Canon Clinical Report(キヤノンメディカルシステムズ)
2015年10月号
HyperViewerによる術野の立体視でHCCのIVRや肺がん鏡視下手術を支援〜320列CTと3Dワークステーション、裸眼3Dビューワの連携で治療支援のワークフローを構築
鶴岡市立荘内病院
鶴岡市立荘内病院は、山形県の庄内南部地域の基幹病院として、高度医療から救急・災害医療まで地域に根ざした医療を展開している。同院では、2015年3月に東芝メディカルシステムズの「Aquilion ONE/Global Standard Edition」の導入と同時に、医用画像処理ワークステーション「Vitrea」と、医療用裸眼3Dディスプレイ「HyperViewer」による、血管内治療や呼吸器外科の鏡視下手術の支援画像の提供を開始した。同院での、ADCTと裸眼3Dディスプレイを用いた治療への活用を取材した。
庄内地方の中核病院として高度急性期医療で地域に貢献
1913(大正2)年に開院した荘内病院は、鶴岡市や三川町など庄内南部地域における基幹病院として、地域に根ざした医療を提供してきた。2003年に現在地に新築移転し、救急・災害医療への対応や地域がん連携指定病院、NICU、GCUを設置した山形県地域周産期母子医療センターなど、急性期医療を中心に地域医療支援病院として地域中核病院の役割を果たしている。三科 武院長は、地域における病院の位置づけについて、「少子高齢社会の中で、高度で良質な医療の提供のために高度医療の充実と同時に、医療機関や介護施設との連携によって地域の医療・福祉・介護を総合的にバックアップすることも当院の重要な役割です」と述べる。
同院では、CTや電子カルテシステムなど高度医療機器の整備も進め、院外医療機関との共同利用も推進している。三科院長は、「医療は、少子高齢化によって人口減少が進む地方都市を維持し、次世代に向け発展させるために必要かつ重要な社会インフラです。そのために、まず患者さんの“利益”を第一に考え、安心・安全で正確な診断が可能な機器やシステムに対して継続的に投資を行っています」と説明する。
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320列CTの導入で高画質、低被ばくの検査を提供
放射線画像センターでは、放射線科医2名、診療放射線技師16名、助手3名、受付事務2名などのスタッフで、一般撮影、CT、MRI、核医学などの画像診断、IVR、放射線治療まで提供する。モダリティは、CTが治療計画用を含めて3台、MRIは1.5Tが2台、血管撮影装置は循環器用1台、頭腹部用1台、ほかにRI、放射線治療装置などをそろえる。検査件数は、1日平均でCTが約60〜70件、MRI30〜40件。IVRは、肝細胞がん(HCC)の肝動脈化学塞栓療法(TACE)、肺動静脈瘻塞栓術、緊急の骨盤骨折のTAEなど月5、6件を行っている。
同院では、2015年3月に4列のCTを更新して、東芝メディカルシステムズの320列エリアディテクタCT(ADCT)であるAquilion ONE/Global Standard Editionを導入した。放射線科の斉藤聖宏主任医長はADCTの導入について、「ADCTには、高画質と同時に被ばく低減との両立を期待しましたが、Aquilion ONE/Global Standard EditionではAIDR 3D Enhancedによって高いレベルで実現できています。画質については、Aquilion 64と比べても高くなっており、がんの微細な浸潤やTACE術前の腫瘍血管などがより評価しやすくなりました」と述べる。放射線画像センターの落合一美副技師長は導入後のワークフローについて、「320列と64列の2台体制になったことで、撮影スピードや処理能力が飛躍的に向上し、救急などの緊急検査が入っても待ち時間なく迅速な検査が可能になりました」と評価する。
VitreaとHyperViewerを導入して手術支援
今回の更新で同時に導入されたのが、東芝メディカルシステムズの3D画像処理ワークステーションであるVitreaと、医療用裸眼3DディスプレイであるHyperViewerである。HyperViewerは、東芝社製のグラスレス3D専用パネル(レンチキュラ方式)を採用した、裸眼での3D(立体視)を可能にしたディスプレイで、CT画像から再構成した臓器や血管像を立体的に把握することができる。従来、立体視には、視差を利用したステレオ視や専用眼鏡が必要だったが、HyperViewerでは4K・2K解像度の高精細液晶パネルにレンチキュラシートを貼り付け、9視点からの画像を使って高解像度で立体感のある3D画像を表示できる。これによって、裸眼でも1280×800画素の3D解像度で観察を可能にする。
