GEヘルスケア・ジャパンが「GE Healthcare Japan Edison Seminar 2020」を開催
——Series 1では,AIをテーマにした基調講演と特別シンポジウムをライブ配信
2020-9-23
オンライン開催となったGE Healthcare Japan
Edison Seminar 2020 Series 1
●Series 1とSeries 2の2日に分けてオンラインで開催
GEヘルスケア・ジャパン(株)は,2020年9月19日(土),「GE Healthcare Japan Edison Seminar 2020」を開催し,ライブ配信を行った。同社の最新技術や臨床の最前線に焦点を当てるEdison Seminarは,昨年も開催され多くの参加者を集めたが,今回は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のためオンライン開催となった。それに伴い,9月19日のSeries 1と10月3日(土)のSeries 2の2回に分けてプログラムを構成。Series 1では,人工知能(AI)に関する基調講演3講演,医師の働き方改革とチーム医療をテーマにした特別シンポジウムが設けられた。
まず開会の挨拶として,代表取締役社長兼CEOの多田荘一郎氏が,「Precision Health実現に向けて」と題し,事業展開についてプレゼンテーションした。多田社長は,人口減少によるマンパワー不足などの日本の医療が抱える問題を指摘。今後医療を提供するためには質と効率を向上するとともに,COVID-19への対応も踏まえキャパシティの確保が必要だと述べた。その上で,GEはイノベーションの社会実装により数多くの課題を解決してきたと話し,COVID-19対策における病床管理ソリューション,遠隔モニタリングツール,コンテナ型簡易CT室といった実例を示した。さらに,多田社長は,同社が進めるプレシジョン・ヘルスとして,精密な診断・治療・観察により,一人ひとりに合った質の高い医療を効率的に提供すると説明。その実現のために,課題解決に向けて,「競争」ではなく「共創」を進め,医療機関や研究機関,行政,企業とのパートナーシップと,プラットフォームによるエコシステムを構築するとし,一例として「Edisonデベロッパー・プログラム」を紹介した。
●基調講演「AIセッション」では京大病院,慶應義塾大学病院の取り組みを紹介
この後,基調講演「AIセッション」が設けられた。座長は京都大学大学院医学研究科医療情報学教授の黒田知宏氏が務め,3題の講演が行われた。まず黒田氏が「情報化が拓く医療の未来」をテーマに講演した。黒田氏は,京都大学医学部附属病院のICTを活用したCOVID-19対策を紹介。スタッフの感染を防止し,感染時の影響を最小限に抑えるためにカンファレンスのオンライン化を図ったほか,外来患者の感染防止策としてオンライン診療を含む電話再診を拡大。さらに,感染病棟・ICUのコミュニケーション支援を行ったと説明した。また,黒田氏は,情報化時代の医療の姿として,IoTやクラウドなどの技術によって成り立つ“Social Hospital”と“Preemptive Medicine(先制医療)”について言及した。Social Hospitalについては,IoTなどを活用して病院の機能を社会に埋め込み,医療サービスを日常のものにする。一方,先制医療は,AIを用いてelectronic health record(EHR),personal health record(PHR)などの情報から将来を予測し,予防介入する。その具体的なイメージとして,黒田氏は「守護霊エージェント」と,それを支える次世代医療情報基盤を紹介した。
次に,慶應義塾大学医学部放射線科学教室教授の陣崎雅弘氏が,「IT・AIの医療現場への応用〜AIホスピタルプロジェクト〜」をテーマに講演した。陣崎氏は,まず医療界のAI導入がほかの産業界に比べて遅れていると指摘。その理由について,AIソフトを開発する場合に,①データ収集,②モデル生成,③承認の過程においてそれぞれに医療界特有の課題があることを挙げた。さらに,陣崎氏は,AIの実装に向けた課題として,①保険収載されていないこと,②単純作業を置換するAIの導入が進んでいないこと,③高度かつ専門的な判断を担うAIのワークフローへの組み込みの難しさ,に言及した。陣崎氏らは,AIの実装の課題に向き合い,その課題の解決法を模索するために,「Society 5.0」の実現に向け内閣府が中心となって推進している戦略的イノベーション創造プログラムの「AIホスピタルによる高度診断・治療システム」に取り組んでいる。その具体的な取り組みとして,院内の組織体制や会議の開催状況,進行中の26の研究課題を紹介した。研究課題の分野としては,主に(1)データのデジタル化・構造化,(2)患者データの個人保有,(3)ロボットとセンシングによる単純作業の置換がある。(1)データのデジタル化・構造化については,医療情報の統合化とデータベースの構築のための患者医療情報統合システムや,ウエアラブルデバイスを用いた在宅バイタルモニタリングシステム,音声を用いた医療記録入力システム,AI問診システムの開発などを進めている。(2)患者データの個人保有は,スマートフォンアプリ“MeDaCa”の開発・運用,(3)単純作業の置換は,AI自動搬送ロボットによる薬剤・検体自動搬送システム,自動走行車いすによる患者の院内移動補助システム,高性能ベッドセンサを用いたリアルタイムモニタリングシステムなどのプロジェクトに取り組んでいる。このほか,陣崎氏は,放射線画像診断支援システムについても言及し,画像診断ではAIに日常診療を依存するのは困難であるが,特定の病変検出や撮影の自動化,画質向上などの限定的な範囲では有用性が高いと説明した。これらを踏まえ,AIやIoTなどの技術を結集したスマートホスピタルをつくり,安心・安全で,高度かつ先進的な医療サービスを提供し,医師・医療スタッフの負担軽減,地域・在宅の高度なサポートをめざすと述べた。
