第36回医療情報学連合大会(その3)
地域医療連携でのIT利用の効果,診療報酬をテーマにしたセッションが盛り上がる
2016-12-5
シンポジウム8「地域医療連携システムの効果を測る」
の総合討論
第36回医療情報学連合大会(第17回日本医療情報学会学術大会)最終日の2016年11月24日(木),会場のパシフィコ横浜(神奈川県横浜市)周辺は,深夜から降り出した雨が朝には雪に変わり,今季一番の寒さとなったが,会場内は熱気あふれるセッションが多く,大いに盛り上がった。
H会場で9時15分に始まったシンポジウム8「地域医療連携システムの効果を測る」は,大勢の人を集めた。座長は山口大学の石田 博氏と聖路加国際大学の渡邉 直氏。まず,渡邉氏が地域医療連携でのIT活用ついて課題を整理し,高コストで,基幹病院から診療所への一方通行の連携になっているといった問題を指摘した。さらに,地域医療連携システム同士の連携でも患者識別が困難であるなどの課題にも言及した。次いで登壇した岐阜大学の白鳥義宗氏は,地域連携クリニカルパスが地域医療にどのような効果をもたらすのかについて発表した。この発表の中で白鳥氏は,岐阜市医師会における5大がんでの地域連携クリニカルパスの運用について説明。地域医療連携システムにより医療・介護従事者が疾患・患者管理を行い,治療成績の向上や健康寿命の延伸が可能になることへの期待を示した。次いで,長崎川棚医療センターの木村博典氏が,「地域医療連携におけるデータ活用とアウトカム評価〜RWDを用いて地域でPDCAサイクルで回す」をテーマに発表した。木村氏は,長崎県のあじさいネットの糖尿病疾病管理システムによる広範囲の患者から得られた“Real World Data(RWD)”を用いて,PDCAサイクルで医療の質の向上を図った経緯を報告した。4番目には石田氏が登壇。日本では,地域医療連携システムの効果が定量的に評価されていないという課題を指摘して,米国で行われた定量的評価の事例を解説した。さらに,石田氏は,レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)データを用いて,システム導入地域と未導入地域における2型糖尿病患者の経過を比較した結果を報告。システム導入による効果が得られているとの見方を示した。最後に登壇した川崎医療福祉大学の岡田美保子氏は,「地域医療連携システム—効果メジャーのフレームワーク」と題して,評価手法についての研究成果を紹介した。
12時40分からは,A会場において特別講演5が行われた。大阪大学の松村泰志氏が座長を務め,医薬品医療機器総合機構(PMDA)の理事長を務める近藤達也氏が,「レギュラトリーサイエンスに基づくPMDAの取り組み」と題して講演した。近藤氏は,2004年に設立されたPMDAの目的について,ドラッグラグ・デバイスラグ解消などを挙げ,レギュラトリーサイエンスの推進を図るといった事業戦略を説明。PMDAができたことにより,2006年には800日以上あった承認期間が284日までに短縮化されており,先進国の中で最も短期間となったと,その成果を紹介した。さらに,近藤氏は,レギュラトリーサイエンスについて,アカデミックサイエンスに対して存在し,アカデミックサイエンスの倫理的解釈を含めた多次元の英知を調整する学問であるといった考え方を示した。このほか,近藤氏は,「医療情報データベース基盤整備事業(MID-NET)」について言及したほか,アジア医薬品・医療機器トレーニングセンターなどの国際戦略も解説した。
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15時からはH会場で,日本医学放射線学会,日本放射線技術学会による共同企画11「画像情報のオンライン連携—必要となる診療報酬要件と事例紹介—」が開かれた。座長は日本医学放射線学会の木村通男氏(浜松医科大学),日本放射線技術学会の奥田保男氏(量子科学技術研究開発機構)が務めた。まず,木村氏が2016年度の診療報酬改定で新設された検査・画像情報提供加算,電子的診療情報評価料の施設基準と算定要件を解説した。その上で,システムの例として,IHEのPDIでの情報交換をインターネットを使用して行うnetPDIを紹介。そのコストなども説明した。続いて,奥田氏が「画像情報のオンライン連携—事例紹介—」をテーマに発表した。奥田氏は,netPDIの仕組みを用いて,病院と診療所間で連携を行っている事例について報告した。この後登壇した日本放射線技術学会の川眞田 実氏(大阪府立成人病センター)は,両学会などがまとめた「患者に渡す医用画像媒体についての合意事項」が2016年に改訂されたことを受けて,その変更点を解説した。前改訂から5年が過ぎ,運用環境の変化や診療報酬改定などを考慮して改訂された今回は,タイトルが「患者紹介等に付随する医用画像についての合意事項」に変更された。そして,従来は提供側施設の順守事項だけを明記していたが,今回は受け取り施設側の内容も盛り込まれた。川眞田氏は,その内容について詳述した。
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第36回医療情報学連合大会のすべてのセッションが終了した後,A会場では閉会式が行われた。東北地方での地震や最終日の雪などに見舞われたものの,4日間にわたり約3100人の参加があり盛況だったことが,折井孝男大会長(河北総合病院)から報告された。なお,2017年には,第21回日本医療情報学会春季学術大会が6月1日(木)〜3日(土)の日程で,フェニックス・プラザ(福井市)を会場に開催される。テーマは「医療情報における解体新書—医療ICTの変革における医療情報の役割—」で,大会長は福井大学の山下芳範氏が務める。また,第37回医療情報学連合大会(第18回日本医療情報学会学術大会)は,11月20日(月)〜23日(木)の日程で,大阪国際会議場(グランキューブ大阪)(大阪市)で開催される。大会長は滋慶医療科学大学院大学の武田 裕氏が務める。テーマは,「医療情報学が紡ぐ『いのち・ヒト・夢』」に決まった。
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●問い合わせ先
JCMI36大会事務局
東京医科大学病院 情報システム室内
jcmi2016@tokyo-med.ac.jp