Case 2 名古屋第一赤十字病院
紙と電子化のギャップをFileMakerによるユーザーメードシステムでカバー
2010-7-15
左から久保敦史主事,中角竜二課長,
錦見尚道部長,牧村淳係長
●FileMakerを使ったサマリ入力,文書作成システムを構築
名古屋第一赤十字病院では,2003年から病院のリニューアルを進めてきたが,その中で新病棟での電子カルテの導入や,内科・外科ではなく循環器など領域ごとのブロック外来の採用が予定されるなど,従来の紙カルテに変わる診療録管理の方法が求められていた。病院総合情報システムの導入プロジェクトを率いていた医療情報部の錦見尚道部長(血管外科)は「電子カルテへの準備を進める中で,導入後に紙媒体から引き継ぐ情報として入院・外来サマリを選択し,サマリの記録と蓄積を目的として,電子カルテの稼働の1年以上前に,医師や診療科で多く使われていたFileMakerによる文書作成システムを導入したのが最初のきっかけです」と語る。
2009年1月に西棟の完成と同時に電子カルテ(MegaOakHR,NEC)が稼働したが,同院では,電子カルテを含めてグループウエアとFileMakerによる文書作成管理システムを合わせた『病院総合情報システム』を構築した。その経緯を錦見部長は次のように語る。
「病院情報システムの構築にあたって,病院情報の共有や診療データの二次利用などを目的としたのですが,ベンダー製の電子カルテだけではこちらが望む機能を100%実現できないこと,また,技術・コスト的に医療現場の変化に柔軟に対応できない可能性があったことから,使いやすく院内に多くのユーザーがいたFileMakerによる“ユーザーメード”が可能なシステムを取り入れました。FileMakerで作成した文書やスキャンした書類などを,電子保存の三原則に則った診療録として一元管理するために,CentricityCDS(GEヘルスケア・ジャパン,以下CDS)と組み合わせて課題をクリアしました」
●FileMakerはアプリケーションのひとつとして運用
同院の病院総合情報システムの概略は図4のとおりだが,電子カルテなど業務系システムとFileMakerのシステム系は,ログイン情報,患者情報の受け渡しを中心とした緩やかな関係になっている。ネットワーク内に設置されたFileMaker Serverに各種のDBファイルを登録してファイル共有する。このファイルを利用するには,“院内ポータル”で職員カード(非接触型ICカードのFeliCaを使用)とパスワードの二要素認証で病院総合情報システムにログインし,(1)院内ポータルにあるFileMakerポータル(図5,以下FMポータル)の起動ボタンから入ると,ログイン情報を引き継いだ状態となる,あるいは(2)シングルサインオンで電子カルテにログインして患者カルテを開きFMポータルを起動する。この場合はログイン情報に加えて患者情報も引き継いで作業できる。
医療情報課の牧村淳係長は「FileMakerは院内の約1000台の端末にインストールしていますが,WordやExcelといったアプリケーションソフトと同じ位置づけです。電子カルテなどの診療系システムとは別に動いており,FileMakerの導入で電子カルテ側には変更は加えていませんので,病院情報システム内に両システムが共存することには問題ありません」と語る。
●非DICOM系画像管理システムのCDSで文書類を一元管理
FileMakerで扱うのは,電子カルテでは扱いきれない署名などの手書きが社会的に要求される文書類の作成と,診療科ごとにユーザーがカスタマイズしたDBなどである。その中でも「診療情報として電子保存する必要のある」文書(検査や手術の同意書など)については,CDSでデジタル保存する。CDSは,PDFやJPEG,非DICOMの画像などを厚生労働省の「医療情報の安全管理に関するガイドライン」に準拠し,電子保存の三原則を担保した保存が行える画像管理システムである。
登録には2通りの方法があり,(1)FileMakerから直接PDFでCDSに送信,保存する,(2)署名など手書きの情報が入った紙媒体は,スキャナで取り込みCDSで管理する。(2)ではFileMakerでプリントアウト時にスキャナ取り込み用バーコードを印字して,取り込んだ文書が自動的に患者IDにリンクされるようになっている。このCDSを活用することで,FileMakerで作成した診療情報を電子的に一元管理することが可能になった。スキャン後のペーパーは,患者に渡すか廃棄する。「説明などに用いる図などを書き込んだものをスキャンして原本として,スキャン後に残ったペーパーは副本として患者に持ち帰ってもらっています」(錦見部長)。
