東海大学医学部付属病院,高密度焦点式超音波療法を用いた前立腺癌標的局所療法の実際を報告するプレスセミナーを開催
2023-5-22
小路 直 氏
(腎泌尿器科准教授)
東海大学医学部付属病院は2023年5月19日(金),同大学品川キャンパス(東京都港区)において,プレスセミナー「高密度焦点式超音波療法を用いた前立腺癌標的局所療法〜前立腺がんの最新治療法,先進医療Bに認定 治療後のQOLの向上に期待〜」を開催した。近年,食の欧米化や高カロリー化,急速な高齢化などに加え,血液腫瘍マーカーの一つであるPSAによる前立腺がん検診の普及に伴うがん発見率の向上などにより,前立腺がん患者数が年々増加している。国立がん研究センターがん情報サービスのがん統計によると,2017年以降,前立腺がんが男性のがん罹患者数の第1位となっている。従来,前立腺がんの治療法としては,前立腺全体を対象とした外科的手術や放射線治療が行われているが,治療後の排尿機能や性機能が損なわれることもあり,QOLの低下が課題となっている。一方,2023年2月に厚生労働省の「先進医療B」に認定された最新の前立腺がん治療法である高密度焦点式超音波療法(HIFU)を用いた局所療法は,正常組織を温存しつつ,がん組織を熱凝固壊死させることで,排尿や性機能などを温存できる可能性が高くなることが期待されている。そこで,本セミナーでは,日本で初めて同治療法を導入した同院腎泌尿器科准教授の小路 直氏が,「高密度焦点式超音波療法を用いた前立腺癌標的局所療法」と題して講演を行った。
講演で,小路氏は,前立腺がんの背景や生検法の課題と進歩,画像診断法,外科的切除(腹腔鏡下手術,ロボット支援下手術)や放射線治療(外照射)などについて概説。その上で,新たな生検技術の開発や治療機器の技術向上に伴い,機能を温存しつつ前立腺内部のがん病変だけを選択的に治療するがん局所療法が注目されていると述べた。なかでも,HIFUは,治療による病変部分の変化を超音波画像でリアルタイムに確認しながら,標的病変のみに収束させた超音波を照射することで,低侵襲かつ高精度な治療を行うことができる。同院の90症例を対象とした検討では,治療時間の中央値が39.5分,カテーテル留置期間:24時間以内,治療後24時間以内に退院,非再発率92.2%(12〜24か月間),尿失禁率0%,勃起温存率70%(治療前に勃起を認めた症例のうち)と良好な成績が得られているほか,治療時間や入院期間が短いことにより患者の負担が軽減され,従来の治療法よりも治療コストが低いという点でもメリットが大きいことを強調した。また,HIFUによるがん局所療法が先進医療として実施されることで,日本においても普及が進み,限局性前立腺がんの治療戦略の一つとなることが期待されると述べた。
講演に続き,デモンストレーションとして,HIFU装置を使用したがん組織モデル熱凝固壊死の実演が行われた。水槽に挿入されたプローブから収束超音波が照射されることで,水槽の水の表面が瞬時に泡立ち蒸発する様子や,水槽内に設置されたアクリル板に集束超音波を照射して文字を刻む様子が実演され,病変を熱凝固壊死させるHIFUの威力が示された。
●問い合わせ先
東海大学医学部付属病院 総務
TEL 0463-93-1121(代表)