鹿児島・相良病院で乳がん検診・診療のためのMR-PET「Biograph mMR」が稼働開始
女性専門医療機関としては国内初導入,乳がんの早期診断・治療をめざす
2016-11-17
さがらパース通りクリニックに設置されたBiograph mMR
女性医療を専門とする社会医療法人博愛会相良病院(鹿児島県鹿児島市)では,シーメンスヘルスケア(株)の全身統合型MR-PET「Biograph mMR」を2016年9月に導入し,10月末から本稼働させた。形態・機能情報を得られるMRと細胞レベルの活動・代謝情報を得られるPETが同時に撮像できるBiograph mMRは,2012年に日本国内で発表された。これまでは,大学病院などに導入されていたが,女性専門医療機関が導入するのは国内初で,世界的にも例がない。同院は,乳がん診療において国内初の特定領域がん診療連携拠点病院に指定されており,Biograph mMRを乳がん検診・診療に用いて,早期診断・治療をめざす。
Biograph mMRによる早期診断・治療に期待
相良病院では,系列の検診専門施設である,さがらパース通りクリニックにBiograph mMRを設置した。乳がん検診のほか,精査,術後のフォローアップなどに使用していく。乳がんの画像診断は,結節や石灰化の検出に優れるマンモグラフィ,日本人女性に多い高濃度乳腺(dense breast)に有用な超音波診断装置,遺伝性乳がんの検出にはMRが優れているといったように,個々の受診者の特性に応じた検査を行うことが理想である。
同院では,従来マンモグラフィ,超音波,MRの検診を施行してきたが,新たにBiograph mMRを導入したことで,微小な乳がんの検出が可能になるほか,PETの全身撮像も行うため,転移などの検索にも威力を発揮すると期待される。
MRとPETを同時収集
シーメンスヘルスケアのBiograph mMRは,60cmの開口径を持つガントリの同心円上に,外側にMRのマグネットコイル,内側にPETの検出器を配置。MRの静磁場強度は3Tを採用している。高磁場に対応するために,PETの検出器は従来のものに替えて新たに半導体検出器であるアバランシェフォトダイオード(APD)を採用。磁場の影響を受けずに高画質のPET画像を得られるとともに,小型化を実現した。PET検出器は頭尾方向に25.8cmのFOVを有しており,1回で広範囲のMRとPETを同時に撮像できる。このため,MRとPETを個別に撮像する時間の約半分で検査を終えることが可能である。
また,MR-PETは,PET/CTと比べて軟部組織のコントラストに優れており,豊富なシーケンスにより多数のコントラスト画像を撮像できる。さらに,減弱補正も含め装置側からはX線を出さないため,PET製剤による低線量の被ばくだけですむ。加えて,MRとPETは,収集時間が近いため,同時収集が効率的に行えるというメリットがある。
検査画像はSWHG東京で遠隔読影
さがらパース通りクリニックでは,1日8件の検査枠のうち2件を検診枠として予定している。検診での検査時間はFDGの投与から約95分となっており,うちMR-PETの撮像が約30分(5min×6beds)。MRのシーケンスはT1WI,T2WI,DWIを基本としている。費用は通常の「MR-PETがん検診」が12万円(ペア割引料金22万円,共に税別)となっており,ほかにも身体計測や血液,尿,腫瘍マーカーなどの検査を行う「MR-PETがん検診プレミアムコース」,マンモグラフィや乳腺超音波検査などを加えた「MR-PETがん検診プレミアムレディースコース」が用意されている。
乳腺の精査では,まず仰臥位で全身MR-PET(約30分)を施行し,その後乳腺専用コイルで造影乳房MRと乳房PETを同時に撮像する(約40分)。このほか,術前術後に検査を行う場合も,検診と同様のプロトコールで撮像を行う。
さらに,撮像された画像は,シーメンスヘルスケアの読影支援システム「syngo.via」を用いて診断が行われる。さがらウィメンズヘルスケアグループの東京の拠点として遠隔画像診断や研究,企業との連携を行っているSWHG東京とオンラインネットワークが構築されており,専門医が速やかに読影する体制が整っている。
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女性医療のロールモデルを世界に発信
