上腹部領域におけるECV mapの有用性 
〜SURESubtraction Iodine Mapping vs Spectral Imaging System〜 
吉満 研吾(福岡大学医学部 放射線医学教室)
CT Session

2025-6-25


吉満 研吾(福岡大学医学部 放射線医学教室)

福岡大学病院では,2024年よりキヤノンメディカルシステムズのArea Detector CT(ADCT)「Aquilion ONE / INSIGHT Edition」が稼働し,定性的に優れた明瞭な画像を日々の診断に活用している。当科では以前より細胞外容積分画(extracellular volume fraction:ECV)の研究を行っており,今回,Aquilion ONE / INSIGHT Editionの定量性をECVを用いて検討したので,その結果を報告する。

線維化(間質)指標としてのECV

ECVとは,造影剤の分布から組織における細胞外液腔の容積比を評価するもので,肝臓においては一般的に線維化の指標として用いられる。細胞外液腔には線維化が生じる細胞外血管外腔(EES)だけでなく血管内腔(IVS)も含まれるため,線維化(間質腔)の指標としては厳密とは言えないが,利便性が高い。CTまたはMRIを用いて,平衡相と単純相で差分した肝臓と大動脈の濃度差をヘマトクリット値で補正する簡単な式で算出できる。
肝線維化診断でゴールドスタンダードであるMRエラストグラフィ(MRE)は,波長から直接的に硬度を判定するためECVよりも高い精度を有するが,波の伝搬が良い部位の測定に限られ,特殊なMR機器が必要である。一方,ECVは基本的にどこでも測定でき,通常の検査データからもレトロスペクティブに計算できる。そのため,MREは個人の全体的肝線維化程度の評価に適しており,ECVは細かい部位の評価や同一個人の経時的変化・部位比較の簡易指標として活用できるだろう。ECVはMRI検査不可の症例も評価可能であり,MREとECVは相補的な役割を担うことができる。
ECV mapは「間質強調画像」であり,線維化に限らず間質(細胞外液腔)が広がる状態を反映し,種々の臓器の慢性疾患や慢性的状況の指標となると考えている。ECVの応用に当たっては,平衡相のdelay timeや造影剤の種類,使用モダリティ,算出方法など,さまざまな要因を考慮する必要がある。

当科でのECVの臨床応用

当科では,2015年よりキヤノンメディカルシステムズと共同でCTによるECVの研究に取り組んできた。当初は,主に「Adaptive Iterative Dose Reduction 3D(AIDR 3D)」の画像を用いたサブトラクション法で解析を行っていた。サブトラクション画像の作成にはリサーチPCの専用サブトラクション機能を用いていたが,その機能が「SURESubtraction Iodine Mapping」として製品化されてからはCTコンソールで作成が可能となった。最終的にリサーチPCでECV mapを作成し,さまざまな臓器や疾患に対して検証を進めてきた。
当科からは,ECVは肝の線維化診断において十分な診断能があること1)や,破裂の可能性がある胃食道静脈瘤の予測因子として脾ECVが有用であること2),肝臓がん(HCC)における平衡相washoutの規定因子となること3)などを報告している。また,C型肝炎の線維化の進展形式4)や,アルコール性肝障害に見られる胆囊窩結節の構造や経時的な変化についてもECVで示すことができた5),6)。さらに,膵頭十二指腸切除後にしばしば発生する膵液瘻の予測因子としても膵ECVが有用であることを報告した7)
ECVでは平衡相のdelay timeが検討課題の一つで,一般的に3分としていることが多いが,delay time 3分は厳密には平衡相ではないと考え,当科は4分で行っている。delay time 4分としている当科の検討では,中等度(F2)以上の線維化における診断能はAUC 0.8以上である1),8)。症例数が少なく過大評価の可能性も否めないが,delay time 3分で行っている主な論文よりも高い診断能が得られている。
CTによるECV map作成には,前述のサブトラクション法とdual energy CT(DECT)によるヨード密度画像を用いた方法(DECT-IM法)があるが,それぞれ長所・短所がある8)。サブトラクション法は汎用性が高く,低ノイズ(高画質)の画像が得られるが,単純相と平衡相の撮影により被ばくが増加し,位置合わせなどの3D補正が必要である。一方,ヨード密度画像は,理論的には平衡相のみで算出できるためサブトラクション法で起きうる位置ズレは生じないが,ノイズの多い画像となる。また,2物質弁別(水-ヨード)はすべての物質が水とヨードから成ると仮定するため,原理的に不正確性をはらんでいる。
これまでに同一データに対してサブトラクション法とDECT-IM法で計測を行い,直接比較する研究は報告されていないため,当科にてAquilion ONE / INSIGHT Editionを用いて検討を行った。

