精神科クリニックにおける生成AI活用の実際─「CLINICS AIアシスト機能」による予診・診療録作成支援─ 
朝日 宏美(古新町こころの診療所 院長)

2026-9-3


はじめに

近年,医療現場において生成AIの活用が急速に進んでいる。音声認識技術や自然言語処理技術の向上に伴い,診療場面での文字起こしや要約機能の実用性も高まってきた。精神科診療においては,患者本人のみならず家族からの情報も重要であり,診療中に得られた情報を適切に記録することが診療の質に直結する。
一方で,精神科診療では会話量が多く,診療録作成には相当の時間と労力を要する。特に初診診療では,生活歴,家族歴,発達歴,職業歴など,多岐にわたる情報収集が必要となるため,記録業務負担は非常に大きい。
当院では,この課題に対し,メドレー社「CLINICS」の生成AIアシスト機能を導入し,予診および診療録作成支援に活用している。本稿では,導入経緯,運用方法,導入後の変化について報告する。

精神科初診診療における課題

近年,精神科クリニックでは新患ニーズが非常に高まっている。一方で,初診診療には長時間を要することが多く,新患対応枠を十分確保することが難しいという問題がある。
当院では,初診患者の予診を精神科専門看護師が担当している。精神科初診における予診は極めて重要であり,看護師は患者に丁寧に寄り添いながら,症状経過や生活背景を詳細に聴取している。特に初めて精神科を受診する患者にとって,看護師は最初に接する医療従事者であり,安心して話せる環境づくりが重要となる。
しかし,予診で得られる情報量は膨大であり,その内容を診療録として整理・入力する作業は看護師にとって大きな負担となっていた。看護師は患者の話を聴きながら,後で診療録を作成するためのメモも取らなければならず,「患者の話を聴くこと」に十分集中できない場面もあった。
また,診療後の記録入力には時間を要し,看護師の疲労も大きかった。新患ニーズが高い中で,さらに新患受け入れ数を増やしたいという思いはあったものの,記録業務によって疲弊するスタッフの姿を見ると,容易に新患枠を増やすことはできなかった。

生成AIアシスト機能導入の経緯と運用方法

このような状況の中で,看護師の記録業務負担を軽減し,より多くの新患対応が可能にならないか検討していた。そのような折,使用している電子カルテメーカーより,生成AIアシスト機能を活用した文字起こしおよび要約機能のデモンストレーションの機会を得た。
実際に試用したところ,導入当初から音声の文字起こしおよび要約精度は実用に堪えうるレベルであり,診療録作成支援として有用性を感じたため,導入を開始した。
運用としては,患者との面談内容を録音し,生成AIアシスト機能によって文字起こしおよび要約を行う。その後,看護師または医師が内容を確認し,必要に応じて軽微な修正を加えた上で電子カルテへ転記している。
運用に際しては,患者に対して録音の目的について説明し,同意を得た上で実施している。具体的には,診療録の質向上を目的としていること,録音内容が外部へ流出しないことなどを説明している。これまで約1000人に運用を行ってきたが,録音を拒否されたケースは2例程度であり,多くの患者から理解と同意を得ることができている。
生成AIアシスト機能導入前後における予診業務フローの変化をに示す。

図 生成AIアシスト機能導入前後における予診業務フローの変化

図 生成AIアシスト機能導入前後における予診業務フローの変化

 

生成AIアシスト機能導入による変化と効果

導入当初は,一部に誤変換や不自然な要約も認められたため,修正を加えた上で診療録として活用していた。しかし,生成AIの進歩は非常に速く,最近では大きな修正を必要とする場面はかなり減少している。
最も大きな変化は,看護師が「患者との対話」により集中できるようになったことである。従来は,後から記録をまとめることを前提として,患者の話を聴きながら同時にメモを取る必要があった。しかし現在は,細かな内容については後から文字起こしや要約を確認できるため,患者との面談時には対話そのものに集中しやすくなった。
看護師自身からも,「精神的にかなり楽になった」という声が聞かれている。また,記録入力作業時間も大幅に短縮され,従来は時間をかけて行っていた入力作業が,気づけば終わっていると感じるほど効率化された。
この変化を最も近くで見ていたのは受付スタッフであった。当院では受付スタッフと看護師の連携が非常に密であり,受付側も看護師負担の増加につながる新患受け入れには慎重な姿勢を持っていた。しかし,生成AI導入後は,看護師の負担軽減が受付側にも明らかに伝わるようになり,「AIがあれば,以前ほど負担は増えないのではないか」という意見も聞かれるようになった。実際に,当院では2026年4月より新患受け入れ数を増やしている。
また,筆者自身にも大きな変化があった。従来,忙しい外来診療の中では,診療録は必要最低限の内容を簡潔に記載するだけにとどまっていた。しかし,生成AIアシスト機能導入後は,患者が話した内容や,それに対して医師が説明した内容が以前より詳細に診療録へ残るようになった。
これにより,次回診察時に前回の会話内容をより具体的に想起しやすくなり,診療の継続性向上につながっている。また,スタッフも患者と医師とのやり取りを把握しやすくなったことで,患者からの問い合わせ対応が円滑になった。
結果として,記録業務の効率化だけでなく,診療の質向上,多職種間での情報共有改善,新患受け入れ体制の強化にも寄与していると感じている。

今後の展望

現在,生成AIアシスト機能は診療録作成支援を中心に活用しているが,今後は診断書や紹介状作成への応用も期待されている。
精神科領域では,各種診断書作成が医師にとって大きな負担となっている。今後,生成AIによる文書作成支援がさらに進歩すれば,医師の業務負担軽減や働き方改革にも大きく寄与する可能性がある。
もちろん,誤変換や情報管理には引き続き注意が必要であり,最終的な確認と責任は医療者が担う必要がある。しかし,生成AIアシスト機能は単なる業務効率化ツールではなく,「医療者を患者との対話へ戻す技術」として,大きな可能性を持っていると感じている。
精神科診療において,「患者の話を丁寧に聴く」ことは極めて重要である。生成AIアシスト機能の活用によって,医療者が本来注力すべき「患者をケアする」という部分へより多くの時間と労力を割けるようになることを期待している。

 

(あさひ ひろみ)
香川大学医学部卒業,同大学院修了。精神科専門医,精神保健指定医。古新町こころの診療所院長。地域精神医療に加え,産業医活動やリワークデイケアにも従事している。2026年4月より思春期外来を開設。


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