VARIAN RT REPORT
2024年11月号
人にやさしいがん医療を放射線治療を中心に No.24
新しいシリンダ型ハイブリッド腔内照射が変える婦人科がん放射線治療
萬 篤憲 / 酢谷 真也(国立病院機構東京医療センター放射線治療科)
はじめに
2023年5月,当院は高線量率密封小線源装置(RALS)の更新機器として「BRAVOS」(バリアン社製)を選択し,専用アプリケータと小線源治療計画装置「BrachyVision(+Eclipse)」を導入した。これら三位一体により,当院における婦人科がんの放射線治療が大きく様変わりした。その第一歩は,放射線腫瘍医によるアプリケータの選択と組織内照射併用腔内照射(IC/IS),いわゆるハイブリッド腔内照射の適用である。続いて,診療放射線技師・医学物理士らが最適化計算アルゴリズム(Volume Evolutionary Gradient Optimizer:VEGO)を含む治療計画を駆使し,喫緊の課題であるimage-guided adaptive brachytherapy(IGABT)を短期間に導入することができた。当院で開始したハイブリッド腔内照射は,治療の効率や効果の向上をもたらし,人的資源に乏しい日本の地域医療に非常に適していると考える。
頸がんに対する小線源治療の国内外の現状
国内では30Gyの外照射後に中央遮蔽を入れ,腔内照射を週1回で4回行うのが一般的である。タンデム&オボイド(T&O)留置後に撮影するCT画像を用いて,A点に6Gyを4回処方する手法が普及している。毎回マンチェスター法相当の線量分布を作成し,線量体積ヒストグラムにより頸部線量やリスク臓器線量を評価し,線源停留時間を微調整できる。一方,最近の欧米では中央遮蔽は行わず,強度変調放射線治療(IMRT)による45Gyの骨盤照射後,アプリケータ留置後のMR画像に基づき,臨床的標的体積CTV-HR(高リスク)やCTV-IR(中間リスク)を設定し,これらに対してより高い線量をめざすIGABTの臨床成績が報告され,基本概念はガイドライン化されている1),2)。
IGABTを行う準備
国内では諸事情により,婦人科がんのRALSは外来で非麻酔下に行われることが一般的であった。しかし,患者の苦痛を減らすために麻酔と看護ケアは必須であり,IC/ISでは鎮痛鎮静以上の麻酔を挿入から抜去時まで行うことが勧められる3)。多職種チームによる鎮痛鎮静法の習得が第一歩となる。次に必要なのは,腔内照射直前のMR画像である。アプリケータ留置後のMR撮像が望ましく,初回だけでも大変有用である。ていねいなCTV設定のためにMRI室との入念な打ち合わせがカギとなる。第三がアプリケータの選択と運用であり,種類,サイズ,そして組織針の位置,深さ,本数は挿入前後のMRI・CT画像のみならず,内診所見を総合して判断する。
なお,当院では,CT室でアプリケータを腹部超音波下に挿入し,下肢を伸展させた状態でCTを撮影し,患者をスライド移動させ,初回のみMR撮像してRALS室に移動し,下肢伸展位のまま照射する。
新ハイブリッド腔内照射術
バリアン社製ハイブリッドアプリケータでは,何よりもシリンダ系が充実し,定型的T&O使用機会が減り,シリンダを中心としたハイブリッド腔内照射を行う機会が多い。multi-channel cylinder(MCC)の径25,30mm型は6チャネルを有する(図1)。専用タンデムは0cmのほかは別売となり,3〜8cmの細いチタン製とプラスチック製が用意され,後者はMRI描出に適する。適応は腟断端,腟浸潤,腟がん,腟転移や萎縮子宮の小腫瘍である。従来の一本線源と異なり,線量分布を偏位させたい部分を挿入後に画像で見いだし,必要なチャネルに線源を適宜追加できる。腟粘膜下5mmまでは組織針を必要とせず,左右のチャネルを利用してT&Oに類似した線量分布が作成できる。interstitial cylinder(ISC)の径25,30mm型は8チャネルを有する(図2)。プラスチック針は32cm長で鋭端と鈍端を選べ,25回の滅菌が可能,表面にルーラーが刻まれ,ネジで固定する。先端から15°外側に進む針は体部や傍組織への挿入がきわめて容易で,全方向に対応する。オボイドに比べ挿入が簡単で,ガーゼ固定や抜去が不要になり,処置による患者の苦痛が少ない。適応は広く,狭腟,腟円蓋消失例,腟浸潤例やオボイド挿入に苦労する例を含む。IC/IS用のオボイドは外側5チャネルを有し,主に外側をカバーする(図3)。腟円蓋が広い患者には,オボイドが良い適応である。当院の婦人科がん42例の経験では,腔内照射の8割がシリンダ型となり,その7割がIC/ISであった。当院の患者層に少子,痩せ型,超高齢者,セックスレスや未婚・未産婦が多いためであろう。シリンダはマンチェスター法では非定型とされ,英国の本場では約半数に利用されていたが,マンチェスター法にMCCやISCは存在しない。シリンダ主体の腔内照射を行うには,VEGOなどによる迅速な線量計算が大変役立つ。シリンダは構造上非常に安価であり,消耗品がほぼ不要な点も特筆すべきであろう。
今後の展望
最近のガイドラインではCTV-HR(D90)には85〜95Gy以上,CTV-IR(D98)には60Gy以上が推奨されている2)。これを達成するにはIGABTが必要であり,シリンダ主体の新ハイブリッド腔内照射の普及が大いに期待される。骨盤照射のIMRTからIGABTまでEclipseで計画し,合成しやすい点でも発展性がある。麻酔やMR撮像,人員などの課題は施設ごとに異なるが,IGABTを計画的に達成する行程は放射線治療の質を高め,多くの婦人科がん患者に利するものと考える。
参考文献
1)Schmid, M.P., et al. : Risk Factors for Local Failure Following Chemoradiation and Magnetic Resonance Image–Guided Brachytherapy in Locally Advanced Cervical Cancer : Results From the EMBRACE-I Study. J. Clin. Oncol., 41(10): 1933-1942, 2023.
2)Cibula, D., et al. : ESGO/ESTRO/ESP Guidelines for the management of patients with cervical cancer - Update 2023. Int. J. Gynecol. Cancer, 33(5): 649-666, 2023.
3)日本放射線腫瘍学会, 日本麻酔科学会 : 婦人科癌小線源治療における鎮静鎮痛ガイドライン. 2020.