Case 17 駿河台日本大学病院 心臓血管外科/関野病院  
臨床医の視点で構築した医療業務支援システムで,医療文書作成やデータ入力の効率化,NCDの症例登録などを支援
医学博士・生命科学博士 和久井真司氏

2014-7-1


iPadとFileMaker Goで温度板入力システムを作成

iPadとFileMaker Goで温度板入力システムを作成

駿河台日本大学病院心臓血管外科の和久井真司氏は,臨床医として心臓手術など日々の診療を行いながら,FileMakerによる診療支援システムの構築を手掛けている。臨床医の視点から業務の効率化をめざし,医療文書作成,データ入力支援,スケジュール管理などからなる医療業務支援システムを開発し,現在は日本大学医学部の2つの大学病院と関連病院である関野病院(東京都豊島区)で利用されている。臨床医でありながら,医療現場の無駄をなくして医療従事者のQOLを向上したいと,FileMakerによる開発を続ける和久井氏に,システムの概要とコンセプト,今後の展開を取材した。

大学病院の業務の6割を占める文書作成をFileMakerで効率化

和久井真司氏

和久井真司氏

和久井氏は,現在,駿河台日本大学病院で医局長,病棟医長として週2〜3件のペースで開心術を手掛けるほか,大学の関連病院である関野病院で週1回外来と当直を行うなど,心臓血管外科医として診療を行っている。その中でFileMakerによるユーザーメードのシステム構築に取り組んだ経緯を次のように語る。
「大学病院における日常業務の中で,手術や診察など本来の診療に当てられる時間は4割で,残りの6割は事務作業などの雑務です。その大半を占めるのがカルテや手術記録,退院サマリなど大量の医療文書作成の時間であり,これを効率化できないかと考えたのがきっかけでした」
開発をはじめた2004年当時,日本大学板橋病院に勤務していた和久井氏は,心臓外科の手術記録をFileMakerで作成したのを手始めに,臨床医の視点で医療現場の効率化,データの有効活用をコンセプトにシステムを発展させていった。和久井氏は,「医療文書は,患者さんに関わるさまざまなスタッフが作成しますが,記載内容は重複する部分が多いのが実情です。FileMakerによって,患者さんの情報を関係するスタッフが一元的に入力できるようにして,そのデータを簡単に利用して重複入力を排除するシステムをめざしました」と開発のポイントを説明する。
例えば,心臓手術で入院した患者の場合,病棟カルテ,手術記録,退院サマリなどさまざまな文書が作成されるが,この中では病名,現病歴,検査結果,処方内容などの同じ項目が医師,看護師,臨床工学技士によって,重複して入力される。和久井氏の開発したFileMakerシステムでは,イベント(入院,手術,処方,検査など)を中心にテーブルを設定し,データ項目は1回のイベントにつき1度しか設定しないように作成し,重複入力を排除した。医療文書の作成時には最初に入力されたデータを生かし,自動挿入やコピー&ペーストによって文書が作成できる。既往歴や術後経過(入院後経過)など文章形式の入力が必要な場合には,“入力支援ウインドウ”を使えば,カルテや手術記録の所見などのテキストをワンクリックで簡単にコピーできる(図1)。例えば,退院サマリの作成では,入院後経過を記入後にサマリ作成のボタンをクリックすれば,そのほかの項目は入力済みデータが自動的に反映されてワンクリックでの作成が可能だ。

図1 カルテの退院時入力画面aの術後経過(入院後経過)では,入力支援のアイコンをクリックすることで,入力支援ウィンドウbが開き必要な情報をコピーして利用できる。

図1 カルテの退院時入力画面 a の術後経過(入院後経過)では,入力支援のアイコンをクリックすることで,入力支援ウィンドウ b が開き必要な情報をコピーして利用できる。

 

