脳年齢ギャップが認知機能低下に与える影響(2025/7/13)

2025-9-1


脳年齢ギャップが認知機能低下に与える影響(2025/7/13)

近年,脳の老化度合いと認知機能低下リスク因子(高血圧や糖尿病など)との関係に着目した研究が進んでいる中で,脳画像に機械学習を適用して「脳の生物学的年齢」を予測し,実際の年齢との差(脳年齢ギャップ:BAG)を算出する技術が登場している。シンガポール国立大学のチームはこのほど,BAGが認知障害リスク因子と記憶・思考能力の結びつきにどのように影響するかを調査し,その結果をNeurology誌で公開した。特に,脳血管障害のマーカーが多い人ほど,その影響が顕著になることを明らかにし,認知機能低下の早期発見に役立つ新たなバイオマーカーとしての可能性を示した。
本研究では,平均66歳の非認知症者1,437人を対象に,アンケート・面接・検査で得たデータと脳MRI画像を用いた。認知障害リスク因子(年齢・BMI・高血圧・糖尿病・うつ症状など)を点数化し,「実行機能」「注意」「言語」「記憶」「図形構成」「視覚運動能力」のテストで認知機能を評価した。次に,脳MRIの皮質厚・脳室容積など62項目を用いて機械学習モデルで脳年齢を予測し,BAGを計測。その結果,認知障害リスク因子が認知機能に与える影響の全体の20%,実行機能では34%,言語能力では27%がBAGに影響されることがわかった。特に脳血管障害を多く抱える群で顕著にBAGが介在していた。
「BAGは認知低下リスク評価の有望な指標になり得る」と著者は述べている。特に脳血管性リスクを抱える高齢者では,リスク因子が直接的に認知機能へ及ぼす影響に加えて,脳の“早期老化”が認知低下を加速させるメカニズムが浮かび上がった。今後は,多民族や運動・食事習慣,遺伝子マーカーを含む多角的データで検証を進め,認知症予防や個別化医療への応用が期待される。

【参照論文】
Role of Brain Age Gap as a Mediator in the Relationship Between Cognitive Impairment Risk Factors and Cognition


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