キヤノンメディカルシステムズの「Aquilion Precision」は，面内・体軸方向共に2倍の高空間分解能を実現した高精細CTで，0.25mmスライス厚，2048マトリックスの画像によって解剖や病理像を反映させた詳細な情報の提供が可能である。本講演では，肺野領域におけるAquilion Precisionの有用性や定性診断能，定量診断能について，論文や現在進行中の研究などを中心に紹介する。

■高精細CTがもたらす空間分解能

図1は肺出血症例の伸展固定肺であるが，高精細CT（b）では従来CT（a）と比較し，細気管支やcrazy-paving appearanceと呼ばれる網状影が明瞭である^1）。従来CTでは確認が困難な粒状影や，径0.4〜0.5mmの終末細気管支から呼吸細気管支にかけても明瞭に視認することができる。
また，浸潤性肺癌の症例の高精細CT画像を拡大したところ，テクスチャを保ちつつ細気管支透亮像や病変内部の構造物を明瞭に確認可能であった。

図1　伸展固定肺の微細構造の描出
▼：ダークバンドアーチファクト
↑：細気管支
（参考文献1）より引用転載）

■空間分解能がもたらす定性診断能

1．肺結節の診断^2），3）
当院にて，高分解能の高精細CT画像（0.25mmスライス厚・2048マトリックス）を用いて，肺腺癌の病理学的浸潤成分の予測精度や診断能について検討を行った。本研究では，「膠原線維の増生やがん関連の線維化などによる細気管支の途絶」と「充実成分＞0.8cm」という2つの画像所見が病理学的浸潤成分の予測因子として重要であり，これらの画像所見を組み合わせることで，感度97％，特異度86％，AUC値0.94という高い診断能が得られることが明らかとなった^2）。
しかしながら，2048マトリックスではデータ量の多さが課題となる。そこで，0.5mmスライス厚・512マトリックスの画像と，2mmスライス厚・1024マトリックスの画像をデータ量と診断の観点から比較したところ，1024マトリックスの画像の方が気管支透亮像や胸膜陥入像，棘状突起を明瞭に描出でき，肺結節診断における有用性が示された^3）。

2．感染症（COVID-19）の診断^4）
高精細CTは，新型コロナウイルス感染症（COVID-19）肺炎の分布や特徴の評価に加え，局所的な肺容積減少の視覚化が可能なことが報告されている。実際の症例において高精細CTでは，気管支血管束に沿ったすりガラス均等影と気管支の拡張像が描出されたほか，局所的に拡張した肺野が確認でき，また，葉間胸膜部のcrazy-paving appearanceや病巣部の局所的な容積減少などが示された。

3．間質性肺炎^5）
肺骨化症と間質性肺炎の関連についてはいくつかの報告があり，肺骨化症は間質性肺炎の中でも特に特発性肺線維症で高頻度に発症するとされている。高精細CTでは微細な石灰化を明瞭に描出できるため，びまん性肺骨化症の検出における有用性が期待できる（図2）。

図2　間質性肺炎におけるびまん性肺骨化症の検出
（参考文献5）より引用転載）
Adaptive Iterative Dose Reduction 3D：AIDR 3D

■空間分解能がもたらす定量診断能

1．気道の評価^6），7）
高精細CT（0.25mmスライス厚・1024マトリックス）は，従来CT（0.5mmスライス厚・512マトリックス）と比較して気管支壁を明瞭に描出できるため，気管支径の計測値にも違いが生じる。また，volume rendering（VR）画像を作成すると，気管支が末梢枝まで明瞭に描出されるため，慢性閉塞性肺疾患（COPD）に対する気道定量や仮想気管支鏡検査に有用である^6）。
COPDの診断において重要な肺気腫や末梢気道（2mm未満）の評価における高精細CTの有用性も報告されている^7）。本論文では，右のB1とB10を対象に3〜6次気管支を評価した結果，COPDでは第6次気管支の総内腔断面積が気流制限を反映する有用なバイオマーカーになることが示された。