FileMakerは,基幹システムがダウンした際の障害時運用の役割も担っており,「障害時伝票」のフォーマットを使って,ローカルのプリンタから伝票を出力して手書きで運用することができる。
●ユーザーメードによるシステムが電子カルテのギャップを埋める
現在,FileMakerのDBファイルは95種類が登録されている。医療情報課では,院内共通で使用するDBの作成などを行うほか,ユーザーが作るDB作成の相談や,「患者情報の取得」,「CDSへの送信」などシステムで共通して使用するスクリプトの提供などで,ユーザーのDB作成支援を行う。医療情報課の久保敦史主事は「利用者個人で勉強してつくっていただくことが基本ですが,テーブルやフィールドの構成などのアドバイスなどはします。また,サーバへの登録については,院内で共用する必要があるかを検討して判断しています」という。
錦見部長は「現在のベンダー製の電子カルテでは,自分が行った診療行為の情報の抽出など,“横串”を刺すことが苦手です。データウエアハウス(DWH)といっても,その前提となる標準的かつ有効な診療情報の入力が行われていないというのが実情です。FileMakerでは,ODBC(Open Data Base Connectivity)接続で患者IDをキーにして電子カルテ側からデータを取得することができ,ユーザーが自分の必要に応じて試行錯誤しながら構築できます。さらに,作成したデータは,必要があればCDSという器によって三原則を担保して保存できます。これをベンダー製の電子カルテでつくろうと思ったら時間とコストが増大します。ユーザー自らが直接作成できる敷居の低さで費用効果費の高い入力補助手段ができると考えたことが,FileMakerを使った1つの理由です」とユーザーメードシステムのメリットを強調している。
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In-Side View
「医療の質の向上」という医療ITの本質的な目的を達成するための
ユーザーメードの必要性
錦見氏:医療情報システムの本質的な部分は“器”ではなく,診療にフィードバックできるデータが入っているかという“中身”が問題です。システム導入による効率化で経費が削減できたということも重要ですが,蓄積された診療情報から適切な医療を行うための根拠が見いだされる,そのためのデータを集められることが必要です。
残念ながら,現状のベンダーの医療ITシステムはそこまで到達していません。医療者側も,導入時にシステム設計にかかわりますが,医師にはSEに必要な要件定義を十分に行うのは難しい。それは,ベンダーのSEとの共通言語がないということと,さらに医療にある暗黙の要件は当然のこととして,他人にわかるように明確に提示していないからです。だから,医師が言葉だけでは説明しきれない部分を,簡単に実現できるツールが必要とされています。
吉田氏:どこまでいっても医師自らがシステムをつくる意義は残ります。それは,多様で複雑な医療の仕組みに対応するのはどんなに優秀なベンダーでも無理だからです。その意味で,これからは医師のスキルのひとつとして,データベース作成技術が必須になります。社会人にITスキルが必須になっているように,基本的なリテラシーとして,自然科学の科学者である医師にとって自分の知識を整理するデータベースを自らつくれるスキルが必要な時代です。
錦見氏:本来,病院情報システム自体はインフラで水道や電気と同じであって,その部分に必要以上の手間やコストをかけるべきではありません。しかし,水道でも手元で使う時には好みがあって,熱いお湯がいい人もいれば適温が欲しい人もいます。その最後の部分を調節するツールとして,FileMakerのような製品が必要とされているわけでしょう。
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名古屋第一赤十字病院
名古屋市中村区道下町3-35
TEL 052-481-5111
病床数:852
FileMaker Server Advanced:2台
FileMaker Pro:1000クライアント
http://www.nagoya-1st.jrc.or.jp/