いよいよ本格的普及へ! 適用が広がるオンライン診療
長谷川高志(特定非営利活動法人 日本遠隔医療協会 特任上席研究員)

2020-7-13


いよいよ本格的普及へ! 適用が広がるオンライン診療

はじめに

2018年度にオンライン診療料が保険収載後,最初の診療報酬改定が行われた。大規模な改定ではなかったが,以前から指摘されていた問題の改善があった。これとは別に,2019年末に中国の武漢市で新型コロナウイルス感染症の流行が伝えられ,2020年に入り日本でも大流行となり,全国に緊急事態宣言が発せられる未曽有の事態が発生した。感染抑制など,さまざまな期待から「電話および情報通信機器による診療(オンライン診療)」に関心が集まっている。遠隔での初診を時限的に認めるなど緊急時の制度上の大変化も起きた。オンライン診療の今後の動向を大きく左右する,診療報酬改定と新型コロナウイルス感染対策の動向について状況を展望する。

遠隔医療に関する2020年度診療報酬改定事項1)

1.オンライン診療料
2つの変化として,開始前の対面診療月数が6か月から3か月に短縮と,へき地において他施設の医師による初診からのオンライン診療や,同じ医師が他施設から行う診療などの柔軟な運用が認められた。また,新たな対象疾患として,慢性頭痛,在宅自己注射指導管理料とニコチン依存症管理料対象の患者が加わった。

2.オンライン医学管理料をおのおのの医学管理料の評価に組み込んだ
対象は以前からの特定疾患療養管理料,小児科療養指導料,てんかん指導料,難病外来指導管理料,糖尿病透析予防指導管理料,地域包括診療料,認知症地域包括診療料,生活習慣病管理料,在宅時医学総合管理料または精神科在宅患者支援管理料である。これら各管理料の対象患者のオンライン診療料の算定時に,情報通信機器を用いた医学管理として所定点数に代えて月1回に限り100点を算定すると変更された。対象疾患と点数は変わりないが,独立したオンライン医学管理料ではなくなった。

3.オンライン診療料を算定できる医学管理の追加
(1)ニコチン依存症管理料1(2回目から4回目まで155点,対面なら184点)
(2)在宅自己注射指導管理料(月1回100点)

4.在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料
電話および情報通信機器による指導がなくとも,「診療録に記載すれば算定可能」となった。

5.外来栄養食事指導料(月1回180点)
管理栄養士による指導で,オンライン診療料の算定はない。

6.遠隔連携診療料〔500点(3か月に1回)〕
てんかん,指定難病疑い患者について遠隔地の医師がオンライン診療を行う場合の情報提供が報酬上評価されるようになった。遠隔と近隣の医師で合議により分配する。

7.薬剤服用歴管理指導料〔オンライン服薬指導を行った場合43点(月1回)〕
オンライン診療料に規定する診療の実施に伴い,処方せんが交付された患者に対して情報通信機器を用いた服薬指導を行った場合に,月1回に限り所定点数を算定する。

改定への評価

1.へき地・離島および難病への配慮
この2項目は,2019年半ばから日本医師会などで理解が得られたと話題になった。へき地・離島医師の不適切な代診問題などが起きており,その対策の一つと考えられる。難病患者について,オンライン診療料の対象だけでなく,地域の主治医とのDtoD(Doctor to Doctor)形態の情報提供が評価された。

2.2018年度改定の中で批判の大きかった事柄
(1)開始前の対面診療月数の長さが大変不評だったので,3か月に短縮された。
(2)「患者に対して電話および情報通信機器を用いた指導」を条件としたことが,在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料の遠隔モニタリングの実施を事実上封じたと,非常に不評だったので改定された。

3.改定手段としての学会要望書について
オンライン診療料の慢性頭痛患者,ニコチン依存症管理料対象患者の追加,在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料の施設要件変更は,関係学会から要望書が提出された。しかしながら,中央社会保険医療協議会(中医協)では,臨床研究成果による医療技術評価の協議を経たものではなく,政策的判断として扱われた。臨床エビデンスによる診療報酬改定に対する障壁は高かった。

