放医研が「第3期中期計画成果発表会」を開催
2016-1-27
多数の来賓が出席
国立研究開発法人放射線医学総合研究所(放医研)は2016年1月26日(火),東京国際フォーラムホールB5において,「第3期中期計画成果発表会」を開催した。「放射線科学 未来へのメッセージ」と題した本発表会は,2001年の独立行政法人化後,5年ごとに策定する中期計画に基づく,研究などの活動成果を報告する場として設けているもの。2001~2005年度,2006~2010年度に続き,3期目となる2011~2015年度が間もなく終了することに伴い開催された。放医研は,4月1日から,国立研究開発法人日本原子力研究開発機構の一部組織と統合して,「国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(量子機構)」という名称で,新たなスタートを切る。今回は,成果発表に加え,量子機構発足に向けて,「新法人融合交流プログラム『量子機構の知見,技術,そして未来』」と題したパネルディスカッションもプログラムされた。
発表会の開催に当たり,まず放医研理事長の米倉義晴氏が挨拶した。米倉氏は,第3期中期計画では,「放射線の医学的利用」「放射線安全・緊急被ばく医療」「放射線科学領域における基盤技術」などの研究に取り組んできたと述べた。そして,第3期中期計画がスタートした時期に,東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所事故が発生し,2009年に組織した緊急被ばく医療支援チーム「REMAT」が,事故対応に尽力したことについて言及。さらに,5年間の活動の中で,重粒子線治療や分子イメージング分野で,トップレベルの成果を上げているとまとめた。
この後,文部科学省研究振興局長の小松弥生氏,原子力規制委員会原子力規制庁長官官房核物質・放射線総括審議官の片山 啓氏の来賓挨拶が行われ,成果発表へと進んだ。
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最初の発表として,放医研理事の明石真言氏が登壇した。明石氏は「5年間のあゆみ―東京電力福島第一原子力発電所事故の経験―」をテーマに,事故発生の後のREMATの活動や福島県民に対する「県民健康調査」,2012年に放医研内に設けられた福島復興支援本部などの取り組みを紹介した。次いで,登壇した放医研重粒子医科学センター融合治療診断研究プログラムの辻 比呂志氏は,「重粒子線がん治療臨床研究の成果―標準化と適応の明確化を目指して―」と題して発表した。辻氏は,重粒子線治療の対象疾患に対する照射技術や線量分割などの治療法が確立できたほか,スキャニング照射や回転ガントリといった技術開発・導入も進んだと,5年間の成果を報告した。また,国内の重粒子線治療施設でJapan Carbon-ion Radiation Oncology Study Group(J-CROS)を組織し,多施設共同臨床研究を行うことについても言及した。
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3番目の発表では,放医研分子イメージング研究センター分子神経イメージングプログラムの須原哲也氏が登壇した。須原氏は,「画像で見る脳の老化と認知症の早期診断―認知症はいつ始まるのか―」と題し,認知症の種別や原因とされるタウタンパクの画像化技術について解説した上で,早期診断,治療のための技術開発の将来展望を述べた。続いて登壇した放医研医療被ばく研究プロジェクトの神田玲子氏は,「医療における放射線を適切に使うためには」と題した発表を行った。神田氏は,わが国の放射線検査について,最適化と正当化がなされていないとの課題を挙げて,その解決に向けて学会など関係団体と連携して,医療被ばく研究情報ネットワーク(J-RIME)を設立したと説明。さらに,2015年に日本で初めての診断参考レベル(DRLs 2015)を設定,公表した経緯などを述べた。
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次いで,放医研放射線防護研究センター発達期被ばく影響研究プログラムの柿沼志津子氏が登壇した。柿沼氏は「子どもに対する放射線影響とその低減―実験動物を用いた研究からわかってきたこと―」と題し,放射線被ばくによる発がんリスクの低減について,疫学研究やラットを用いた動物研究などを解説。カロリー制限などによりリスク低減できた結果などを紹介した。6番目の発表では,「福島第一原発の周囲での環境への影響―帰還困難区域内での野生動植物の調査―」をテーマに,放医研福島復興支援本部環境動態・影響プロジェクトの渡辺嘉人氏が登壇した。渡辺氏は,環境省と連携し帰還困難区域の針葉樹,野ネズミ,サンショウウオ,メダカの生態調査を行い,放射線被ばくがどのような影響を与えているかを報告した。
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続く7番目の発表では,放医研緊急被ばく医療研究センター被ばく線量評価研究プログラムの數藤由美子氏が登壇。「染色体分析による放射線被ばく線量推定法の研究開発」と題して,放射線被ばくによる染色体異常における線量評価手法を説明した。また,數藤氏は,東京電力福島第一原子力発電所事故の作業員に対する染色体分析(dicentric chromosome assay :DCA)の結果なども解説した。最後の発表では,放医研研究基盤センター研究基盤技術部の荒木良子氏が登壇した。荒木氏は,「再生医療を支えるゲノム不安定性研究―幹細胞ゲノムに存在する点突然変異―」をテーマに,ゲノム解析技術によるiPS細胞,ES細胞での点突然変異の解析結果を報告。ゲノムの安定化,幹細胞の高品質化をめざし,放射線障害治療への応用をめざすとまとめた。
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この後,パネルディスカッションが行われた。コーディネータを放医研企画部参事役の原田良信氏が務め,パネリストは明石氏,文部科学省科学技術・学術政策局研究開発基盤課量子放射線研究推進室長の上田光幸氏,日本原子力研究開発機構理事の田島保英氏,放医研放射線防護研究センター副センター長の島田義也氏,日本原子力研究開発機構原子力科学研究部門量子ビーム応用研究センターセンター長の伊藤久義氏,日本原子力研究開発機構核融合研究開発部門副部門長の森 雅博氏,日本原子力研究開発機構原子力科学研究部門関西光科学研究所所長の内海 渉氏が登壇。文部科学省科学技術・学術政策局長の伊藤洋一氏がオブザーバーとして参加した。パネルディスカッションでは,2016年4月に放医研と統合して量子機構としてスタートする,日本原子力研究開発機構の量子科学に関する研究部門の高崎量子応用研究所,関西光科学研究所の研究内容などが紹介された。また,各領域の研究を横断的に融合させていくことによるシナジー効果など,新たな研究の創出に向けた意見が交換された。
当日は,休憩時間にポスターセッションが行われ,最後に放医研理事の黒木慎一氏が挨拶して閉会となった。量子機構の発足を目前にした発表会とあって,来賓も含め多くの参加者があり,会場の質疑応答など最後まで盛り上がりを見せた。
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●問い合わせ先
国立研究開発法人 放射線医学総合研究所
広報課
TEL 043-206-3026
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