続いて,基調講演の3題目として,慶應義塾大学医学部放射線科学教室放射線診断科特任助教の橋本正弘氏が,「AIプラットフォームへの期待」をテーマに講演した。橋本氏は,GEの創業者のトーマス・エジソンについて取り上げた。エジソンが偉大な理由として橋本氏は,発電施設や送電,家庭への分電,電力計を整備するなどの「プラットフォーム整備」を行ったこと,白熱電球の長寿命化に成功し,電球スイッチや安全ヒューズ,電球ソケットを開発によって使える製品にことによる「利用者の体験価値向上」を実現したことを挙げた。そして,これらの業績によって社会が大きく変わったとして,大切なのは多様性があり,分断がないことだと述べた。これを踏まえ,橋本氏は,医療AIにおいてもGEはプラットフォームである「Edison Platform」を整備し,利用者体験価値向上を可能にする「AI Orchestrator」を提供していると述べ,それぞれのメリットを解説した。Edison Platformについて橋本氏は,医療AIの開発・利用にはデータ,プログラム,計算資源と,これら3つを適切に結び付け運用することが必要だと指摘。従来の医療AIの開発はハードウエアの導入・運用にコストを要していたが,クラウドでの医療AI開発環境を提供するEdison Platformにより,低コスト・短期間での導入・運用が可能となると述べた。さらに,橋本氏は,Edison Platformでユーザー向けに提供する開発環境アプリケーションである“AI Workbench Service”やパートナー企業に医療AIの開発環境を提供するEdisonデベロッパー・プログラム」について解説した。このほか,橋本氏は,AI Orchestratorも紹介した。AI Orchestratorは放射線科医のワークフローに合わせて最適なAIアプリケーションが適用されるという。最後に橋本氏は,AIプラットフォームへの期待として,多様性があり,分断のない世界の実現だと改めて強調し,講演を終えた。
●特別シンポジウムは「働き方改革」と「チーム医療」がテーマ
この後,スポンサードセッションとして,インテル(株)インダストリー事業本部の清水由香氏による「インテルのヘルスケアへの取り組み」を挟み,特別シンポジウムへと移った。特別シンポジウムのセッション1では,神戸大学大学院医学研究科内科系講座放射線診断学分野教授の村上卓道氏が座長を務め,「医師の働き方における多様性」をテーマに,順天堂大学医学部附属順天堂医院放射線科非常勤講師(元・准教授)の隈丸加奈子氏が講演した。隈丸氏は,自身の経歴について触れ,病院勤務医として東京大学医学部附属病院,社会保険中央病院で勤めた後,米国Brigham and Women's Hospital/Harvard Medical Schoolで研究者として過ごしたと説明。その後,順天堂大学医学部附属順天堂医院の准教授として病院勤務医と大学教員を経験し,さらに2020年からは医系技官として厚生労働省に勤務していると述べた。この間,隈丸氏は出産と育児も経験しており,医師として多様な働き方をしてきた。こうした経験を踏まえて隈丸氏は,医師の働き方の多様性として,自身の出産前と出産後の働き方に大きな変化が生じたことなどを紹介した上で,現在厚生労働省が進めている医師の働き方改革に言及。長時間・時間外勤務を抑制しつつ医療の質を保持するための論点を整理した。また,隈丸氏は,テレワークを利用した働き方について触れ,2018年度診療報酬改定で勤務場所の規定が緩和されたもののシステムの導入が進んでいない現状や,COVID-19の影響による学会の開催形態の多様化も取り上げた。さらに,隈丸氏は,海外での研究者として働き方について,勤務先の探し方や業務内容,金銭や語学などの生活面など,自身の経験を踏まえて紹介。このほか,現在の医系技官としての業務やライフスタイルも説明した。講演の最後に,隈丸氏は,働き方改革における多様性の受容とは自分とは異なる他者の考えを尊重することであるとし,また多様性の推進とはその状態が達成されるようにすることだとまとめた。
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次いで行われた特別シンポジウムのセッション2では,大阪大学大学院医学系研究科放射線統合医学講座放射線医学教室教授の富山憲幸氏が座長を務め,日本診療放射線技師会会長/国際医療福祉大学成田保健医療学部放射線・情報科学科副学科長教授の上田克彦氏が講演した。「これからのチーム医療——診療放射線技師に求められるもの」と題した講演の中で上田氏は,最初に日本診療放射線技師会(JART)の現況を紹介した。診療放射線技師の職能団体として活動するJARTは,約3万1000人の会員がおり,診療放射線技師の入会率は56.2%に上る。上田氏は,JARTの会長に2020年6月に就任。抱負として,これからは「対話と協調の時代」と位置づけ,信頼される放射線診療の将来のために,関係団体との協調などに取り組んでいくと述べている。また,講演では,上田氏は,2020年から教授を務める国際医療福祉大学の教育についても触れ,多職種連携とその中で求められる診療放射線技師の役割などに言及した。同大学では,関連職種連携として,学部・学科を横断したチームによるグループワークなどを行っている。上田氏は,その内容を紹介してから,多職種連携の中で診療放射線技師に求められる専門性についての課題として,PET/MRIなどが臨床現場に広がっていく「複合機器の時代」であること,診療放射線技師の認定制度やJARTの認定資格について考える必要があることを挙げた。
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特別シンポジウムの両セッションの終了後には,総合討論が行われ,Series 1のプログラムは終了した。最後には,執行役員・アカデミック本部長兼エジソン・ソリューション本部長の松葉香子氏が挨拶し,パートナーとの共創で日本の医療の課題解決に取り組んでいきたいと締めくくった。なお,10月3日(土)に開催されるSeries 2では,MRI,CT,核医学(MI)のセッションなどが用意されている。
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●問い合わせ先
GEヘルスケア・ジャパン(株)
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