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医療法人社団陣内会 陣内病院 
リスク低減や病院経営に貢献する液体ヘリウムをまったく使わないMRIを採用し糖尿病の包括的な診療に活用
Synergy DLRによる高画質化が診断能向上に貢献

2025-8-22


医療法人社団陣内会 陣内病院 

陣内(じんのうち)病院(熊本市中央区)は1977年の開設から48年にわたり,糖尿病専門病院として患者一人ひとりに適切な糖尿病治療の提供に取り組んできた。長年,他社製1.5T MRIを合併症の診断など糖尿病の包括的な診療に活用してきたが,2025年1月に液体ヘリウムをまったく使わない富士フイルム社製1.5T MRI「ECHELON Smart ZeroHelium」にリプレイスした。ECHELON Smart ZeroHeliumを採用した理由や初期使用経験について,陣内秀昭理事長・院長,東 寛之事務部長,川邊修平技師に取材した。

陣内秀昭 理事長・院長

陣内秀昭 理事長・院長

東 寛之 事務部長

東 寛之 事務部長

川邊修平 技師

川邊修平 技師

 

糖尿病専門病院として一人ひとりに適切な治療を提供

糖尿病の専門病院である陣内病院は,「糖尿病を持つ人々が『糖尿病のある豊かな人生』を実現する」ことを理念に掲げ,患者一人ひとりへの適切な糖尿病治療の提供や,血管合併症の予防・進展阻止のため,糖尿病の診療・検査・教育・研究に長年取り組んでいる。2代目となる陣内理事長は,「糖尿病は症状や治療,合併症リスクが一人ひとり異なる疾患なので,個々の患者さんに合わせた治療を提供することで,充実した人生を全うしていただきたいという理念を先代から引き継いでいます」と話す。
同院は糖尿病治療センターとして,糖尿病専門医の指導の下,内科,循環器内科,眼科の医師をはじめ,看護師,薬剤師,臨床検査技師,管理栄養士など,多職種がチームとなって糖尿病専門医療を提供している。人工透析室(10床)を備えるほか,糖尿病の治療管理の評価と合併症の早期発見のため検査体制・機器も充実させており,画像診断装置はCTやMRI,一般撮影,超音波診断装置などを整えている。
陣内理事長は,糖尿病診療におけるMRI検査の位置づけについて,「糖尿病の合併症は,網膜症や神経障害,腎症などの細小血管合併症や,動脈硬化や脳梗塞,下肢壊疽など全身に及びます。きちんと管理すれば合併症を防ぐことができますが,うまく管理できない患者さんも多いため,MRIではこれら合併症の診断や,糖尿病でリスクが高まる膵がんなど腹部病変の評価,神経障害における圧迫性神経障害の除外診断や脳血管病変の早期発見など,幅広く活用されます」と説明する。

災害時リスクの低減や病院経営に貢献するECHELON Smart ZeroHeliumを採用

同院では,他社製1.5T MRIを20年以上にわたり使用してきたが,部品の供給が難しくなってきたことからリプレイスを検討し,2025年1月にECHELON Smart ZeroHeliumに更新した。選定では他社製装置も含めて検討されたが,実際に稼働している施設の見学も経て,液体ヘリウムをまったく使わないECHELON Smart ZeroHeliumを採用した。その理由について,陣内理事長は次のように述べる。
「ECHELON Smart ZeroHeliumを選んだ理由の一つに2016年の熊本地震の経験があります。発災当時,技師が必死に冷却機(チラー)に水を運んでクエンチ爆発を防いだと聞き,災害時のリスク低減の重要性を強く感じていたため,ECHELON Smart ZeroHeliumによりリスクを低減できる利点は大きいと考えました。また,見学先で画像も確認し,AI技術の活用によって開発された画質向上機能も有用だと確信しました。院内検査だけでなく,整形を中心に近隣からの紹介検査も多いため,診断能向上につながるクリアな画像を提供することで,地域にも貢献できると考えました」
また,ランニングコストなど病院経営への貢献の面でも期待が高かった。東事務部長は,「ヘリウム供給には地政学的なリスクもありますが,ECHELON Smart ZeroHeliumではその不安も取り除けます。来年以降,電気代や保守費用なども含めて経済的なメリットが出ると期待しています」と話す。同院では病院の建て替えも検討しており,今回は先行してMRIの更新となったが,ECHELON Smart ZeroHeliumではクエンチ配管が不要なため,建築費の抑制や設置の自由度が上がるといった点も評価された。

