Special2
三重大学医学部附属病院 基幹の電子カルテシステムとデータ連携可能な環境を構築して,院内のユーザーメードFileMakerシステムの活用を支援
医療情報管理部 副部長/肝胆膵・移植外科 安積良紀氏
2013-9-17
IBMの基幹電子カルテとFileMakerで
データ連携が可能な環境を構築。
左のモニタが電子カルテ,右がFileMakerシステム
三重大学医学部附属病院(以下三重大学病院)は,病床数685床,1日平均外来患者数約1100人,医師数400名,三重県唯一の大学病院として研究,教育を行うと同時に,地域の中核医療機関として高度医療を提供する。同院では,2008年から基幹の電子カルテシステムに日本アイ・ビー・エム(以下IBM)の統合医療情報システム(CIS)を導入しているが,2013年3月から,院内の各部署で構築されていたFileMakerによるユーザーメードシステムを集約し,電子カルテシステムと連携して利用できる環境を構築した。この連携システムの構築は,FBA(FileMaker Business Alliance) のメンバーであるグッドマンが担当した。大学病院における基幹の電子カルテと連携したFileMakerシステムの構築と運用について,医療情報管理部の安積良紀副部長に取材した。
●新病棟のオープンにあわせて電子カルテをリニューアル
三重大学病院は,2008年から病院の再開発事業を進めており,第Ⅰ期として2012年に病棟・診療棟がオープンした。現在は,第Ⅱ期工事が進行中で,2014年度中に外来・診療棟が完成の予定だ。一方で,病院情報システムは,2000年のオーダリングシステムから始まり,2005年にはベンダーをIBMに変更,2008年にバージョンアップの形で電子カルテシステムが導入された。そして,2012年の新病棟オープンにあわせてシステムを一新し,CISの最新バージョンが導入された。構築は,CISの基本システムをベースに必要な機能を追加する形で進められ,同院では,指導管理料オーダ,レジメン(化学療法)オーダ,対象指示オーダ,クリニカルパスなどをカスタマイズした。また,電子カルテ以外では,救急外来入力支援システムやiPod touchを使った看護業務支援システムなどが新たに導入されている。
医療情報管理部は,電子カルテをはじめとする院内の情報システムの運営・管理と診療情報管理などを担当する部門で,臨床科と兼務する2名の医師(部長,副部長)のほか,専任の看護師2名,事務スタッフ16名で構成されている。30近いサブシステムや29診療科もある大規模なシステム構築では,各科の要望を把握し調整する医療情報管理部の役割も重要になる。安積副部長は,「電子カルテの構築では,大学病院に必要な機能の追加や新規開発はもちろん行いましたが,基本的には現場の運用をシステムに合わせて変更する方向で導入を行っています。そのために35の導入ワーキンググループをスケジューリングしながら,看護系以外のWGにはすべて出席するようにしました。その甲斐もあり,診療科からの信頼を得て進めることができました」と導入の方針について説明する。
●FileMakerシステムと電子カルテを連携プラグインでデータ連携
同院では,多くの大学病院と同じように,診療科や個人での診療情報の管理や,研究用のデータベースなどにFileMakerが活用されている。今回,これらのFileMakerシステムを電子カルテと連携して運用できる仕組みを新たに開発し,2013年3月から稼働を開始した。大学病院におけるFileMakerシステム活用の方向性について安積副部長は次のように説明する。
「臨床や研究データの2次利用には,レイアウト変更やフィールドの追加が容易なFileMakerは便利なツールで,当院でも各部門で活用されています。がんの症例登録や術前検討会用のファイルなど,診療科ごとに蓄積されたデータベースは1つの財産です。一方で,電子カルテの導入後,電子カルテ端末上でのFileMakerの利用や,電子カルテのデータを活用したいというニーズが大きくなってきました。今回の電子カルテのリニューアルにあたって,FileMakerとの共存可能な環境やデータ連携機能などの整備を図りました」
電子カルテとFileMakerとの共存については,仕様書の段階でIBM側に対して,電子カルテ端末にFileMakerをインストールしても干渉しないこと,共有サーバでのFileMaker Serverの正常稼働などの条件を追加した。そして,医療情報管理部が管理するFileMaker Serverに各科のFileMakerシステムを集約し,IBMの提供するFileMakerの連携プラグインで電子カルテとのデータ連携を可能にした。院内1600台の電子カルテ端末のうち約200台にFileMaker Proをインストールして院内でのFileMakerシステムの利用が可能になった。
