Vantage Galan 3T / Supreme Editionが拓く画像診断の新たな可能性 
小澤 良之(藤田医科大学医学部 放射線診断学)
MRI Session

2025-6-25


小澤 良之(藤田医科大学医学部 放射線診断学)

キヤノンメディカルシステムズの新しい3T MRIである「Vantage Galan 3T / Supreme Edition」は,自社製マグネットの搭載により磁場均一性が向上したほか,新規ソフトウエアであるV10.0が搭載された。本講演では,自社製マグネットがもたらす有用性と,新規ソフトウエアにおける超解像画像再構成技術「Precise IQ Engine(PIQE)」の適用範囲の拡大,およびFOVを絞った高分解能拡散強調画像(DWI)の撮像が可能な「Zoom DWI」の特長を中心に報告する。

自社製マグネットによる磁場均一性の向上

自社開発された3T静磁場マグネットは,従来のマグネットと比較して30cm DSV(diameter of spherical volume)が0.2ppmから0.05ppmへ,40cm DSVが1.2ppmから0.49ppmへと改善し,磁場均一性が大幅に向上している。また,最大FOVも従来の50×50×45cmから,55×55×50cmへと拡大し,4 stationで撮像していた範囲を3 stationで撮像できるようになった。さらに,傾斜磁場コイルやプラットフォームも一新されている。傾斜磁場コイルを支える部材の配置を並列からクロスパターンに変更したことで,寝台の振動を最大79%低減したほか,実効Gmaxは従来比107%,実効スリューレートは従来比110%に改善し,ベースとなる画質が向上した。これにより,従来機種と同一撮像条件・撮像時間でも,Vantage Galan 3T / Supreme Editionの方が明瞭な画像が得られる。

PIQEの適用範囲の拡大

1.PIQEの原理
PIQEは,低SNR・低分解能の画像を高SNR・高分解能の画像として出力する技術である。Deep Learningを用いてdenoiseとsuper resolutionの2段階でトレーニングを行い,super resolutionの部分ではzero-fill interpolation(ZIP)処理で課題となっていたボケやリンギングアーチファクトを最適化することで,高SNR・高分解能の画像の出力が可能となる。
図1は脳下垂体のラトケ囊胞症例であるが,元画像(a)と比較しPIQEを適用した画像(b)では,マトリクスを256×256から768×768に上げたことで下垂体の構造や下垂体柄,囊胞の辺縁などが鮮明となり,画質が大幅に向上している。

図1 PIQEによるfast spin echo(FSE) 2D画像の画質向上(ラトケ囊胞)

図1 PIQEによるfast spin echo(FSE) 2D画像の画質向上(ラトケ囊胞)

 

2.2D撮像での適用範囲の拡大
PIQEはソフトウエアV10.0において,2D撮像での適用範囲が拡大した。従来はFSEのみに対応していたが,fast advanced spin echo(FASE),echo planar imaging(EPI)など,2Dのほぼすべてのシーケンスに対応している。
一般的に拡散強調画像(DWI)の撮像にはEPIが用いられるが,EPIは位相エンコード方向の画像歪みが生じやすい。その歪みを補正する技術として「Reverse encoding Distortion Correction DWI(RDC DWI)」がある。RDC DWIは,forwardとreverseのb0画像からシフトマップを推定し,さらに,b0シフトマップを初期値としてforwardとreverseの各MPG画像から同様にシフトマップを推定することで,b0不均一とMPGパルスによる渦から生じる歪みを補正する技術であるが,このRDC DWIにPIQEを適用することが可能となった。図2は,前立腺がん症例である。従来のDWI(図2 a)と比較し,PIQEを適用したRDC DWI(b)では歪みが少なく,空間分解能も向上しており,診断しやすい画像となっている。
次に,FASEにPIQEを適用した例を提示する。図3は,横行結腸がん術後の多発肝転移症例である。呼吸同期FSE T2強調画像(T2WI)では,呼吸状態が悪いとモーションアーチファクトが生じてしまう(図3 a)。PIQEを適用することで,FASEの時間短縮という特長を保ったまま高分解能化が可能となり,モーションアーチファクトのない明瞭な画像が得られている(図3 b)。