2．病理組織標本との直接比較：結節と気管支の解析^8）
われわれは，20個の伸展固定肺から得られた病理組織標本上の結節および気管支の見え方と，高精細CTおよび従来CT上の見え方を直接比較した研究を行った。高精細CTの画像は，512マトリックス，1024マトリックス，2048マトリックスの3種類とし，1024マトリックス画像にはキヤノンメディカルシステムズのDeep Learning Reconstruction（DLR）「Advanced intelligent Clear-IQ Engine（AiCE）」を適用した。これらの画像に対し，5段階の視覚評価を行い，簡易定量として組織標本とCT上の計測値との絶対誤差を算出した。
その結果，一定以上の大きさの結節の内部テクスチャは，従来CTに比べ，高精細CTの方が明瞭に視認できた。また，細気管支は，DLRを適用した1024マトリックス画像が最も明瞭であったが，2048マトリックス画像でも明瞭に描出されており，いずれも有用であると思われる。

3．肺がん診断：ラジオミクス解析（2D/3D）^9），10）
高精細CTのデータは，ラジオミクス解析にも影響を与えると考える。肺腺癌のmicropapillary patternやsolid patternは悪性度が高いと言われているが，当院にて高精細CT画像（1024マトリックス）を二次元的に定量し，内部のテクスチャ特徴量を計算したところ，悪性度を予測可能であった。従来CTの報告値（AUC値0.75）と比較すると，高精細CTのAUC値は0.902と高い値が得られた^9）。
さらに，われわれは，高精細CTを用いた3Dテクスチャ解析に関する多施設共同研究を行っている。高精細CTデータを解析可能な3D AI-basedソフトウエアを開発し，セグメント評価やヒストグラム解析，テクスチャ特徴量の自動検出を行ったところ，高精細CTでは従来CTと比較し診断能が有意に向上した^10）。高精細CTでは従来CTよりも良好なデータが得られるため，定量解析の精度が向上し，診断精度の向上につながったと考えられる。
このほか，肺がんの進展様式の一つであるSTAS（tumor spread through air space）について，CT画像から腫瘍の周囲環境を予測するとともに，3D AI-basedソフトウエアを応用して周囲環境を三次元的に定量化することで予後因子の特定などにも取り組んでいる^11）。

4．Precise IQ Engine（PIQE）
今後，期待される技術に，キヤノンメディカルシステムズの「Precise IQ Engine（PIQE）」がある。Aquilion ONEに搭載されているPIQEは，ディープラーニングを応用した超解像画像再構成技術で，Aquilion Precisionのデータを教師とし，MBIR（Model Based Iterative Reconstruction）やDLRを教師データに適用しているため，空間分解能が高く，かつ優れたノイズ低減効果を有し，粒状性を維持することができる（図3）。現状，実装されているのは心臓の再構成関数（PIQE Cardiac）のみであるが，縦隔条件の画像にPIQE Cardiacを適用したところ，左房壁や心筋などにほぼノイズを認めず，視覚的，定量的な評価における有用性が期待される。

図3　PIQEによる画質改善効果

■まとめ

高精細CTは，高い空間分解能によって，画質向上はもとより，形態評価における診断能向上，およびテクスチャ解析やAI解析を含めた定量解析を用いた診断能の向上に有用である。さらに，キヤノンメディカルシステムズでは現在，高空間分解能に加えスペクトラル解析も可能なPhotonCounting CTの開発が進められており，早期の臨床導入を期待したい。

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＊AiCE，PIQEは画像再構成処理の設計段階でAI技術を用いており，本システム自体に自己学習機能は有しておりません。

^{●参考文献
1）Yanagawa, M., et al., Eur. Radiol., 28（12） : 5060-5068, 2018.
2）Yanagawa, M., et al., Radiology, 297（2）: 462-471, 2020.
3）Tsubamoto, M., et al., Eur. J. Radiol., 128 : 109033, 2020.
4）Iwasawa, T., et al., Jpn. J. Radiol., 38（5）: 394-398, 2020.
5）Hata, A., et al., Sci. Rep., 11（1）: 15119, 2021.
6）Morita, Y., et al., JIR., 38 : 953-959, 2020.
7）Tanabe, N., et al., Eur. J. Radiol., 120 : 108687, 2019.
8）Hata, A., et al., RSNA2023 accepted.
9）Ninomiya, K., Yanagawa, M., et al., JRS 2022.
10）Yanagawa, M., et al., RSNA2023 accepted.
11）Kadota, K., et al., J. Thorac. Oncol., 10（5）: 806-814, 2015.}

一般的名称：全身用X線CT診断装置
販売名：CTスキャナ Aquilion Precision TSX-304A
認証番号：228ACBZX00019000

一般的名称：全身用X線CT診断装置
販売名：CTスキャナ Aquilion ONE TSX-305A
認証番号：227ADBZX00178000

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