脳神経外科領域における最新型1.5T MRIの有用性
島崎 賢仁(さぎぬま脳神経クリニック院長)
Users session 1.5T ECHELON Smart Plusの使用経験
2021-5-25
当院では,2007年の開業当時に導入した日立製作所の超電導1.5T MRI「ECHELON Vega」を,2019年9月に「ECHELON Smart Plus」に更新した。本講演では,高速撮像技術“IP-RAPID”や自動化機能“AutoExam”などの新機能,MRIボア内映像投影システム「Smart Theatre」などの使用経験について,脳神経外科医の立場から紹介する。
画質維持と撮像時間短縮を両立するIP-RAPID
神奈川県川崎市で2007年10月に開業した当院には,幅広い年代層の患者が1日40〜50人来院する。開業以来,10年以上にわたりECHELON Vegaを使用してきたが,2019年にECHELON Smart Plusへの更新を決定した。選定に当たっては,体動補正や静音化との併用が可能な高速撮像が主な決め手となった。
高速撮像技術IP-RAPIDは,従来のパラレルイメージング技術(RAPID)に繰り返し演算(IP)を応用した新しいノイズ低減技術である。通常,MRIの撮像時間短縮は画質とのトレードオフが生じるが,IP-RAPIDはアーチファクトやノイズを除去し,画像の最適化の両立が可能となる。
図1の頭部MRA画像では,IP-RAPID使用により,画質を維持しつつ,通常の画像(図1 b)に対し,撮像時間を55%短縮できる(図1 a)。また,IP-RAPIDのノイズ低減を空間分解能に還元すれば,同等の時間で分解能が1.2倍高い高分解能の画像が得られる(図1 c)。
さらにIP-RAPIDは,(1) コントラストを変えない,(2) 操作が簡便,(3) 部位や受信コイルを選ばない,(4) 静音撮像にも対応可能,などの特長がある。また,画像処理演算装置(GPU)の搭載による画像再構成処理の高速化で検査時間枠に余裕が生まれ,異なる断面での追加撮像なども可能になった。当院の1日あたりの検査数は約15件だが,IP-RAPID使用により,ルーチン撮像は約10分程度で完了するため,緊急検査などがあった場合も通常通りの時間で業務を終了できる。また,脳ドックでは2mm程度の微小な動脈瘤が検出でき,形状が細部までわかるため,治療適応の判断が容易になる(図2)。
検査全体のスループットを向上させるAutoExam機能
ECHELON Smart Plusには,自動位置決め機能“AutoPose”や自動クリッピング機能“AutoClip”などにより,頭部検査のスループット向上を実現するAutoExam機能が搭載されている。AutoPoseは検査の効率化につながるほか,検査者ごとのバラツキが低減し,安定した位置決めで撮像できる。ECHELON Smart Plusに搭載された最新のAutoPoseは,最大5断面まで撮像断面のパターンを設定でき,撮像断面や範囲が異なるスキャンが混在した場合も自動的に位置決めが可能である。
また,頭部MRAで頭皮や不要な血管などを削除するクリッピング処理は,診療放射線技師の知識や経験に依存する部分が多く,検査スケジュールが過密な場合は負担も大きくなる。しかしAutoClipは,元画像から脳領域を識別,抽出し,不要部分のクリッピング処理を自動で行い,明瞭なMIP画像を得ることができる。
患者の不安を和らげるSmart Theatre
Smart Theatreは,MRI装置のボア内に空などの映像を投影して閉塞感を低減し,リラックス効果を提供する。高輝度プロジェクタを機械室に設置し,2回のミラー反射を経てボア内面に映像を到達させるが,ゆがみのない良好な映像を投影するため,プロジェクションマッピング技術を用いて,検査室の配置に合わせて調整する。以前は,閉所恐怖症などのため検査ができないケースもあったが,現在当院では全例でSmart Theatreを使用し,患者からも高評価を得ている。
またECHELON Smart Plusは,ASL Perfusionによる非造影血流評価も可能である。急性期脳梗塞患者の転送時に血流情報を加えることで,治療方針決定に有用なのではないかと期待している。
まとめ
ECHELON Smart Plusの導入により,検査スループットの向上やストレスの少ない検査環境の提供が実現し,迅速かつ快適なMRI検査が可能になった。また,ECHELON Smart Plusは,脳疾患の早期発見・治療により,地域住民の生活の質の向上への貢献に有用であると考えている。
島崎賢仁(Shimazaki Kenji)
1992年 慶應義塾大学医学部卒業。慶應義塾大学病院,済生会宇都宮病院などを経て,2000年 川崎市立川崎病院脳神経外科副医長,2004年脳神経外科医長。2007年 さぎぬま脳神経クリニック開業。医学博士。日本脳神経外科学会専門医,日本脳卒中学会専門医,日本頭痛学会専門医。
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