骨経時差分処理アプリケーションの活用による読影精度の向上と業務支援 
佐野 優子(京都第一赤十字病院 放射線診断科)
HIT Session

2025-6-25


佐野 優子(京都第一赤十字病院 放射線診断科)

当院がキヤノンメディカルシステムズの骨経時差分処理アプリケーション「Temporal Subtraction For Bone」(以下,TSB)を導入して約半年が経過した。本講演では,骨転移の読影の課題とTSBの概要,TSBが有用であった症例を中心に概説する。

骨転移の読影の重要性と課題

『骨転移診療ガイドライン改定第2版』では,「骨転移はすべてのがんで遭遇する可能性があり,担がん患者の画像診断では常に注意を払う必要がある」とされている。骨転移の頻度は,米国の大規模疫学研究では約4.6%と報告され,脊椎(特に胸腰椎),大腿骨,骨盤骨,肋骨に好発,幅広い原発巣から骨転移することが知られている。
担がん患者の読影では,CT画像での治療効果判定や術後フォローアップが多いが,原発巣やリンパ節のサイズ変化および肺や肝臓への転移などの評価も必要で,骨の読影に多くの時間を割けないのが現状である。脊椎以外にも骨盤,大腿骨,肋骨までカバーすることは容易ではなく,読影医にとっては常に見落としの不安を払拭できない。また,当院には血液内科があり,多発性骨髄腫などの全身骨スクリーニングCTの読影に労力を要する。まれではあるが胆石症などの良性病変に偶発的に骨転移が見つかる症例も経験している。
骨転移は,初回診察時には27〜60%が無症状であると報告されており,症状があっても痛み,しびれなど脊椎や関節の変性による症状と類似していることも多く,画像診断が重要な役割を担う。骨転移による脊髄圧迫の症状に対して緊急の放射線照射,手術が必要なケースもあり,早期診断が重要となる。
また,昨今の働き方改革による残業時間制限や病院全体でのデジタルトランスフォーメーション(DX)化の推進,医療安全意識の高まりなどもあり,読影支援AIアプリケーションは必須のツールと考えられる。

TSBの導入の経緯とシステムの概要

当院では,2024年9月に画像診断管理加算3を取得した。画像診断管理加算3および4の施設基準の要件では,AI技術を用いた画像診断補助ソフトウエアにかかる精度管理の体制が含まれており,読影支援AIアプリケーションの導入が求められている。当院ではすでに肺領域の読影支援AIが導入されており,それに加えて今回TSBの導入に至った。
TSBは,キヤノンメディカルシステムズのAIプラットフォームである「Abierto Reading Support Solution」の搭載アプリケーションの一つである。当院では,「Aquilion ONE / PRISM Edition」など3台のCTのデータをPACSに送信し,そのうち胸部,腹部,骨盤など体幹部のCT画像をAI解析サーバ「Automation Platform」に転送している。解析サーバでは自動で過去画像を取得してTSBの処理を行い,結果は専用ビューワである「Findings Workflow」で参照する。Findings Workflowでは,3D画像で正面,背面,側面を切り替えて全体を把握できるほか,今回,過去,サブトラクション,フュージョンの2D画像で詳細な観察が行える。TSBの解析結果は,現在画像と過去画像の差分からCT値の増減をカラーマップで表示し,青色がCT値上昇(造骨疑い),赤色がCT値低下(溶骨疑い)となる。また,肋骨および脊椎のナンバリングも表示され,読影時の効率化を支援してくれる。読影時には,PACSビューワから右クリックメニューでFindings Workflowを選択して呼び出すことができる。

TSBが有用であった症例

●症例1:60歳代,男性,腎盂がん
腎盂がん,多発肺転移の症例で,胸椎(Th12)転移に対して化学療法を施行中である。TSBにて,Th12は治療効果によって造骨となっていることが確認できた。さらに,左第5および第10肋骨にも,溶骨性の転移が治療効果によって縮小し硬化した微小な病変がTSBにてとらえられていた(図1  )。TSBの精度の高い位置合わせ技術を反映したものと考えられた。

図1 症例1:60歳代,男性,腎盂がん,左肋骨転移(第10肋骨)

図1 症例1:60歳代,男性,腎盂がん,左肋骨転移(第10肋骨)

 

