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MRS,MRIを用いた脳機能代謝評価の臨床有用性について 
原田 雅史(徳島大学大学院医歯薬学研究部放射線医学分野教授)
第4回 Hi Advanced MRセミナー ●講演

2017-9-25


原田 雅史(徳島大学大学院医歯薬学研究部放射線医学分野教授)

日本脳卒中学会と日本循環器学会は共同で「脳卒中と循環器病克服5カ年計画」を策定し,2016年12月に厚生労働省にて発表した。脳卒中と循環器病(心不全,血管病)による年齢調整死亡率を5年間で5%減少させ,健康寿命を延伸させることを目標とし,人材育成,医療体制の充実,登録事業の推進,予防・国民への啓発,臨床・基礎研究の強化の5つの戦略を掲げている。当院では,24時間体制で急性期脳卒中患者を受け入れる脳卒中センターを開設し,MRIを第一選択とする診断を行っている。2017年3月には,脱着式寝台を必須要件として日立製作所社製3T MRI「TRILLIUM OVAL」を導入した。本講演では,当院脳卒中センターにおけるMRIの応用を中心に,主に脳機能代謝の臨床評価における注意点などについて解説する。

MRIを用いた脳機能評価

●脳卒中急性期におけるMRI応用例
2017年2月に当センターに救急搬送された77歳,女性の症例を紹介する。所見は,右上下肢麻痺,MMT 1/5,運動性失語,右顔面神経麻痺,NIHSS 19点。来院30分以内でMRIを施行し,左中大脳動脈起始部に閉塞が認められたため,rt-PA静注開始後,IVRにて血栓回収術を施行した。
図1に,治療前後のMR画像を示す。治療前(図1a)の拡散強調画像(DWI)では目立った異常は認められないが,ASL(非造影perfusion MRI)では脳血流(CBF値)が29mL/m/100gと,対側の半分近くに減少していた。治療後(図1b),左中大脳動脈起始部は再開通し,ASLでは患側のCBF値は67mL/m/100gに増加,NIHSSも1まで回復した。

図1 治療前後のMR画像 a:治療前 b:治療後

図1 治療前後のMR画像
a:治療前 b:治療後

 

T2強調画像では血栓部位の低信号(susceptibility vessel sign:図2a)が認められ塞栓の可能性が示唆されたが,ASLでは閉塞部位を示すvascular signの高信号(図2b)が認められた。また,虚血部位のT2強調画像(図3)では虚血サイン(ischemic vessel sign)が認められ,ischemic penumbra(可逆的な前梗塞領域)の存在を示す所見である。

図2 治療前後のMR画像:血栓部位の診断

図2 治療前後のMR画像:血栓部位の診断

 

図3 治療前後のMR画像:T2*強調画像

図3 治療前後のMR画像:T2強調画像

 

●Penumbra imaging
脳血流はオートレギュレーション(自動調節能)によりほぼ一定に保たれるため,画像診断ではischemic penumbraの描出が重要となる。penumbra imagingは,PETやMRIのqBOLD,QSMなどで酸素摂取率(OEF)を測定する研究が進められているが,臨床現場ではCT perfusionやMRIのDWI/PWIミスマッチによる評価が行われている。
海外の多施設RCT(EPITHET1),DEFUSE2))では,DSC法のperfusion MRIとCT perfusionのみが使われているため,本講演ではperfusion MRIについては,造影を行うDSC法(T2強調画像)と非造影のASL法(T1強調画像)に限定して述べる。上記のRCTの結果がポジティブだったのはすべて,DSC法のパラメータ“Tmax”を用いていることから,Tmax はischemic penumbraの描出に適していると思われる3)。Tmaxとは,造影剤の時間曲線を動脈の入力関数(AIF)でdeconvolutionした残余関数[R(t)]の最大値をとる時間と言われている。
右中大脳動脈高度狭窄症例(70歳,女性)について,DSC法とASL法の画像を比較した(図4)。ASL法のpCASLでは右中大脳動脈はやや低信号で,CBFマップ(図4a)でも同様の所見が認められるが,DSC法のrCBFマップ(図4b)では左右差はほとんど見られず,虚血領域が不明瞭である。DSC法のTmaxマップ(図4c)では右が高信号となっており,ischemic penumbraを示唆する所見である。そこで,脳虚血におけるASL法とDSC法の各種パラメータを比較してみると,CBFとCBVは相関せず,ASL法と最も相関するのはDSC法のTmaxであった。この結果から,ASL法のCBFは,DSC法のTmaxの代替指標となりうると言える。

図4 脳虚血におけるASL法とDSC法の比較 pCASL画像とDSC各種パラメータマップ

図4 脳虚血におけるASL法とDSC法の比較
pCASL画像とDSC各種パラメータマップ

 

一方,血流が増加する脳腫瘍の場合は,DSC法のTmaxよりもCBFやCBVとの相関が高くなっている(図5)。ASL法では通過時間の影響が包括され,病態によって信号変化があるため,DSC法でTmaxが変化する場合は虚血型,rCBVが変化する場合は新生血管型となる。ASL法で両者を区別するには,transit timeのような新しいパラメータを測定する必要があると考える。また,ASL法の血管信号は塞栓部位を示唆することが多く,臨床的有用性が認められる。