4.2020年度改定のまとめ
いくつかの改善はあったが,発展を抑制する報酬不足状況を改善できる変化はなかった。

新型コロナウイルス感染症対策における電話・オンライン診療

1.感染症対策の概況
電話・オンライン診療が感染対策に有用と言われるが,詳細な分析は少ない。さまざまな診療状況での利害得失と実現手段を以下に検討する。

1)感染疑い患者の診断への支援
感染症の治療に携わらない医師や施設で,陽性患者の受診によるスタッフの感染リスクを低減できる。また,陰性ならば患者の通院負担も低減できる。陽性疑い患者と治療施設スタッフには,遠隔からの診断の利点は少ない。
電話・オンライン診療には,感染症に関する加算や増額がないことが実施上の制約である。また,適切な医療連携体制を構築しないと,地域としてオンライン診療の利点は少なくなる。

2)無症状・軽症感染者の自宅,宿舎療養への支援
遠隔からの経過観察で,患者宅や宿泊施設への医師の訪問負担を軽減できる。看護師による遠隔モニタリングを導入できれば,さらに効率的管理が可能となる。医療者の感染機会や個人防護具の消耗も抑制できる。一方,無症状や軽症患者でも深刻な急変例があるので,入念に計画されたシステムや運用ルールが必要である。
各施設が診療報酬を得て個別実施するのではなく,公費負担医療である。実施には地域の感染対応医療体制が必要である。

3)慢性疾患患者の定期受診や在宅医療患者への支援
基礎疾患がある非感染患者の感染リスク低減への期待が大きく,電話等再診の実施が広がっている。新たな処方がある場合も,遠隔服薬指導と組み合わせて一気通貫のオンライン診療が可能となる。
診療報酬を算定できる疾病の場合は各施設で実施できるが,オンライン診療料は対象疾病が限られ,制約が多い。

2.電話・オンライン診療による感染症対策の実現手段

1)緊急時ルールの適用
医師法・医療法や「オンライン診療の適切な実施に関する指針」,診療報酬制度など詳細なルールが存在する。平時には事故,健康被害,違法行為を防ぐため,さまざまな規則の順守が求められる。しかし,緊急事態では,事故や不正よりも感染被害の方が深刻であり,大幅な制限緩和や緊急時のみルールによる診療など,平時には許容できない運用が必要となる。2020年2月28日の事務連絡以降,電話・オンライン診療と診療報酬の緊急時ルールや疑義解釈などが事務連絡として多数発出されている2)。緊急時ルールは,緊急事態の終了(感染大流行終息など)で失効して,平時ルールに戻る。

2)地域医療体制の構築
緊急時向けの医師法・医療法や診療報酬制度のルールが定まっても,地域での実施体制は自動的に構築されない。遠隔医療には連携体制が不可欠であり,単独施設で先行しても地域全体では効果が薄く,地域の行政や医師会などの共同体制が不可欠である。

3.厚生労働省事務連絡による主要な緊急時の諸方策
1)慢性疾患の定期的受診患者の電話等再診およびFAX処方せん
一連の対策で最初に示されたのは,定期受診中の慢性疾患患者が通院できない場合に,従来の薬の処方のために電話等再診を行い,FAXで薬局に処方せんを送り調剤できるルールの緩和と診療報酬を認めたもので,2月28日に2つの事務連絡3),4)が発出された。非感染患者の感染リスク抑制策である。オンライン診療による感染症診療は機能不足で認めないこと,診断・検査・処方を伴わないオンライン受診勧奨や健康診断の実施は認めることも記載された。

2)外来診療料による電話等再診
最も実効的な事務連絡が3月2日に発出された5)。200床以上の病院で電話等再診時に外来診療料の算定を認めた。大きな病院における多数の定期受診の慢性疾患患者に対する通院時感染リスクの抑制が可能になった。電話等再診では認められなかった医学管理も条件緩和された。この適用者は大変多いと考えられる。