●症例2:60歳代,女性,胆囊がん
胆囊がんの化学療法中の症例。肝実質に浸潤する大きな進行がんで,1か月経過時に脊柱管内に拡大する多発転移を認めた。レトロスペクティブに見ると前回のCT画像でも転移は確認できたが,その時点での指摘は難しかったと考えられ,TSBの有用性が感じられた。図2は右坐骨結節への転移で,TSBでは溶骨像が指摘されている()。通常の読影では,坐骨底部の病変は見落とされるリスクがあり,TSBの有用性を示す症例である。

図2 症例2:60歳代,女性,胆囊がん,右坐骨結節への転移

図2 症例2:60歳代,女性,胆囊がん,右坐骨結節への転移

 

●症例3:80歳代,男性,肺がん
左下葉肺がんの化学療法中の症例。胸椎(Th5,10,12),左第5肋骨,右腸骨に硬化性転移を認める。肩関節はTSBではミスレジストレーションが起きやすい部位で,3D画像でもしばしば異常信号が出る。過去と現在の比較では骨の硬化性変化の増大を認め,左肩甲骨の骨転移を診断できた(図3 )。患者は背部痛や肩関節痛を訴えていたため,胸椎ならびに左肩甲骨の転移に対して緊急の放射線照射(RT)を行ったところ,背部痛は消失し,患者のQOL向上に貢献できた。

図3 症例3:80歳代,男性,肺がん,左肩甲骨骨転移

図3 症例3:80歳代,男性,肺がん,左肩甲骨骨転移

 

●症例4:70歳代,女性,乳がん化学療法中
乳がん化学療法中に主治医から骨転移の変化の読影依頼があった症例。従来は,3Dワークステーションで矢状断像を作成し,過去画像との変化を一つひとつ比較していたため,非常に時間がかかっていた。TSBでは全体を俯瞰して明らかな造骨や溶骨像がないことが確認でき,短時間で多発骨転移に著変なしと診断できた(図4)。

図4 症例4:70歳代,女性,乳がん化学療法中

図4 症例4:70歳代,女性,乳がん化学療法中

 

●症例5:60歳代,男性,前立腺がん
前立腺がんの症例。胆石症の術前MRCPで骨の異常信号を認め,1か月前に撮影したCT画像を確認したところ,多発性の骨硬化性転移を認めた。改めてTSBにて解析を行ったところ,左肋骨を含む多発性の骨転移が描出された(図5)。TSBでは,ナンバリング機能によって肋骨や椎体の番号が表示されるため,局在を容易に把握することができる。

図5 症例5:60歳代,男性,前立腺がん,多発骨転移

図5 症例5:60歳代,男性,前立腺がん,多発骨転移

 

TSBの利点と課題

TSBの利点としては,粗大な骨転移の見落としを防ぐことができる,微小な骨転移の検出が可能,骨転移の変化を客観的に評価でき多発性転移の治療効果判定に有用,良性症例における予期せぬ骨転移の発現を検出できる,新規の圧迫骨折・肋骨骨折,脆弱性骨折を検出できる,などが挙がる。
一方,差分画像のため初回の検査では評価できないことや,対象が体幹部のみであること,多発骨病変があっても変化がない場合には検出できないこと,偽病変としてミスレジストレーションや造影剤を検出することがあること,などが課題として挙がり,読影時に注意を要する。

まとめ

TSBを用いることで,これまで読影で難渋してきた多発骨病変の治療効果や新規病変の検出が容易となり,有用性が高いと考える。粗大骨病変の見落としを防止できるため,読影医の心理的安全性も大きい。さらに,精度の高い位置合わせ技術により微小転移の検出に優れ,診断精度の向上に寄与すると考える。
画像診断管理加算3,4の算定要件でもあるAI安全精度管理は,放射線科のDX化をさらに促進し業務効率化に寄与するため,TSBなどの読影支援AIアプリケーションの積極的な活用が望まれる。

*記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
*システムによる検出結果のみで病変のスクリーニングや確定診断を行うことは目的としておりません。
*AIは設計段階で用いられており,自己学習機能はありません。

一般的名称:汎用画像診断装置ワークステーション用プログラム
販売名:汎用画像診断ワークステーション用プログラム Abierto SCAI-1AP
認証番号:302ABBZX00004000

 

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