日本医療機器産業連合会(医機連)が創立35周年を記念し,「医機連みらい戦略会議シンポジウム」を開催
2019-12-11
会場風景
一般社団法人日本医療機器産業連合会(以下,医機連)は,創立35周年目の節目の年であることを記念し,2019年11月28日(木),日本橋三井ホール(東京都中央区)にて「医機連みらい戦略会議シンポジウム」を開催した。医機連は,2018年10月に医機連産業ビジョン「Society 5.0を支える医療機器産業をめざして」を制定し,2019年4月にはその推進組織として医機連みらい戦略会議を発足させた。本シンポジウムでは,医機連産業ビジョンで掲げた具体的な取り組みのテーマの一つである「データ利活用とサイバーセキュリティ強化の推進」に関する内容を中心に取り上げ,データ利活用の現状と課題,今後の方向性などが議論された。
はじめに,医機連副会長/医機連みらい戦略会議議長の渡部眞也氏が,「『医機連みらい戦略会議』のめざすもの」と題して,同会議発足の経緯と,そのめざす方向性などについて講演した。まず,Society 5.0で実現される社会像を述べた上で,期待される変化の例として,病院中心から患者中心の医療へのパラダイムシフト,医療形態の多様化,データに基づいたヘルスケア,ゲノム診療の進展などを挙げた。さらに,ヘルスケアにおけるイノベーションの潮流として人工知能(AI)の活用を挙げ,その具体的な例として,内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の1つとして2018年にスタートした「AIホスピタルによる高度診断・治療システム」や,AI Surgeryを実現するためのスマート治療室である「SCOT」プロジェクトの現状などを紹介した。これらを踏まえ,渡部氏はヘルスケア領域におけるデータ利活用の重要性を強調。同会議としては今後,データに基づく健康・医療の活性化に向けたさまざまな課題の解決に向けて取り組んでいくと述べた。
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続いて,データ利活用をテーマとして,4講演が行われた。講演Ⅰは,国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(以下,AMED)産学連携部部長の竹上嗣郎氏が,「データ利活用分野の研究開発における期待と課題」と題して講演した。竹上氏は,AMEDのミッションである「1分1秒でも早く患者に医療研究開発の成果を届けること」を実現するための戦略の一つとして,データ共有・利用を挙げた。特に近年,ビッグデータの解析から新たな知見を得る研究が活発となっており,研究開発成果データを他者と共有,あるいは第三者に移転したいという要望が増加している。一方,医療データの取り扱いにおける課題として,要配慮個人情報としての扱いが必要であることや,個人同意の範囲をどうするか,再同意の取得の必要性などの特殊性を有していることなどがある。竹上氏は,これらを踏まえた研究開発データマネジメントの考え方として,データの処分権を契約事項として定めるなど,データの保管や利活用に関する指針を示す必要があると述べた。
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講演Ⅱは,国立精神・神経医療研究センタートランスレーショナル・メディカルセンター臨床研究支援部部長/病院臨床研究推進部臨床研究・治験推進室長の中村治雅氏が,「CINにおけるデータ利活用の実例—疾患登録システム(レジストリ)の有効活用による未来の医療への期待」と題して講演した。厚生労働省が主導する「クリニカル・イノベーション・ネットワーク(CIN)」は,疾患登録システム(患者レジストリ)の利活用による医薬品・医療機器などの臨床開発の活性化をめざし,そのための環境整備を産官学で行うプロジェクトである。中村氏は,CIN構築の背景として,近年,患者レジストリなどの自然歴研究データ(臨床試験のような実験的環境以外で収集されたデータ:Real World Data)やReal World Evidence(Real World Dataの分析から生じるエビデンス)の利活用が世界的なトピックとなっていることや,患者レジストリを活用した臨床開発インフラの整備の必要性を概説。その上で,患者レジストリの活用による開発促進の例として,自身が取り組んでいる筋ジストロフィ治療に関する研究の現状を報告した。
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講演Ⅲは,徳洲会インフォメーションシステム株式会社代表取締役社長の尾﨑勝彦氏が,「徳洲会病院におけるIT基盤のご紹介」と題して講演した。同社は,徳洲会グループの情報システム部門として2009年に設立され,グループ各病院への電子カルテの導入や,医療ビッグデータを蓄積するインフラ構築,ビッグデータの統計解析を行うシステムの開発など,グループ全体のIT化を統括・推進している。講演では,情報システムの概要や,システム統合およびマスターコードの統一による運用の効率化,データ管理の現状,情報の活用による業務改善,business intelligence tool(BIツール)の構成などを具体的に紹介。標準構造を持つことで,ビッグデータとしてアカデミアや企業にも利用されるようになっている現状を報告した。
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講演Ⅳは,デトロイト トーマツサイバー合同会社執行役員チーフビジネスデベロップメントオフィサーの丸山満彦氏が,「データ利活用を支えるサイバーセキュリティ」と題して講演した。近年,患者情報を含めたヘルスケアデータを治療や製薬,医療機器開発などに利活用しようという動きが加速している一方で,これらのデータの悪用が懸念されている。丸山氏は,サイバー攻撃の現状や対策を行う際の考慮事項,ITセキュリティ対策の基本などを具体的な例を示して概説。最近のセキュリティ対策のポイントなどを述べた上で,複雑なセキュリティ対策を効率的に実施するためには,戦略とガバナンスが重要であるとの考えを述べた。
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続いて,同会議副議長の中野壮陛氏がファシリテーターを務め,パネルディスカッションが行われた。講演演者である中村氏と尾崎氏のほか,同会議副議長の広瀬文男氏と,同会議データ利活用TF主査の宇賀神 敦氏の4名のパネリストが登壇し,データ利活用について,さまざまな意見が交わされた。
シンポジウムの最後には,医機連会長の松本謙一氏が挨拶に立ち,35周年を記念するシンポジウムにふさわしい活発な議論が交わされたことへのお礼を述べ,盛況のうちに閉会した。
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