相良病院がBiograph mMRを導入したのは,2015年5月にシーメンスヘルスケアとの間で締結したパートナーシップに基づくもの。すでに,相良病院では,2016年8月にシーメンスヘルスケアのマンモグラフィ「MAMMOMAT Fusion」1台と,超音波画像診断装置「ACUSON P500」2台を搭載した乳がん検診車の運用を開始している。パートナーシップにより,両者は新病院事業計画のコンサルテーション,女性医療に関する同社画像診断装置・検査装置の提供,新病院へのサポートオフィスの設置,次世代医療機器の共同開発,先進的な女性医療のロールモデルの構築で協力する。これにより,相良病院では,社会医療法人博愛会,医療法人ブレストピアなど,乳がん診療では全国トップクラスの実績を誇るさがらウィメンズヘルスケアグループとしてのブランドを確立していく。パートナーシップの一環として今回導入されたMR-PETは,海外でも乳がん診療への適用がほとんど例がなく,今後その有用性を世界に発信していくことが期待されている。
本格稼働を直前に控えた10月26日(水)には,さがらパース通りクリニックにおいて,報道関係者向けにプレスツアーが行われた。この中で設けられた説明会には,さがらウィメンズヘルスケアグループ代表・社会医療法人博愛会理事長の相良吉昭氏,さがらウィメンズヘルスケアグループ乳腺科部長・相良病院附属ブレストセンター放射線科部長の戸﨑光宏氏,シーメンスヘルスケアからダイアグノスティックイメージング事業本部MR事業部の井村千明氏が出席。相良氏は,MR-PETへの期待を述べたほか,地域医療法人を見据え2017年4月に医療法人真栄会新村病院(鹿児島県鹿児島市)と業務提携することや,2019年に完成予定の新病院について説明。また,戸﨑氏は,PET/CTに対するMR-PETの有用性や,個人に合った検査を行う「個別化検診」の重要性を解説した。このほか,相良病院副院長・総看護部長の江口惠子氏が登壇し,乳がん専門病院としての患者とその家族への支援活動を紹介した(コラム参照
)。
2014年度の診療報酬改定において乳腺領域のPET検査が保険収載され,2016年度改定ではMRマンモグラフィの加算が新設されるなど,乳がん診療におけるPET,MRの重要性は高まっている。両者が一体化されたMR-PET,Biograph mMRが今後乳がん診療にどのようなメリットをもたらすか大いに注目される。
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(取材:2016年10月26日)
Column
乳がん専門病院として,心のケアを通じ患者と家族をサポート
乳がん診療において国内有数の手術成績を有する相良病院では,「がん看護」などの専門看護師,ソーシャルワーカーなどのスペシャリストが,診断・治療だけでなく,患者と家族に対する心のケアを行い,高い評価を受けている。
同院では,乳がん患者に対して,診断後に看護相談と呼ばれる面談を行うほか,緩和ケア支援センターと連携してサポートする体制を整えている。また,患者の多くが自身よりも子どものことを心配することから,親ががんとなった子どもたちをサポートする「CLIMB®」というグループを用意。このCLIMB®では,計6回のプログラムを設けて,子どもたちのストレスや不安,孤立感を軽減するような活動を行っている。さらに,乳がんになった場合にも可能なかぎり仕事を続けた方がよいとの考えから就労支援にも取り組み,がん相談支援センターにおいて相談を受け付けている。これ以外にも,治療中の乳がんとともに歩いていくためのヒントと記録ができる治療・ケアノート「リボン手帳」を作成しているほか,手術後の患者に対してセルフコントロールや社会復帰などをテーマに1シリーズ4回の講義を行う「乳がん集中講座」も設けている。
患者や家族のケアには,職員だけでなく,NPO法人「あなただけの乳がんではなく」が参加している。同院2階にあるココロとカラダのサポートセンターでは,切除術を受けた患者向けの下着や抗がん剤治療を受ける患者向けのウィッグなどの販売も行っており,乳がん経験者もスタッフとして参加し患者を支えている。
このように相良病院では,診断・治療と心のケアを両輪で,患者の負担を軽くしている。今回導入されたMR-PETによる早期診断・治療が進めば,患者の心的負担も軽減され,さらにQOLが向上すると期待される。
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社会医療法人博愛会 相良病院
〒892-0833 鹿児島県鹿児島市松原町3-31
診療科目:乳腺科,甲状腺科,婦人科,緩和ケア科,病理診断科,麻酔科,形成外科
病床数:80床
さがらパース通りクリニック
〒892-0838 鹿児島県鹿児島市新屋敷町26-13
診療科目:放射線診断科,放射線治療科,乳腺科,人間ドック ウェルライフ
病床数:18床
社会医療法人博愛会URL
http://www.sagara.or.jp