査時間が長く,患者の負担が大きい。このように,立位で人間の解剖学的構造や病態生理を横断像で定量的に評価できる画像診断は,ほとんど存在しないのが現状である。
そこで,64列CTにて軀幹全体を20秒程度で撮影可能となっていた2012年,東芝メディカルシステムズ(現・キヤノンメディカルシステムズ)に立位CTプロジェクトを提案した。その後,2014年に機器開発に着手し,2016年に臨床機が完成,2017年には当院に第一号機を導入した(図1)。立位CTの撮影時間は,頭部が約4秒,軀幹部が約14秒であり,設置面積は臥位CTの2/3というメリットもあった。

図1 当院に導入された立位CTの第一号機

図1 当院に導入された立位CTの第一号機

 

■立位CTの基礎的検討

立位CTを導入後,基礎的検討として,性能評価,ワークフロー,安全性・快適性について検討した。
ファントムを用いた性能評価の結果,立位CTの空間分解能やノイズ特性,CT値などの物理特性は,従来の臥位CTと同等であった1)図2)。立位であっても,検出器が完全に水平に上下動することで,画質の劣化は認めなかった。また,立位CTでの撮影の場合,検査室への入退室時間が約40秒と,一般撮影と同様の撮影が可能であり,臥位CTでの撮影よりもワークフローが改善した1)。安全性については,撮影時の安定を保つために背中を支える柱を立て,転倒防止装置も設置されている。被検者に対して行った安全性・快適性に関するアンケートでは,5点満点中,平均で4点以上の高い評価が得られた1)

図2 立位CTの性能評価 (参考文献1)より引用改変)

図2 立位CTの性能評価
(参考文献1)より引用改変)

 

■立位CTの臨床応用

1.整形領域
図3は脊椎すべり症で,臥位では無症状であるが,立位では痛みを生じる症例である。整形外科医からは,立位CT画像を術前に確認することで,自信を持って治療部位の同定が可能であると高い評価が得られた。
変形性膝関節症の進行度は,Kellegren-Lawrence分類(K-L分類)で評価するが,早期の病態であるgrade1と2の区別は判定者によって異なり,客観性に乏しいことが問題とされている。そこで,臥位と立位のCTを撮影し,そのズレを見ることで早期の分類が可能か検討したところ,grade 1と2には明確な回旋の差があることが明らかとなった。回旋異常の状態を見ることで,早期の変形性膝関節症の検出が可能になると考えている。
また,われわれは,全身のCT画像から筋肉をセグメンテーションし,体積計測を行う仕組みを開発した。部位ごとの筋肉量を明確にすることで,患者ごとに最適な運動を提示することが可能となる。その際,立位にて自然な形状で筋肉を計測できることが,立位CTのメリットである。

図3 脊椎すべり症の術前評価

図3 脊椎すべり症の術前評価

 

2.骨盤底
骨盤底の位置は臥位と座位で変化しないとされ,また,立位で骨盤底を評価した研究は,これまでほとんど行われてこなかった。そこで,膀胱頸部と直腸肛門移行部をつなぐライン(PCL)の位置の変化を臥位と立位で比較した。その結果,立位では,膀胱頸部は健常例でも男性で6mm,女性で10mm降下することがわかってきた2)
図4は,下腹部違和感のある症例である。産婦人科の受診でも原因不明であったが,立位CTでは膀胱頸部が19.4mm下降しており,軽度の骨盤臓器脱があることが明らかとなった。
また,前立腺肥大は55歳以上の男性5人に1人で治療が必要とされている。排尿障害の症例において,立位CTにて前立腺尿道部の狭窄を認めた症例では,経尿道的前立腺切除術(TURP)によって症状が著明に改善した。一方,狭窄が軽度な症例ではTURP後に症状の改善はほぼ見られず,排尿障害の原因は膀胱の収縮能にあると考えられた。非侵襲的に排尿障害の原因を明確にできれば,適切な治療法の選択に寄与できるため,立位CTは有効であると考える。

図4 骨盤臓器脱(70歳代,女性)の早期診断

図4 骨盤臓器脱(70歳代,女性)の早期診断

 

3.循環器系(静脈)
静脈は体位によって径が変化することが知られているが,これまでに全身を系統的に評価されたことはなかった。健常例における臥位と立位のCT画像(図5 a,b)を比較したわれわれの検討では,立位では上大静脈径()が約80%縮小し,逆に下大静脈径は約37%増大した。また,横隔膜の高さでは,臥位と立位で静脈径は変わらず,変化率は部位によって異なることが明らかとなった1)。一方,心不全の患者では,立位でも上大静脈径があまり縮小しないため(図5 c→),静脈径の変化率は心不全の重症度と相関すると考えられた。
そこで,臥位および立位のCTで計測した上大静脈断面積と心臓カテーテル検査における右房圧との関係を検討したところ,AUC(Area Under the Curve)は立位CTで0.91,臥位CTでは0.78と,立位CTの方が良好に相関していた。立位CTにて右房圧をある程度推測することで,心臓カテーテル検査の一部を置換できれば,侵襲的検査の削減に貢献すると考える。
なお,頭蓋内の静脈径は臥位と座位で変化せず,頭蓋内の恒常性がいかに保たれているかの証左であると言える。一方,内頸・外頸静脈は座位で細くなるが,その分,椎骨静脈(叢)が太くなる3)。これによって頭蓋内の恒常性が保たれるという機序も,非常に興味深い。

図5 心不全の重症度判定への応用

図5 心不全の重症度判定への応用

 

4.呼吸器系
肺の容積は,臥位と比べ,座位・立位にて約10%大きくなる。各葉の容積変化率を見ると,いずれも約10%大きくなるが,中葉のみ変化しない,あるいは縮小することがわかってきた4)
現在,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより,世界的に肺機能検査が制限されていることから,われわれは座位・立位CTによる肺の容積変化率の計測が肺機能検査を代替可能であるか検討を行った5)。肺の容積変化率と,全肺気量,最大吸気量,機能的残気量との相関を調べたところ,機能的残気量は体位による変化を認めなかったが,全肺気量および最大吸気量は臥位CTと比較し,座位・立位CTの方が良好に相関した。座位・立位CTは,肺機能検査の代替指標になりうると考える。

■まとめ

CTはこれまで,生命予後を左右する器質的疾患の診断に用いられ,臥位CTでも十分な評価が可能であった。しかし,今後は,健康寿命の維持という視点から,慢性閉塞性肺疾患(COPD)や運動器(ロコモティブシンドローム)の評価など,機能的疾患の評価の重要性が高まっている。健康長寿をめざす社会の実現へ向け,立位CTが有用性を発揮すると考える。

* 記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。

●参考文献
1)Jinzaki, M., et al., Invest. Radiol., 55(2): 73-83, 2020.
2)Narita, K., et al., Int. Urogynecol. J., 31(11): 2387-2393, 2020.
3)Kosugi, K., et al., Sci. Rep., 10(1): 16623, 2020.
4)Yamada, Y., et al., Respiration, 99(7): 598-605, 2020.
5)Yamada, Y., et al., Sci. Rep., 10(1): 16203, 2020.

一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ TSX-401R
認証番号:229ADBZX00025000

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