富士通,「Healthy Living Platform」上にヘルスケア特化型AIエージェントの実行基盤構築を発表
年内の有効性の検証とAIエージェントの開発,事業化の加速をめざす
2025-9-1

AIエージェント実行基盤のイメージを紹介
富士通(株)は,同社のクラウド型プラットフォーム「Healthy Living Platform」上に,ヘルスケアに特化したAIエージェントの実行基盤を構築したことを発表した。富士通は,サステナブルな世界の実現をめざすための事業ブランド「Fujitsu Uvance」の下,電子カルテシステムの情報を標準化し,医療データの利活用を可能にする基盤としてHealthy Living Platformを開発,2023年に販売を開始した。今回の新たな基盤はNVIDIA(同)による支援を受けて構築され,さまざまな業務特化型AIエージェントの連携を支援し,全体を統括するヘルスケア向けオーケストレーターAIエージェントを実装している。それにより,多様なAIエージェント同士を自律的に組み合わせて活用することが可能になり,現在の医療提供体制の課題の一つである医療業務オペレーションの変革を支援する。2025年8月27日(水)にはFujitsu Technology Park(神奈川県川崎市)で説明会が開催され,AIエージェントの概要や活用イメージなどが紹介された。
説明会では,最初に同社執行役員常務グローバルソリューション(ソーシャルソリューション&テクノロジーサービス)の大塚尚子氏が登壇し,基盤構築の背景として日本の医療環境について解説した。大塚氏は,約47兆円の国民医療費の約半数が医療機関での人件費に当てられ,そのうちの約3兆円が事務作業に費やされている結果,75%の医療機関が経営赤字を抱えていることを指摘,日本の医療提供体制は持続の危機にあるとした。また,これらの状況をもたらす要因の一つとして,複雑かつ属人化した医療業務オペレーションによる膨大な事務作業の存在を挙げ,データとAIにより業務を簡素化することで医療従事者の作業負担を軽減し,医療機関の業務・経営変革や医療の持続可能性の向上につながるとした。

大塚尚子 氏(執行役員常務グローバルソリューション)
次に,同社クロスインダストリーソリューション事業本部Healthy Living事業部長の荒木達樹氏がAIエージェントの概要について紹介した。今回,富士通が開発した基盤は,同社が医療情報システムの提供を通じて蓄積してきた医療業務オペレーションに関する知見を基にしたもので,データの構造化や相互監視を行うAIエージェントやさまざまな業務特化型エージェントが司令塔となるオーケストレーターAIエージェントのサポートの下で自律的に連携し,業務を遂行する。例えば,これまで医療従事者が行っていた受付や問診などの間接業務をヘルスケア特化型AIエージェントが代行することで,医療従事者は診療や患者対応に専念できる。一方,患者は医療へのアクセスの多様化により,個々に合わせた医療サービスを適切なタイミングで受けられるようになる。荒木氏は,大塚氏が示した日本の医療体制の課題の改善のためには,具体的な指示がなくても状況を認識し,必要なタスクをこなす「代理人=AIエージェント」が必要と述べ,AIエージェント実装への期待を示した。また,同事業部Digital Health PFグループシニアディレクターの勝田江朗氏は,AIエージェント群の動作・連携においては,データの構造化やデータの取り扱いに関するコンプライアンス,安全運用のためのセキュリティ,相互運用が重要になるとした上で,「単なる医療システムの構築だけではなく,各専門職が行う業務や情報の関係性を理解する富士通だからこそ実現できた」と述べた。

荒木達樹 氏(クロスインダストリーソリューション事業本部Healthy Living事業部)

勝田江朗 氏(クロスインダストリーソリューション事業本部Healthy Living事業部)
基盤構築を支援するNVIDIAからは,エンタープライズ事業本部事業本部長の井﨑武士氏が登壇した。スーパーコンピュータやシステムインテグレーションのほか,Fujitsu Uvanceの「Fujitsu Kozuchi」でもサポートを行うなど,NVIDIAと富士通は長年にわたって協業関係にあり,今回の基盤開発もその延長線上にある。井﨑氏は,AIエージェント拡大により社会や産業が変化するほか,今後開発が進むと考えられるフィジカルAIにおいては最適な動作を判断するエージェントがさらに重要な技術となるとの予測を示し,今後も富士通と新しい未来を創造していくと展望を述べた。

井﨑武士 氏(NVIDIA)
最後に,臨床現場からの視点として,東京大学医学部附属病院循環器内科特任講師の小寺 聡氏が「ヘルスケアAIエージェントへの期待」と題して講演した。小寺氏は,心エコー動画や冠動脈造影動画を解析するマルチモーダルAI,遠隔医療に用いるバーチャル医師などの開発に積極的に取り組んでいる。それらの経験を踏まえ,ヘルスケアAIエージェントへの期待として,受付・問診・文書作成などの定型業務の効率化や医療従事者の負担軽減,待ち時間短縮による患者体験の向上などを挙げた。同時に,情報の正確性やセキュリティなどの課題や,ワークフローを考慮した導入・運用,医療従事者の信頼が得られ,患者にとって使いやすく,不安にさせないインターフェイスの必要性を指摘した。

小寺 聡 氏(東京大学医学部附属病院)
なお,富士通では2025年中にオーケストレーターAIエージェントの有効性を検証し,業種特化型AIエージェントの具体的な開発や事業化を加速する。
●問い合わせ先
富士通(株)
https://global.fujitsu/ja-jp