コニカミノルタ,第4回X線動態画像セミナーをオンラインで開催
回診車での撮影が可能になり,ICUなど活用領域の拡大に期待
2022-7-4
回を重ねるごとに幅広い,より実践的な報告が行われている
コニカミノルタ(株)は2022年6月25日(土),第4回X線動態画像セミナーをオンラインで開催した。X線動態画像とは,同社が開発したデジタルX線動態撮影システム(Dynamic Digital Radiography:DDR)で得られる動態画像で,パルスX線を1秒間に約15回連続照射し,画像を連続表示することで動画を作成する。また,撮影した動態画像をX線動画解析ワークステーション「KINOSIS」で解析処理を行うことで,動きの可視化や定量化,動きに伴う信号値変化の抽出が行え,幅広い情報の提供が可能になる。これまで,診断用X線装置「RADspeed Pro」〔(株)島津製作所〕と組み合わせて用いられていたが,2022年3月に新たに動態撮影が可能な回診用X線撮影装置「AeroDR TX m01」を発売。ICUや病棟,手術室などのベッドサイドでのX線動態撮影が可能となり,活用領域の拡大が期待されている。セミナーでは,AeroDR TX m01の使用経験や実臨床におけるX線動態撮影の活用・研究事例などが報告された。
セミナーでは,同社の小林一博氏(ヘルスケア事業本部長)による挨拶に続き,幡生寛人氏(Professor of Radiology, Harvard Medical School)が開会の辞を述べた。幡生氏は,約10年にわたるX線動態撮影技術の開発の歴史について紹介。「X線動態撮影は日本発の技術であり,今後世界に広がっていくことを期待したい」と述べた。次に,同社の佐藤朋秀氏(ヘルスケア事業本部モダリティ事業部)がメーカー講演を行い,AeroDR TX m01について紹介した。佐藤氏は,AeroDR TX m01の性能や特長について解説した上で,従来の呼吸器外科・内科や循環器内科などに加え,ICUや病棟での集中治療での病態管理や経過観察での活用に期待を示した。
続いて,テーマごとの3部構成で講演が行われ,各部の講演終了後には,座長,演者に工藤翔二氏(公益財団法人結核予防会代表理事),近藤晴彦氏(杏林大学医学部付属病院病院長),權 寧博氏(日本大学医学部内科学系呼吸器内科学分野教授)の3名のコメンテーターが加わり,ディスカッションが行われた。ポータブル(集中治療)をテーマとした第1部では,2022年1月にAeroDR TX m01を導入した聖マリアンナ医科大学での事例について,昆 祐理氏(聖マリアンナ医科大学救急医学/救命救急センター救急放射線部門)と髙倉永治氏(聖マリアンナ医科大学病院画像センター)が講演を行った。なお,座長は長谷部光泉氏(東海大学医学部医学科専門診療学系画像診断学領域教授)が務めた。まず,昆氏が「救急集中治療領域における動態回診車の利用」と題して,ICUなどでの動態画像の活用について紹介した。ICUでは,患者に多くのデバイスが装着されていることもあり,ルーチンとして行える画像検査はポータブルX線検査や超音波検査などに限定される。また,ICU合併症の原因病態診断のためCT撮影が望まれる場合でも,患者の移動が困難であることに加え,腎不全などの多臓器不全の懸念から造影剤の使用が難しいことが多い。昆氏は,ICUにおけるこれらの課題に対し,X線動態画像は呼吸機能や心機能の評価などによる合併症の検出が期待できるほか,ルーチン検査に組み込み,数値の定量化に基づいた比較を行うことにより,微細な変化が確認できるのではないかとした。また,同院での事例として,腹臥位療法を行った新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者はX線検査(静止画)では透過性が低下し,病態の悪化が疑われたが,動態撮影により換気の改善が示唆されたことを紹介,より多くの情報が得られることで,さらに適切なマネジメントが実現するのではないかと述べ,有用性に期待を示した。
続いて,髙倉氏が,「動態回診車AeroDR TX m01の使用経験」と題して,救急病棟での回診車による動態撮影について診療放射線技師の立場から紹介した。髙倉氏は,動態撮影ではポジショニング時の推奨条件や撮影前後の待ち時間などが生じるものの,静止画と動画で大きな違いはなく,従来同様の運用が可能であると述べた。また,AeroDR TX m01は装置幅がコンパクトで走行性能が良好なほか,管球の角度調整が容易である上,FPDと管球の角度を表示するアライメントサポート機能は再現性確保のために有用ではないかと評価した。
