次世代の画像解析ソフトウェア(AZE)
2019年11月号
No.211 AZE VirtualPlace標準機能を用いた肺がん術前3D画像作成テクニック
岡本 大器(社会福祉法人恩賜財団済生会 群馬県済生会前橋病院放射線科)
はじめに
近年のワークステーション(以下,WS)技術の発展は目覚ましく,ワンクリックで目的の血管や臓器などを自動抽出できる機種も存在する。人工知能(AI)やディープラーニングの台頭も追い風となり,今後も自動化が進んでいくことが予想される。しかし,現状ではベンダーごとに機能は大きく異なり,ワンクリックでの自動抽出が困難な機種も少なくない。診療科の要求に対して最適なハードウェアやソフトウェアを導入できれば問題は解決するが,CTやMRIなどの大型装置の更新に付随することが多いWSの新規導入は,装置の台数が少ない施設では容易ではない。一方で,日本診療放射線技師会により画像等手術支援認定診療放射線技師資格制度が発足し,手術支援画像の標準化に向けて動き始めている。
WSを取り巻くこのような状況において,使用しているWSによらない画像作成技術の研鑽も重要ではないだろうか。本稿では,「AZE VirtualPlace」(AZE社製)による肺がん術前3D画像の作成技術について紹介する。
肺がん術前3D画像
肺がんに対する胸腔鏡下肺切除手術の術前には,CT画像からWSで作成した肺動静脈分離3D画像を用いて術前シミュレーションを行うことが一般的である。また,術式が肺葉切除の場合は,肺動静脈を根部で結紮切離するため必ずしも末梢まで表示する必要はないが,区域切除を考慮するような症例では,可能なかぎり末梢まで描出された3D画像によって,詳細なシミュレーションが求められる。しかし,標準機能で効率良く分離表示し,かつ末梢まで描出するためには,元画像の取得と3D画像の作成方法に特別な工夫が必要となる。
元画像の取得
正確に分離するためには,肺動脈と肺静脈のCT値差が可能なかぎり大きい造影画像の取得が必須である。当院では,テストインジェクション法による冠動脈CTAのプロトコールを利用した肺静脈優位1相撮影法を採用している(図1,表1)。冠動脈と異なり,テスト時のROIを左房に置くだけの比較的明快な方法である。肺動静脈のCT値差が200〜300HU程度となることや,ミスレジストレーションがないこと,被ばく線量を最小限にできるなどのメリットがあるが,肺動脈のCT値は比較的低くなるため,一般的には3D画像作成に不適と考えられてきた。
しかし,肺動静脈は,非造影でもバックグラウンドの肺野とのコントラストが非常に大きい上,残存した造影剤により,肺動脈と気管支壁などの軟部組織との間には少なくとも100HU以上のコントラストがついているため,3D画像を作成する上での問題はない。1相撮影法で肺動静脈を正確に見分けるには,むしろ両者のコントラストが可能なかぎり大きいことが重要である。
3D画像作成テクニック
まず,元画像を肺の形態を認識できるカラーマップで表示し(図2),カッターツールで肺野外を削除して肺動静脈を含めた肺野内のボリュームデータを作成する。前述したように,肺動静脈は肺野とのコントラストが非常に大きいため,胸壁を取り除くことで末梢までデータを残すことができる。それと同時に,肺門部の気管支壁もハンマーツールなどを利用して削除しておくとよい。この全体像のレイヤー(図3)をいくつか保存しておき,オパシティカーブの位置を変更して肺動脈が見えなくなるような表示にして,造影優位な肺静脈を選択抽出する。そうすることで肺動脈をほぼ消去できるので,この肺静脈のレイヤーを全体像からサブトラクションする。それだけでは,末梢側の肺静脈のゴミが残っている状態のため,末梢まで表示するようなオパシティカーブの位置にして肺動脈を選択抽出すると,肺動脈を末梢までしっかり残った状態で作成できる(図4)。ここで,プリセットのカラーマップを使用するのではなく,CT値の低い末梢の細血管まで自然に表示されるような工夫をすることが望ましい(図5)。肺動脈のレイヤーを完成させたら,再び全体像からサブトラクションすることで肺静脈を抽出し,マルチレイヤー表示して完成となる(図6)。
おわりに
ソフトウェアのバージョンによらない基本的な機能の応用によって臨床に有用な3D画像を作成できるのは,AZE VirtualPlaceの自由度の高さが成せる技であると考える。われわれ診療放射線技師は,自施設のWSの基本特性を理解し,効率的かつ質の高い手術支援画像の提供をめざしていかなければならない。
【使用CT装置】
LightSpeed VCT VISION(GE社製)
【使用ワークステーション】
AZE VirtualPlace(AZE社製)