症例登録のデータを入力させる“アメとムチ”のシステム運用

一方で,心臓外科領域では,手術の症例登録をインターネットで行う日本心臓血管外科手術データベース(JACVSD)が2001年から開始されたが,現在は外科系全般の症例データベースであるNational Clinical Database(NCD)へと引き継がれている。この症例登録も,臨床医にとって日常業務を圧迫するストレスになっていると和久井氏は次のように言う。
「手術症例を国家レベルで登録するNCDの事業はすばらしい取り組みですが,例えば,“CABG+弁置換術で合併症あり”の症例では入力が必要な項目は200以上あり,日々の診療の中でこれを登録することは大変なストレスです。結局,年度末期限ぎりぎりにまとめて登録することになり,入力漏れなどデータの信頼性の問題にもつながります。このNCDの入力の手間を省くこともねらいの1つでした」
和久井氏が開発したFileMakerシステムは,心臓血管外科では必須のツールとなっているが,日常の診療で入力されるデータだけではNCD登録に必要な情報の5割程度しか収集できないという。残りのデータをいかにタイムラグを少なく漏れなく入力してもらうかが課題となった。そこで,必ず作成しなければならない手術記録と退院サマリに関しては,NCD関連を含めて手術や入院に関するすべてのデータを入力しなければ,印刷できないようにした。ユーザーに魅力的なシステムを構築することでシステム内でユーザーをコントロールする“アメとムチ”によって,正確で信頼性の高いデータベースの構築を可能にしている。和久井氏は,「面倒な文書作成を効率的に行えるのだから,文書作成と関係のないデータも強制的に入力してもらうわけです。日常業務と関係のないデータを入力してもらうには,この方法しかないと思います」とねらいを説明する。NCDへの登録については,現在はWeb画面と同じレイアウトのFileMakerの画面を設定して,医療知識のない秘書でも入力を可能にしている。
この方法で,同様に臨床研究用のデータ収集なども可能で,患者統計機能によって該当のデータを抽出して必要なデータをExcelなどに出力できる。和久井氏は,「各データ項目は汎用的に使えるように,できるだけ細かく設定しています。タイムリーで漏れのないデータ入力と合わせて精度の高いデータマイニングが可能になります」と言う。

FileMaker GoとiPadで病棟の温度板入力のシステムを構築

大学の心臓血管外科からスタートしたFileMakerシステムは,和久井氏が診療を行っている関野病院でも展開されている。病床数112床,内科,外科,整形外科,心臓血管外科,脳神経外科などを標榜する関野病院では,FileMakerシステムを各診療科と病棟で利用している。和久井氏は,「医療現場の抱える課題はどこも同じであり,大学で構築したシステムをベースに他の診療科への対応,看護業務支援の機能を発展させました」と関野病院でのシステムを説明する。
病棟では,看護部のシステムとして,病棟ごとの入院患者の管理,温度板などの情報入力が行えるほか,看護必要度の入力システムを構築している(図2)。看護必要度は,病棟で日々評価を行い記録されるが,あまり変化がないためワンクリックで前日のデータをコピーできるようにした。さらに,看護支援システムでは,FileMakerのバージョン13の機能を利用したiOS向けのレイアウトを作成して,病棟でのiPadによる温度板入力などの機能を提供している。

図2 関野病院での看護業務支援システム。a 病棟入院一覧画面 b iPadとFileMaker Goで温度板入力システムを作成

図2 関野病院での看護業務支援システム。
a 病棟入院一覧画面 b iPadとFileMaker Goで温度板入力システムを作成

 

電子カルテとの連携,システムのパッケージ化を展望

和久井氏は,次の展開として電子カルテなど基幹システムとの接続を挙げる。現在,関野病院ではオーダリングシステム(東芝医療情報システム)が導入されており,駿河台日大病院は2014年10月に新病院が開院の予定で,富士通のHOPE EGMAIN-GXが稼働予定だ。和久井氏は,FileMakerシステムのHISと連携について,「電子カルテからの患者情報などの取り込みが可能になれば,さらに入力の負担は少なくなります。駿河台の新病院では,電子カルテと連携した診療支援システムとして運用できないか検討中です」と語る。電子カルテとの接続については,キー・プランニングのKP-Syncを利用した連携を検討している。KP-Syncは,電子カルテなど病院情報システム(HIS)とソケット通信によるデータ連携を実現するソリューション・サービスで,HIS側に大きな変更を必要とせず,簡単に低コストでFileMakerシステムとの連携が可能だ。
和久井氏は,さらにその先の展開としてシステムのパッケージ化も考えていると言う。「医療現場の効率化をめざしてFileMakerでシステムを開発してきましたが,複数診療科への対応や看護支援など汎用的なシステムとして成熟してきました。このシステムによって患者さんだけでなく,医療従事者のQOLの向上につながればと考えて,より多くの施設で使えるような展開を検討しているところです」
臨床医としての視点から開発された,医療現場を楽にするユーザーメードシステムの今後の展開が期待される。

 

Claris 法人営業窓口
Email:japan-sales@claris.com
医療分野でのお客様事例 : https://content.claris.com/itv-medical
03-4345-3333(平日 10:00〜17:30)

駿河台日本大学病院

▲2014年10月開院予定の新病院

駿河台日本大学病院
東京都千代田区神田駿河台1-8-13
TEL 03-3293-1711
FileMaker Pro 13:8
FileMaker Pro 13 Advanced:1
FileMaker Server 13:2
※新病院オープン後は「日本大学病院」と改称。詳細は→
http://www.nihon-u.ac.jp/affiliate_institute/hospital/nihon_university_hospital/

 

関野病院

関野病院
東京都豊島区池袋3-28-3
TEL 03-3986-5501
FileMaker Pro 13:5

 

 


(インナービジョン2014年7月号 別冊付録 ITvision No.30より転載)
FileMaker スペシャル
    TOP