Aquilion ONE / INSIGHT Editionにおける各種ECV

Aquilion ONE / INSIGHT Editionでは,超解像画像再構成技術「Precise IQ Engine(PIQE)」やSpectral Scanを利用できる。高画質CTAなどで大きな効果が得られるPIQEは,ECV mapへの適用においても高画質が得られると期待される。同一データをAIDR 3DとPIQEで再構成し,SURESubtraction Iodine Mappingで作成したサブトラクション画像を比較すると,PIQEではノイズが大幅に低減した高画質画像が得られ,SDも約2倍の差があることがわかる(図1)。また,Spectral Scanは,Rapid kV Switchingにより80kVと135kVを1ms以下の短時間で切り替えながら撮影し,Deep Learningを用いてsparseを復元,画質改善をする技術であり,これを用いてDECT-IM法によるECV map作成を行っている。
当科では,ルーチンの上腹部プロトコールの最後に平衡相でDECTを追加撮影しているため,レトロスペクティブにサブトラクション法とDECT-IM法でECV map作成,計測ができる。サブトラクション法に関しては,SURESubtraction Iodine Mappingを用いた手法に加え,新しいワークステーション「Abierto Vision」に実装されているサブトラクション機能も利用できる。このAbierto Visionのサブトラクション機能は,線形・非線形位置合わせを併用して補正し,差分する方法で,約30秒で計測可能である。複数のアルゴリズムから選択でき,部位用設定がなく汎用性が高い。これら2つのサブトラクション法,およびDECT-IM法の3つの手法で計測したECVの相関を調べた。
まず,同一データ(AIDR 3D,SURESubtraction Iodine Maapingのサブトラクション画像)を用いてリサーチ版(リサーチPC)と製品版(Abierto Vision)それぞれのECV計測値の相関を検証したところ,級内相関係数(ICC)は1と完全に一致した。次に,同一データ(PIQE)に対するSURESubtraction Iodine MappingとAbierto Visionのサブトラクション機能の相関を検証した。差分画像のCT値の相関はICC 0.784であったが,ECV値(外れ値除外)の相関はICCが約0.99と非常に高い一致を示した(図2)。ECV画像を比較すると,Abierto Visionのサブトラクション機能の方がエッジが抑制された画像となっており(図3),これは周囲の複数ボクセルをアベレージングする工夫が影響していると考えられる。
一方,サブトラクション法とDECT-IM法を比較するため,SURESubtraction Iodine MappingとSpectral iodine mapの相関を調べたが,SURESubtraction Iodine Mapping(PIQE)の差分画像のCT値とSpectral iodine mapのヨード密度は,R2が0.45と中程度の相関しか得られなかった。ECV値の相関も,外れ値を除外してもICCは約0.5,R2は約0.3であった(図4)。今後は,スキャンや再構成パラメータについて,さらなる検討を行っていきたいと考えている。

図1 AIDR 3DとPIQEのECV mapの比較

図1 AIDR 3DとPIQEのECV mapの比較

 

図2 2つのサブトラクション法のECV値の相関

図2 2つのサブトラクション法のECV値の相関

 

図3 図2のサブトラクション法におけるECV画像の比較(非B非C型肝細胞がん)

図3 図2のサブトラクション法におけるECV画像の比較(非B非C型肝細胞がん)

 

図4 サブトラクション法とDECT-IM法のECV値の相関

図4 サブトラクション法とDECT-IM法のECV値の相関

 

まとめ

検討の結果,同一データを用いた場合のリサーチ版と製品版のECV値はほぼ同等で,まったく同様に用いることができると確認できた。また,PIQEに対するSURESubtraction Iodine MappingとAbierto Visionのサブトラクション機能のECV値は高率に一致し,高い互換性を有していた。一方で,サブトラクション法とDECT-IM法のECV値には有意な相関はあるものの,現状では互換性は不十分である。今後,各種パラメータの最適化やヨード(-血液)密度画像を用いることで改善する余地はあると考える。
より簡便に正確なECV mapが得られるようになれば,さらなる臨床応用が広がると期待される。

*記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
*本記事中のAI技術については設計の段階で用いたものであり,本システムが自己学習することはありません。

●参考文献
1)Shinagawa, Y., Yoshimitsu, K., et al., Eur. J. Radiol., 103:99-104, 2018.
2)Tani, T., Yoshimitsu, K., et al., Eur. J. Radiol., doi: 10.1016/j.ejrad.2021.109924, 2021.
3)Sakamoto, K., Yoshimitsu, K., et al., Jpn. J. Radiol., 40(11):1148-1155, 2022.
4)Hisatomi, E., Yoshimitsu, K., et al., Eur. J. Radiol., doi: 10.1016/j.ejrad.2024.111845, 2024.
5)Sato, K., Yoshimitsu, K., et al., Glob. Health Med., 6(3):183-189, 2024.
6)Sato, K., Yoshimitsu, K., et al., Jpn. J. Radiol., doi: 10.1007/s11604-025-01741-5, 2025(Epub ahead of print).
7)Sasaki, T., et al., Pancreatology, 25(1):153-159, 2025.
8)Ito, E., Yoshimitsu, K., et al., Jpn. J. Radiol., 38(4):365-373, 2020.

一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion ONE TSX-308A
認証番号:305ACBZX00005000

一般的名称:汎用画像診断装置ワークステーション用プログラム
販売名:汎用画像診断ワークステーション用プログラム Abierto Vision AVP-001A
認証番号:22000BZX00379000


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