第85回日本医学放射線学会「レントゲンの日記念」市民公開講座が開催

2025-10-14


画像診断とIVR,放射線治療の役割や最前線を紹介した市民公開講座

画像診断とIVR,放射線治療の役割や
最前線を紹介した市民公開講座

第85回日本医学放射線学会「レントゲンの日記念」市民公開講座が2025年10月5日(日),東京大学伊藤国際学術研究センター伊藤謝恩ホール(東京都文京区)にて開催された(主催:公益社団法人日本医学放射線学会,東京大学大学院医学系研究科放射線医学講座)。この市民公開講座は,11月8日のレントゲンの日(1895年にヴィルヘルム・レントゲン博士がX線を発見した日)を記念して毎年開催されており,現在と近未来の放射線医学に関するトピックを紹介し,放射線医学の役割と魅力を一般市民から医療関係者まで幅広く伝えることを目的としている。今回は「医療を支える“目”と“手”―放射線医療ができること—」をテーマに,がん検診,画像診断,放射線治療,IVR,AI,死亡時画像診断の分野別に6題の講演が行われた。

司会は,JRC 2026の第85回日本医学放射線学会総会で会長を務める阿部修氏(東京大学大学院医学系研究科放射線医学講座教授)と五ノ井渉氏(東京大学大学院医学系研究科放射線医学講座専任講師)が務めた。
開会挨拶に立った阿部氏は,「現在の診療では,放射線医学がとても重要な役割を担っている」として,早期診断や低侵襲治療に放射線医療が貢献していることや,社会実装が進むAIを画像診断などで適切に活用するにはスキルと知識を持った放射線科医の判断が必要なこと,死亡時画像診断は遺族に寄り添いながら死因究明に役立つことなど,講演の各テーマについてわかりやすく紹介し,講演をとおして最新の放射線医学に触れていただきたいと述べた。

阿部 修 氏(東京大学大学院医学系研究科放射線医学講座教授)

阿部 修 氏
(東京大学大学院医学系研究科放射線医学講座教授)

 

五ノ井 渉 氏(東京大学大学院医学系研究科放射線医学講座専任講師)

五ノ井 渉 氏
(東京大学大学院医学系研究科放射線医学講座専任講師)

 

はじめに講演1として,「検診:症状が出る前の画像診断とAI」と題し,吉川健啓氏(東京大学医学部附属病院コンピュータ画像診断学/予防医学講座特任教授)が講演した。吉川氏は,検診の基本としてメリットとデメリット,対策型と任意型の違いを説明し,検診に役立つAIの開発が進んでいるものの,日本では導入が遅れている現状があると述べた。そして,乳がん検診,肺がん検診,脳ドックを取り上げ,検査の内容や特徴,AIがどのように使われているかを紹介し,聴講者に向けて「がん検診の結果が要精査となると驚くと思うが,まずは落ち着いて病院で詳しく調べてほしい」とメッセージを送った。

講演2では,「医療に役立つ画像診断」をテーマに越野沙織氏(東京大学医学部附属病院放射線科助教)が発表した。越野氏はX線,CT,MRI,核医学検査について,臨床画像を示しながら各検査の特徴を解説するとともに,放射線科医は全身を診ることが役目であるとして,肺がんのフォローアップで撮影したCT画像から骨転移を拾い上げ,前立腺がんを疑って主治医に検査を提案,前立腺がんと診断された事例などを紹介した。「正しい診断なくしては正しい治療はない」ことから,患者を適切な治療につなぐため正しい診断を行うように日々の読影業務に取り組んでいると述べた。

越野 沙織 氏(東京大学医学部附属病院放射線科助教)

越野 沙織 氏
(東京大学医学部附属病院放射線科助教)

 