放射線科では、肝細胞がんのTACEの際に血管走行の確認に使用している。血管撮影室のベッド横にHyperViewerを設置して、必要に応じて操作しながら手技を進める。斉藤主任医長はIVRでのHyperViewerの利用について、「手技前に腫瘍血管の走行を確認しますが、特に分岐部など把握しづらい場合にHyperViewerの立体画像を利用しています。導入以前は通常の3D画像を回転させて確認していましたが、HyperViewerでは血管の位置関係が立体的に把握でき、スムーズな手技が可能です」と使用感について説明する。
裸眼3D用画像データはCTデータを基にVitreaで画像処理を行い、HyperViewerに転送する。落合副技師長は、Vitreaでのデータ作成について、「正確を期すために裸眼3D用のデータを作成する前にあらかじめ別のワークステーションで3D画像を作成して、血管の走行などを参照しながら作業を進めています」と説明する。
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肺がん鏡視下手術に裸眼3Dを活用
同院では、呼吸器外科の正岡俊明部長を中心として、胸腔鏡下の肺腫瘍手術にHyperViewerを使用している。呼吸器外科では、手術の低侵襲化をめざし、年間約100例の手術のほとんどを内視鏡を使った完全胸腔鏡下手術で行っている。近年はCTの普及で早期肺がんが増加しており、術式は従来の肺葉切除に代わって、がんのある肺区域のみを切除して肺を温存する区域切除術が広まりつつある。同院でも積極的に導入しており、年間50例前後の肺がん手術の半数近くを区域切除術で行っている。正岡部長は、同院でのHyperViewerの利用について、「2015年3月に導入し、7月までに20例に利用しました。鏡視下手術、特に区域切除例に裸眼3D画像は非常に有用だと感じています」と述べる。
正岡部長は肺がん手術におけるHyperViewerの有用性について、「鏡視下の区域切除では、限られた視野の中で複雑に走行する肺動脈、肺静脈、気管支に注意しながら切除を進める必要があり、これらの走行を詳細に把握することが重要です。以前から3D画像は術前シミュレーションや術中ナビゲーションに使用していましたが、HyperViewerでは専用眼鏡などの特別なツールを使わずに複雑な血管走行が直接立体視でき、鏡視下手術、特に区域切除では欠かせないものとなりました」と説明する。
手術室では、胸腔鏡用の画像モニタの脇にHyperViewerを設置し、肺動脈(PA)、肺静脈(PV)、気管支を合わせて作成した裸眼3D用画像を表示する。手術の進行に応じてPAやPVを消して、奥の血管走行を確認しながら進める。正岡部長は裸眼3Dのメリットについて、「これまでは、通常の3D画像を回転させることで、頭の中で解剖的な立体構造を再構築していましたが、HyperViewerでは、それを直接画面上で立体視することができますので、直感的に把握することが可能です。これによって、術前のシミュレーションが楽になりましたし、術中のナビゲーションも迷うことがなくなり、3〜4時間の手術の疲労度も軽減されたと感じています。かつてはaxial画像を基に頭の中で3D化して手術していたのが、3DWSの普及で3D画像がルーチンで使われるようになったのと同様に、3Dを直接立体視できる裸眼3Dには大きな可能性を感じていました。導入してみて、期待に違わなかったと実感しています」と述べる。
手術ナビゲーションや教育的効果に期待
HyperViewerの可能性について斉藤主任医長は、「医師の教育的な効果や患者さんへの説明などに有効だと感じます。また、手術やIVRでの使用ではナビゲーションやシミュレーション的な使い方ができれば、より適応が広がると思いますので、そういった機能の強化に期待したいですね」と述べる。
落合副技師長は裸眼3Dのワークフローについて、「Vitreaの3D作成の操作性には独自なものがあり、少し慣れが必要です。自動抽出機能など、より簡単に裸眼3D用のデータが作成できるようになるといいですね」と今後のバージョンアップに期待する。
平面の3Dから裸眼による3Dの立体視へ。臨床での新たな可能性が期待される。
(2015年8月3、4日取材)
鶴岡市立荘内病院
山形県鶴岡市泉町4-20
TEL 0235-26-1111
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