高画質化や検査内容の拡充で糖尿病の合併症やがんの診断に寄与

ECHELON Smart ZeroHeliumでは,頭部・腹部を中心に月に約150件の検査を実施している。MRI検査を担当する川邊技師は,「更新前と検査数は変わりませんが,新たに全身body DWIを開始してスクリーニングなどに活用しているほか,以前は造影で行っていた下肢MRAを非造影で行えるようになりました」と説明する。下肢MRAは糖尿病の合併症である末梢血管の狭窄の評価で撮像するが,非造影撮像が可能になったことで,糖尿病が進行し腎機能が低下している患者も検査可能になると期待している。
検査では,高速撮像法「IP-RAPID」とAI技術を活用して開発したノイズ除去技術「Synergy DLR」を活用し,スキャン時間を抑えつつ画質を向上させており,遠隔読影を依頼している放射線科医や紹介検査の依頼元からも画質の良さが評判となっているという。Synergy DLRは強度(3段階)を変更可能なことから,川邊技師は,「読影医の要望に合わせて現在は基本的にlightを使用していますが,3Dはコントラストがついた方が見やすいためmediumを使用するなど,適宜使い分けています」と説明する。
陣内理事長は画質の向上が診療に与える影響について,「長寿化により糖尿病の患者さんを長期にわたり診療していると,がんも増加します。ECHELON Smart ZeroHeliumでは,MRCPの画質が大きく向上したと感じており,症状が現れにくい肝胆膵がんの早期診断の撮像に活用しています。前立腺がんもクリアな画像によりある程度の判断が可能と考えており,PSA値と総合的に判断して適切に紹介できるようになったと思います」と話す。

■症例1:横行結腸がん/肝転移疑い

T1WI,DIXON In/Out,2 station scan time:1:39/station スライス厚:4mm マトリックス:288×224

T1WI,DIXON In/Out,2 station
scan time:1:39/station
スライス厚:4mm
マトリックス:288×224

T2WI,DIXON Water,2station scan time:1:48/station スライス厚:4mm マトリックス:352×288

T2WI,DIXON Water,2station
scan time:1:48/station
スライス厚:4mm
マトリックス:352×288

Body DWI(b=800),4station scan time:2:38/station スライス厚:5.5mm マトリックス:108×128

Body DWI(b=800),4station
scan time:2:38/station
スライス厚:5.5mm
マトリックス:108×128

 

■症例2:膵がん/多発性肝転移

a:DWI(b=800) b:ADC scan time:2:38,スライス厚:6mm, マトリックス:108×124

a:DWI(b=800) b:ADC
scan time:2:38,スライス厚:6mm,
マトリックス:108×124

 

検査スタッフの負担を軽減するECHELON Smart ZeroHelium

MRI検査を一人で担当する川邊技師は,ECHELON Smart ZeroHeliumの操作性について,「コンソールの日本語表示やワークフローを改善するAutoExamによりスムーズに検査を実施できると感じています。件数の多い頭部検査では,スライスライン設定をサポートするAutoPoseやMRAの自動クリッピングAutoClipを活用しており,画像再構成も速く,一人で患者さん対応から検査,後処理まで行うため助かっています」と述べる。
稼働開始から約5か月が経過したECHELON Smart ZeroHeliumについて,川邊技師は,「更新前は液体ヘリウムをまったく使わないMRIについてイメージがつかなかったのですが,実際に使用してみて従来のMRIと何も変わりなく使うことができ,検査が止まることもなく非常に安定した装置であると感じています。技師にとって液体ヘリウムを使わないことの最大の魅力は,日々の液体ヘリウムのチェックや発注作業,供給まで時間を要して不安に思うことがなくなったことです」と,負担軽減につながていると話す。ほかにも,業務終了後に監視モードにすることで装置の状態をチェックする遠隔モニタリング機能が搭載されており,限られた人手でも効率的かつ安定的にMRIを運用することができ,「安心感があります」と川邊技師は言う。
ECHELON Smart ZeroHelium導入と併せて3D画像解析システム「SYNAPSE VINCENT」も導入しており,現在は主にCTで活用している。今後,脳動脈瘤の計測などMRIでの活用も検討していく予定だ。

研究や高齢化に伴う課題の解決に向け期待される

MRIの役割同院は糖尿病の研究にも力を入れており,日本人の2型糖尿病患者の半数近くがインスリンクリアランス亢進型であることを明らかにした論文をNEJM Evidenceで発表している。陣内理事長は,「糖尿病の病態ごとに治療戦略を組み立てられる可能性があり,その研究の一環としてMRIを用いた肝臓機能の分類と糖尿病の関係などを検討してみたいと考えています。また,脂肪肝と糖尿病などが合併した状態としてMAFLDが提唱されていますが,その評価においてMRエラストグラフィにも期待しています」と,MRI活用の展望を述べる。
また,糖尿病治療では,認知症によりインスリンの自己注射ができなくなることが大きな課題となっているが,2025年初めに週1回注射の新しいインスリン製剤が発売された。これを受け陣内理事長は,MRIで認知症の診断を行うことで,介護スタッフの支援の下でインスリン療法を継続しやすくなるだろうと期待している。
患者の充実した人生の実現を願い,糖尿病の診療・研究に精力的に取り組む同院でECHELON Smart ZeroHeliumが大きな役割を果たしていくだろう。

(2025年6月24日,27日取材)

*導入後に自動的に装置の性能・精度が変化することはありません。

※ECHELON Smart ZeroHeliumはECHELON SmartにZeroHeliumマグネットを搭載したモデルの呼称。販売名 : MRイメージング装置 ECHELON Smart 認証番号 : 229ABBZX00028000

※SYNAPSE VINCENT は以下の医療機器の愛称。販売名 : 富士画像診断ワークステーション FN-7941型 認証番号 : 22000BZX00238000

 

陣内病院

陣内病院
糖尿病治療センター
〒862-0976
熊本県熊本市中央区九品寺6丁目2-3
TEL 096-363-0011
https://www.jinnouchi.or.jp
診療科目:内科,糖尿病内科,循環器内科,神経内科,眼科,人工透析

 

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