3)オンライン初診
規則変更としてインパクトが最も大きい事務連絡が4月10日に発出され6),7),電話および情報通信機器による初診(オンライン初診)が認められた。
遠隔での初診では,「診療情報がまったくない初対面の患者」に対して,「どの疾病に罹患しているか探索する診療」など非常にリスクが高い場合があり,オンライン診療の経験豊かな医師でも,誤診や医療事故,健康被害の発生リスクを指摘している。そのため,情報不足の患者には処方日数制限(最大7日間),麻薬・向精神薬などハイリスク医薬品の処方禁止が定められた。また,厚生労働省への届け出も義務づけられた。医師と患者の双方の識別や保険証確認,支払い手続きなど運用上の困難も大きい。詳細な問題分析は厚生労働省「第9回オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」の資料に示されている8)。これは緊急時のみ許容されるルールで,平時に継続する合理性と安全性は薄弱である。
受診中の患者ならば,オンライン診療中に別の異常を察知できる可能性は高く,対象患者数も多い。それが積極的に推進する医師が期待する「初診」である。 

4)遠隔服薬指導
初診を認めると付随的に新たな処方に関する服薬指導が必要となるため,4月10日の事務連絡6),7)で,遠隔服薬指導を認め,一気通貫のオンライン診療が可能になった。

4.自宅や宿舎療養に対するオンライン診療(医学管理)
自宅,宿舎療養に関する事務連絡や文書内に,「電話および情報通信機器の活用」など記されているが,具体的なオンライン診療体制や手法の記述は不足している。

オンライン診療の今後の動向

予想外の事態だが,2020年度診療報酬改定よりも新型コロナウイルス感染症対策の方が今後への影響は大きいと考えられる。感染症流行が,大都市圏でさえ医師や患者のアクセスを毀損したので,オンライン診療が期待されるのは必然である。それに加えて,医療提供ルールや診療報酬について,平時ならば何年もかかる検討や知見の積み上げが短期間に進んだ。電話等再診の経験を積んだ医師や患者も増えたのは革命的大変化である。緊急時ルールはいずれ失効するが,この経験から新たな制度を立案することが 「新型コロナウイルス感染後のオンライン診療」の発展に大きな影響を与える可能性がある。

●参考文献
1)厚生労働省:令和2年度診療報酬改定について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00027.html
2)厚生労働省:自治体医療機関向け情報一覧(新型コロナウイルス感染症)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00088.html
3)厚生労働省医政局医事課, 医薬・生活衛生局総務課:新型コロナウイルス感染症患者の増加に際しての電話や情報通信機器を用いた診療や処方箋の取扱いについて(2020年2月28日)
https://www.mhlw.go.jp/content/000602426.pdf
4)厚生労働省保険局医療課:新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて(その2)(2020年2月28日)
https://www.mhlw.go.jp/content/000602230.pdf
5)厚生労働省保険局医療課:新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて(その3)(2020年3月2日)
https://www.mhlw.go.jp/content/000602503.pdf
6)厚生労働省医政局医事課,医薬・生活衛生局総務課:新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて(2020年4月10日)
https://www.mhlw.go.jp/content/000620995.pdf
7)厚生労働省保険局医療課:新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて(その10)(2020年4月10日)
https://www.mhlw.go.jp/content/000621316.pdf
8)厚生労働省:新型コロナウイルス感染症の感染拡大を踏まえたオンライン診療について. 第9回オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会資料1, 2020
https://www.mhlw.go.jp/content/10803000/000618420.pdf

 

長谷川高志(特定非営利活動法人 日本遠隔医療協会 特任上席研究員)

(はせがわ たかし)
慶應義塾大学大学院にてコンピュータサイエンスを学ぶ。企業で遠隔放射線画像ビジネス,遠隔診療システムの研究に従事。大学に転じ,東北大学,国際医療福祉大学大学院,群馬大学医学部附属病院を経て,特定非営利活動法人日本遠隔医療協会で遠隔医療の研究に従事。複数の厚生労働省科学研究費補助金事業で遠隔医療の制度等の研究に携わる。一般社団法人日本遠隔医療学会常務理事。岩手医科大学客員教授。

 

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