新たなディープラーニング再構成CLEAR Motionがもたらす心臓CT技術の躍進
山口 隆義(華岡青洲記念病院 放射線技術部)
CT Session
2025-5-25

華岡青洲記念病院では,2016年の開院時に「Aquilion ONE / GENESIS Edition」,2019年に「Aquilion ONE / PRISM Edition」,2024年11月に「Aquilion ONE / INSIGHT Edition」(いずれもキヤノンメディカルシステムズ製)を導入し,現在,3台の320列CT(Area Detector CT:ADCT)を用いて心臓CT検査を行っている。本講演では,Aquilion ONE / INSIGHT Editionを中心に,心臓CTの課題解決に寄与する技術的アプローチについて報告する。
心臓CTの課題解決に寄与する技術的アプローチ
160mmの検出器幅を有し,1心拍で心臓全体をカバーできるADCTは,不整脈のある症例にも有効であることが知られているが,高石灰化病変やステント内腔の描出にはさらなる空間分解能の向上が求められる。その課題解決に寄与する技術的なアプローチとして,ここではAquilion ONE / INSIGHT Editionで可能な超解像画像再構成技術「Precise IQ Engine(PIQE)」の1024マトリクス画像の有用性とmotion correctionについて取り上げる。
1.PIQE 1024マトリクスの有用性
臨症例において,「Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)」の512マトリクス,PIQEの512マトリクス,PIQEの1024マトリクス(1K)の画像を拡大して比較したところ,ステント,石灰化共に1K画像が最もボケが少なく明瞭に描出されていた(図1)。われわれは,冠動脈病変部位では拡大画像を積極的に作成しているため,元画像となるボリュームデータは1Kを基本としている。

図1 1K画像の有用性
AiCEの512マトリクスと1K画像のみ提示
2.Motion correction
冠動脈CTにおいてモーションアーチファクトは大敵であり,特に高心拍症例においては時間分解能が重要となる。時間分解能を向上する手法の一つにガントリ回転速度の高速化があり,Aquilion ONE / INSIGHT Editionでは,1世代前の0.275s/rot から0.24s/rotへと高速化された。図2は,心拍数68bpm,心位相77%,1心拍のハーフ再構成で撮影された症例の画像である。0.275s/rotではセグメント2から3にモーションアーチファクトを認めるが,0.24s/rotではブレのない画像が得られている。
一方,物理的なガントリ回転速度の高速化には限度がある。その解決策として期待されているのがmotion correctionアルゴリズムである。キヤノンメディカルシステムズの心臓の動き補正技術である「CLEAR Motion(Cardiac)」は,1心拍のハーフ再構成分の投影データに対しDeep Learningを用いて高精度なモーション推定を行うことで,モーションアーチファクトを低減した画像を取得できる。図3は心拍数83bpmときわめて高心拍な症例で,拡張期では評価できなかったため,収縮期の47%が選択されている。ハーフ再構成(図3 a)では三枝ともにモーションアーチファクトによって評価困難で,セグメント再構成の3ビートの画像(b)でもRCAのアーチファクトは改善されなかったが,CLEAR Motion(Cardiac)(c)ではすべての枝で評価可能な画像が得られた。
われわれは,画質をスコア化し,各心拍数群間での画質について,ハーフ再構成,CLEAR Motion(Cardiac),セグメント再構成を比較したところ,CLEAR Motion(Cardiac)では80bpmでも診断に十分な画像が得られるとの結果であった。また,各心拍数群別における各画像再構成法の画質の比較では,56bpm以上の心拍数群ではCLEAR Motion(Cardiac)の画質が最も良好であった。
なお,各心拍数群にて選択された心位相は,0.275s/rotの従来の再構成法では心拍数70bpm以上,0.24s/rotのCLEAR Motion(Cardiac)では心拍数76 bpm以上で収縮期の割合が増加する。そのような症例では,従来は複数心拍でのセグメント再構成が必要であったが,CLEAR Motion(Cardiac)では1心拍のデータでの再構成が可能であり,また,75bpmまでは拡張期のみのデータで再構成できるため,冠動脈CTのさらなる被ばく低減が可能になると考える。さらに,CLEAR Motion(Cardiac)は,画像再構成の選択画面でプルダウンのメニューから簡単に選択できるため,ワークフローに取り入れやすいことも特長である。

図2 0.275s/rotと0.24s/rotにおける画像の比較

図3 高心拍症例におけるCLEAR Motion(Cardiac)の効果
RCA:右冠動脈,LAD:左前下行枝,LCX:左回旋枝
0.275秒回転でのCLEAR Motion(Cardiac)の適用
当院では2025年2月,Aquilion ONE / PRISM Edition(ガントリ回転速度0.275s/rot)をバージョンアップし,CLEAR Motion(Cardiac)の使用が可能となった。図4は実際の画像であるが,心拍数73bpm,心位相75%で,小焦点撮影を行っている。RCAに石灰化があり,ハーフ再構成,セグメント再構成共にモーションアーチファクトによって評価困難であったが,CLEAR Motion(Cardiac)では拡張期でもアーチファクトが抑制され,高度狭窄病変が明瞭に描出された(図4 a)。また,LADに留置された2.5mmステントの内腔の高度狭窄も明瞭に描出されている(図4 b)。

図4 Aquilion ONE / PRISM Editionバージョンアップ後のCLEAR Motion(Cardiac)の画像例
まとめ
1K画像によって,さらに質の高い解析画像の提供が可能となる。また,CLEAR Motion(Cardiac)は,モーションアーチファクトを高度に抑制し,1心拍のハーフ再構成でこれまで以上の画質が得られる再構成法である。
*記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
*本記事中のAI 技術については設計の段階で用いたものであり,本システムが自己学習することはありません。
一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion ONE TSX-308A
認証番号:305ACBZX00005000
一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion ONE TSX-306A
認証番号:301ADBZX00028000
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