図5 脳腫瘍におけるASL法とDSC法の比較

図5 脳腫瘍におけるASL法とDSC法の比較

 

脳機能と代謝の関係─fMRIの臨床応用

functional MRI(fMRI)の原理であるBOLD効果とは,酸素化ヘモグロビン(反磁性体)が増加し,相対的に還元型ヘモグロビン(常磁性体)濃度が低下すると常磁性効果が減少し,MR信号が上昇する変化であり,fMRIはこの神経血管カップリング(NVC)の機序を利用した機能検出法である。従来から,タスクを用いるtask-related functional MRIが行われてきたが,最近,安静にしているだけのresting state fMRI(rsfMRI)が注目されている。fMRI信号には非常にゆっくりとした周波数のゆらぎがあることがわかり,脳機能の関連ある部位での同調が報告されており,機能的に関連する神経ネットワークにおける現象とされている。このfMRI信号のゆらぎの同調性を評価することで,神経ネットワークの有無や結合度を評価できると考えられ,PCA,ICA,crosscorrelation,ALFF,ReHoなどの検出方法が利用できるようになってきた。
これまでのrsfMRIの研究から,代表的な安静時脳内ネットワークは7個あることが知られている。なかでも,default mode network(DMN)は安静時にネットワークの結合が強く,脳賦活時において結合が低下する部位とされ,多くの機能的疾患でDMNの異常が報告されている。自閉症(ASD)における自験例では,DMNが健常者と比較して低下しており,特に頭頂葉の低下が顕著であることが認められた(図6)。
rsfMRIはタスクを必要としない点で臨床応用しやすいが,rsfMRIで評価される神経ネットワークの生理的背景は不明瞭な点が多く,解析における再現性と定量性についての評価は今後の課題と考えられる。現状は,研究ツールから実用的プローブへの過渡期であり,今後の進展が期待される。

図6 自閉症(ASD)におけるrsfMRI自験例

図6 自閉症(ASD)におけるrsfMRI自験例

 

脳機能と代謝の関係─MRSによる神経伝達物質評価

MR spectroscopy(MRS)は,異なる波長の混合波を周波数分解することにより分離し評価する方法である。特定の化学構造からなるMR信号は一定の周波数を有することが知られており,周波数分解することで代謝物からのMR信号を特定することが可能となる。
代表的な神経伝達物質には,アミノ酸系(グルタミン酸,GABA,グリシン)とアミン系(ドーパミン,ノルアドレナリン,セロトニン)があり,アミノ酸系はMRSで観察可能である。GABAのように微量な物質でも観察できる方法がMEGA-PRESS(J-difference法)であり,周波数の選択的パルスを使ってJ反転を行ったものから行わなかったものを差分することでGABAだけを選択的に観察できる(図7)。
自閉症(ASD)におけるGABA評価の自験例では,頭頂葉のGABA/NAA比,GABA/Glu比は自閉症患者では健常者より低下していたが,レンズ核では有意差は認められなかった。この結果は,自閉症の原因と言われる,遺伝子や代謝物の検討から推測されている抑制系GABA作動性神経と興奮性Glu作動性神経のバランス異常と一致する。MEGA-PRESSはGABAやGSH,アスコルビン酸などの微量代謝物を定量的に評価でき,MRSの臨床的有用性を向上させる。ただし,差分スペクトルを用いるため体動によるエラーが起きやすく,macromoleculesの信号が混在していると分離が難しいという限界がある。
MRSとPETとの違いについては,PETは外部から投与された標的プローブによる間接的可視化だが,MRSは内在性代謝物そのものからの情報であり,より生理的状態に近いと考えられる。しかしMRSは,PETと比べて測定感度が低く,測定領域のサイズや場所の制限が強い点が限界と言える。最近では,MRSの測定感度を向上させる技術の一つであるCEST(chemical exchange saturation transfer)が報告されており,今後の発展に注目したい。

図7 GABAの構造とMEGA-PRESS(J-difference法)

図7 GABAの構造とMEGA-PRESS(J-difference法)

 

まとめ

脳機能代謝評価法については,測定原理に基づく特徴や限界を理解し,可視化された情報は生体の機能の一側面であることを念頭に,得られた結果を慎重に検討,考察,比較する必要がある。

●参考文献
1)Davis, S.M., et al:EPITHET investigators.Lancet Neurol., 7, 299〜309, 2008.
2)Albers, G.W., et al.:DEFUSE study. Ann. Neurol., 60, 508〜517, 2006.
3)Calamante, F., et al:The physiological significance of the time-to-maximum(Tmax)parameter in perfusion MRI. Stroke, 41, 1169〜1174, 2010.

 

原田雅史(Harada Masafumi)
1986年 徳島大学医学部卒業。90年 同大学院医学研究科修了。米国ペンシルバニア大学医学部生理・生化学教室研究員,米国ミネソタ大学医学部MR研究センター研究員などを経て,2002年 徳島大学医学部保健学科診療放射線技術学講座教授。2008年 同大学院ヘルスバイオサイエンス研究部画像情報医学分野教授。2010年 同大学病院放射線科教授・放射線部長。2011年〜現職。2013年〜福島県立医科大学客員教授。2016年〜日本磁気共鳴医学会理事長。

 

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