次に,黒﨑敦子氏(公益財団法人結核予防会複十字病院放射線診療部部長)を座長として,呼吸機能をテーマに第2部が行われた。まず,「DDR(Dynamic Digital Radiography)Atlasの概要及び活用方法のご紹介」と題して,新たに作成されたデジタル症例集「DDRAtlas」について,礒部 威氏(島根大学医学部内科学講座呼吸器・臨床腫瘍学教授)と角森昭教氏(同社ヘルスケア事業本部開発企画部)が発表した。DDRAtlasは,動態画像診断の診断基準の構築や研究,教育の活性化,高度な診断レポートの提供を目的に,正常例の動き情報を体系的に集約し,医師のX線動態画像への理解促進やリサーチクエスチョンの検討を支援するコンテンツ。その第1弾として,呼吸器領域の症例集「DDRAtlas Ver. 1.0」がセミナー当日に会員制Webサイトで公開された。DDRAtlasの監修者の一人である礒部氏は,コンテンツの目的や意義,利用法などについて,実際の利用イメージを交えて紹介し,「DDRAtlasの進化のため,症例の収集やエビデンスの増強などに協力して欲しい」と呼びかけた。重ねて,角森氏が診断基準構築にあたっての大量データ解析のためのプラットフォームや解析技術の提供,人工知能(AI)を活用した高度診断技術の提供などにより,動態撮影の普及に向けてサポートを継続していきたいと述べた。
次に,林 健太郎氏(日本大学医学部内科学系呼吸器内科学分野/日本大学医学部附属板橋病院呼吸器内科)が「X線動態解析による気腫病変の評価」と題して講演を行った。同院では,2021年10月からデジタルX線動態撮影システムを導入,呼吸器内科・外科で主に慢性閉塞性肺疾患(COPD)や間質性肺炎,COVID-19症例などの撮影を300例以上行っている。林氏は,COPDでの動態動態撮影例を検証した結果,CT画像の低吸収域(LAA)スコアと動態画像のPH2-MODEの信号低下領域は一定の関係が示唆され,X線動態画像解析によるCOPDのスクリーニング検査の可能性が期待できるとした。また,COVID-19症例では,DM/LM-MODEにおいて可動域の低下が見られ,比較的軽症な肺炎合併例でも早期から認められたことから,COVID-19による肺炎の病態解析の一助となる可能性があると報告した。
続いて,高瀬 圭氏(東北大学大学院医学系研究科放射線診断学分野教授)を座長として,実臨床をテーマに第3部の講演が行われた。1演題目として,山崎誘三氏(九州大学大学院医学研究院臨床放射線科学分野)が「肺循環評価における動態解析の臨床応用−肺塞栓症を中心に−」と題して講演を行った。山崎氏は,解析モード別に動態撮影における肺塞栓症の画像を呈示した上で,動態撮影は造影CTが行えない状況での急性肺塞栓症疑いのほか,急性肺塞栓症後の慢性血栓塞栓性高血圧症(CTEPH)ハイリスク患者のフォローアップとして有用であり,選択肢の一つになり得ると報告した。
次に,北村一司氏(公益財団法人天理よろづ相談所病院放射線部)が「X線動態画像の放射線治療への応用」と題して講演した。体幹部定位放射線治療(SBRT)ではmm単位で放射線を照射するため,肺腫瘤の正確な呼吸移動評価を行うことが重要である。しかし,呼吸同期CT(4D-CT)は高被ばくであることに加え,呼吸評価が単一時相のみで患者固有の呼吸パターンを予測するのが難しく,他方で,透視を利用したX線シミュレータは費用対効果や設置スペースなどがネックとなり,保有施設が限られるのが課題であった。北村氏は,このような現状に対し,X線動態撮影は通常は一般撮影用として装置を使用し,必要な場合のみ動態撮影検査を行えるほか,高DQEなFPDや高度な画像処理により高画質な画像を提供でき,ワークフローの改善にもつながると述べた。また,同施設ではX線動態撮影と運動解析ソフトウエアを組み合わせ,腫瘤の移動の定量的な計測に取り組んでおり,X線動態撮影は今後の放射線治療におけるニューノーマルなモダリティとして,新しいニーズを生み出す可能性があると述べた。
最後に,橋本直也氏(杏林大学医学部付属病院放射線部)が「診療科との連携と撮影手技−スタンダートな検査になるために−」と題して講演を行った。同院では,動態撮影システムの導入に伴い,動態画像に関する理解を広める目的で動態撮影研究会を開催している。橋本氏は,そこでの症例検討を通じて,活用領域の拡大やポジショニング,オートボイスの工夫などにつながり,より良い画像の提供が実現したことを紹介した。また,より低線量撮影での解析や各モードを活用した治療効果判定などの研究を行っており,動態画像でなければわからない臨床的な情報の提供をめざし,KINOSISの機能拡充にも期待したいと述べた。
第3部終了後には,近藤氏と工藤氏による総評が行われた。近藤氏は,AeroDR TX m01について「従来のポータブル撮影のコンセプトをすっかり変えるものだ」と評価し,その発展性に期待したいと述べた。また,第2部で紹介されたDDRAtlasは新しい診断学の発展に寄与するものだと評価した。続いて,工藤氏は各演題を振り返った上で,「X線動態画像システムは医療現場への普及が進み,研究も盛んに行われている。従来の常識を根本的に覆す技術であり,世界的に活用されることに期待したい」と述べ,保険収載への期待などにも触れつつセミナーを締めくくった。
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