講演3は,「放射線治療とAI」と題して山下英臣氏(東京大学医学部附属病院放射線科准教授)が放射線治療領域で進むAIによる自動輪郭抽出の現状を報告した。放射線治療においては,以前はCT画像から臓器の輪郭を抽出する作業が業務時間の多くを占めていたが,現在はAIにより人がマニュアルで行う精度とほぼ同等の輪郭抽出ができるようになり,作業時間が大幅に短縮していることを紹介した。正常例にない腫瘍や小児臓器の自動抽出はまだ難しいといった課題はあるが,即時適応放射線治療などでは迅速に治療計画を開始でき,削減できた労力をほかの仕事に向けることができるだろうと期待を示した。

山下 英臣 氏(東京大学医学部附属病院放射線科准教授)

山下 英臣 氏
(東京大学医学部附属病院放射線科准教授)

 

講演4では,「IVR(画像下治療)ってなに? ~IVRが活躍する医療現場~」と題して柴田英介氏(東京大学医学部附属病院放射線科講師)が講演した。柴田氏は,IVRの特徴は身体のあらゆる部位で利用され,身体への負担が少ないことが特徴であると述べ,血管内/血管外の検査と治療について整理し,目的や手技,デバイスを紹介した。IVRは高齢化に伴い需要が高くなっているため専門医の育成に力を入れていくとともに,今後もデバイスが拡充することで活躍できる現場が広がっていくと展望し,「小さな穴から大きな成果をお届けする」手技であることを広く知ってもらいたいと締めくくった。

柴田 英介 氏(東京大学医学部附属病院放射線科講師)

柴田 英介 氏
(東京大学医学部附属病院放射線科講師)

 

講演5は,「ディープラーニングが支える放射線医療における医師とAIの協働時代」と題して山岸陽助氏(東京大学大学院医学系研究科放射線診断学)が講演した。ディープラーニングの進化を紹介した山岸氏は,AIと放射線科医の関係について,当初考えられていような対立するものではなく,AIと放射線科医が協働することでより効率的で正確な診療が可能になると認識されるようになっていると述べ,それを実現するためには高性能なAIを開発することが必要であると指摘。自身が構築した放射線科領域の大規模データセット「RadFig-VQA」を紹介し,このデータセットでトレーニングをすることでAIの性能向上を可能にした成果を報告した。

山岸 陽助 氏(東京大学大学院医学系研究科放射線診断学)

山岸 陽助 氏
(東京大学大学院医学系研究科放射線診断学)

 

最後の演題として,槇野陽介氏(東京大学大学院医学系研究科法医学分野教授)による講演6「法医学における画像診断の役割」が行われた。槇野氏は,法医学で画像診断が使われる理由として,日本は死因究明制度が未発達なことやCT台数が多いこと,以前より病院で死亡時画像診断が行われてきたことを挙げ,法医学では解剖の補助や身元調査,解剖リスクの評価,裁判員裁判での応用など,さまざまな用途で用いられていることを紹介した。画像診断は法医学の弱点を補うと同時に,法医学が画像診断の限界も示すとして,両者のコラボレーションが法医学を進化させていくと述べた。

槇野 陽介 氏(東京大学大学院医学系研究科法医学分野教授)

槇野 陽介 氏
(東京大学大学院医学系研究科法医学分野教授)

 

最後に花岡昇平氏(東京大学大学院医学系研究科放射線医学講座准教授)が閉会の挨拶に立ち,放射線科医が表に出て話す機会は多くないため,よい機会であったと受け取ってもらえれば幸いに思うと述べ,参加者と協賛企業への感謝を示して会を締めくくった。

花岡 昇平 氏(東京大学大学院医学系研究科放射線医学講座准教授)

花岡 昇平 氏
(東京大学大学院医学系研究科放射線医学講座准教授)

 

■協賛:キヤノンメディカルシステムズ(株),GEヘルスケア・ジャパン(株),シーメンスヘルスケア(株),(株)フィリップス・ジャパン,富士製薬工業(株)

 

●問い合わせ先
第85回日本医学放射線学会「レントゲンの日記念」市民公開講座運営事務局
(株)コンベンションプラス
TEL 03-4355-1137
E-mail 85jrs-public@convention-plus.com


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