三重県北部地域を担う公立病院の役割
佐貫 直子(市立四日市病院放射線科)
これからの市民病院における放射線治療のあり方 座長:小久保雅樹(神戸市立医療センター中央市民病院放射線治療科)
2023-9-13
三重県には,海岸線沿いにがん診療連携拠点病院が,当院を含め5施設点在している。当院が立地する三重県北部地域には県人口の4割が在住し,この地域に汎用リニアックを有する公立病院が3施設ある。当院のがん登録患者数は約1800人,2022年度の放射線治療数(治療数)は342例,新患数は313例で,新患の放射線治療適用率(適用率)は約17%である。欧米では適用率の平均が60%前後であるのに対して日本は25%と低く,当院の数字も不十分なものであるが,伸びしろが大きいとも言える。本講演では,放射線治療を理解する上でカギとなる,年間の治療数,適用率,高精度放射線治療が占める割合(高精度割合)を踏まえ,三重県北部地域のがん医療を担う公立病院の役割について考察する。
当院における放射線治療の現状と課題
当院では,旧装置の更新に伴い,2017年に「TrueBeam STx」(バリアン社製)が導入され,演者が当院に赴任した2021年から高精度放射線治療〔強度変調放射線治療(IMRT)〕を開始した。年間治療数は,本邦の適用率平均(25%)を勘案すると,新患450例が理想的である。そこで,まずは治療数400例を目標とすることとしたが,放射線腫瘍学会の「Blue Book Guidelines(2016)」では,リニアック1台あたりの適正基準は300例,改善警告値(Warning level)は400例との記載がある。実際に,当院でもリニアック1台で年間300例を超えた頃から予約枠の確保が難しくなってきた。
また,IMRT可能施設の全照射におけるIMRTの割合(高精度割合)は,イギリスやカナダが70%以上,日本は44%との調査があるが,当院では約30%(2022年度)と少ないため,IMRTの恩恵を受けられる患者に,いかに無理なく治療を提供できるかが課題の一つとなっている。リニアック1台の限られたリソースの中で,治療数を増加させながら無理せず高精度割合を増やしていくための方策の一つが分割回数の減少である。当院では前立腺がん,乳房温存術後照射,乳房全切除後放射線療法(PMRT)などで寡分割照射を積極的に行っている。定位照射も有効性や安全性が犠牲とならない範囲で分割回数を減らしている。また,1日の照射時間を効率的に増やすための診療手順の工夫や,平日に品質管理・保証(QC/QA)のための照射休止日を設けるなどといったことに取り組んでいる。
適用率の拡大に向けた取り組み
治療数が増えてくると,2台目リニアック導入が視野に入るが,適用率を増加させ安定的に治療数を維持することが求められる。当科では他科カンファレンスへの参加や直接相談をていねいに受けるなどして,院内紹介の敷居を下げるようにしている。また,緩和ケアにおける患者の苦痛の評価ツールであるSTAS-Jの院内リストを参照し,緩和照射適応を当科から提案するほか,治療後のフォローや主科と密に連携することも心がけている。
公立病院には,地域のニーズに応える役割も求められている。当科では,以前は院内紹介患者のみを治療していたが,IMRTの開始を機に,該当主科を通さずに直接,他院からの照射依頼の受け入れを開始した。近隣の医療機関と良好な関係を構築し,現在,年間50例ほど他院からの紹介を受け入れている。また,紹介前に緩和照射の適応判断を知りたいというニーズにも積極的に応えている。
四日市市は在宅看取り割合が全国平均よりも高く,また,三重県北部地域は高齢人口のさらなる増加が予想されていることなどから,今後,地域で医療が完結できることがますます求められると考える。地域連携の充実を図るため,近隣の公立病院とともに在宅医やホスピスと連携し,外来1日で完結する単回照射や,緩和的放射線治療の適応判断の相談にも取り組んでいる。有痛性骨転移などで放射線治療を行った患者には,再度疼痛が生じた場合は再照射が可能であることを患者自身に伝えておくことで,患者から主治医に再照射を要望する機会も増えてくると考える。
公的病院における放射線治療の役割(図1)
公的病院は,高齢化社会への対応として,ハイボリュームセンターとの連携はもとより,終末期に移行した在宅患者にも必要な医療を提供できる地域完結型の医療の提供体制づくりが求められる。また,市中病院は,小児や希少疾患などの特殊な照射が少ない一方,common diseaseに対する根治から緩和まで幅広い疾患に対応する必要がある。さらに,将来的には高精度放射線治療が一般化する時代が急速に訪れることが予想されるため,地域のニーズに応えながら,中長期的な視点で診療を充実させていきたい。
おわりに
公立病院が高額な治療機器を導入するためには,議会の承認を経る必要があり,購入検討から導入までに数年を要する。最新の治療機器の導入は,病院のイメージを形づくるものの一つとして有効であるほか,業務の効率化によるマンパワー不足の解消などにも貢献する。当院では現状,2台目のリニアックが導入される見通しは立っていないが,1台のリニアックを最大限活用しつつ,治療数の増加と働き方改革の両立をいかに実現するかを問い続けていきたい。