日本福祉介護情報学会が「福祉・介護サービスにおけるAI(人工知能)の可能性」をテーマに第20回研究大会を開催
2019-6-21
春季としては初めての開催となった
第20回研究大会
日本福祉介護情報学会は2019年6月16日(日),立教大学池袋キャンパス(東京都豊島区)にて第20回研究大会を開催した(後援:日本介護福祉学会)。同研究大会は,昨年までは年1回の開催であったが,今年度より春季・秋季の2回開催となる。春季としては初めての開催となった今回,「福祉・介護サービスにおけるAI(人工知能)の可能性」を大会テーマに,自由研究発表,学会総会,基調報告,シンポジウムが企画された。
午後から行われた基調報告を前に,代表理事の生田正幸氏(関西学院大学)が挨拶に立った。生田氏は,昨今,生産性向上に絡んでデータやAIを福祉・介護に活用しようという動き急速に強まっているが,介護・福祉側の反応が鈍いことを指摘。介護・福祉が今後かなり変わっていくという見通しに対して,期待と懸念が半々であると述べ,「その中で今回は入門編として,まずは介護・福祉とAIの関係を理解し,当事者として向き合っていく上で何を考えておかなければならないかを議論したい」と,今回のねらいを説明した。
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基調報告では,遊間和子氏(株式会社国際社会経済研究所調査研究部)が登壇し,「福祉・介護サービスにおけるAI(人工知能)の可能性」をテーマに講演した。遊間氏はまず,わが国の現状とデジタルヘルスの動向について述べ,国を挙げて推進している「次世代ヘルスケア・システムの構築」やAIのヘルスケア分野への適用について解説。そして,介護分野でのAI活用の可能性として,AIによるケアプラン作成支援に関する共同研究(平成29,30年度老健事業調査研究)について報告した。研究では,アウトプットを導き出したルールを解明できるホワイトボックス型AIを用いて,ある属性グループの利用者の自立支援を維持・向上できるケア目標やサービス内容を分析。ケアプラン作成時に,利用者に適していると予想されるケア目標やサービス内容の候補を提示することで,質の高いケアプランの作成や作業の効率化につなげるような活用を想定して研究が行われた。その結果,利用者,ケアマネジャー,介護保険財政へのメリットが期待されるが,まだ多くの課題があるとし,介護現場と連携したAI開発が望まれると締めくくった。
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続いて,「AI(人工知能)は日本の介護を変えるのか?」をテーマにシンポジウムが行われ,4名のシンポジストによる発表とディスカッションが行われた。最初に,水野敬生氏(社会福祉法人一誠会,東京都高齢者福祉施設協議会,全国老人福祉施設協議会)が「福祉・介護サービス付き高齢者向け住宅におけるAI(人工知能)の可能性〜介護分野におけるテクノロジー活用の現状と課題〜」と題して発表した。一誠会は,居宅・施設・地域密着型サービスなど15事業を展開し,法人内で地域包括ケアシステムを展開している。水野氏は,職員不足が喫緊の課題である介護現場では,AIやロボットに前向きではあるものの,介護現場・行政・研究開発の連携不足や介護保険制度の仕組みなどが障壁となっている現状を説明。現場の実態に合わせた介護報酬見直しの必要性を訴え,研究開発側にも理解を促した。
次いで,佐々木啓太氏(一般社団法人日本介護支援専門員協会)が登壇し,ケアマネジャー視点でのAIの可能性について発表した。佐々木氏は,日本介護支援専門員協会がAIをひとつのツールとして位置づけて活用していく意向であり,いわゆる「AIケアプラン」を「AIを活用したケアプラン作成支援システム」と呼称することを協会として決定し,開発に関与していくスタンスであると説明した。そして,茨城県と福岡市で行われた実証実験について紹介した上で,AIに対する考え方のポイントを示し,ケアマネジャーにはAIを育てる視点を持って共に進化していくことが求められると述べた。
3題目として,米澤麻子氏(株式会社NTTデータ経営研究所)が,厚生労働省「平成30年度老人保健健康増進等事業」に採択された「AIを活用したケアプラン作成に関する調査研究」について紹介した。同研究では,ケアマネジャーを対象にフォーカスグループインタビューを行い,現場側から見たAI活用の可能性を検証しており,AIとケアマネジャーが対話・協働することで,AIの成長とケアマネジメントの質の向上が期待できると報告されている。米澤氏は,今後はケアマネジメントのエビデンス構築に向けた仕組みづくりが必要であり,良質なデータ収集・分析の環境整備や,アウトカムの考え方の整理が課題になると述べた。
最後に,太田貞司氏(京都女子大学,日本介護福祉学会)が登壇した。太田氏は,日本の介護福祉実践の変遷や介護職の位置づけを説明し,介護職の“手”により要介護者のQOLが改善されてきたが,チームマネジメント不足やリフティングケアによる腰痛が,離職・求人難につながっていると指摘。AI・先端技術が介護現場の課題を解決する可能性があるが,その導入・活用には“職場づくり”が必要であるとの考えを示した。
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シンポジストによる発表の後,コメンテーターに遊間氏を加え,生田氏がコーディネーターとなって,会場からのアンケートに答える形でディスカッションが行われた。従来の統計解析とAIの違いや,AI実装にむけてのポイント,利用者本人だけでなく家族や環境など要因が多岐にわたるケアマネジメントの難しさなどが話し合われ,介護分野におけるAIの可能性について理解を深める機会となった。
閉会にあたって生田氏が挨拶し,「AIにより介護・福祉がどこに向かっていくかを少し垣間見ることができたように思う。今後はAIをツールとして活用した介護福祉サービスが当たり前になっていくと思われ,その環境を作り上げていくことがわれわれに求められていることだろう」と述べ,研究大会を締めくくった。
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●問い合わせ先
日本福祉介護情報学会
http://jissi.jp/