「IBMでは,FileMakerとの連携をCISの1つの特長としています。他の施設でも連携の実績があり,そこで開発されたFileMaker連携のプラグインが提供されており,それを利用して電子カルテとの連携を実現しました」(安積副部長)。
●個人情報などセキュリティを確保してIBM-CISと連携
電子カルテとFileMakerシステムの連携機能の開発にあたったのは,循環器領域の動画像システムやレポートシステムで多くの実績があるグッドマン
である。同社は,FileMakerのビジネスパートナー制度であるFBAのメンバーとして,循環器用のレポートシステム
をFileMakerプラットフォームで開発し,その技術力はファイルメーカー米国本社の「2012 FileMaker Solution Excellence Award」を受賞するなど高く評価されている。今回,グッドマンは電子カルテとFileMakerの連携機能の開発のほか,FileMakerのライセンス購入やインストールなどを担当した。安積副部長は,FileMakerの連携機能の開発を外部委託したねらいを次のように言う。
「自分自身でもFileMakerのスクリプトを組むことはできますが,臨床もあり,基幹システムの構築や管理の業務もあって時間がありません。また,1つのポリシーとして,病院情報システムの構築は,病院側のスタッフは臨床の知識や院内の運用経験をもとにアイデアや意見を出して,実際の構築はプロフェッショナルな専門家に任せる方がスムーズに構築できると考えています。今回,FileMakerでのシステム構築に実績とノウハウを持つグッドマンに担当してもらったことで,ライセンスの調達から連携機能の開発までスムーズに進めることができました」
同院でのFileMakerと電子カルテの連携機能では,患者IDによる電子カルテからの患者基本情報や入院情報の取得,検体検査の結果データの抽出とFileMakerへの取り込みなどが可能になっている。また,職員の属性情報をもとにFileMaker Server内の参照ファイルを制限する仕組みを構築した。安積副部長は,「各科のデータベースには,個人情報の関係から部外秘の情報も多いため,電子カルテ側の職員情報を利用して参照できるファイルを限定する仕組みを作りました。所属情報から適合するファイルだけが開けるようにコントロールしています」と説明する。
●臨床データの2次利用のためFileMakerを生かす環境を構築
現在,登録されているFileMakerシステムは12部門50ファイルにのぼる。安積副部長は,データ連携したFileMakerシステムの使い勝手について,「電子カルテで患者を選択してFileMakerを開けば,該当患者のレコードが表示されます。レコードがない場合には,基本情報を取り込んで新規作成ができますので,入力の手間は少なくなっています。また,検査結果についても,必要な項目をまとめて取り込めるようになって便利になったと各科からは好評です」と評価する。
同院でのFileMakerシステム利用の方向性について,安積副部長は次のように語る。
「医療情報を管理する立場としては,診療録としては三原則を担保した基幹の電子カルテシステムをメインに考えています。また,病院情報システムにはデータ解析のためのデータウエアハウス(DWH)がありますが,臨床科が必要とする診療データはもっと多様で多岐にわたります。そういったデータは,FileMakerによるユーザーメードにまかせて,医療情報管理課ではFileMaker Serverの管理とデータのバックアップを行い,必要な情報は電子カルテとの連携機能で提供する方向で進めていきます」
電子カルテとの連携機能の今後の開発については,「電子カルテで初診時記録の主訴や現病歴,退院総括の治療経過など,特定のフィールドに入力される項目についても,FileMakerとのデータ連携ができれば,さらに重複入力が減らせます。連携機能の開発では,基本的にはグッドマンにお願いする方向ですが,病院側にもFileMakerを扱えるスタッフが必要ですので,講習会などに派遣して養成しています」と安積副部長は説明する。
大学病院では,基礎から臨床研究まで膨大なデータ管理が必要となるが,ビッグデータ化する診療情報を柔軟に管理できるFileMakerへの期待は大きく,基幹システムと連携した運用が今後ますます広がっていくだろう。
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