図2 PIQEの適用拡大:RDC DWIの画質向上(前立腺がん)

図2 PIQEの適用拡大:RDC DWIの画質向上(前立腺がん)

 

図3 PIQEの適用拡大:FASEの画質向上(横行結腸がん術後の多発肝転移)

図3 PIQEの適用拡大:FASEの画質向上
(横行結腸がん術後の多発肝転移)

 

DWIにおける小FOV撮像を可能とするZoom DWI

Zoom DWIは,励起パルスを再収束パルスに対して特定の角度だけ回転させることで,PE方向の折り返しアーチファクトのない撮像を行い,FOVを絞ることでEPI由来の歪みを低減する技術である。これにより,FOVを絞った高分解能DWIの取得が可能となる。
図4は,膵頭部がんの症例である。従来のDWI(図4 a)と比較し,PIQEを適用したZoom DWI(b)では分解能が1mmから0.3mmに向上しており,膵臓の構造や胆囊壁の肥厚も明瞭に描出されている。
図5は,ステージⅠ子宮体がんの症例である。従来のDWIと比較し,PIQEを適用したZoom DWIでは分解能が0.5mmから0.3mmに向上し,歪みがかなり補正され,筋層が明瞭に描出されている(図5 a,b左)。また,ADCマップの画質も向上しており,子宮筋層への浸潤評価がしやすくなっている(図5 a,b右)。

図4 PIQE × Zoom DWIの適用例(膵頭部がん)

図4 PIQE × Zoom DWIの適用例(膵頭部がん)

 

図5 PIQE × Zoom DWIの適用例(ステージⅠ子宮体がん)

図5 PIQE × Zoom DWIの適用例(ステージⅠ子宮体がん)

 

胸部MRIにおけるさまざまな撮像

1.PIQEを適用したFASEおよびZoom DWIの有用性
図6は,胸腺がん症例におけるFASEのBlack-Blood法を用いたSTIR,T2WI,T1強調画像(T1WI)である。元画像(図6 a)と比較し,PIQEを適用した画像(b)では腫瘍の辺縁や内部の性状が明瞭に描出されている。縦隔腫瘍では,近傍にある心膜や肺などの構造物への浸潤の評価が重要であるため,高分解能な画像が得られるPIQEの有用性は高い。また,図7図6と同一症例であるが,PIQEを適用したZoom DWI(b)ではより歪みが補正され,明瞭な画像が得られている。

図6 PIQE × FASEによる胸腺がんの描出

図6 PIQE × FASEによる胸腺がんの描出

 

図7 PIQE × Zoom DWIによる胸腺がんの描出(図6と同一症例)

図7 PIQE × Zoom DWIによる胸腺がんの描出(図6と同一症例)

 

2.UTE CG Reconの有用性
「Conjugate Gradient method-based Reconstruction(CG Recon)」は,ラジアルサンプリングであるUTEの画質向上技術である。通常,Grid-Reconではラジアルサンプリングにおける消失データの推定精度が低く,画質が低下する。これに対し,CG Reconは反復推定を行うことで推定精度が改善するため,UTEの描出能向上に寄与する。
図8は間質性肺炎症例のUTE画像で,両側の下葉優位にすりガラス陰影を認める。CG Reconを適用した画像(図8 c)では,スポーク数と撮像時間が半減しているにもかかわらず,間質性肺炎がより明瞭に描出されている。

図8 UTE CG Reconによる間質性肺炎の描出

図8 UTE CG Reconによる間質性肺炎の描出

 

まとめ

Vantage Galan 3T / Supreme Editionは,自社製マグネットによって磁場均一性が向上し,ベースとなる画質の向上やFOVの拡大に寄与している。また,PIQEの適用シーケンスが拡大されたほか,Zoom DWIなどの有用な技術が多数搭載されている。これらによって,Vantage Galan 3T / Supreme Editionでは,MRI検査時間短縮による患者負担軽減や,検査効率の向上,画質向上による診断精度の向上などが可能になると期待される。

*記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
*本記事中のAI技術については設計の段階で用いたものであり,本システムが自己学習することはありません。

一般的名称:超電導磁石式全身用MR装置
販売名:MR装置 Vantage Galan 3T MRT-3020
認証番号:228ADBZX00066000

 

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